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ただのゲーム好きが読み手や書き手になれたサイト|モバゲー小説の思い出|雨宮黄英&星月渉 インタビュー

SNS「モバゲータウン」(現:Mobage)内に2007年~2016年の9年間、ユーザが書いた小説、詩などの作品を投稿できるコンテンツ「モバゲークリエイター」が存在した。
その影響力は凄まじく、2011年にネットエイジアが行った「携帯小説を読むサイト」のアンケート調査では「モバゲー」が1位となっている。
現在、そこに投稿されていた小説は小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿作品ごとすべて移行しており、モバゲーに投稿された作品の多くは「エブリスタ」で読むことができる。

10年近い歴史を刻んだ「モバゲークリエイター」の小説はどんな文化だったのか。モバゲーで執筆活動を行い、現在もエブリスタで活躍する2名の作家にチャット形式でインタビューを行った。

お話を聞いた作家
雨宮黄英:2007年、モバゲーにて執筆開始。『裸探偵・雨宮翔』『吸い尽くしたいお年頃 ~もしかして落ちこぼれ魔導師の成功譚~』にて、「E★エブリスタ電子書籍大賞2012」優秀賞をダブル受賞し、書籍化デビュー。他、エブリスタに投稿した『おっぱ部!』『人質交換ゲーム』がコミカライズ。

星月渉:2009年、モバゲーにて執筆開始。『三毛猫カフェトリコロール』にて書籍化デビュー。『ヴンダーカンマー』にて、エブリスタ小説大賞 竹書房最恐小説大賞を受賞。 

普通の人が思い思いに書いていた

クリエイタートップ

――おふたりがモバゲークリエイターで書き始めたきっかけは何でしょうか

雨宮黄英(以下、雨宮):もともとモバゲーで遊んでいて、小説のコーナーがあることに気付いて書き始めました。小説自体それ以前から自サイトで、趣味の二次創作のようなものを書いていました。

星月渉(以下、星月):私は長女が3年保育の子ども園に入って暇を持て余しまして、パピレスさんのハーレクインロマンスに課金しまくって、これではまずいと思い何かないか探してたどり着いたのがモバゲーの小説コーナーでした。小説は書いたことはまったくありませんでした。

――星月さんは読むことから始めたのでしょうか

星月:そうですね。最初に読んだのが藤原亜姫さんの『イン ザ クローゼット』でした。書いてみようかなと思った時にもまず書籍化作品とランキング上位作品を読みまくって特徴を頭に叩き込んでいました。当時は行空きが多いものが人気を集めやすかったので、書き方も参考にしました。

雨宮:僕は、自サイトでは基本的に二次創作で、同じコンテンツを好きな友達の中で公開して楽しんでいたんです。ただ、「自分でもオリジナルを書いてみたい。小説家になりたい」と思ったときに、公募などよりも手軽に入れるきっかけとしてモバゲーを選びました
本当にたまたまモバゲーに小説コーナーがあると気づいたのがきっかけだったので、ゲーム好きだった自分をあの時だけは褒めたい気持ちです(笑)。

星月:私はもともと読書が好きで、大学も一応文学部に行ったので、小説を「書く」ことに対してちょっと敷居が高かったんですよね。モバゲーの小説コーナーで色んな作品を読んだときに、本当に普通の方が思い思いに書いておられたのでちょっとやってみようかなと思ったんです。それに書く方が読む方よりずっと時間がかかるので、ロマンス課金予防にもなりました(笑)。最初に書いたのは『STAGE』という作品です。

雨宮:僕は『悲しい映像』という短編作品です。放送作家の北本かつらさんによる小さな賞を獲りました。モバゲータウン内のユーザ参加型投稿コーナー「モバゲー印税銀行」内の企画で、モバコイン300という豪華賞金をもらいました。『5分で読めるオクッタガワ賞』というコンテストだったので、実は今のエブリスタさんの企画と少し重なる部分があったりしますね。


わいわいがやがやしていたサークル機能の楽しさ

サークル

――モバゲー小説の、他のサイトやメディアと違う楽しみはどんなところだったでしょう。当時の雰囲気などもお教えていただけますか?

雨宮:モバゲーはクリエイター同士の交流が非常に盛んで、サークル機能を使ったやり取りがとても活発でした。感想を気軽に聞けるので、書いていてモチベーションが持続しやすかったですね。

星月:雨宮さんのおっしゃる通り、クリエイターの交流が盛んで、そのおかげでいくつものターニングポイントを乗り越えてきました。また、どうすれば閲覧数や栞の数が増えるのかを考えたり、また「事務局注目作品」にいつか選ばれたいと思っていましたね。

雨宮:事務局注目作品、懐かしい! あれは本当にステータスで、同じサークルのメンバーが選ばれるとお祭りでしたね。

――どんなサークルがあったのでしょう?

