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今書かれるべき日本語ラップ小説|海猫沢めろん

こんにちは。俺です!
先月、いきなりパニック障害になってマジでやばかっためろん先生です!
休日の朝から駆け込んだ某有名チェーン系クリニックがクソすぎてマジでブチギレそうでしたが(流暢にバウムテストとかってなんなんだよ! お絵かきしてる場合じゃねえんだよ!)、最近の薬はスゴイですね……ドキドキが止まらない状態だったのに、数時間で何も考えられない状態に。無ですよ。無。

そんな鈴木大拙先生ばりに絶対無なパワーで乗り切った秋でしたが、今この瞬間、俺がいる「びっくりドンキー」でボブ・ディランの『Knockin’ On Heaven’s Door』が流れてきたので思い出したんですけど、こないだジャズミュージシャンの菊地成孔さんに、
海猫沢さん、若いときのボブディランに似てますよね
と言われたんです。
そういえば、確か以前、川上未映子さんからも、
めっちゃ似てる!
とボブディランの写真が送られてきたオシャレ界の男女ともに認めるボブ・ディランのドッペルゲンガーことめろん先生なわけですが、ディランといえば音楽。

そういえば前回募集した音楽小説が集まってきていた!
読まねば!
書かねば!
ということで、今日の一本目をさっそく紹介したいと思います。先に言っとくと傑作です。

敗戦記? 観戦記よりマシ感電死本望

作品名:敗戦記
作者:猿川西瓜

少し昔のフリースタイルバトルに参加した頃の話。
日本語ラップ好きで、即興のラップに夢中な「俺」は、大阪の街でバトルに出ては負け続けた。負ける中で、何か負けなのか、勝ちなのかを、知っていく。

紹介文の「少し昔のフリースタイルバトルに参加した頃の話」という衒いのない説明そのままです。

二〇一一年十一月、場所は日本橋の風俗ビル。三階にある自称合法ハーブを売る店の看板が目印だ。道頓堀の向かいにあるラブホテル街の地下クラブで、毎月最終木曜日の深夜、オーバー・ザ・トップというイベントが開催されていた。

1999年から「B BOY PARK」で一般参加MCバトルが始まり、2012年にスカパーTV「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」、2015年地上波「フリースタイルダンジョン」が開始、そういう流れの中にある時期でしょうか。

この作品のいいところは、HIPHOPという「音楽」がそのまま小説になっているところです。

たとえばクラシック音楽をテーマにした恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』という作品がありますが、音楽表現部分は主に比喩という形で表現されます
ところがHIPHOPやラップは「言葉」自体が音楽になっており、音楽表現はそのまま韻とリズムを持った文章で表現されることとなります

「ビートがドープ、その前にMCがドープ、間違いないこの現場、お前にプレゼントフォーユー」
「フリースタイル、おまえせいぜいユニクロのフリース買える程度のもんだろ!」

ラップのリリックは素で見るとダジャレのようですが、そこに技術や情熱や表現力が加わることで素晴らしいものになるのは、MCバトルを見たことがあればわかると思います。
この小説の場合、それは地の文とそこからにじみ出る書き手自身の境遇によって補われます。

だが、現在、三十路の小説家志望であるオレの生き方が、日本語ラップで歌われるリリックの通りだったことなんてほとんどない。オレの毎日は、ほふくはしているが、前進はしていない日々だった。

「HIPHOP」と「小説」、そのどちらにも共通する「言葉」と、負け犬たちのワンスアゲイン感@RHYMESTER宇多丸。
つまりこの小説は、表現形式と表現内容が完全に一致しているのです。

作品にラップを取り入れた小説家は、いとうせいこうやモブ・ノリオなど、昔から常に存在しています。
あるいはMC漢の自伝『ヒップホップドリーム』から漂う文体のフロウはHIPHOPそのもの。
ラノベでは、『韻が織り成す召喚魔法-バスタ・リリッカーズ-』が印象に残ってます。ラップで戦います。

だから俺も即興のラップでアンサーします

とにかく本作、贋作とは言わせないなにか本物のヴァイブスが宿ってる。言葉と戦って敗北しつづけるさだめ、そんな作家たちのため、書かれた鎮魂曲(レクイエム)でもおまえ悔いねえはず。形式と内容一致、形而上の太陽存在しない熱を生むフリースタイル、好みのタイプ。眼の前に這いつくばるライバル蹴散らす、バルキリーガゥオーク形態、ジュード・ロウ、なみのイケメン野郎。フルボッコで整形だろう?定形壊すおまえの小説(ノベル)、受け取ったぜ。敗戦記?観戦記よりマシ感電死本望。それ本能だろ。さっさと立ち上がれ。戻って来い、創作という名の、そう地獄(ヘル)。

短いながらも良い小説です。
できればもっとこの物語の続きが読みたいと思いました。

あと、ちょっと捕捉しておくと、インターネットの世界でもゼロ年代前半くらいにチャットBBSでMCバトルする文化があったんですよ。
忘れちゃうくらい小さなところだったんで、あまり話題にもなってませんが、ぼくはよく覗いていました。
そのときの彼らの本気度と、練られたリリックは音楽みたいにまだ印象に残ってるんですよね。
この小説読んでて、そういうことを思い出しました。


