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Q.物語に意味を乗せるのが苦手です|海猫沢めろん

最近自分のツイッターを見ていると気が滅入るようなことしか書いていなくて、これはどうかと思いました。でも、そもそもが明るい人間でもないわけで、ありのままの自分で生きている俺はすばらしいなと考え直しました。そんな最高なめろん先生が今回も悩みに答えます。

問題が起きて行き詰まった時にすべきこと

今月の相談者:鮫島はるみ(37歳) 
執筆歴:1年
お悩み:物語に意味を乗せることが苦手です。
書いてみたい物語があり、おそらくは長編だと思うのですが、前日譚的なものを書いた後、プロットの段階でどんな事件を起こせばいいのかわからずつまずいてしまい、1年ほど足踏み状態です。
起承転結や三幕構成といったものも書籍等で学んでいるのですが、いざ書こうとすると、物語よりも先に人物・舞台の設定や、場面の断片ばかりが浮かんでしまい、それらを繋ぐ、意味のある物語をつくることが出来ません。
日々の練習として1000字前後の掌編をここ半年ほど、週に4、5本書いており、1000字をいくつか繋げてトータル5、6000字ほどになることもあるのですが、やはり「長いワンシーン」でしかなく、物語的なテーマや人物の変化といったものは書けていないように思います。
最終的に書いてみたい物語というのも、「ある人物がいて、このような事情、状況の中で生きていく人物の姿が描きたい」というような漠然としたもので、この人物に何が起こったのか、魅力を引き出すには何を書けばよいのかわからず詰まっている状態です。
このような場合、どのようなことを練習すれば効果的でしょうか。ご教示いただければ幸いです。

ご相談ありがとうございます。結論から言うと、

・世界全体とキャラごとの年表を作ってみる

これが打開策になりそうですが、それは最後に述べます。
投稿作を読ませていただくと非常に文章力があり、独自の世界観を感じられます。書かれているものには自信を持って良いと思います。

「物語に意味を乗せるのが苦手です」ということですが、この作品からは「生きることと死ぬこと」「孤独」「疎外感」などのテーマが濃厚に読み取れます。読者というのは作者が意図していなくても勝手に「意味」を読み取ってしまうものなので、テーマに関しては一旦置いておきましょう。

相談を読むと、かなりいろいろなことに悩みが及んでおり、自分でもかなり困っているという印象が伝わってきますので、ひとまず落ち着いて整理しましょう。
問題が起きて行き詰まったときは、まず立ち止まって問題を小さく切り分けることが大切です。大きいままでからまっているとどんどん迷ってしまいます。


書く前にじっくりと「もやもや」を観察して育てる

・物語の大枠ではなく細かいシーンばかり浮かぶ
・特にキャラクターのシーン
・断片的シーンばかりで大きな物語にならない
・変化やテーマが描けていない
・テーマにそって物語を作るのが苦手
・行き詰まりを打開するための方法が知りたい

ということを書かれていますが、アイデアやシーンが出てくるのはとても良いです。そこを伸ばしていきましょう。
まずやることは……作品のまわりをじっくり散歩すること。

つまり、書かないでイメージすることです!

書く前には、いろいろなもやもやがあると思います。けれど決してそのもやもやをかんたんに言語化してはいけません。その感覚を急いで言語化すると、言葉自体がやせ細ってしまいます
まずは「もやもや」の周りを散歩しながら、どんどんもやもやを観察しながら育てましょう。
それが大きくなってから次に進んでください。


問題を5つの箱に入れてみよう

小説の問題は「人物、物語(シーン)、舞台、アイデア、文体(文章)」必ずこの5つのどれかに関わります(外的要因としてモチベーションというのがありますが、これは作品に取り組めば解決されるので、考えず手を動かしましょう)。

先程のもやもやのなかには、人物や舞台、シーンの断片があると思いますが、それを、

「人物、物語、舞台、アイデア、文体(文章)」

この5つの箱に分類してみてください(わからないものは「その他」に入れるか、ムリに言語化しなくて良いです)。
そうすると、おそらくどれかの箱の中身が極端に少ないことに気づくと思います。

はい、できたらその時点でもうこの作業はやめましょう!