雨宮:自分が利用していたのが、アドバイスをもらうことに特化したサークルと、閲覧数を増やすことに特化したサークルですね。

星月:宣伝用の大きなサークルなどもあったんですが、私は作品を読み合っているうちにサークル作るけど入らない? と誘われて入ったものと、あとは岡田伸一さんのファンサークルに入ってました(笑)。人気クリエイターにはファンサークルがあってそれもステイタスだったと思います。

雨宮:モバゲーのサークル機能が、小説コーナーを盛り上げていたと言っても過言ではないと思いますね。

星月:それはありますね。あと本当にサークルがなかったら私はサスペンスもミステリーも書いてないんです。サークルの人からアドバイスされたので。サークルの主催の方に「星月さんは恋愛じゃなくてミステリーの方が向いていると思う、絶対書けるから」と言われたのがターニングポイントの一つです。

雨宮:僕はサークルの人に凄く褒めてもらえて調子に乗れたのがターニングポイントですね(笑)。

――ファンサークルなど、今のエブリスタにはない雰囲気ですね

雨宮:モバゲーのサークルって、確かに良くも悪くも昔のネット文化って感じがしましたしね、なんとなくですけど。


「ただゲームが好きな人」を「読み手」や「書き手」に変えることができたサイト

小説_20100519

――今のエブリスタは、モバゲー時代と比べてどうですか

星月:私はモバゲーからエブリスタに移行する時が混乱して大変でしたが、今はコンテストも充実していますし、なにより審査が平等です。セブンティーン小説大賞の最終選考に残ったことがあるのですが、その時はまだ投票制度がありましたので、人気クリエイターと票を競うのはきつかったです。

雨宮:書籍化のしやすさ(=夢の叶えやすさ)や、書くことに特化したサイトデザインやUIなどは明らかに良い点だと思います。反面、モバゲーのサークルなどでわいわいがやがやしてた雰囲気がなくなったのは少し悲しいですね。

星月:サークル楽しかったですよね。

雨宮:エブリスタは、モバゲーのようにゲームをやるために登録した人が気まぐれでちょっと書いてみる……みたいな良い意味でのハードルの低さは薄くなってるのかなあとは思います。

星月:確かにそれはあると思います。普段文章を書かない人の面白さのある作品は出にくい状況かもしれませんね。私「日記」が好きなんですよ。『大阪バカ家族』が大好きでした、少年Rさんのお姉さんの日記です。『少年Rの心霊事件簿』ももちろん好きでした。あとはもとデリヘル嬢の方の書かれた日記や、70代の方の人生の回顧録も大好きでしたね。また、岡田伸一さんの『愉快なお話』は本当に面白かったです。

――日記って、小説とは違う独特の良さがありますよね

星月:ありますね。だからこそセンスが光ってたりするんですよね。文章の上手い下手ではなく着眼点でしょうか。そういう作品は確かに出にくい状況ではありますね。

雨宮:「ただゲームが好きな人」を「読み手」や「書き手」に変えることができたのは、モバゲーの唯一無二な強みだったと思います。

――雨宮さんはモバゲーで思い出深い作品はありますか?

雨宮:色々読み漁っていたんですが…。強いて一作品挙げるなら『ザッキルテへの告白』かな。モバゲー時代に読んで衝撃を受けた作品です。あの作品は説明できないので、とにかく読んでみてとしか言えないですね。短いですし、ぜひ。

――エブリスタとモバゲーの差などいろいろお聞きしましたが、逆に変わっていない部分などはありますか?

星月:結局のところ、読者様に励まされてしまうところはずっと変わらないかなあと思います。

雨宮:1ページずつこまごま更新して公開できる手軽さや、読者さんからの反応がすぐに届く嬉しさは変わらないなあと思います。

星月:書籍化のお知らせをコメントでしたところ、今まではスターだけだった方から初めてコメントをいただけたのは本当に嬉しかったです。

雨宮:スターだけだった方からレビューが来ると比喩じゃなく泣いちゃいますね。それと、更新が不定期になっても、更新したらすぐに読んで頂けているのが一番の励ましですね…!

星月:ああ、それはありますね!

