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Q.今一番アツい小説投稿サイトは A.Twitter|編集マツダ

知ってるようで意外に知らない、思ってるより意外に深い。あなたの知らないWeb小説の世界をお届けする「Web小説の森」。
「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」……と小説投稿サイトが百花繚乱状態だが、一番盛り上がっている小説投稿プラットフォームはどこだろうか。
人が多いのはなろう? バリエーションならエブリスタ? 私はこう答えたい。
いま一番小説投稿が盛り上がっているのは、Twitterです」と。

Twitterで140字以上の小説を書く方法

Twitterで小説を書く方法。
スマホのメモ帳などに書いてスクリーンショットを撮り、Twitterに上げるというものだ。
Twitterで 1~3ページ程度のコミックがバズっているのを見たことがある人は多いと思うが、それの小説バージョンのような雰囲気である。140字より文字数の多いショートストーリーがスクリーンショットで公開される。

あなたが小説の同人誌などを作っている創作クラスタにいる人なら、「SS名刺メーカー」を目にしたことがあるかもしれない。SS(ショートストーリー、スクリーンショットのどちらなのかは曖昧)を入力すると、Twitterにアップするのにちょうどいい一枚画像を吐き出してくれるツールだ。
このツールは創作界隈に人気なだけあって、とてもおしゃれなぶん、素人には少し敷居が高く見えるかもしれない。盛り上がっているというと首をかしげる人もいるだろう。

私が注目したいのは創作界隈に人気のものとは少しズレた、もっとライトなものである。


スクショ小説の見つけ方

LINEのチャットを再現した「LINE風SS」、もしくは単にメモ帳のスクショでそれらは描かれる。
個別の作品をピックアップするのは避けるが、おそらくTwitterのスクショ小説で盛り上がっているのはゲームなどの二次創作だ。
そんなの見たことも聞いたこともないよ! という方、「FGO LINE風SS」「SS 書いてみた」でTwitter内を検索してみてほしい。ね、すごいでしょ?

これらの創作のいいところは、「普段小説を書く習慣があるわけではないけど、どうしても大好きなキャラへの妄想が止まらずに書いてみました!」といった雰囲気がにじみ出ているものが多いこと。
プロになりたい、お金を稼ぎたい、そんな欲望を交えずに単純に内的動機だけで書かれたものなのだ。人が創作をするときのコアな衝動のようなものが見え隠れしていてとてもいい。小説投稿サービスの運営に携わる人間として、これらがTwitterのタイムラインを流れていくのは砂金が指の間から零れ落ちるようにも思えて、とてももどかしい。


小説を書く、はじまりのはじまりの瞬間

なんで私がスクショ小説にここまで注目しているかというと、スクショ小説が「人が小説執筆という行為を始める瞬間」を捉えているからだ。その瞬間を捉えたサイトは爆発間近であることが、過去の体験からわかっている。
2000年代初頭にネット上で全く新しい小説執筆体験を生み出したのは「魔法のiらんど」だった。今でこそ小説投稿サイトのイメージになっているが、もともとは個人ホームページをガラケーで簡単に作れるサービスで、日記や掲示板機能が充実していた。そこに女子高生たちが物語を書き始め、一大ケータイ小説ブームが生まれていった。
「エブリスタ」も、もともとはモバゲーの小説投稿コーナーが発端。モバゲーでゲームを遊ぶ間の暇つぶしに、それまで小説を書いたことも、ひょっとしたら読んだことすらなかった人たちが読んだり書いたりしたのが始まりだ。
「小説家になろう」は最初から小説投稿サイトとして開始したので、上記2サイトとは毛色が違うものの、今のようにファンタジー作品が非常に多くなったのは『ゼロの使い魔』の二次創作が「小説家になろう」上で流行したことが大きく影響している。(現在は二次創作は規約で禁じられている)

これらの共通点は、「小説を書こうと思っていない人」が「ただ内的衝動に従って書いてみた」結果として、それまでイメージされていた小説という媒体の前提条件を覆すような作品が生まれていることだ。「魔法のiらんど」のあの文体の書籍がベストセラーになったときの出版業界の騒然っぷりは、アラサー以上の本好きなら鮮烈に覚えているだろう。

インターネットのおかげで可視化されたとはいえ、なんとなく内的衝動で書く行為は別にインターネットに限ったことではない。インターネット外にまで視野を広げれば、一番使われている小説執筆媒体は中学二年生の持つ紙のノートだろう。
そんな人類に普遍的とも言える行為をがっちり掴むからこそ、独自の魅力が生まれていくのだと思う。


えっ、つまり小説投稿サイトって古い……!?

「人が最初に執筆を始めるのは今やTwiiterスクショなんだわーい!」と仮定してしまうと、つまり、もはや小説投稿サイトは古いのでは……という、私にとっては辛い説が浮上してくる。内的衝動で人の心を打てるようなヒットのタネを掴んでいるのが小説投稿サイトの魅力なのだが、今、タネはTwitterにあるのでは、という説だ。
コミックの世界では、Twitterにあがった数ページがバズった結果長編化して書籍化、の流れは珍しくなくなってきた。
ただTwitterはその性質上、一か所にまとめることが難しく、タグが丁寧にあてられた作品でないとまとめて読むことができないのがもどかしい。
小説はとくに商業化しにくいようにも思うので、小説投稿サイト側がうまく連動して共存していく道を探していくのが、あるべき姿のように思う。

今回は「スクショ小説」について書いてみた。小説を書いたことがない人でも、空いた時間になんとなく脳内で妄想してムラっとくることぐらいあるだろう。投稿サイトにアカウントを作るほどには踏み出せないあなたも、スマホのメモ帳になら書ける。気楽に書いてみてはどうだろうか。


*本記事は、2018年05月24日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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