というわけで次、これです。


頭の中にロックが流れてくる小説

作品名:硫酸ピッチ!〜バンドマンになったエスパーなおれの初カノジョの正体が、実は〇〇〇だった話〜
作者:イガラシ文章

凶悪な目つきのため「組長」とあだ名されている、インディーズロックバンド「HAUSNAILS(ハウスネイルズ)」のギターボーカル源壱将(みなもと かずまさ)は謎の粘液を放出してしまう能力を持ち、「硫酸ピッチ」と言う物騒極まりないあだ名をつけられた過去を持つ。
現在は、夢だったロックバンドのギターボーカルとしてメジャーデビューを目指してバンド活動に精を出す日々。
人生初めてのカノジョもでき、人生最高潮。
唯一気がかりなのがバンドメンバー、ベーシストの平清澄(たいら きよすみ)の存在。
ある日、彼と一戦やり合おうと真夜中のスタジオへ向かうが、そこで組長が見たのは、愛するカノジョ、キヨミちゃんの姿だった。
彼女は組長にこう言い放つ。
「ワタシ、キヨスミよ」

あらすじを読めばだいたいの雰囲気がわかる! 話が早くていいですね。

抱腹絶倒・荒唐無稽、全てのロックバンド好きと夢追うコンプレックス野郎共へ贈る、ちょっとエッチなロックンロール・ジュブナイル・オカルト・ギャグ!

という惹句どおりにそんなかんじです。なるほど、わからん。でも最初の作品とは対照的に、どことなく青春の楽しそうな部分が音楽とともに表現されていて好感が持てます。
異能力とか、いろいろなものをごった煮にしてぶち込んでる感じも好きですね

中学から高校に上がるぐらいの頃のおれは、いわゆる異能力モノのアニメや超能力者の出てくる小説や、ライトノベルを読み漁っていた。
言わずと知れた『涼宮ハルヒ』シリーズを始め、『NIGHT HEADナイトヘッド』や『七瀬ふたたび』なんかは、未だに時々読み返す程だ。

とか、メタい文章もところどころあってWeb小説ならでは。
商業作品みたいなちゃんとしたものもいいけど、Webだからね。好きにやればいいんですよ
読んでいて頭の中にロックが流れてくる小説です。
まだ最後まで書かれていないので、ラストが読めないひねくれ系作品1)。
がんばって!

さらに最後はこちら。


少女漫画のドキドキ感

作品名:両翼少年協奏曲〜WINGS Concerto〜
作者:さくら怜音

高校生Jロックバンド「WINGS」ボーカル&Gの相羽勝行は、天涯孤独だったピアニストの今西光と、東京で二人暮らしをしながら学業と音楽活動を両立している。
二人は義兄弟であり、親友であり、大切なパートナー。だから付き合ってはいない。
でもお互い「好き」で「キス」するしちょっと「仲良し」すぎるあまり、腐女子のファンが絶えなかったり、業界のライバルや友人にからかわれたり。おまけに光はその色気と美貌が仇となって色んな男に狙われる羽目に。
「好き」の感情は、同じようで違っていて――どちらも、大切。恋愛感情と家族愛と友情のはざまで不器用にすれ違いつつ、なんだかんだでいちゃつく二人の両片思いコメディです。

なんだろう……読んでいてドキドキします……。

音楽は、どんな感情を乗せて叫んでも、歌っても、誰も何も咎めない。
悲しみや過去のしがらみ。
未来への期待と不安。
何もかも全部歌に詰め込んで、俺たちは今日もステージの上で歌うんだ。
――いつも、ふたりいっしょに。

初期衝動があふれていて、イチャラブ感とかドキドキ感がすごい
中学校のころ、めっちゃ少女漫画読んでたんですけど、そんときの感じが蘇ります。
イラストも豊富で、さらにファンクラブもあります

すげえ……。ボイスコンテンツなんかもあって、超充実。

ライトBLなキラキラ感と少女漫画感が合体して、脳内ですごい電子音楽が鳴り響く……。
この世界に流れてるのってどんな音楽なんだろう? と想像したくなってしまうときめきと輝きに満ちた小説です。
どんどん世界をひろげていって欲しいですね。


というわけで、今回のテーマは「音楽小説」でしたが、他の投稿作もマジでいい作品が多かったですね。音楽と小説の相性がいいのかな?
そんななかでも特に冒頭に紹介した「敗戦記」は、今書かれるべき音楽小説だと思いました。
ボブ・ディランがノーベル文学賞を取ったように、音楽とともに言葉を紡ぐ人々もまた、現代の吟遊詩人であり語り部なのです。


「ファッション」をテーマにした小説を大募集!

次回は、「ファッション」をテーマにした作品を募集します。
「ファッションが大好きな主人公」もアリですし、逆に「好きな服を着れないのには理由があって……」という展開でもいいですね。
応募方法は簡単。
monokakiの公式Twitterをフォローの上、ハッシュタグ#Web小説定点観測をつけて、自作のURLをツイートしてください。
もちろん、ストック作品ではなく今から新たに書いてくれるのでも大歓迎です!!! 短編でも未完結作でもガンガン読みます。

「Web小説定点観測」は毎月第3火曜日に更新です。

ではまた。


1. ↑ 12月14日に完結。


*本記事は、2018年12月18日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。