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冒頭から作品を盛り上げる超重要な要素|海猫沢めろん

あけましておめでとうございます俺です。めろんです。今年もよろしくお願いします!
というわけで新年第一回目のこの連載。
みなさん去年はどんな年でしたか? 年末の冬コミはどうでしたか? 正月は積みゲーとか漫画とかアニメを消化できましたか? 俺はゾンビランドサガとSSSグリッドマン全部見ました

しかし2018年はここ数年で一番きつかったですね……10月前後にメンタルがぐちゃぐちゃに崩れ一瞬メンヘラになりましたが、ドラッグでなんとかしました! あぶない!
まあ考えたり悩むのが仕事の一環なんで、職業病みたいなもんですけどね。
小説家はメンタル病む人が多いんで、みなさんも気をつけてください。

さて、去年に引き続きテーマは「音楽小説」です。
こないだちょうど小説家の滝本竜彦先生と佐藤友哉先生とおれでスタジオに入ってセッションしたんですが……だ、だめだ……もう十年近く楽器触ってなかったんでぜんぜん弾けない! やれてない! と焦るなかでiPhone担当の滝本先生だけが完璧でした。

後半行ってみましょう。

青春ものは青春にいるうちに書こう

作品名:アオノヒビキ
作者:小鳥遊よだか
URL:現在掲載無

平成15年、春。
早坂誠は高校生になった。
無難に地元の公立校に進学した誠には、特にこれといってやりたいことなどなく、高校に入学したとて中学時代の延長線のような日常が思いやられ、なんとなくやるせない。
しかし、新入生歓迎のために、開かれた部活紹介オリエンテーションで、演奏された軽音楽部のライブに衝撃を受ける。
共に進学した中学時代からの悪友・千原透とともに軽音楽部に入部することを決意し、誠の日常は変わり始める。
恋に、勉強に、文化祭でのライブに必死でもがいた、平成も折り返し地点の夏。

うお! まさに青春……「けいおん!」みたいな話なのかな? と思ったらぜんぜん違いました。
ありふれていそうであまりない、普通の高校生男子の恋と部活の話。

こういう題材って、実は青春を通り過ぎちゃった人には、むちゃくちゃ書くのが難しいんですよ。
だって俺、もう学生時代とか思い出せませんからね……。
そうなって初めて気づくのです「あれ? もしかしてあの時期ってすげえ貴重だったんじゃ……」とかって。
この作者の方の年齢や境遇はわからないんですが、ともかくこういうものが書けること自体が才能です。
欲を言えば、舞台が2003年なのでそのへんの空気をもっと吸いたかったです。
あと、

2002年の暮れのことである。平成もそろそろ折り返し地点になろうとは、このころには誰も知る由すらなかった。

という一文があるんですが、これって明らかに「平成の終わり」から逆算されているわけじゃないっすか。
となると、この物語を書いている人間は2018か19年にいるわけで、どこかにその作者が出てくるとぐっと物語に厚みが出たんじゃないかな。
今の自分からの回想、という形にするとか……加筆するともっとよくなる可能性を秘めた作品だと思います!

次!


「キャラは気付いてないけど読者は知っている」状態

作品名:海底の歌姫
作者:花千世子

ネット上のみで歌声を披露する、半引きこもり系高校生の青春ラブストーリー。
高校一年生の主人公、律は学校ではぼっちだけれど、ネット界では名の知れた歌い手、『海底の歌姫』だ。
動画に自分の歌声をアップロードし、どんどん『海底の歌姫』の知名度は上がっていく。
そんな中、ある出来事をきっかけに、律――海底の歌姫の身が危うくなってしまう。

動画投稿の「歌い手」が主人公なんですが、この子、スランプから脱するために「歌唱指導動画」をアップしちゃうんですよ。
ところが……

   なにえらそうに伝授とか言ってんだよ
   お前、たいしてうまくないだろ

というコメントが……。
うわー……いたたた……「あかん……それあかんやつや……」とハラハラさせられます。
このシーン、これ、小説を書く上で超重要なので説明させてください。
読んでない人はまずこの小説の最初の部分だけでいいんで、読んでから進んでください

……いいですか?

作品を盛り上げる上では「作り手とお客の共犯関係をつくること」というのが重要なんです。
どういうことか?

