進化し続けたケータイ小説とWeb恋愛小説|編集マツダ
ニュースになることこそ少ないが、Web恋愛小説はめちゃくちゃ面白いし、ファンの数も多い。
「Web小説といえば異世界転生でしょ」と思っている人は、今すぐ恋愛系の投稿サイトを開いて、読み始めてほしい。Web小説というフォーマットは恋愛小説のためにあるのでは? とすら思うはず。
今回は、その理由を「ケータイ小説」の歴史も踏まえながら紐解いていこう。
Web恋愛小説、百花繚乱
Web恋愛小説の特徴としてまず第一に挙げられるのは、スマホで読める――つまり親にも夫にも子供にもバレずに楽しめることだ。
これ自体はWeb小説全般に言える特徴ではあるが、個人の性癖がはっきり表れる恋愛ジャンルにおいては、ファンタジーやミステリなどに比べ、「自分だけのひそかな愉しみ」とされる度が高い。
第二に、サイトごとに色がはっきり分かれている。細かくは後述するが、自分の性癖にあったサイトを巡ると幸せになれるだろう。
第三に、TL小説や乙女ゲーム、TVドラマにも通じるトレンド変遷にもばっちり合っている。今なら「御曹司」、少し前なら「契約結婚」、もっと前なら「逆ハー」など……その時々の時代の気分にあった恋愛小説が読者の目によって選ばれ、読まれ、ランキングの上位を占めていく。
そしてランキング上位の書き手はとても律儀に日々更新を続けていて、続きが待ち遠しい読者の気持ちを掴んで離さない。「仕事で書いているのか!?」と思うほどの更新のマメさと丁寧さには驚かされる。
こんな完成度の高い世界がWeb恋愛小説の世界だ。
読者によって好みが分かれやすい恋愛小説だから、各社サイトごとに特色があり、サイトの中でも細かくタグで検索できるようになっている。そのジャンルが好きで好きでたまらない読者の目によって厳しく選別され、ランキングの順位が磨かれる。面白い恋愛小説を読んだ読者は次の小説が読みたくなり、同じサイトをタグなどで回っていく。自然とトレンドの変遷にも合っていく。
家事の合間や通勤通学の間にスマホで愉しむ読者たちが、投稿サイトの完成度を上げているのだ。
Web恋愛小説、各社の違い
サイトごとに色がはっきり分かれていると書いた。大まかには下記のような特色がある。
野いちご
10代向け小説に特化。学園恋愛が人気で、主人公は高校生がほとんど。コミックにたとえると、「りぼん」「別フレ」に掲載されそうな恋愛小説が多い。
ベリーズカフェ
野いちごと同じスターツが運営しているサイトで、こちらは主人公が20代など大人の女性がメイン。ドSな彼に溺愛される物語が人気。
エブリスタ
ベリーズカフェと似た傾向にあるが、こちらは「三角関係」や「すれ違い」など、精神的なドラマが強い傾向。作品を有料販売できるシステムにより、主婦でありながら月100万円を売り上げた作家も。
魔法のiらんど
野いちご同様、高校生主人公ものが目立っているが、野いちごが「りぼん」ならこちらは「Sho-comi」や「マーガレット」のように、Hなシーンが盛り込まれている。かつてのケータイ小説の気配を残す暴走族ものも。
小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
「なろう」といえば「異世界転生もの」というイメージが強いが、女性主人公の恋愛作品も豊富なのは案外知られてないのではないだろうか。異世界に転生して騎士や領主と恋をする物語がたくさん投稿されている。
ケータイ小説はいかにWeb恋愛小説となったのか
この連載は「森」なので、少し掘り下げた話もする。
2000年代初頭の文化として語られることが多い「ケータイ小説」だが、現在の「Web恋愛小説」文化と「ケータイ小説」のつながりについては、耳にすることが少ない……と思う。
「魔法のiらんど」はかつてケータイ小説で一世を風靡した。2018年現在、題材こそかつてのケータイ小説を思わせる「暴走族もの」や「暴力団もの」がちらほら残るものの、文章はだいぶ様変わりしていて、改行を詰めて縦書きにすればライトな小説の中にあっても遜色ない作品も多い。ケータイ小説にあった、ドラッグ、レイプといった生々しいモチーフや傷を中心にした物語は陰をひそめ、「複数の暴走族の総長に愛される」など、ある意味ファンタジックな恋愛ものへと発展している。
一方でケータイ小説時代からずっと書いていた作者、ずっと読んでいた読者は健在で、「ケータイ小説」が新しい層を取り込みながら徐々に徐々に文章の密度を高め、フィクションならではの「Web恋愛小説」になっていったことがうかがえる。
Web恋愛小説と少女小説
2000年頃、「コバルト文庫」などの少女小説レーベルと、ケータイ小説レーベルの間には絶対に超えられない壁があった。前者は読書好きなおとなしめ(ややオタク)女子、後者はヤンキー女子のもので、書店でも前者はティーン向け文庫の棚に、後者は実用書やエッセイの隣あたりにあったものだが、現在はほぼ隣り合っている。
ライトノベルの潮流を汲む「なろう」系異世界転生恋愛ものと、ケータイ小説サイト出身のベリーズカフェ発恋愛ものは、「ライト文芸」や「ティーンズ・ラブ」など、同じ棚にあることがほとんどだ。
女子が読んで楽しい恋愛小説を突き詰めていった結果、両者が近づいていったと思うと感慨深い。
一方で、OLと上司の恋や結婚をメインテーマに据えた「主人公が成人女子の恋愛もの」は、ハーレクインなど一部のレーベルを除き紙の小説としてはまだジャンルを確立しきっていない印象だ。「ヤングレディース」に分類される成人女子向けの少女漫画では活発に描かれているテーマである一方、小説に限って言えばWeb系レーベルが一番元気な分野だといっていい。ベリーズカフェからの書籍化レーベル「ベリーズ文庫」、エブリスタからの「エブリスタウーマン」など、Web小説の書籍化のみのジャンルとしてじわじわと拡大しつつある。TL小説を読む女子高生が4~5年後に成人女性になっていくことを考えると、このジャンルの伸びしろはまだまだあるのではないか。
今後はどう変わっていくのか、引き続きWeb恋愛小説から目が離せない。
*本記事は、2018年03月15日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。