見出し画像

「良質なインプット」って何ですか?|編集 ミヤケル

 はい、そんなわけで、ヒットコンテンツから「おもしろい」のヒントを探っていくコラムももう4回目です。

 初回は「キャラ」、次に「リアリティ」、「熱いSF」(=説得力)とは何かを考えてきました。この3つは、私が大事だなぁと感じていることなので、語る機会をいただけて大変にありがたかったです。

 しかし、これまでの連載で紹介してきたことは、「おもしろい」を支えるための要素でしかありません。

 「キャラ」が弱くても、「リアリティ」が薄くても、設定に「説得力」がなくても、「おもしろい」ならそれでいいのです。

 では、「おもしろい」とは何か。

 それは……つまり……『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ってことなんじゃないかと思うんですよ、私は。(強引な論理展開を倒置法で薄める編集奥義)

 ……もちろん、異論は認めます。

 今回、私が伝えたいことの一つは自分なりの「おもしろい」の尺度を持ってほしいということなのです。

 観ていない人もいると思いますので、とりあえず公式サイトを覗いてきてください。

マッドマックス 怒りのデス・ロード

 ……はい、おかえりなさいませ。

 すんごいビジュアルですよね。それだけで、なんとなく凄そうな映画だというのは察していただけたと思います。

言語化できないおもしろさ!

 ストーリーについては説明は不要です。というかできません。ですが、とにかく素晴らしい映画です。私は劇場に3回通いました。今でも発作のように定期的にBlu-rayで観ています。

 では、なんで同じ映画を3回も劇場で観たのかというと、どうしてこんなに「おもしろい」のかを言語化できなかったからです

 この映画では、お約束が大胆に無視されています。

 例えば、物語に重要であると当コラムでも書いた「キャラ」。

 セオリー通りであれば、最初にちょっとしたエピソードを挿入することにより、キャラの人間性や状況を紹介します。

 この映画だと、「主人公は露悪的でぶっきらぼうだが、根っこのところでは善の部分を捨てることができない寡黙な男」という、説明的なシーンを冒頭に入れるのが普通だったでしょう。

 ところがです。この映画の冒頭にそんな人間性への言及はほとんどありません。

 それがないままにストーリーは、加速していきます。

 しかし、いつの間にか主人公に感情移入できている自分がいるのです。

 あの麗しい女性たちの登場シーンの後でも、主人公を応援していました。
(詳細は映画を観てほしいですが、普通なら多くの人が女性たちの方に肩入れすると思います。)

 最初に観たときには、理由がわかりませんでした。

 しかし、2回目を鑑賞していて気が付きました。

 主人公と敵対する人々がみな、全身白塗りなど異形として描かれていたのです。
 これによって、主人公が視聴者の味方であることを刷り込まれてしまったのです。すごーい!

 主人公に人間性についての説明を足すのではなく、敵対する存在から人間味を引いたわけですね
 映画の常識を軽やかにぶっちぎっています!

 それでいて、物語的には意外なほどに王道を押さえているというのも、この作品の素晴らしいところだと思います。コラムの#01で書いた「何かを欠いている主人公が非日常に直面して、窮地になるけど、なんやかんやで大逆転!」という、ハリウッドの定型ともいえる構造はしっかりと守っているのです。

 新しさを追うだけでなく、これまで培われてきた伝統的なテクニックも活用する。
 このバランス感覚が動員100万人を超えるほどのヒットになった要因です!(断言)


消費者のままでは味わえない至福を

「あなたの趣味のことなんてどうでもいい! 私は帰る!!」

 まっ、待ってください!! もちろん、好きな映画について語ったのには真の理由があります。ありますともさ!

 本当に伝えたかったのは、「インプットの質を高めてほしい!」ということなのです。

 小説を読むときはもちろん、漫画、ドラマ、映画、実際に起きた出来事でも、なんでもいいのです。
 それが「おもしろい」なら、どうして「おもしろい」のかを考えてください。
 逆に「つまらない」と感じたなら、どうやったら「おもしろい」に変えられるのかを見つけてほしいのです

 一度でも表現することを実践すると、あらゆる物語の捉え方が変わってきます。これは単なる消費者のままでは味わえない立ち位置です。

 それは時に苦しいことでもあります。ただ、続けていけば素晴らしい物語を、より深く理解できるようにもなるはずなのです。

 物書き(志望であれ)のみなさまは、日々接する全てを糧にしてください。

 目に映るぅ〜全ての物はメッセージなのです!

(タイトルカット:16号


今月のおもしろい作品:『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

画像1

荒廃した近未来を舞台に妻子を暴走族に殺された男の壮絶な復讐劇を描いた『マッドマックス』シリーズ第4作。世紀末的な退廃した世界観がリアル『北斗の拳』とも呼ばれ、第88回アカデミー賞で最多6部門を受賞。世界中で大ヒットした。
ブルーレイ(¥2,381+税)/DVD(¥1,429+税)
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
(c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED


*本記事は、2018年04月12日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。