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社長・営業・宣伝・編集が総力を挙げて読みます|「ポプラ社小説新人賞」吉川健二郎&森潤也

 「『わたしの美しい庭』は自分が書いた中でも、かなり優しめの話なんですよ。それはたぶん、ポプラ社の編集者・森さんと組んだからだと思うんです。児童文学を出されてる版元さんなので、新刊がすごく優しいと思っていただけるのなら、それはポプラ社さんのカラーだと思います」

 先月「本屋大賞」を受賞した凪良ゆうさんのインタビューで、こんな印象的な一節があった。「優しい」カラーに太鼓判つきのポプラ社の小説新人賞が、今年記念すべき第10回を迎える。前身となったポプラ社小説大賞を含めると、『食堂かたつむり』『四十九日のレシピ』など、たしかに優しい作風の印象が強い。どういった作品が求められているのか、凪良さんの担当編集者でもある森潤也さんと、吉川健二郎編集長にお話を聞いた。

見るのは完成度ではなく、資質と将来性

――第10回となるポプラ小説新人賞が募集中です。求める作品像、出会いたい作家像は

森:惹きつけられる魅力をもった作品、その人にしか書けない何かを持っている作家の方に出会いたいです。

吉川:その人にしか書くことのできない、高いオリジナル性を持った小説、そしてそのような小説を書きたいという志を持った方のご応募をお待ちしています。

――どういった作品にオリジナリティを感じるか、もう少し詳しくお聞かせいただけますか

森:エンタメ的な視点で言うと、設定の練られ方からも見えてきます。応募作品の設定が既存の作品とどう違っていて、その「違い」がどう読者に訴求力を持っているか。また、その設定をどこまで書き手がつきつめているのか、など。文芸的な視点で言うと、文章や作品自体に込められた「伝えたいもの」があるかどうか、でしょうか。

吉川:「どこかで読んだことがある」という印象をこちら側に持たせない、たくらみが欲しいですね。少なくとも、書き手自身が「これ、どこかで読んだことがあるな」と思ってしまうような小説には、当然のことながらオリジナリティはないと思います。たとえ物語の構造が既存の小説と似通っていたとしても、登場人物のキャラクター造形であったり、セリフ回しなどでも十分に「差異」を打ち出すことは可能だと思います。

――新人の原稿を見るときに、ほかに留意する点はありますか

森:読者に対する「目」を持っているか、という点です目線が読み手を向いていて、読み手を楽しませようとして物語を紡いでいるか。自分が書きたいものを書くことも大切ですが、それを読者が読みたいものとして書くことが商業出版では大事なポイントの一つだと思うので、僕はそうしたところを見るようにしています。

吉川:文章表現の巧みさや適切な文法など技術的な巧拙よりも、単純に物語として面白いか、オリジナリティを持った作品か、といった全体像であったり、作家としての資質・将来性を見るようにしています。

森:特に編集のみなさんは、現時点での完成度だけでなくブラッシュアップされた最終形をイメージしながら読んでいると思います。誤植があるから落とすということはないので(もちろん無い方がいいのですが)、安心して魅力を詰め込んでください。


社長・営業部・宣伝部も含め、全社を挙げて審査

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――他社の新人賞と比べて、ポプラ社ならではの売りなどありましたらお聞かせください

吉川:選考を最初から最後まで、すべて社内で行っている点です。「この作品を世に出したい」「この作家さんと一緒に小説を作ってみたい」といった、出版社の熱い気持ちが選考に反映される点は、ポプラ社小説新人賞ならではの特色ではないかと思います。

――詳しい選考フローについて伺えますか

森:すべての原稿に編集者が目を通し、一次選考・二次選考の通過作品を決めています。最終選考には社長や営業部・宣伝部が加わって社内一同で原稿を読み、選考会で意見を交わして受賞作を決定します。原稿の読み方や面白いと感じるポイントも違っていて、だからこそ拾える輝きがたくさんあります。編集の「この人と仕事をしたい」想い、営業・宣伝の「この作品を世に届けたい」想いを大切にしているので、原稿の魅力を絶対に見逃さない賞だと思います。

――プロの作家の目線と、「作って売る」出版社さんの目線、作品を見る上で、一番違うのはどういった点だと思われますか?

森:出版社目線のほうが、より読者に近いという点でしょうか。プロの作家は「書き手」として、その作品自体の完成度や技量を厳しく見ます。それに比べて編集や営業などの出版社側は基本的に「読み手」なので(編集者は書き手の伸びしろも含めて読みますが)、より読者の立場に立って作品を審査している気がします。

吉川:少しいやらしく聞こえてしまうかもしれませんが、私たち出版社の人間は「この作品は(商品として)売れるか」という点に重心を置いて見ていることは間違いありません。クオリティの高い作品がすべて売れるわけではありませんし、一方で、売れる作品には必ず売れる理由があります。言い方が難しいのですが、このふたつの視点がギリギリ交わる線を探るのが出版社としての見方かもしれません。

森:仮に受賞ならずとも、編集者が「この人と仕事をしたい」と手を挙げれば担当として付き、デビューの道を探るケースもあります。最終候補からデビューしたケースも多々ありますので、チャンスは非常に多い賞ではないかと思います。


「一度も書いたことがない」「ほとんど読んだことがない」人も歓迎

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――応募作の傾向があれば教えてください

森:ジャンルは問わない賞なので、特徴的な傾向はありません。さまざまなジャンルの応募作が届き、これまでの受賞作も時代小説から青春小説まで幅広いです。ポプラ社小説新人賞は優しく心温まる作品を多く輩出していますが、そういう応募作が多い……というわけでもないですね。

――ヒューマンドラマのイメージがありますが、ファンタジーなども応募可能でしょうか?

