「終わり方」って何ですか?|王谷 晶
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「終わり方」って何ですか?|王谷 晶

最終回! 王谷晶である。そうです、唐突ですがこの連載、今回が最終回なのである。足掛け2年ちょいに渡ってマクロな話からミクロな話まで小説を書くということについて益体もない話をしてきたが、私からお伝えできるテクニックはあらかた披露した。と思う。
あとは効果的な仮眠のとり方(たっぷり水を飲んでから仮眠すると尿意で強制的に目が覚める。ただし眠気が勝った場合は漏らすリスクあり)くらいだ。
ちなみに本連載を単行本化したいという版元も随時募集中である。今のうちでヤンスよ! 私が芥川賞とか直木賞とか獲ったあとに申し込んでも列の後ろのほうに並ぶことになるでヤンスからね!

小説を書き始めたら「終わらせる」を目標に

しこうして今回のお題も「終わり方」。いかに物語を締めるかというのは、小説を書くという作業の中でも一二を争うほど大切なポイントだと私は思っている。
「未完の大作」とか「未完の傑作」みたいな枕詞が付く作品も世の中にはあるが、正直、終わってない傑作より終わってるうんこ作のほうがずっとエラいしちゃんと作品だと思う。やむを得ない事情で完成できなかった作品もあろう。しかし、それでも、物語は終わり方が肝要なのである。

いやもうほんと、終わらせるのはマジで大事ですよ。終わらなかった物語は悲しい。読者を永遠に置いてけぼりにし、二度と再会できない待ち合わせ場所に立たせることになるからだ。それまで読んできた読者の無念を思うと、どんな要因であれ未完は悲劇になってしまう。
私もつい先日楽しみに読んでいた連載漫画が未完状態で唐突に終了するのを知って、ショックから立ち直れないでいる。つらい。誤チェストであってほしい。
ついでに言うと、私も終わらせられなかった物語を何本も抱えている罪人である。事情はある。事情はあるが、読み手としちゃあそんなもの知った話ではないだろう。というわけで諸君も小説を書き始めたらまずは何はなくとも「終わらせる」を目標に掲げてほしい


エンタメは伏線や謎をちゃんと回収して明確なオチを

とはいえ、いい感じに物語を終わらせるのはなかなか難しい。
以前純文学とエンタメ小説の違いの項で書いたと思うが、特にエンタメは基本「明確なオチが付く」ことが求められる

さんざん引っ張った伏線が回収されないで終わったり、謎が解かれないまま終わったり、主人公とライバルの争いに決着がつかないで終わったりするのはよろしくない。
逆に言うとそこがちゃんと回収されていれば、ことさらに凝った締め方をしなくてもいいとは思う。

例えば私は黒川博行先生のファンなのだが、氏の作品はだいたいどんなにド派手な物語でも最後はすっと静かに、ごくシンプルにぷつんと終わる。
やろうと思えば激エモいエンディングを付けることも可能だと思うが、それをしない。それでも物足りなさを感じたりしないのは、作中描くべきことはエンディング前までにきっちり描ききっているからだろう


「完全に終わらせない終わり」でエモーションを盛り上げろ

いやいややっぱり自分はエモいラストで最後までしっかり読者の胸を揺さぶりたい、という諸君には、名付けて「あと一口」のテクニックを使うことをおすすめしたい。
美味しい食べ物でも、デートの別れ際でも、あと一口食べたい、もうちょっとお話していたいというところで切り上げるのが一番印象に残るし恋しさが深まる。同様に、小説も「あともうちょっとだけ読みたい」というところで切り上げるとグッと面白さが増すのだ。マジで。

先に言った伏線を回収しないとか謎解きの放棄とかはダメだが、もう少しだけ主人公がどうなったのか知りたい、この二人の会話が聞きたい、みたいなところで切り上げちゃう。
最後まできっちり説明し通したいという気持ちを押し殺して、少しだけ削る。この「完全に終わらせない終わり」が、エモーショナルを盛り上げる。特に「自分の書くオチはいまいちボンヤリしてて締まらないな」と感じている場合は、思い切ってお尻から削っていってみてほしい。

余談だが、小説を発表する場としてインターネットが選択肢になった頃から、起承転結や序破急といったそれまでの作劇のセオリーに当てはまらない小説も増えてきた。
なろうやカクヨムやエブリスタで長期連載している作品を見ると、中には文庫本換算で10巻以上の大長編を書き続けている人がゴロゴロいる。そういうweb小説シーンではもはや小説とは絶対にオチがつかなくてはいけないものではなくなっているのかも、とも思う。
永遠に終わらない(終わりそうにない)小説というのは今までだって無くはないし(グイン・サーガシリーズとか、ペリー・ローダンシリーズとか)。このキャラクターたちが活躍している姿を延々と読み続けたい/書き続けたい、というニーズとそれに答えるコンテンツというのも、今後増えていくのかもしれない


人生が進むたびに読後感が変わってくる名作『星の王子さま』

今回のおすすめ作はサン=テグジュベリの世界的名作『星の王子さま』。最後なので一番好きな小説を選んでみた。
カテゴリ的には児童文学の中に入り、邦訳もやさしい文章でなされており子供から大人まで読むことができるが、これはおそらく私が生まれて初めて触れた「ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分からない物語」なのだ。それまで摂取していた子供向けの本やアニメはだいたい明確に「納得」ができるオチがついていた。
けれど『星の王子さま』はなんかすごく悲しいラストの気がするけど、でもそれだけじゃない、複雑な気持ちを掻き立てられる初めての物語だったのだ。
大人になった今もたまに読み返すが、そのたびに読後に沸いてくる感情が違う。こういう小説が一生にひとつでも書けたらいいな、と密かに思っている。未読の人がいたらぜひ読んでほしい。

(タイトルカット:16号


今月のおもしろい作品:『星の王子さま』

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著:サン=テグジュペリ 訳:河野万里子 新潮社(新潮文庫刊)
砂漠に飛行機で不時着した「僕」が出会った男の子。それは、小さな小さな自分の星を後にして、いくつもの星をめぐってから七番目の星・地球にたどり着いた王子さまだった……。一度読んだら必ず宝物にしたくなる、この宝石のような物語は、刊行後七十年以上たった今も、世界中でみんなの心をつかんで離さない。最も愛らしく毅然とした王子さまを、優しい日本語でよみがえらせた、新訳。
ありがとうございます!今日のおすすめは「新人賞の懐」です。
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