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あらゆる感情がホラーの引き金になりうる|藤白圭 インタビュー

 もはや聞きなれてしまうほど「出版不況」と繰り返され、小説の単行本が3万部・5万部売れれば「スマッシュ・ヒット」と言われる現在。デビュー作にして単巻10万部を超える驚異的なタイトルがある。エブリスタ発の超短編ホラー『意味が分かると怖い話』(以下、『意味怖』)。2018年7月の発売以来、22刷10万部超。昨年出版された続刊『意味が分かると震える話』『意味が分かると慄く話』(ともに河出書房新社)も好調だ。

連日報道される幼女の誘拐。
手がかりがなく捜査は難航している。
「もうとっくに殺されてるのに、警察もご苦労なこって」
一緒にテレビを見ていた兄が言った。
「でたぁ! うんちく大好きな兄ちゃんの、なんちゃってプロファイリング!」
茶化しているときに気がついた。
兄の手が土で汚れていることに……
こいつ……まさか……
「おめぇ、アレを掘り起こしたんかぁ!」
私は兄に向かって怒鳴った。

 人気シリーズのもととなった「★短ホラ」は、365日休みなく、著者・藤白圭氏のTwitterに投稿されている。無尽蔵にも見える創作意欲とアイディアの源泉はいったい何なのか?雰囲気たっぷりの写真とともにお届けする。

エブリスタのコンテストをきっかけに創作を開始

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――これまでの読書体験から聞かせてください

藤白:幼い頃、母が絵本のかわりに読み聞かせしてくれたエドガー・アラン・ポーと、ラフカディオ・ハーンが自分の地盤となっていると思います。あとは横溝正史。小説以外だと、B級ホラー映画ですかね。これも両親の影響で、物心つく前から洋画ばかり観ていました。英語が分からなくても、単純に「怖い」「スリリング」「インパクトがある」という面で楽しんでいたようで。クライヴ・バーカー脚本の映画は特に好きです。

――小説を書き始めたのはいつ頃からですか

藤白:2014年1月か2月頃ですね。「みんながスターになれる場所」という当時のエブリスタのキャッチコピーに後押しされる形で、「自分も何かを書きたい! 表現したい!」と思ったのがキッカケです。

――もともとは読み専だったんですね

藤白:出張の移動中、私は新聞や小説を読んでいることが多かったのですが、同僚が隣で携帯小説を読んでいて。その同僚の影響で自分も読み始めるようになり、エブリスタにドハマリしました。『奴隷区』『コドク―蠱毒―』などを読んでいた記憶があります。

――「自分も書きたい!」となってから、すぐ投稿を始められた?

藤白:基本的には怠け者なので……目標がないと続かないし、完結させられない。そこで丁度、「スマホ小説大賞2014」なるものが開催されていたので、「とりあえず、締切までに一つの作品を書きあげる」のを目標にして書き始めました

――その後も書き続けられた理由は何でしょう

藤白:理由としては三つあります。一つはコンテストに落ちた悔しさから、毎日ホラーを呟くという「修行」を課して次回に繋げようと思ったこと。もう一つはエブリスタやTwitter等で知り合った仲間や友人たちのお陰です。互いに切磋琢磨し合える仲間や応援してくださる方々との出会いは常に刺激と支えになっています。最後の一つは、小説はいつでもどこでも自分を表現できる最高の場所だからです。


ホラーはコメディにもヒューマンドラマにも悲恋物にもできる

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――『意味怖』シリーズのもととなった「短ホラ」について教えてください。ネタはどういうとき思いつくんですか?

藤白:基本的に朝書いているので、通勤途中やその日のニュース、目に飛び込んできた光景などから考えています。あとは、友人、知人との会話からネタにすることも多いです。どうしても浮かばないときには、具体的なワードから的を絞ります。たとえば「山」とか「トンネル」、「ごみ捨て」「買い物」「交通事故」など。そこに何があるのか? そこで何が起きたら怖いのか? と、想像して書くことも多いです。

――ホラーを書く上で気を付けていることがありましたら教えてください

藤白:シーンや情景が、鮮明に思い浮かべられるかどうかは気を付けていますね。ドラマや映画のように書きたいものを脳内で再生させながら書いているので、いかにテンポよく鮮烈な印象を与えられるか。恐怖や違和感は常に身近に潜んでいるからこそ、何でもネタになります。

――ホラーの醍醐味ですね

藤白:「怖さ」というのは「怒り」「憎しみ」「哀しみ」「歓喜」「狂気」「愛」など、あらゆる感情がキッカケとなって生み出されますよね。「怖さ」の根底にはあらゆる感情が渦巻いているんです。ということは、どの感情もホラーの引き金になるわけで、誰もが加害者=恐怖を引き起こす人間になれる素質を持っているところが面白いのかなと。

――そう考えると、どんなジャンルを書いている人でも挑戦の余地がありますね

藤白:内容の持っていき方によって、どんな形でも終わらせられます。コメディにも、ヒューマンドラマにも、悲恋物にもできる。無限の広がりを持っていることがホラーの面白さだと思います。


毎日新しいネタを考え続けること

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――ご自身でTwitter企画を主催したり、執筆外の部分も楽しみながら盛り上げています

藤白:楽しいこと、人に喜んでもらえることが好きなタイプなので、「自分自身が楽しむ」のをモットーにしています。ノリと勢いで突き進んでいる部分がほとんどと言っても過言ではないかなと……(笑)。ただ、関わってくださる人に対しての感謝の気持ちだけは、常に忘れないようにしています。毎日続けることと、返事はマメにこの部分は大事にしています

――書籍化したことで、以前と創作に対するスタンスで変わった部分はありますか

藤白:以前はまったくプロットを書いたことがなかったのですが、最近ではプロットを書くようになりました。そうすることで起承転結のメリハリやテンポが格段に良くなることを、身をもって知ったところです。
あと、「今は本が売れない時代だ」と言われているからこそ、逆に本を読む・文章を読むキッカケとなるものを書けたらいいなと思うようになりました。新しい小説のスタイルや表現方法を生み出していけたらと、現在、試行錯誤中です。

――ホラー以外でも、これから書きたいと思われている作品やテーマはありますか

藤白:『魔界転生』『髑髏城の七人』『里見八犬伝』のような歴史伝奇小説が書きたいです。特に幕末の「奇兵隊」をテーマにしたものが書けたらなと思い、古語辞典片手に『奇兵隊日記』を読んでいます。

――プロ志望者に「これだけはやっておいた方がいい」と思うことがあれば教えてください

藤白:とにかく書き続けること。そして、常にネタを考えること。いろいろなテーマに興味を持ち、目を向けるのも大事ですが、ひとつのテーマから最低5個以上のネタを生み出すのも、いい訓練になります。これをすれば、一生ネタには困らないかなと。お勧めなのが、エブリスタさんの「超・妄想コンテスト 」。毎回テーマが決められていますし、期日内に完結させる訓練にもなります。書きたいことを分かりやすく、短い文章にまとめる勉強にもなるので、かなりお勧めです。

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(インタビュー・構成:有田真代、写真:鈴木智哉)


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『意味が分かると怖い話』
気づいた瞬間…、心も凍る‼
1分で読めるショートショート69編収録。
穏やかな「本文」が、「解説」によって豹変!?


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『意味が分かると慄く話』
最強、最恐、最凶。
一見何気ない文章なのに、ちょっと気づいた違和感から想像を膨らませた瞬間、恐怖のどん底につき落される!
この本は、そんな人間の本能の闇をついた、まったく新しいホラー小説です。


*本記事は、2020年02月04日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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