森:応募は問題ありませんし、ファンタジーを応募される方も多いです。ただ、ファンタジーは「日本ファンタジーノベル大賞」や「創元ファンタジイ新人賞」といった新人賞があるので、せっかく送ってくださるのであれば、なぜ「ポプラ社小説新人賞」にファンタジーを送りたいのか、という点を踏まえた原稿をぜひ読みたいです。

吉川:もちろんご応募いただいてかまいませんが、ファンタジーというジャンルは特殊性が高く、編集者にも高いノウハウが求められると思います。その意味では、わたしたち編集部の人間は、ファンタジージャンルにそこまで精通はしていません、ということはお伝えしておきます(笑)。

森:ちなみにSFなども同様のことが言えるかもしれません。趣味の読書としては大好きなのですが……。

――逆に、「現状多いわけではないが、こういったジャンルもOK!」というものは

森:意外と少ないのが連作短編ですね。それぞれが独立している短編集は規定外ですが、全体として一つの作品になっている連作短編などはOKです。あと、すごく個人的には人情あふれる温かな時代小説も大歓迎です。

吉川:個人的な希望として、ですが骨太のミステリなども大歓迎です。

森:ノンジャンルの賞だからこそ、ジャンルにとらわれない面白さの詰まった作品を期待します。「絶対面白い」という自信があるけど、どこの新人賞に応募していいかわからない、という方に、ぜひご応募していただきたいです。また、ポプラ社の出している小説が好き、と思ってくださる方もぜひ!

吉川:いままで一度も小説を書いたことがない」「小説をほとんど読んだことがない」「でも面白い物語のアイディアはある」そんな方にこそ、ぜひチャレンジしていただきたいと思っています。完成度の高い作品よりも、粗削りでも人を引き付ける魅力をもった作品を私たちは待っています。


「ささやかな日常」を描くときこそ、テーマが重要

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――すでにたくさんきているものに、「こういう工夫がほしい」という助言があればお願いします

森:自伝的な作品は多いですね。ご自身の経験を落とし込んでくださるのはいいことだと思うので、そこにエンタメ要素を融合したりできると、それこそ「オリジナリティ」にもつながって、作品の奥行きが増すと思います。またよく言われますが、自分の作品の帯(キャッチコピー)を作ってみるといいと思います。それを自分で見返して「面白そう!」と思えるか。そこを詰めていくことで企画の精査ができると思います。

吉川:一言で言ってしまうと「日常の中で自分の身の回りに起きたささやかな出来事を丁寧に描いた作品」に分類される小説がたいへん多いように思います。みなさん書きやすいと考えていらっしゃるかもしれませんが、実はとても難易度の高いジャンルです。このジャンルで突出した印象を残すためには、テーマが重要だと思います。おおきな出来事が起こらないからこそ、何をこの小説で伝えたいと思ったのか、テーマに作者の個性を打ち出してほしいと思います。

森:そのジャンル、たしかにとても多いですね……。テーマに加えて、場や設定に個性を出すのも方法の一つだと思います。前回受賞作の前川ほまれさん『跡を消す』は軸の「主人公の成長」は特別なものではないですが、「特殊清掃専門の会社」という場が魅力的で、その設定だからこそ書けるテーマも伝わってきて、満場一致で受賞となりました。

――最後に、作家志望の書き手に向けて、メッセージがあればお願いします

森:ポプラ社小説新人賞は第10回を迎えます。メモリアル回にふさわしい素敵な作品を送り出したいと強く願っているので、みなさんの全力の作品をお待ちしています。わたしたちも全力で立ち向かい、その可能性を必ず掬い上げます!

吉川:書き続けていれば、必ずどこかでチャンスは訪れると思います。可能性はみなさんに平等に与えられています。いつかみなさんとお仕事をさせていただける日が来ることを願っています!

(インタビュー・構成:有田真代、写真:鈴木智哉)


第10回 ポプラ社小説新人賞
対象:ジャンル不問
応募枚数:400字詰原稿用紙200枚以上500枚以内
選考:編集部にて選考
締切:2020年6月30日(火)(郵送の場合は当日消印有効)
発表:2020年12月10日(ポプラ社HPおよびポプラ社発行PR小説誌「asta*」にて)
賞:正賞記念品 副賞200万円 ※入賞作品はポプラ社より刊行
URL : https://www.poplar.co.jp/award/award1/index.html