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Q.文章がワンパターンになってしまいます|海猫沢 めろん

新しい日常には慣れてきましたか?
ぼくはまったくいつもと変わらず家の中なので古い日常のままですが、世間は新しくなってしまいマスクを強制される毎日です。
こないだひさしぶりにマスクして飛行機とバスにのったら息苦しくてパニック発作が出そうになったので、新しい日常に怒りを覚えているめろん先生ですがぼくは元気です。
それはともかく今月の相談はこちら。

今月の相談者:うとうと(18歳) 
執筆歴:3年
ご相談内容:文を書いているとき、言い回しがワンパターンになってしまいます。~していた。だから~している。と言った具合で、なんだか説明文のようになってしまいます。語彙と学がないからというのは置いておいて、どうすれば文章が生き生きとしますか?

前回の構成が小説の外側だとすれば、今回の「文章」は小説の内側の相談です。

相談者のうとうとさんは、自分の文章が気になっているようですね。
違和感を持てるのは、それだけ文章の善し悪しがわかっているということなので、センスに自信を持ってください

そのうえで「生き生きした文章が書きたい」ということですが――問題の解決法としては「ヴォイス」を気にしてみるのが良いと思います。

そもそもヴォイスとはなにか?

ヴォイスというのは文字通り「声」のことです。
海外作家のインタビューを読むと、彼らが文章について「ヴォイス」という言葉を使っているのを見かけますが、これは、日本語の「文体」に近いニュアンスです。

説明的でなんだか生き生きしていない文章というのはたいてい「声」が失われています。不自然なんですよね。

じゃあどうして不自然になるのか?
この答えは、すでに相談者さんの相談文のなかにあると思います。

相談文を読んでみると、ふつうに説明的でもワンパターンにもなっていないんです。
この相談を投稿するとき、うとうとさんは誰かに向かって書きましたよね?
人がいると思って話しかけるように書いたはずです。
そうなんです。文章もそのように書けば良いのです。


ワンパターンでなくなる描写の3ステップ

というわけで、まず最初のステップとして、なにかを描写するとき、

・目の前に人がいると思って、実際にしゃべってみる
・スマホでそれを録音して文字おこししてみる
・文字おこししたものを並べ替えて整理

これをやってみるのが良いと思います。
ぼくもたまに描写がうまくいかなくなるときがあるのですが、これでなんとかしています。

あと、「~していた。だから~している。」というふうに文章がワンパターンになるということですが、応急処置として文末を「~た。~た。~る。」というリズムにすることでマシになります(これ、北方謙三先生のテクです)

訓練をすれば文章はかならず上手くなります。

さらに、もうひとつおすすめなのが、「写経」です。
騙されたと思ってなにも考えず、好きな作家の小説を10ページくらいまるまる書き写してみてくださいその文章のリズムや感覚が体に残りますこれを続けると文章力が自然に上がる禁断の技です
問題は文章が似てしまうことですが、そこは内容でなんとかしましょう!
どちらもしばらくやってみてください。必ずうまくなります。


書き手の身体性が感じられる文章は「独自の表現」になる

ところで、なぜぼくがここで「声」を重視しているのかというと、相談者さんの言う「生き生きしている文章」というのが、言ってみれば「書き手の身体性が感じられる文章」のことだからです
この「身体性」は、文章の「声」や「語り」にそなわっています
身体感覚はひとそれぞれであり、その感覚を文章にまぜることで独自の表現ができあがるのです
ためしに目の前にあるモノを、触ったり、かいだりしてそれを描写してみてください。こんなかんじです。

それは親指と人差し指をめいっぱいのばしたくらいの長さの透明なプラスチック棒で、おしりの黒い部分をかちかちと押し込むたびに先端のスプリングが収縮し、とがった部分が顔を覗かせたり隠れたりする。先端に近い部分2センチくらいはゴムで覆われていて、そのゴムにはちょうど10個のくぼみが4列並んでおり指先でホールドしたときの滑り止めの役割を果たしている。においをかいでみると、ふしぎなことにユーカリのすごくいいにおいがした。ユーカリ……? おかしいな……そんなはずはないと思い、何度もかいでみるが、たしかにユーカリのにおいがする。なぜだろう? 不思議だ。先端をつまんでくるくると全体をまわしていると、なんだか催眠術にかかったみたいにあたまがぼーっとしてくる。

単にボールペンの見た目を説明するだけではない文章になります。
モノの描写だけでなく空間描写も、おなじように身体で感じて書けば説明的なものではなくなるはずです。
逆に感覚的な部分を忘れて頭だけで書いてしまうと、説明的で硬い文章になりがちです。


かと言っても「自分がやりたいことを突き詰めて、長所を伸ばす」ことが大事

ここからは補足なのでちょっと理屈っぽくなります。ご興味があれば読んでください。
相談にある「~していた。だから~している。」という説明的文章というのは、

Aという男がいた。20年近く前に青森から上京した。○○文学新人賞でデビューした。そのあと12年、本がぜんぜん売れていない小説家だった。

こんな感じの文章でしょうか? この文章には、

・文末がすべて「~た。」で終わっていてバリエーションがない
・細切れで声が聞こえてこない
・なにが重要かわからない

といった問題があるので、逆にこれを直してやれば良い文章になります。
主語と述語を意識して文章をつなげると、

【Aという男は】(20年近く前に青森から上京したあと、○○文学新人賞でデビューして12年になる)【売れない小説家だった。】

というふうに一つの文章になります。
【】部分が主語と述語です。このあいだにはいる文章が複雑になるほど、難解な文章になっていきます。
なので、シンプルにここを先頭に持ってくるのもありです。
その場合、

【Aという男は】【売れない小説家だった。】(20年近く前に青森から上京したあと、○○文学新人賞でデビューして12年になる。)

というふうになります。これは文章の入れ子構造もなく、重要な情報が文頭に来ているので、わかりやすいですが、ちょっと新聞記事っぽいですね。

長くてわかりづらい文章はたいてい入れ子構造になっていて、これを外せば外すほどわかりやすくなりますが、外しすぎると箇条書きになってしまい、散漫で機械的に見えるので、さじ加減が必要です
ヴォイスを入れつつ、自分が理想とする文章を目指してください。

ちなみに、文章が下手でも小説が面白ければ問題ないので、まずは自分がやりたいことを突き詰めて、長所を伸ばしていきましょう!


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