見出し画像

ファンタジー書きの新学期:魔法学園への入学|三村 美衣

 学園というのは、この世界の中にありながら、外の社会とは少し違うルールで動いている。どの時代のどの国でも、異世界であっても、種族がなんであっても、学び舎を描けばそこで行われることは自ずと似通ってくる。一方で、教室の中を社会の縮図として描くこともできれば、聖域と考えて自由で公平な空気を満たすこともできるし、学校の門を閉ざせば社会との物理的な接触をも遮断した密室にもなる。

まずは志望校選びから

 学校を選ぶときには、まずその国はどんな様相で、その社会の中でその学校がどんな立ち位置にあるのかを考えておこう。さらに学校の規模はどのくらいで、運営しているのは誰で、学費はどのくらいかかるのかを知る。金銭の問題だけなら奨学金制度という選択もあるだろうが、その学校は誰でも志望することができるのか、階級や血統や特殊な能力を必要とするのか、選抜試験の有無や内容も重要だ。

 学校は純粋に知識を求める場所なのか、技術や職能を訓練する場所なのか。これは卒業後の進路にも関わる。学校をでた後にさらに専門的な学校に進学したり、公務員や軍人になったり、神官や僧侶、技術者になったりと、いろいろな道があるだろう。さらに卒業生にはどんな人がいるのか、というのも考えておくと、登場人物に幅が出てくる。

 たとえば『ハリー・ポッター』の舞台はイギリスだが、実はこの世界には魔法も魔法使いもずっと存在しており、自分たちのルールに従って暮らしている。魔法使いの社会は隠蔽され、一般の人間はその存在すら知らない。ハリーが入学したホグワーツは魔法使いのための学園であり、アメリカやヨーロッパの他の地域にも同じような学校が存在している。
 魔法使いと人間の関係や、社会の方は穴だらけだが、学園の設定はたいへん良く出来ていて、ホグワーツの中はまるで、ゴシックのお城と、お化け屋敷と、ダンジョンとを併せた異世界のようだ。


学びて、ときにこれを習う

 学校に入学したら授業が始まる。
 魔法学校と名乗るからには、魔法そのものが研究され、教育のメソッドもある程度は確立しているはずだ。ところがたいていの魔法の授業描写は、呪文を暗記したらあとは実践あるのみ。逆上がりだって、適切な補助を受けてコツをつかめばほとんどの子供はできるようになる(らしい)のだから、教えるのが得意な教師がいてもいいはずだ。特に初等教育を扱う場合は、読者が自分でも試してみたくなるような、学習意欲の湧く授業風景を模索してほしい。

 魔法学校の嚆矢はル・グィン『ゲド戦記』のロークの魔法学院だ。学院の部分はそれほど長くないが、ここで繰り返される魔法についての議論や、謎掛けのような口頭試問の顛末は記憶に刻まれる。佐藤さくら『魔導の系譜』は、魔法を教えるという部分に踏み込んだ作品。誰よりも勉強熱心で努力家だったのに、力が弱く魔導学院に進むことができなかった落伍者だが、「人を教える」という才能に特化した素晴らしい師匠が登場する。


学園生活を彩る、人間関係とパワーゲーム

 学ぶのは知識や技術だけではない。
 未熟な生徒や学生たちは、ここで仲間を得、友情を築く。特別な学校に進学した者は、それまでの交友範囲とは異なる相手に巡り合い、文化摩擦や衝突を繰り返しながら成長していく。学校の性格によっては、同級生は同年代とは限らないし、出身地も部族も、場合によっては種族も異なる。先生や師匠との絆、先輩や後輩やライバルとの関係を密に描けるのも学園ものならでは。

 また社会の縮図としての差別だけではなく、スクールカースト的なものもあれば、純粋な能力主義や功利的な合理精神に貫かれた学園もあり得る。生徒会が強いだとか、風紀委員と対立してるだとか、新聞部がちょこまか暗躍するとか、演劇部が影で支配しているとかいった摩訶不思議なパワーゲームも、学園ものならではの展開だ。

 そしてそういった人間関係が、日々の生活や学校行事を通して育まれていく。『ハリー・ポッター』も一冊一年という構成で、物語は学校行事に沿って進行していた。入学式にはじまり、卒業式で終わる展開は学園ものの基本だ。ただ『ハリーポッター』以降、魔法学校ものが多数登場しているので、ひねりのない作品は埋没しがちだ。荻原規子『RDGレッドデータガール』のように、学園や主人公の背景に謎を仕込むことで、居心地のよさと緊張感を同居させることは可能だ。


おすすめ異色学校もの3作品

 魔法学校ではない学園ものでも、面白いファンタジーを描くことができる。ごく普通の学校に魔法使いや異界からの旅人がやってくる『風の又三郎』もの、異界からの侵入や異形やゴーストと相対する炎の転校生ものなど、いろんなパターンが考えられる。最後にいくつか具体例を紹介し、本稿を閉じたい。

ショーン・マグワイア『不思議の国の少女たち』(創元推理文庫)
舞台はアメリカにある小さな全寮制の寄宿学校だが、生徒は全員、異世界に行って帰ってきた子供たち。彼らは、向こうの世界こそが本来の自分がいるべき場所だと思い、帰る扉を探し続けている。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488567026

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔法使いはだれだ』(徳間書店)
魔法を使うことが禁じられ、魔女は未だに公開で火炙りにされてしまう歪んだ社会。処刑された魔法使いの子供を集めた寄宿学校の中でもクセの強い子供たちを集めた特別クラスで、「このクラスには魔法使いがいる」という告発のメモが教師の手にわたる。
https://www.tokuma.jp/book/b503159.html

三崎亜記『コロヨシ!!』(角川文庫)
この世界の日本には古来より伝わる「掃除」という武道があり、戦後の統治政策によって禁止され、唯一、高校の部活でのみ許されている。架空の武道によって日本の歴史を読みかえる部活伝奇小説だ。
https://www.kadokawa.co.jp/product/201103000855/

その他の本文登場作品
J・K・ローリング「ハリー・ポッター」シリーズ(静山社)
https://www.sayzansha.com/harrypotter/

アーシュラー・K・ル・グィン『ゲド戦記』(岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b260760.html

佐藤さくら『魔導の系譜』(創元推理文庫)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488537029

荻原規子『RDGレッドデータガール』(角川文庫)
https://www.kadokawa.co.jp/product/200612000050/

(タイトルカット:つのじゅ


ファンタジーコンテスト「学園ファンタジー」大賞受賞作『1年E組~彼らは異世界バスターズ~
著:はじめアキラ
「……なあ、香帆。お前校内新聞のネタで、七不思議調べてるって聞いたけど、それ本当か?」
幼馴染の聖は、休み時間に真っ先にそう口にした。香帆は不機嫌になる。最近の聖はどうにもおかしい。話しかけてきたと思えばオカルト絡みの質問しかしてこない。オカルト関係は興味がないどころか、むしろ避けて通っていたように見える彼だというのに。
帰宅部にする気マンマンだったのに、突然オカルト研究会に入り、妙に積極的に活動を始めた聖。その原因は、どうやら彼の所属する1年E組にあるらしい?


*本記事は、2019年02月04日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。