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おもしろい恋愛ものには、登場人物の成長がある|ポプラ社ポケット・ショコラ|飯田 一史

 2018年3月に創刊されたポプラ社の恋愛専門児童文庫レーベル「ポケット・ショコラ」。
 小学校中高学年から中1を主なターゲットとする児童文庫では、思春期の入り口に立った読者に向けた恋愛ものも少なくない。この世代向けの恋愛ものの特徴とは? 書き手はどんなことを意識すればいいのか。
 編集部の門田奈穂子氏(ポプラ社一般書事業局文芸編集部チーフ)と荒川寛子氏(児童書事業部児童編集第一部)と潮紗也子氏(児童書事業局児童編集第一部)に訊いた。

ポプラポケット文庫があったのにポケット・ショコラを創刊したわけ

――ポプラ社はポプラポケット文庫が元々あったのにポケット・ショコラという恋愛専門レーベルを新たに作った理由は?

門田:ちょうど手元におもしろい恋愛ものの原稿が一本あり、同時期にエブリスタさんから紹介いただいた作品がよかったこともあって、単独では目立たないので、ラインで出せていけたら、と考えました。集英社みらい文庫さんの恋愛路線が堅調だったことも念頭にありました。
ポケット文庫は男女関係なく楽しめるものを目指していて、ラインナップも物語からノンフィクション、歴史、雑学など幅広いのに対して、ポケット・ショコラでは恋の話だけを読みたい読者を対象にしています。「児童文庫」には興味がなかった子も、コミックスに見えるつくりを意識したポケット・ショコラには「これなら」と入ってくる子も多いですね。

――デザイン面でもポケット文庫とは違う?

門田:絵柄もデザインもおしゃれにし、イラストは主にマンガ家さんにお願いしています。ケータイ小説の編集経験者から「小学生は恥ずかしくて買いづらくなってしまうので、表紙では男女をくっつけすぎないほうがいい」とアドバイスを受け、構図や立ち位置にも気を付けています。

――ポケット・ショコラを始めるにあたって「ポプラが恋愛もの?」と意外に思った人も多いのでは? 社内での反対などはありませんでしたか?

門田:社内的には、全国の営業部員が集まる販売会議では「こういうものを待っていた」「コンセプトやターゲットがわかりやすい」と歓迎ムードでした。

荒川:弊社は20年くらい前には折原みとさんはじめコバルト文庫で書いていた作家さんに依頼した少女小説を多数刊行していましたから、かつてを知る人からも「相性は悪くないよね」という反応でした。


「ちゃんとやっている子が認められる話」が好き

――恋愛ものといってもいろいろありますが、児童文庫の読者はどんな恋愛ものを求めている傾向があるとお考えでしょうか

門田:「地味な自分でもいいところを見つけてもらえた」「まじめにやっている子がハッピーエンドになる」――ということに安心するんじゃないかな、と。レーベルを立ち上げたときにTV番組『スカッとジャパン』の「胸キュンスカッと」というコーナーで、「こんなイヤな女の子が近くにいたけれど、自分はズルはせず想いを貫いて好きな男の子に選ばれた」という話が人気を集めていて「こういうものを出してほしい!」と営業の人から言われたことがありました。「ちゃんとやっている子が認められる話」が好きなんだと思います。

――ポケット・ショコラの読者層は?

門田:小学校4年~6年生が多いですね。最初は「5年生以上だろう」と思っていましたが、4年生がけっこう読んでくれています。

――高校生が主人公の作品もありますが、小4でもそういうものを読んでいる?

門田:はい。立ち上げの前に編集部員同士で「小学生のころに読んでいた少女マンガの登場人物ってけっこう高校生だった」という話になり「主人公が中学生でも高校生でも読む側はあまり気にならない」と思っています。

荒川:自分より年齢が上の中高生の恋愛を読んで背伸びしたい気持ちも少しあると思います。主人公は高1、2くらいまでは大丈夫かな、と。高3になると大学受験の話になって小学生にとっては遠い世界の話になりますが。

門田:「自分が知らない憧れの世界」という意味では中学でも高校でも変わりません。実際の高校生が読んだら「これで高校生?」と幼く思うところもあるかもしれませんが、「小学生が考える女子高校生の恋愛」を描いています。


モニター制度「ショコラメイト」で読者の姿を知る

――ポケット・ショコラには「ショコラメイト」というモニター制度があるそうですが、どんなことをしていますか

潮:アンケートを送ってどんな本を読むか、書店に月何回行くか、クラスに好きな子はいるか、告白したこと/されたことはあるか、など訊いています。それから弊社に親御さんといっしょに来ていただいて、メイトさん限定で、発売前の新刊ゲラを読んでもらい、キャッチコピーを考えようといった内容のシークレットイベントもしています。

門田:カバーデザインを複数用意して「どれがいい?」と訊いたり。背伸びをしたいのか、だいたい一番大人っぽいものに票が集まります。ただ実際に販売したときの反応そのものではないので難しい点もありますが。

――直接聞いた反応で興味深かったことは?

荒川:「押せ押せな男子がいい」と言っていました(笑)。草食系はちょっと、と。

門田:予想はしていましたが、小学生から彼氏の話をされるとびっくりします。もちろん、「うちの学校は全然そういう雰囲気じゃない」という子もいます。

荒川:自分たちのころと比べてもお母さんと仲がいいなと感じます。もちろん、弊社にいらしていただくときには「親御さんと必ず来て下さい」と応募時にお伝えしていることもあるかもしれませんが。ただ「お母さんのオススメのマンガを読む。一条ゆかりとか」と言われると「そうなんだ!」と思いますね。

門田:どんな男の子が好きなのか、どんな話が読みたいのかを直接訊きたいと思って始めた制度ですから、メイトさんの声を元に作家さんに「こういう子がいいらしいですよ」とお伝えしたりしています。


「制服」シリーズと『噂のあいつは家庭科部!』はなぜ人気?

