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取材や下調べで何を感じたか、が執筆の第一歩|天花寺さやか インタビュー

京都府警が擁する「人外特別警戒隊」。通称、「あやかし課」――

Web小説のジャンルとして、ライト文芸のジャンルとして、すっかり定着した感のある「あやかし」もの。その本家本丸とも言える重厚な歴史を持つ街・京都を舞台にした、天花寺さやか『京都府警あやかし課の事件簿』が、第7回京都本大賞を受賞した。エブリスタ発の作品の受賞は2016年の『京都寺町三条のホームズ』(望月麻衣)に次ぎ、3年ぶり2回目。

同作は書籍化のコンテストではなく、サイト内の「ジャンル応援キャンペーン」や「新作セレクション」を機に発掘され、2019年1月の1巻刊行から1年を待たずにスマッシュヒットの道を駆け上った。京都市内で行われた授賞式直後の著者に、今の気持ちを聞いた。

TVで『耳をすませば』を見て天啓に打たれた

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――最初に小説を書き始めたのはいつ頃ですか?

天花寺:本格的に「物語(小説)を書こう」と意識して書いたのは小学二年生のときでした。きっかけはとてもよく憶えていて、ジブリ作品『耳をすませば』をテレビで見たことです。元々、アニメなどの影響を受けやすい子供でしたが、雫ちゃんが独自の世界観を創ってキャラクターを動かし、喋らせ、一心不乱にノートへ書いてゆく場面を見て、「私もやりたい!」と。天啓にも近い衝動を得たあの感覚は、今でも忘れられません。

――「やりたい!」という衝動から、すぐ実際に書き始めたんですね

天花寺:その翌日には画用紙を数枚用意して、上に挿絵を描き、その下に物語の本文を書いていました。女の子二人と蝶が出る物語だったと思うのですが、思い出せるような、思い出せないような……(笑)。その後、小学六年生のときに、母から赤川次郎先生の作品を紹介されて「小説」という単語と媒体を知りました。赤川次郎先生の本を読んだり、その後ブームとなったケータイ小説やネット小説の書籍化を知って「小説家になりたい」と志すようになりました

――すぐにネット投稿も始められたのでしょうか

天花寺:投稿を始めたのは社会人になってからですね。「本格的に、自分の夢を叶えるために行動しなくては」と思い、まずは一般公募の賞へ応募するようになりました。公募以外の活動として、今すぐに出来るのはネット投稿だ! と、数ある投稿サイトの中から見つけたのがエブリスタでした。

――数あるサイトから選んでいただき、ありがとうございます

天花寺:エブリスタは書籍化作品が多い点が非常に魅力的でした。作品の投稿の仕方も自分にあっていたのと、頻繁にコンテストも開催されているので、元からあった自作品を出したり、募集テーマに合わせて書くことも楽しかったです。そのままエブリスタでの活動が中心になっていた頃に、『京都府警あやかし課の事件簿』(当時のタイトルは『京都しんぶつ幻想記』)の書籍化の打診をいただき、今に至ります。


キャラクターは物語の代弁者

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――最初に書籍化の連絡が来たときのお気持ちは?

天花寺:自分の想いが届いた、と全身で感じ取ったのが最初で、後から、嬉しさと達成感がじわじわ沸き上がりました。本当は達成感どころかスタート地点なのですが、自分の小説が書籍になるという夢の実現があまりにも嬉しくて、つい達成感になっちゃいました(笑)。自分のキャラクターと世界観、どうしても伝えたい想いが本屋さんに並んで皆に見てもらえるという可能性と幸せを噛み締めていました。

――警察組織の内部に置かれたチーム……というアイディアは、どう着想されたのでしょうか

天花寺:もともと警察組織という設定はなく、「とある喫茶店の裏の顔は何でも屋」×「あやかしとのバトル要素」だけでした。頭の中で細かく空想していくにつれ、神仏や不思議なもの、幻想的なものが身近にある京都なら「警察の中にも、実はそういう部署があるんじゃないか」と思うようになったんです。「本当に京都府警にありそう」というご感想もいただきますし、「私の作品関係なく、本当にあるんじゃ……?」と思ったりしています(笑)。

――登場するキャラクターの設定はどのように作られていますか?

