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「SNS」って何ですか?|王谷 晶

新年快樂! 恭喜發財! 王谷晶である。諸君も年始を迎え新たな決意と共に執筆に勤しんでいることと思われるが、今回はもう一つ、正月明けで餅と化したブレインに叩き込んでほしい事がある。それは「SNSは諸刃の刃」というフレーズだ。

今さらネットマナー()かよ、このインターネット初老会がと言うなかれ。今も昔もネットそしてSNSは、超便利だけど超取扱い注意なシステムなのだ。今回は特に物書き諸君にとってSNSおよびインターネットはどう付き合っていくのが得策なのか、その辺りを改めて語りたいと思う。

メイクマネーは自分にぴったりの「火加減調整」で

私は打ち合わせなどで「ギリギリで炎上しませんよね……」「うまいことやってますね……」とクライアントに言われることがちょくちょくある。古くはweb日記やブログ、最近はTwitterでだいぶ好き勝手脳内情報を書き散らしている生活を十五年以上続けているが、爆発炎上に陥ったことは今の所、ない。テキトーそうに見えてギリギリのセンを吟味して書いているからだ。

現在の倫理基準でやべえと感じた過去の投稿は思い出し次第削除/訂正しているし、知らん人には自分からはまず絡まない。下手を打ったら即謝罪・反省し、ズルズル言い訳はせずほとぼりが冷めるまで猫画像のリツイートなどをして大人しくする。それがマイ・SNSスタイルだ。それを尻が軽いとか風見鶏という向きもあろう。しかしこれが私の考える「誠実さ」のひとつのアンサーなのだ。この程度のPOPな尻が無ければデジタル・ポスト・アポカリプスこと現代の地獄インターネット界ではサヴァイブできない。

一方、炎上商法という言葉もある。ネットであかんことを言ったりやったりし、炎上状態に持ち込みそこからビッグマネーに繋げていくというリスキーなビジネススタイルだ。が、燃えて懐があったまるのはもともと燃やすだけの資本がある人間だけで、すかんぴんの弱小物書きが燃えたところで骨も残らず消え、忘れ去られるのがオチだ。だいたい、ことクリエイター業において炎上商法でスイートな汁を啜れている御仁がどれくらいいるというのか。ちょっと思いつく限り挙げてみ挙げてみ。ほぼおらんでしょ。売れてる人、だいたい謙虚(全方向謙虚でなくてもファン層にだけは謙虚等も含む)だし、そうでない人はSNSとか揮発性の高い可燃場所には近付かない。オフラインで暴れている

逆に私のように「ちょびっと過激だけど爆発炎上はしない」くらいのネット火加減をキープしておくと、使い勝手のいい安牌かつまあまあ目立つ人材としてコメントとかレビューとかの文字数は少ないけどマネーがいいゴトが舞い込んでくるのだ。そう、これが炎上商法ならぬトロ火商法。世相やネットの流れを「見(けん)」しながら火加減を調整していく、地道な努力の末のDOPEなマネメイキンスタイルなのである。そんなめんどくせえことしてられっか、という場合は、フツーに謙虚キャラで通した方が逆にラクチンだ。


Web時代の作家たちは

燃えるのは嫌だ。しかしSNSで自分の心をそのままシャウトしたい。そういうときは鍵垢だ。万人に見られないようにしておけば、嫌いな上司のキーボードの上で信玄餅を食った話から昨日読んだエロ本の詳細までなんでも書ける。やばいことには鍵をかけろ。しかしSNSに書くからにはモレてしまう確率はある。絶対にある。それも心配ならば、日記帳だ。アナログの。うらみねたみそねみ悪態日記をつけて、大晦日に厄落としとして物理的に燃やせ。そしてスッキリきれいにリフレッシュされたマインドで、小説を書くのだ

じゃあSNSはやばいことしかない場所なのか?というと、もちろんそんなことはない。このmonokakiでも「Web時代の作家たち」というイケてる連載があるが、そう、我々は好むと好まざるとに関わらずweb時代の物書きなのだ。現代、インターネットはほとんどインフラと化していると言っても過言ではない。SNSのアカウントは名刺より名刺の役目を果たすし、仕事の依頼も「SNSで人となりがなんとなく分かったので」発注してくるクライアントというのは実はけっこう多い。

もしビッグな賞をゲットした作家なら語尾に全部「うんこ」を付けて喋っていても仕事は舞い込むが、そうでない作家は他人がアクセスしやすい人格、すなわちSNS人格をブラッシュアップさせ「親しみがもてる」とか「仕事できそう」とか「やる気ありそう」とか「とりあえず会話はできそう」とかプラスの印象をアピールする必要も、ままある。無論フェイクじゃだめでリアルの人格もそれなりにSNS人格に沿うてないといけないが、運が良ければファンや友達もできるし仕事も得られる。面倒事も多いが楽しいこともたくさんあるのがSNSだ。燃やさないように、でも埋没し過ぎないように、読者への宣伝と仕事相手へのアピールに使えるアカウントを育てるのも、web時代の作家の必須スキルと言えよう


背筋が寒くなるSNS映画

今回のレコメンおもしろ作品は、現在も公開中の映画『サーチ/search』。この映画なんと全編がPC画面、スマホ画面、監視カメラ画面などの「何かの画面」の中でのみ展開する作品で、扱われる題材はズバリ「SNS」。Windows起動音から始まる冒頭の一般家庭インターネット史の流れに思わずノスタルジックな気分になるが、中身はけっこう恐ろしい。突然失踪した高校生の一人娘を探すためシングルファーザーが娘のMacBookを頼りにネット上で足取りを調べまくるという筋書きだが、何が怖いって複数のSNSに登録しているとそれぞれに出している個人情報は少なくても寄せ集めるとかなりの「事情」が分かってしまうという点だ。

娘はリアルでもネットでもけっこう秘密主義な生活をしていることが知れてくるが、それでも親父さんは執念でもって誰にも教えていなかったSNSのアカウントやら交友関係やらを探り当ててしまうのである。ハッキングなんて難しいこともせずに(親父にアカウントを探り当てられるシーンはあまりの簡単さに背筋が寒くなるぞ)。「ネット上の自分とリアルの自分は分けてる」「誰にも自分の正体は突き止められない」は幻想である。イキッて暴言やハラスメント書き込みをするバカのかっこ悪さなどもしっかり描かれているので、気を引き締めてSNSと向かい合うためにもぜひ鑑賞をおすすめしたい。

(タイトルカット:16号


今月のおもしろい作品:『search/サーチ』

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忽然と姿を消した16歳の女子高生マーゴット。行方不明事件として捜査が始まる。家出なのか、誘拐なのかわからないまま37時間が経過。
娘の無事を信じるデビッドは、彼女のPCにログインしSNSにアクセスを試みる。インスタグラム、フェイスブック、ツイッター・・・。そこに映し出されたのは、いつも活発だったはずのマーゴットとはまるで別人の、自分の知らない娘の姿があった。


*本記事は、2019年01月17日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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