つまりですね、あえてお客と作者しか知らない情報を共有するんですよ。
難しいことじゃないです。

ホラーだと、「あー! だめだめ! そこ曲がったら殺人鬼がいるよー! いかないでー!」ってハラハラするシーンあるじゃないっすか。あれです。
ラブコメだと、「あー! そいつお前のこと好きなんだからそういうこと言うなよ!」とかいうあれです。

作中キャラは気づいてない、でも我々、外にいる人間は気づいてる――という構造を作ることが作品に視聴者を引き込むポイントなんですよ。
本作の場合、あえて無自覚なイタイことをやらせて、「あー!それあかんやつやー!」って読者に思わせているので、ここでちょっと引き込まれる。これです!
ただ、この作品は短編なんでそのあとわりとすぐに終わりがきてしまうんで、もっと読みたかったです!
(ちなみに、上記の構造の話は、神山健治さん(「攻殻機動隊」「精霊の守り人」などのアニメ監督)の『映画は撮ったことがない』という本で詳しく書かれてるんで、良かったら読んでみてください)


最後です!


有名楽曲が導くライトミステリー

作品名:マーズレコードの店主は謎解きが得意
作者:木原式部

かつての賑わいを失いつつある、地方都市の繁華街の片隅にあるレコード店「マーズレコード」。
その店主は元バンドマンで元ニートの服部昴(はっとりすばる)27歳。
求人情報誌「ワークニュース」を発行する株式会社スカイの才色兼備な敏腕営業女子、加賀谷かれんと昴は遠い親戚で幼馴染。
この二人が洋楽の名曲をバックに、「人の死なない謎」を解決していくライトミステリー。

「日常の謎」系ミステリの合間に恋愛、三角関係などが進行していくという形式
大雑把な説明になってしまいますが『ビブリア古書堂の事件手帖』の音楽版というとイメージしやすいかも。
各章が名曲のオマージュとなっており、例えば「黒くぬれ!(Paint It, Black / The Rolling Stones)」だと、

「そう。誰がやったのかわからないけど、壁にベッタリと黒いペンキが塗られてたの。部長、慌ててペンキを落とそうとしたけど全然落ちないし、会社の時間もあるから、後は奥さんに任せて出社したらしいんだけど……。服の袖にペンキが付いたのに気付かないで、会社で顔に付けちゃって、落とすの大変だったんだから」

というような事件が起きます。
レコード店主が出てくるだけあって、作中に有名楽曲がいろいろ出てきますが、セレクトがかなりメジャーどころなので、あまり音楽を聴かない人も「あ、これは知ってる!」と楽しめるでしょう。
進行中のふたりの関係の行方が私、気になります!


というわけで、前後編、二回に分けて「音楽小説」テーマで送っていただいた小説を読んできました。
紹介できなかった作品も全部読んでます! ありがとうございます。
最初は「音楽シーンをひたすら比喩でごてごてに説明するやつばっかりだったらどうしよう……」と思っていたんですが、バリエーション豊富で楽しかったです!
テーマに対するアプローチは人それぞれというのを改めて実感。
でも、反面「うお、このお題でこれが来るのか!一本とられた!」というものがなかったんですけど、もしかするとみんな遠慮してるのか? 遠慮しないで送ってください!


新作歓迎!未完結でもOK!「ファッション」小説を大募集!

というわけで、2018年も終わり、ついに2019年が始まりました。
平成最後ということで、新たなる元号とともにみなさんも新たなる作品を書いてみてはいかがでしょうか! 俺もやりますよ! 今年は小説書きます。

とはいえウォーミングアップも必要なんで、短いもの書くのもいいですよ。
次回は「ファッション」小説。
ファッションにまつわる小説を募集中。
オタク男子にとっては鬼門とも言えるこのジャンルですが、アイデアで突破するんだ!
短くてもいいんで腕試しにいかがでしょうか。
応募方法は簡単。
monokakiの公式Twitterをフォローの上、ハッシュタグ#Web小説定点観測 をつけて、自作のURLをツイートしてください。

「Web小説定点観測」は毎月第3火曜日に更新です。
ではまた。


*本記事は、2019年01月22日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

みんなにも読んでほしいですか?

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