本当はさらに細かく分解していく方法もありますが、これは相性もあって、合ってない人がやると作品へのモチベーション自体が削られてしまうんです。

とにかく「書きたい」という気持ちが大事です。まずは、「あれ?もしかしてこれが足りないのでは?」から、「ということはこの要素を増やせばいけるのでは?」に気持ちを持っていくためのものとしてこの作業をしてみましょう。


年表を作ってみよう

前段階で問題は整理できずとも、なんとなく感じられるようになっているので、この状態でもう一度最初に戻りましょう。
いち読者として私が具体的に鮫島さんの作品を読んで感じたのは、

「この世界の全体の歴史はどうなっているんだろう?」

ということでした。

なので、まず世界全体の歴史年表みたいなものを作ってみてはいかがでしょうか? 
書かれたシーンがどこに位置するのかがわかると、読者にとっては「ああ、これとこれのあいだの話なのか」と勝手に補完できて嬉しいです!(『ファイブスター物語』が参考になります)。

次にキャラクターごとの年表を作ってみましょう。最初は敵組織のボスだったのに、晩年は正義の側のリーダーになってるとかそういう年表を作ると、自動的に「あいだになにがあったのか?」を描くことになるので創作がはかどります。

プロットのように細かいものではなく、あくまでざっくりした「年表」という感じで良いので試してみてください。そうすると、

・物語の大枠ではなく細かいシーンばかり浮かぶ → シーンを年表ごとに配置
・特にキャラクターのシーン → キャラの年表ごとに配置
・断片的シーンばかりで大きな物語にならない → 全体年表のなかの一部なので問題なし
・変化やテーマが描けていない → 変化させたいなら年表を調整
・テーマにそって物語を作るのが苦手 → 年表全体で読者がテーマを見つけるので問題なし
・行き詰まりを打開するための方法が知りたい → 年表のどこからどこを書きたいのかはっきりさせよう

ということで、悩みの多くが解決する可能性が高いです。
この段階まできたらもう一度、

「人物、物語、舞台、アイデア、文体(文章)」

5つの箱にイメージを整理すると、いろいろなことがクリアになると思います。


「断片を集めて大きな物語になるか?」問題

ちなみに、断片シーンばかりが浮かぶというお悩みはものすごい共感します……。私も昔はそうでした。壮大な小説のイメージ、いろんなキャラや深い設定、大量の書きかけの冒頭……あれは一体どこへ行ってしまったのでしょう……結局形にはできませんでした。

これぞ、創作者が誰もが一度はぶちあたる「断片を集めて大きな物語になるか?」問題です。
「SSとか短編しか書けないけど、あつめれば……長編ってことになりませんか?」という希望……願望でもあります。

長編至上主義の人からは「ムリ!短距離走の体力でフルマラソン走れるわけないだろ!」と言われるかも知れません。それは確かに正しい部分もあります。でも小説はマラソンではないので、考え方を変えましょう。
大枠をフルマラソンから別の競技に変えてしまえばどうでしょうか?

・キャラのバトルシーンの断片しか浮かばない…… → トーナメントバトルにしてしまう。
・キャラの過去の物語の一部しか浮かばない → 全員揃ったラストバトルからの回想にする。
・その世界の歴史的事件しか浮かばない → 主人公が未来から過去の歴史書を書いている設定にする。

などなど、「前から順番に流れる物語」という思い込みをぶっ壊せば、アイデア次第でいくらでも断片を活かすことができます。
今回アドバイスした「年表をつくる」というのはつまり、大枠を「歴史群像劇にする」という方法です。
断片しかなくとも、それを活かすための大きなアイデアがあれば、それは作品になります

あきらめずに考えましょう!
俺も考えます!
ではまた!