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「アクション」って何ですか?|王谷 晶

運動の秋! 王谷晶である。とは言っても昨今はなかなか野外で運動するのも難しい。密になれないから国会前にも集まりにくいしデモもやりにくいし。そういうときはおうちで動くのが一番ですね。税金下げろ! 消費税反対!
というわけで今回は「アクション」がお題です。喧嘩、格闘技、剣と魔法のファンタジーバトル等アクションにもいろいろあるが、そのどれにも使えてさらにスポーツとかセックスとかカーチェイスとかそういう「何かが動いてるシーン」全般にも応用できるアクションの書き方のツボみたいなことをお話できればと思う。

アクションシーンはまず見て書く

小説におけるアクションシーン。これが何より得意、カンタンカンタンという人はおそらくプロでも少ないと思う。セックスシーンもしかり。
「読み返したら攻めの腕が三本あることになっていた」みたいな小説書きあるあるを諸君も一度は目にしたことがあるだろう。動くものを表現するのに、文字情報というのは視覚情報に比べて圧倒的に分が悪い。当たり前に。
しかし文字ならではのアクションの表現、楽しませ方というのももちろんあるので、今回は真面目に基礎から始めてステップアップしていく方式で、効果的なアクションの書き方を模索していこうと思う。

じゃあまず、どうすればスムーズにアクションが書けるようになるか。答えはカンタン。見て書けばいいのだ。おおむね腕が2本足が2本あるややこしい生き物が複数人絡み合うものを想像だけで書いてたら間違いもする。そういうややこしいものはお手本を見よう。
と言っても他人の文章を読むという意味ではない。動画とか画像を見て書くのである。
漫画を描く人がよく使うポーズ人形やポーズ集を買ってくるもよし、ネットで動画を見るもよし。動画の場合おすすめなのが、スポーツジムや格闘技道場、護身術のインストラクターさんがアップしている解説動画だ。

どの足から踏み込んでどう動いて……という説明をしながら同じ動作を繰り返してくれるので、動きのしくみが頭に入りやすい。気に入った動画が見つかったら、まずはそれを愚直に文章に書き起こしてみる
AとBが向き合って構える、Aが先に右足から踏み込む、Bはガードする……と、最初は箇条書き状態でいいから見たままに書いていく。これが「誰が何をしているか」が混乱しない格闘描写の練習になる。


「キメの絵」を意識してテンポよく盛り上げる

もちろん、箇条書きの文章を読んでも臨場感もわくわく感も出ないし小説感も薄い。そしたら今度はアクション映画を何本か観よう(何を観たらいいか分からない人はとりあえず有名なやつで、なるべくVFXとか使っていない非ファンタジー肉弾アクション系の映画を選ぼう。配信やレンタルで見つけやすいやつだとステイサム映画やロック様映画やドニー・イェン映画がオススメ)。

アクション映画の中の格闘はそれをより強く・痛そうに・かっこよく・激しく見せるための演出が入っている。この演出がフィクション的快感の素だ。
30秒くらいの殴り合いのシーンがあったとして、その中でいくつか「キメの絵」が出てくると思う。致命傷を与えたパンチとか、とどめを刺したキックとか、新技が完成した瞬間とか。それを文章にも応用し、ここぞというキメの攻撃や負傷は改行やセリフ、擬音を加えて盛り上げることを意識してみるのだ。

また、アクション描写に欠かせないのがテンポ。ここは好き嫌いあると思うが、基本的にアクションシーンは勢いがあってテンポがよくスピーディなほうがかっこいいし、また需要もある。
まずはそういうスタンダードなアクションを書けるようになってから、一昼夜にらみ合う剣豪同士の試合とか、ねっちり関節を取り合うブラジリアン柔術の描写などに挑戦してみたほうがいいと思う。


混乱しがちなら絵に描くか、自分でやってみる

アクションシーンで書くほうも読むほうも一番混乱しがちなのが「どこで誰が誰に何をしているのか」という点なので、人称の使い方も含めてそこがごちゃつかないよう気をつけるだけで、スッと情景が目に浮かぶアクションが作れる。
乱闘などややこしいシーンを書く場合は、映像作品のように絵コンテを切るのも手。
絵が描けない人はポーズ人形や可動式フィギュアを人数分用意し、任意のポーズを取らせてスマホで写真を撮ってアクションを設計する。何回かそれくらいしっかり準備してアクションシーンにのぞむと、そのうち脳が慣れてきて頭の中で絵コンテが切れるようになってくる。

また、この動画を見て書くメソッドはスポーツにも濡れ場にも応用できる。試合の放送やAV(違法アップロードのはだめだぞ)を見ながらまずは頭の中で解説を入れてみよう。喋りっぱなしのうるさい解説者になりきって試合を全部言葉で説明する練習をする。
それに慣れたらクライマックスを盛り上げる演出を考える。スポーツやセックスだと対戦相手との駆け引きやコミュニケーションがより大きい要素になってくるので、そこも手を抜かずに加えれば情感と臨場感のある勝負が描けるはずだ。

あと私がよくやるのが、鏡の前で想像したアクションシーンを自分でやってみること。もちろん思ったとおりに動いたりはぜんぜんできないのだが(体育永年2)、自分でやってみるとある程度の重心の移動や姿勢の無理さ・楽さなんかは分かるので、「ここから急に姿勢を変えるのは無理だな」とか「ここでもう一発殴ったらかっこいいな」とかアイデアがわいてくる。くれぐれも足元や周りに気をつけて、安全に主人公になりきってほしい。私は何回かすっ転んでます。


相反するものを同時に感じられる王谷さんの新作

今回のおすすめ本は手前味噌で恐縮ですがこの10月に発売されるわたくしの新刊、『ババヤガの夜』でございます。
暴力を唯一の趣味とする素手喧嘩女の主人公がヤクザの組長の一人娘のボディガードをすることになり、さらなる暴力の嵐に突入していくというストーリーで、異常に喧嘩の強い主人公が赤の他人をバカスカ殴り倒していくパワー系のアクションシーンが何度も出てくる。
暴力の爽快感、不快感、嫌さ、熱さみたいな相反するものを同時に感じられるように意識して頑張って書いたので、ぜひ読んでほしい。ほんとに読んでほしい。買って! お願い! 正月の餅代がかかってます!

(タイトルカット:16号


今月のおもしろい作品:『ババヤガの夜』

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著:王谷晶 河出書房新社
お嬢さん、十八かそこらで、なんでそんなに悲しく笑う――。
暴力を唯一の趣味とする新道依子は、腕を買われ暴力団会長の一人娘を護衛することに。拳の咆哮轟くシスターハードボイルド!

みんなにも読んでほしいですか?

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