Q.設定や世界観はどこまで説明すればいいですか?|海猫沢 めろん
うわあああ! 暑くてあらゆるやる気がなくてなにもやる気がないのでなにもやれない! 思わず同語反復と重複表現をしてしまうほどやる気が出ません。
いや、でも知ってるんですよ。さすがに人間、40年近く生きてるとわかるんですよ。やる気がないときの対処法。それは、やることなんです。やっていればやる気は出る。これが真理! だからやるぞ! やるためのやる気を出すになにも考えないことです! よし、すぐに行こう! なにも考えないでいこう!
小説はどのくらい説明すべきか 説明すべきタイミングはどこか
今月の相談者:kamさん(21歳・学生)
執筆歴:6年
ご相談内容:ファンタジーの長編小説を書いています。
独自性の高い設定づくりをしているため、どうしても作品内でいろいろと説明をしなければいけないのですが、「どのくらいの量、世界観に関して説明するのが適切なのか?」「どのタイミングで説明をはさむべきか?」がよくわかりません。
あまり説明しすぎると間延びしてつまらないですし、あまり説明しなさすぎても話についていけないですし。
でもオリジナリティ溢れる設定は捨てたくありません。どうすればよいですか?コツはありますか?
この悩み、ファンタジーとかハードなSFとか書いたことがある人なら一度は直面しますよね。そうじゃなくとも、「なんか作品が説明的になってしまう……」という人もいるでしょう。
そんなあなたにいい方法を教えましょう。
「まずは、まったく説明せずに書く」
これです。
世界観をゴテゴテに凝ったものにして、専門用語をガンガン使っていると、いちいち「この単語説明しないと……」とか思うんでしょう? でもそれ、無視していいです。読者が期待しているのはそこじゃないんです。そこにいる人物がどんな気分でなにをしているのか、そっちのほうが大切です。世界観の説明がそれを邪魔するなら、しないほうがいいです。
kamさんの相談を拝見すると、非常に自覚的に読者のことを考えておられます。だけど、それは一旦無視してみてはどうでしょうか。
その上で、答えると、
「どのくらいの量、世界観に関して説明するのが適切なのか?」
やりたい量です!
「どのタイミングで説明をはさむべきか?」
やりたいタイミングです!
これは冗談もなんでもないんです。日常生活を思い出してください。わからないことを冷静に説明されるよりも、なんかパッションで「これがこうでガーってなって!」って言われるほうがテンションが伝わります。そっちのほうが大切です。
一旦リミッター解除して全員振り落とす勢いで書く→加筆修正
つまり、説明だろうがなんだろうが、「雰囲気」が伝わってないと意味がないんです。そして、冷静になればなるほど大抵その雰囲気は消えます。kamさんは迷ってしまうようですが、創作中の迷いはつらいものです。そのときは頭のなかで理性が優位になっています。
一旦捨てましょう! リミッターを解除して読者を全員振り落とすつもりの勢いで書いてください。そのあとで読み返すと絶対に「あ、俺やりすぎてる……」と思うんで、そこをちょっと加筆修正するくらいのバランスでいいと思います。
で、この加筆修正のときにやっと理性的な判断をするわけですが。ここで見るべきポイントは大きくわけて3つです。
・冒頭のヒキは強いか?
一番大切なところです。ここで離脱されては困りますよね? でも日和ってはいけません。あなたの作品で一番ややこしい設定や書きたい設定をいきなり出しましょう。それで離脱される場合は、その設定に魅力がないので考え直すべきです。
・流れを阻害してないか?
どんな作品でも物語が動いていないと読者は面白く感じません。ですが困ったことに、設定の説明は物語の流れを止めてしまう要素です。そういうときは説明しないで、あえて説明無視で進んで読者の「疑問」を誘発してから「解答」することで、疑問→解答のコンボが発生します。疑問→解答→疑問……この流れを意識するだけでかなり読みやすい構造になります。
・説明と描写を意識的にわけているか?