天花寺:お風呂に入ってぼんやりしているときに突然浮かぶパターンと、「こういう人物を出したいな」という想いからキャラクターが出来上がるのと、だいたい二通りです。ヒロイン・大(まさる)をはじめ、塔太郎、玉木、琴子といったメインキャラクターは前者ですが、物語のメッセージ性を体現するようなサブキャラクターは、その物語を通して伝えたい「自分の想い」を擬人化して創ります

――各回、サブキャラクターとプロットが魅力的に連動してるのはそのせいでしょうか

天花寺:「物語の代弁者」というところを出発点にして、キャラクターの半生や口調などを想像し、肉付けしていく感じです。想像というより妄想の域でもあって、実は一番楽しい時間です。最近では、取材の最中やその後で、想いや妄想が形になってキャラクターや場面が生まれるようになりました。


「はんなり」だけじゃない、不撓不屈の強さを持った街

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――京都という地について聞かせてください。土地の力が持つ、自作への影響はありますか

天花寺:昔はどこが舞台の……というのは考えていなかったんですが、18歳の時、テレビの特集で地元・京都が「人に優しいランキング」で最下位だったんです。それを見てショックを受けて(笑)。以降、京都の魅力を伝える物語を書こうと思うようになりました。

――そんなことないよ!という気持ちが原動力?

天花寺:はんなりで淑やかなイメージの強い京都ですが、実は、内外の人に対する厚さや力強さも併せ持っている場所だと思います。特に伝統文化に関しては、不撓不屈と言えるほどの芯の強さを感じることが多々あります。たとえば、幕末に焼失した祇園祭の大船鉾が2014年に復興されました。150年という長い年月をかけての復活は、京都という町の生命力、人々の精神力を内外に示したものだと思います。

――強さだけじゃない、執念さえも感じるエピソードですね

天花寺:京都はそういう経験もあって「人」の大切さを凄く知っているので、実はとても優しい町なんです。昔から、何だかんだ世話を焼いて下さる方が多い(笑)。こんなに世界中から愛されている京都も、長い年月をかけて少しずつ積み重ねて、苦難の時期も諦めずに今に至っている。小説を書いていると、行き詰っても、「諦めたらあかんえ」「続けるのが大事や」と誰かに叱咤され、励まされているような気になりますね。

――地元が舞台ですが、執筆時は追加でご取材もされるんですか

天花寺:よほどの事がない限り、必ず行くようにしていますね。取材や下調べで何を感じたかを物語にする、というのが執筆の第一歩となっています。京都のはんなりさ、力強さは、現地に行って実際に見たり聞いたりすると一層感じますね。取材させていただくときは、書き留める用の筆記用具の他にICレコーダーも使っています。また、カメラとしてスマートフォンを使っているので、執筆中はいつでも写真を見られるように、パソコンの傍らにスマホを置いています。


取材も下調べも苦にならないほどの「好き」を

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――プロ志望者に「これだけはやっておいた方がいい」と思うことはありますか?

天花寺:執筆以外の好きなことを見つけると、その後の執筆活動がより楽しくなると思います。夢中になって、他人に熱く語れるぐらいの好きなものが見つかれば、それをテーマにした小説がまず一つは書けます。自分の好きなことをテーマにしているので、取材や下調べも苦になりにくく、作品にも想いが乗りやすくなります。そうなると必然的に、読者の心に響く小説となるのではないでしょうか。

――それが天花寺さんにとっては「京都」なんですね

天花寺:個人的な意見ではありますが、小説というのは、そこに強い想いが乗っていれば必ず輝くと思っています。残念ながら望んだ結果にならなかったとしても、その小説の世界観やキャラクターたちは、消えずに心の中に残ってくれると信じています。

――デビュー前と後とで、その想いに変化はありましたか?

天花寺:小説を書くというのは思った以上に大変な作業で、それはデビューした今はより一層強く思います。でも根底にはやはり、「物語を書く」ことを楽しんでいる自分がいて、それは画用紙に物語を書いていた小学二年生のときから変わりませんね
デビューして初めて知ったのは、エブリスタさんも積極的に販促に動いてくれたり、作家のことをすごく応援してくれることです。エブリスタさんと出版社さん、ダブルでのバックアップがあるのは凄く有難かったです。

――これから書きたいと思われている作品、テーマがありましたら教えてください

天花寺:変な言い方になるかもしれませんが、京都に関することであれば何でも興味があるので、一つでも多くのことを勉強して、それを小説として形に出来たらと思います。先に大船鉾の話をしましたが、突きつめていくと京都を「京都」たらしめているのは人の心の強さということになる。私は京都を舞台にして、人々の「強い心」や「強い姿」、それが垣間見えたときの感動を書きたいのかもしれません。

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(インタビュー・構成:有田真代、撮影協力:インフォトネットワーク)


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『京都府警あやかし課の事件簿』
京都府警が擁する「人外特別警戒隊」、通称「あやかし課」。化け物から神様まで、あやかしが絡むあらゆる事件を人知れず解決するのが彼らの任務である。そんなあやかし課に入隊したばかりの新人女性隊員・大(まさる)。個性豊かなメンバーとともに仕事に励む大だったが、実は彼女には人には言えないある事情があって……。
街の平和を守るために、古都を奔走する若き隊員たちの活躍を描いた傑作現代ファンタジー!


*本記事は、2020年04月02日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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