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『キミスイ』『監獄実験』担当に聞く、居酒屋本音トーク|一軒目〔前編〕|黒澤広尚

『創作居酒屋』――そこは編集者・作家・書店員・漫画家・イラストレーター・サイト運営者・読者など分け隔てなく、書籍業界にかかわる人々が集まり、創作論を語り合う居酒屋である。


皆様はじめまして。エブリスタでプロデュースという名の何でも屋をしている黒澤です。
私の略歴を一言で説明すると、
「小説家になりたかったがなれなかった。だからなれるコンテストを始めた」
といったところであり、前職ではそういった考えから『ネット小説大賞』というコンテストを立ち上げ、第六回まで主幹として運営いたしました。

仕事柄、多くの作家の方のデビューを見てきましたし、同時に「作家であり続けること」の難しさも体感してきました。この連載は「インタビュー」という形式ですとなかなか聞き出せない創作にかかわる本音トークを、「居酒屋」という場の力を借りて聞き出し、皆様にお伝えするようにつとめてまいります。


■今回の来客
荒田英之 様(代表担当作:『君の膵臓をたべたい』『宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する』)
大東厚司 様(代表担当作:『監獄実験』『必勝ダンジョン運営方法』)


■今回の見どころ
・ゲストはお二方とも、担当作のメディア化を経験された編集の方! 第一回から豪華です!
・「Web小説はラノベなのか?」「これからWeb小説を書く人はまず何をすべきか?」といった、「Web小説」というジャンルを長年経験された方からの、Web小説論を学ぶことができます。
・「作家はツイッターをやるべきか?」「再デビューするためには?」といった、市場と作家双方に向き合う編集の方ならではのトークは必見です。

「使うか迷うぐらいだったらSNSは触らない方がいいですよ」(荒田)

――編集者の目線で、Web小説の登場によって、変わったところはどういった点がありますか?

大東:これまでの小説は少人数の選ばれた人が発信して、少人数に届くものでしたけど、Web小説(エブリスタ・小説家になろう・カクヨム等)の登場によってもっと多くの人に届くようになりました。
そういった意味では今は作家の人にとってはとても幸せな時代といえますよね。

荒田:ここまで広がるとはあんまり思っていなかったですけどね。ツイッターの流行もあいまって作家同士の交流も深まり、作品はよりたくさんの人に読まれるようになったと思います。

大東:あれ、荒田君は、(作家は)ツイッターはやるべきじゃないっていってなかった?

荒田:やるべきじゃないとは思わないのですが、向いている人と向いていない人がいるとは思っています。SNSを使うかどうか、迷うぐらいであれば、使うべきじゃないかもしれません。ツイッターで読者が獲得できることは事実ですが、読者と直接向き合うことは必ずしもいいことばかりではありません。
一番のデメリットは心が折れることです。特にエゴサーチ(特定のワードを検索すること)は避けたほうがいいです。あの行動は編集でもショックを受けますので。著者の方が直接されてしまうと……。

大東:実際にどんな売れている人でも、少数の意見で平静が保てなくなることはあるからね。
自分は著者さんがツイッターをやってもいいと思うけど、向いていない人がいるのは同意見。長短あるよね。

荒田:もちろん読者と向き合うことも大切なんですが、読者からの指摘が常に正しいとも限りませんし、正しくても物語性を損なうものであっては受ける必要はありません。SNSは情報が常に更新されるので、そこにあまりのめりこみすぎず、作品作りに集中するメリットも大きいと思います。

――逆にツイッターをするメリットは何がありますか?

大東:作家として生きていくと考えれば、ツイッターをやるメリットも相当あるよね?

荒田:そうですね。ツイッターを続けて、作家自身の交流の広さが大きくなれば、仮にAという出版社でうまくいかなくても、ほかの出版社にスムーズに売り込むことができると思います。いわば作家自身がメディアになってしまう方法ですね。
ただ、いずれにせよSNSは自分ではコントロールしにくいですから。SNSを使うのに慣れない人は親しい友人に限って交流をするとか、そういった形にするのが無難かなと思います。どうすればメリットを最大化できるか、自分の性格などもあわせて考えていただけると良いかと。

大東:読者の意見は編集者も集めるからね。特に書籍化作家の人なら、エゴサをして心が折れてしまうくらいなら、ウェブでの感想収集は担当編集者に任せてしまった方が実際いいだろうね。
ツイッターはフレンドリーなところがいいところだけど、その分、遠慮ない意見や感想も多いからね。


「Web小説ってラノベなんですかね?」(大東)

――お二方ともWeb小説にかかわって短くはないと思いますが、Web小説がラノベ業界、出版業界に与えた影響についてはどうお考えですか?

大東:んーー。そもそもWeb小説ってラノベなんですかね?