どんなに説明しても、とにかく「雰囲気」が出ていないと台無しです。説明について悩む人は、たいてい「なんか説明入れると小説がぎくしゃくする」とか「物語の流れを邪魔してる気がする……」という違和感を抱きがちです。そういう人は「説明」と「描写」についての違いを意識すると良くなることがあります。
以上3のポイントですが、最後の「説明と描写」についてちょっと補足します。
読んでいてうるさくない・邪魔じゃないことが大事
今回の相談、おそらく小説講座とかだと真っ先に「説明じゃなくて描写しましょう」という解答が来ると思います。
じゃあ説明と描写の違いとはなにか? ってことになるんですけど……ぼくは世の中の人が言ってる「説明と描写」の話がいまひとつピンとこないんです。
具体例をあげましょう。
A)部屋のなかは暑かった。床に古いノートパソコンがある。起動するとすぐにデスクトップが表示された。HDDがSSDに換装されているようだ。SSDとはソリッドステートドライブの略であり、普通のHDD(ハードディスクドライブ)とは違いヘッドのような可動部品がないぶん動作が早い。
これはちょっと説明ぽいですが、
B)夏の日差しに晒された部屋に足を踏み入れると、額から汗が流れた。フローリングに放置されたノートパソコンは、キーボードが茶色く汚れ、表面がベトベトしている。起動させると数秒で静かにデスクトップが表示された。どうやらHDだけは最新のものに換装してあるらしい。
と書くと、たぶんこれ描写です。ポイントは、Aは直接「部屋が暑い」とか「パソコンが古い」とか書いているけど、Bはそこを「汗が流れた」とか、ビジュアルで表現していて、直接は書いていないという部分です。
一般的にはBの、「直接書かないで、体感的に表現する」ほうが描写であって、小説ではこっちをやれと言われます。
でもね……どっちも「暑い部屋にある古いマシンの起動が早い」ということはわかるんで、どっちでもいいんじゃないかなあと思うんです。
たとえばkamさんの作品のこのシーン。
見上げれば燦然と輝く星々、一点の曇りもない空。だが、その中にもし不自然な真っ黒い穴を見つけたなら、それが〝星喰い〟だ。彼らはよく晴れた日の星空に住んでいる魔物だ。夜になるたび起きては綺麗な星たちを喰らってしまう。
これは「説明」か「描写」かと言われると、難しいと思うんですよね。
なんとなく描写のような気も、説明のような気もする。でも、読んでいてそれほど「うるさいな」「邪魔だな」と思わないので特に問題はないと思うんですよ。
自分が「説明」してるのか、「描写」してるのかは把握しよう
世の中で言われてる、説明と描写の違いって、けっこうどうでもいい話が多くて……。たいていは「説明的すぎる!」という批判のときに「描写が出来ていない」という話に流れがちだと思うんです。
だけど、小説に対して「説明が多い!」という批判があったとすれば、それは、
「物語が停滞して、一方的になにかをまくし立てられて読むのが面倒臭い」
ということなんです。
だから
「物語が動いている」「一方的にまくしたてない」「読むのが楽」
この3つをクリアできていれば「描写」が出来ていなくても、「説明」でも、なんの問題もありません。
しかし、逆に考えてみると、「描写」というのは
「物語が動いている」「一方的にまくしたてない」「読むのが楽」
ということを可能にするのでしょうか? 当然ながら、ちゃんと描写されていても面白くない作品なんていくらでもあります。逆に説明ばっかりなのに面白いのもかなりあります(特にSF作品にはコレ多いです)。
描写できてても面白くなるわけではありません。なので、説明と描写のちがいは、基本的にはあんまり考えなくていいです。
ただし! 迷っている場合は別です。自分が「説明」と「描写」のどちらをやっているのか意識したほうがいいです。
kamさんがなにか違和感を持っているのって、自分が書いている文章が「説明」なのか「描写」なのか、自分で把握していないことから生まれてるんじゃないでしょうか?(違ってたらすんません)
そのへんを意識的にやってみるのはいいと思います。具体的に言えば、
・「説明」をすべてやめてみる。
・最低限必要な「説明」を「描写」に書き換えてみる。
・「説明」と「描写」をバランス良く混ぜてみる。
こういう順番で既存の原稿をみなおしてみてはどうでしょう。
ちなみに、この手の「設定が固い小説」でよく引き合いに出される国産ファンタジー小説「ロードス島戦記」ですが、今読み返すとむちゃくちゃ読みづらいです。スタートが遅くてけっこうきついです。でも、「これがいいんだ!」と思っている雰囲気は伝わってくるんですよ。
あらゆるアートにとって初期衝動とかパッションは一番大事だと思うんで、それだけはなくしてはいけません。技術的なことは常に最後でいいです。
*本記事は、2019年08月20に「monokaki」に掲載された記事の再録です。