雨宮:あと「エブリスタの○○という作品がとても面白かったので!」という文言でお仕事の依頼が来ちゃうと、少し無理してでも受けちゃいます(笑)。

星月:それも分かります。作品を褒められると弱いですよね。

星月:私は長いこと休んでいた時期があるんですが、もうずっと更新していないのに毎日スターを投げていた方がいらっしゃって、復帰した時に初めて長文でレビューを下さった時も本当に震えました。戻って良かったなと心から思えました。


言葉によって励まされ、支えられ、人生が変わっていった

モバゲー小説大賞

――おふたりが、モバゲーからエブリスタにかけて10年以上いてくださるのも、読者様からの反応が大きいのでしょうか

雨宮:それはまちがいなくありますね。あとはエブリスタさんで書き続けていれば書籍化などに繋がるという信頼があるのも大きいです。

星月:反応が大きいです。今公開せず書いている作品があるんですがモチベーションを保つのはなかなか大変です。

雨宮:しばらく書けなくて、久々に書いた『人質交換ゲーム』という作品があるのですが、初めの方はランキングも振るわず読者様も少なかったのに、書き続けている内にだんだんと人気が出てきて、書籍化にまで至ることができましたので、人気クリエイターと言う土台が無くても頑張れば書籍化はできるんだと真に思いましたね。

星月:はじめた頃は書籍化って一握りの人気クリエイターのものだと思っていたので自分の作品が書籍化される日が来るとも思っていませんでした。今はチャンスが平等にしかもたくさんあるなあと実感していますね。

――そろそろインタビューも終盤となりましたが、せっかくの機会なので、ほかにモバゲーの思い出エピソードなどありましたら教えていただけますか

星月:サークルのみんなと怪盗ロワイヤルにハマってた時楽しかったです(笑)。あと、初めて特集に掲載されてしおりがどーんと増えた時はびっくりしました。それから念願だったモバゲーのホラーカテゴリの1位に数日だけですがなれた時はスクショしました(笑)。

雨宮:昔、とあるサークルで作品のアドバイスを募集している方がいらっしゃったんですよ。で、書籍化を決めたばかりの僕はイキり倒して長々と批評レビューを書いたわけですね。で、最近になってその方からTwitter経由で連絡が来て飲みに行くことになったなんてことがありましたね。今は大手の会社でシナリオライターをされているそうです(笑)。

星月:長々と! でも連絡くれたんですね。嬉しいですねえ。

雨宮:やばかったです(笑)。でも何か凄いお礼言われました。「あのおかげで文章を書き続けられた」って。やっぱり言葉って力があるんだなあって思いましたね。

星月:それは本当に嬉しいですね。書き手の私たちも結局言葉を頼りにしているのかもしれませんね。

雨宮:いや、嬉しいやら申し訳ないやらで困惑してましたが、胸に来るものはありましたね。

――言葉に支えられて、言葉を紡いで、その言葉がまた誰かの力になっていくのでしょうね

雨宮:言葉一つで笑ったり泣いたり怒ったり悲しんだり、人生を変えたりできるのってすごいことですよね。

星月:本当ですね。

――ありがとうございます。10年以上活動され、多ジャンルで書籍化・コミック化も叶えていらっしゃるおふたりから、Webで小説を書いている人たちにメッセージをお願いします

雨宮:読者に楽しんでもらおうと思って書き続けていればいつか必ず結果は出ると思います。綺麗ごとではなく、マジです。どうすれば楽しんでもらえるか、どうすればたくさんの人に読んでもらえるか、そこに向き合って頑張ってください!もっともっと面白い作品をたくさん世に生み出してくださいねーー!

星月:一人でずっと書くのは私にはできなかったろうなといつも思います。三日坊主の私がこれまで続けていけたのは今まで読んでくれた読者さまのおかげです。コンテストには何度も落ちましたし、何度も挑戦してきました。落ち込むことも沢山ある、12年でしたが、ここに帰って来れば面白いと言って読んでくれる方がいるから、また書けばいいと思って頑張ってきました。そう信じ続けられて良かったと思います。そして、自分が最高に面白いと思うものを書けばどうにかなるのだなと実感もしています。書くのはしんどいこともありますが、書かなければ何も始まりません。書きましょう! 私も書きます!


【モバゲークリエイターの歴史】
2007年3月23日 ケータイゲーム&SNSサイト「モバゲータウン」に、ユーザが書いた小説、詩などの作品を投稿できるコンテンツ「クリエイター」が開設
2007年5月15日「モバゲー小説大賞」開催
2010年6月7日 「E★エブリスタ」 グランドオープン
「モバゲークリエイター」に投稿されていた作品が連携、投稿機能はエブリスタに一本化
2016年6月14日 「E★エブリスタ」が名称を「エブリスタ」に変更
2016年8月8日 「エブリスタ」とモバゲーの小説・コミック・イラスト・レシピコーナーの2箇所で提供していた読書機能が「エブリスタ」へ一本化

「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。