――ポケット・ショコラの作家さんはどんなバックグラウンドの方が多いですか?

門田:まず、執筆陣はエブリスタさんの作家の方が多いです。エブリスタさんと「ピュアラブ小説大賞」という新人賞を行っているのと、新人賞以外からも良い作家さんをご紹介いただいています。また、弊社の別の恋愛短編集にご執筆いただいたご縁で書いていただいた方もいらっしゃいます。
バックグラウンド的にはケータイ小説を書かれてきた方が多いですね。「制服」シリーズの麻井深雪さんなど、集英社ピンキー文庫さんで書いていた人がけっこういらっしゃいます。それから、乙女ゲームのシナリオライターをされていたりとか。

――ポケット・ショコラの代表的なヒットタイトルを教えてください

門田:「制服」シリーズと『噂のあいつは家庭科部!』が二枚看板じゃないかな。「制服」シリーズには女の子の憧れが詰まっています。『制服ジュリエット』『制服シンデレラ』『制服ラプンツェル』はそれぞれタイトルに入っている物語をモチーフにラブストーリーにしている。『制服ジュリエット』は『ロミオとジュリエット』、つまり好きになっちゃいけない相手を好きになってしまったという話ですね。主人公の女の子のお父さんがヤンキー高校の先生で「あそこの生徒とは付き合うな」とお父さんから言われていたのに……と。

潮:制服シリーズは同じ地域を舞台にしながらヒロインも男の子も毎巻違う子が出てきて、でも前の巻に出てきた人も出てきます。そこも楽しみにしてもらえているのかなと。

荒川:『噂のあいつは家庭科部!』は、後輩のお料理男子が先輩女子の主人公のことが大好き! という物語で女子の願望を描いた作品です。

門田:「めちゃめちゃ好き!」という想いが溢れているのが、ハマってくれるポイントなのかなと思っています。モニターさんにゲラを読んでもらったときにも好意的な反応が多く、「男子の家庭科部員ってどうなの?」といったジェンダーに関する決めつけは全くないですね。
ベネッセさんが進研ゼミ会員向けに展開している電子図書館サービス「まなびライブラリー」ではポケット・ショコラの新刊が入るとランキング上位に来るのですが、「まなびライブラリー」上では男子の読者が少なくないんです。男の子も恋愛ものを読みたいという気持ちがあるのかなと。
私たちとしても「家庭科部も恋愛小説を読むことも、男の子がしたっておかしいことじゃないんだよ」と提案していけたらと思っています。


読者が自分の不安を主人公と重ね合わせて読める恋愛ものを

――小学生も読む恋愛ものとしての表現のレギュレーションは?

門田:ピュアラブ大賞でも「キスまで」としています。それ以上の表現に関しては「ここは抑えてください」とお願いすることがあります。

――新人賞応募作には求めるものは?

門田:おもしろい恋愛ものは、登場人物たちの成長や価値観の変化があります。相手のことを思って自分が変わっていったり、行動したり……そういうものが読みたいですね。
また、ポケット・ショコラでは敵役の子が悪いだけで終わらないようにしています。低中学年向けでは純然たる勧善懲悪もありだと思いますが、ローティーンであれば世の中も人もそこまで単純ではないとわかっていますし、こちらとしてもそういう複雑さを伝えたいなと。

潮:どこかコンプレックスがある子が内気な自分を変えようとしたり、つい周囲に強気に出すぎて悩んでしまったりといったことは日常生活でもよくありますよね。読者が「自分も不安に思ったことがある」と主人公と自分をリンクさせて読めるものだと楽しんでもらいやすいのかな、と思います。

門田:とにかく読者をキュンキュンさせるぞ、という方にはぜひ新人賞に応募していただきたいですね。お話の道具立てが地味なものよりも、キャッチーな方が読みたいモチベーションにつながります。「こういうのは児童書じゃムリだよね」と決めつけず、柔軟に考えていただければ。
それから、恋愛ものはシリーズ展開するのが難しいのですが、読者からは「シリーズで読みたい」という声があります。ですからシリーズ化ができる枠組みの恋愛ものだとよりありがたいです。創刊から2年経ちラインナップの幅が広がっていますが、今後をますます盛り上げてくれる作品をお待ちしています。


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『制服ジュリエット』
著:麻井深雪 絵:池田春香 ポプラ社(ポケット・ショコラ)
お嬢さま学校と名高い光丘学園にかよう高校1年生の岩本すみれは、教師をしている父親に「陸南工業高校の生徒には近づくな」と、かたくいわれていた。けれどある放課後、こわれた自転車をなおしてくれた男の子に恋をする。彼の名は、桐谷拓。高校三年生。陸南工業高校の有名人だった――!


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『噂のあいつは家庭科部!』
著:市宮早記 絵:立樹まや ポプラ社(ポケット・ショコラ)
真面目にやっているのに怖いほど不器用なさやかは、家庭科部のおしつけられ部長。春、カッコイイと噂の1年生男子・内海悠がワケあって入部し、二人だけの部活動が始まったが──。さやかのひたむきさに次第に心が動いていく内海。幼い頃から隣の春兄に片思いしていたさやかにも変化が。ドキドキが止まらないピュアラブストーリー!


*本記事は、2020年03月24日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。