――おっと、大東さんの口からそれが出るということは、諸々のラノベ論争を理解されたうえでのご意見ですよね。興味深いです

大東:もちろん広い意味でいえば、ライトノベルレーベルから出ている小説がラノベであることは疑う余地はないんですが、例えば『小説家になろう』を象徴する言葉に「異世界」というキーワードがあるじゃないですか。異世界小説を書こうと思った場合、異世界という共通テーマで、作家が工夫して作品を作っているわけです。共通のテーマにのっとって書くという意味で、シェアワールド的な面が強い気がします。
ただ、シェアワールド的なものは新しいわけではなくて、昔であれば「学園」や「萌え」「ラブコメ」という単語がそうでしたし、そういった要素が含まれているものが「ラノベ」と形容されていましたが、今のWeb小説では「異世界」という新しいひとつのジャンルが生まれたと思っているんです。
もっと昔でいえば、『銀河英雄伝説』もラノベ要素を多分に含んでいますが、あれはまだラノベという単語が生まれる前の作品で、ラノベとは呼ばれていませんでした。そういった意味で考えると、今のWeb小説の流れは「ライトノベル」ではなく、新しいジャンルが生まれているんじゃないかという認識ですね。

荒田:でもそろそろWeb小説でも「学園」とか「ラブコメ」は来そうですけどね(笑)。

――結局、ファンタジーが売れないという「偏見」も、『ソードアート・オンライン』がブレイクスルーしたというところもありますからね。今「売れない」といわれているジャンルでも、新しい波は来るかもしれませんね

大東:来ますよ。むしろ来てもらわないと大変です(笑)。


「プロを目指すか趣味でやるかは明確に違います」(荒田)

――今回「monokaki」に掲載するコラムということで、Web小説を書く方へのメッセージをいただければと思うのですが、作家の方が心掛けたほうがいい点などはあるでしょうか?

荒田:その質問はプロとして書く人に対してですかね? 趣味として書く人に対してですかね? プロを目指すか、趣味でやるかは明確に違うかなと思います。

――Web小説はアマとプロとの壁を取り払った感覚もありますが、そうではない部分があるんですね?

荒田:単純に自分の書きたいものを小説投稿サイトに投稿するだけなら、それは趣味だと思うんですよね。一方でプロを目指すなら、もしくはプロを続けるなら、当然出版社と読者に認められないといけないわけで、両者を研究すべきだと思うんですよ。市場分析であるとか、新人賞を分析して応募していくであるとか、明確に書きたいものと違っても、認められるために作品を合わせる必要があるわけです
「自分の書きたいものを書く」のが趣味だとすると、「出版社や市場が求めているものを書く」のがプロだと思います。

大東:趣味ならWebに投稿するだけでいいんですけどね。もらった感想などを見て、いい部分をのばしていければ作品もよくなっていきますから。今は書籍化の需要が大きいので、好きなものを書いても書籍化できる可能性は十分にありますけど、プロであり続けるためには、やっぱりどの作品が売れているかとか、研究していかないといけないと思いますよ。

――monokakiでも技法等についてコラムを掲載することが多いですが、作家の方が身につけたほうがいい技術はありますか?

荒田:例えば「文章力はそれほどではないけど面白い作品」と「内容は月並みなんですが、とても文章はうまい」作品があると、前者は編集の力で何とかなりますし、ある程度の文章力は後ほど学ぶことはできるんですが、面白さは編集者がつくることはなかなか難しいです。実際に編集者が書籍化の企画会議を通す時にもいろいろな要因はありますが、やはり内容が重要ですね。

大東:最近は特にそうだね。面白くないと企画が通らない。
面白くするためのコツとしては、これは本来であれば編集者の仕事なんですが、「自分の作品の面白さを20文字で説明できるか」って大事だと思います。面白さを簡潔に説明できる内容にしないと、読者が本を手に取りにくくなります。Web小説発で売れるものはそれができていますよね。

荒田:あとはWeb小説であれば、更新頻度も大切ですね。実際に書籍化を確定した後のことを考えますと、改稿作業は必ずついてきます。続刊の問題もありますし、やる気を見られるかどうかもありますので。

――なるほど。実際に技術を身に着けるのは最低限のラインに到達するために当然として、面白さを簡潔に伝えられる作品は確かに名作が多いですよね。とはいえ、先ほど文章力は頑張れば上達するとおっしゃいましたが、すぐに上手い文章を書きたい方へのアドバイスはあるでしょうか?

荒田:そうですねー。おすすめの方法としては、キーボードではなく、音声入力で文章を執筆されてはどうでしょうか? 文章がそれほどうまくない人は、手慣れだけで書いてしまって、読んでいないか流し読みをしていると思います。音読をすると文章がうまくつながっていない部分が自分でもよくわかるようになります。
あと、この方法だとキーボードを打たなくていいので、肩こりになりにくいという副次的なメリットもあります(笑)。

大東:デビューした後の編集・改稿作業の負担も減るし、いいことづくしだね。


※創作居酒屋はまだまだ話は尽きませんが、文字数一杯にて、前編はこれにてお開きとさせていただきます。
後編では「再デビューするためには?」「メディア化を意識した執筆とは?」「編集者の仕事の魅力」「編集者が編集人生をかけていいと思える作品」など、興味深いテーマを紹介いたしますのでお楽しみに!


*本記事は、2019年02月08日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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