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狙った場所にボールを蹴れますか? 表現のコントロール力|海猫沢めろん

お元気ですか? 私は病気です
インフルでもないのにお腹痛い……身体が痛い、眠い、だるい……そんな毎日ですが生きてます。
昔、工事現場で働いてたときに60くらいのおっさんが「俺らくらいの歳になると毎朝どっか調子悪いから」って言ってたのが思い出されます。
健康の話とかだいたいのティーンには興味ないから無視してたんですけど、あれマジだわ。

というかね、文筆業なんて仕事がそもそも不健康なんだからもうしょうがないんですよ。不健康アコガレでこの仕事やってるから早く死にたいんですよ。でも人間なかなか死なないんだよなー。生きるってつらいなー。人生100年時代とか地獄以外の何物でもないなー……はっ……! なんでこんな健康の話してんだ! 今回は健康じゃなくてファッション! ファッションがテーマです!

中学生のころシティーハンターにあこがれていた私は、白いジーパンに赤いトレーナー、首から十字架、足に赤いバンダナを巻くというオリジナルスイーパーファッションで駅の掲示板をチャリパトロールしていました。丸坊主だったんで見た目は海坊主に近かったんですけど。ともかくファッションに関しては私はプロです。オシャレキングです。出動の掛け声は「いくぜ轟天号!(チャリの名前)」でした。殺してくれ

さっそく読んでいきましょう。
まずはこの投稿の呼びかけに応えて書かれた2作品から。

「ですます」調文体の功罪

作品名:来妃菜チュラル
作者:佐渡惺

私立千江積宮高校の被服科に春から入学した四方城来妃菜(よもぎこひな)は、五月に行われた初の小テストで不合格になってしまいます。小テストの成績も一番下でクラスで浮いてしまった来妃菜は教室に入りづらくなってしまったのです。

高校の被服科に入学した引っ込み思案な女の子が、仲間の力を借りて、困難を乗り越え、楽しい学園生活を送る――素直で好感が持てる作品です。
設定がいいですね。ファッション学校の話読んだのって、『ご近所物語』以来かもしれない。
以下のシーンが印象的でした。

担任の九分の合図と共に、裏返しになっていた問題用紙を全員が表に返しました。問題は一問のみであり、問題の内容は「春に咲く花は何か?」といった問題でした。筆記だとかなり簡単な問題です。
なんだろう
しかし、問題の続きには「解答の際、ホルベインステッチ、サテンステッチ、チェーンステッチを用いて刺繍しなさい。刺繍は上着のどこでも可」と、書かれてあったのでした。

裁縫知識ゼロ読者の私の、「へえ、ステッチに名前がついてるんだな」、という素直な感想と、主人公の「わからない」という戸惑いが思わずシンクロ。
全体の文体が童話っぽく、優しさを感じるのも良いです。

ところどころ「もっとここが知りたい!」「この先が読みたい!」と思わされるところがあったんですが、それは文体のせいかもしれません。
この「ですます」調の文体、長いセンテンスが書きづらくなかったですか? この文体って、語尾の選択肢が少なくなるので、どうしても文章が単調になるんです。嶽本野ばら先生の初期作品が同じような文体で書かれているんで、ぜひ参考にしてみてください。

とはいえ、物語には起伏があるし、キャラクターも魅力的です。表現力が高まれば、あなたなはさらなる飛躍をする才能を秘めています。
続けてください!


「執筆の着地点」を見て書こう

作品名:買い物デート?
作者:柳雪(sinen)

【作品募集中】あなたの書いたWeb小説を、海猫沢めろん先生が読みます! 次回のテーマは「ファッション」です。
と言うのを見かけてだ〜っと書いてみた。
ほのぼのすればいいかな〜と。

カップルの買い物デートの様子を切り取った短い作品です。
男性視点と女性視点、両方が描かれており、すれちがうのか……と思っていると、案外彼氏が頼もしかった! というお話。

彼女との出会いの話は…まぁ、今はいいか。

で流されちゃうのですが、このカップルの馴れ初めがすごい気になる!

ほのぼのすればいいかな〜と。

という執筆コメントですが、そんなことはないですよ! 殺伐でもいいです!
とはいえ、「執筆の着地点」が見えているのは非常にいいことだと思います。

「この描写で読者にどういう印象を与えたいのか」がはっきりしていると、それが効果的に出ているかどうか検証しやすいんです。
これは作品の良し悪しとは別で、表現のコントロール力の問題です。
サッカーで言えば狙った場所にボールを蹴れるかどうかですね。

ゴールに向かって蹴ってるつもりが、反対側に蹴っている……という場合もあるので気をつけましょう。
ちなみに作者の柳雪さんの「ほのぼの」という目標設定は、この作品では8割くらい達成できていると思います。
残り2割は、男のキャラクターのセリフがちょっとドライなところと、文章のテンションでしょうか。

とはいえ無理せず、好きなものを好きなように書いていってください。
で、書き終わったら、必ず一度は音読してみてください
さらに完成度が高くなると思います!

というわけで、ひとまず2作品選ばせていただきました。
「ファッション」というテーマに対して、どちらも直球を投げ返してきてくださった印象です。
ちなみに、こうしたお題がある小説の投稿って、どういうふうに「ひねり」を加えるか考えるところから始めると、書くのがもっと楽しくなりますので、ぜひまたチャレンジしてください! ありがとうございました!

次回も引き続き「ファッション」テーマの投稿作を紹介していきます。


*本記事は、2019年02月19日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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