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大人の遊びとしてのショートストーリー執筆|編集マツダ

「出版社主催の新人賞では絶対に拾えない作品がゴロゴロあるんだ」
私が、小説投稿サイトを運営する会社・エブリスタに入社した時に上司から聞いた言葉である。
『ソードアート・オンライン』のハリウッド映画化が決まり、『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』がTVドラマになり、『君の膵臓がたべたい』が本屋大賞にノミネートされて映画化された。いずれも小説投稿サイト発の作品。
出版社をはじめとしたエンタメ企業が小説投稿サイトにぞくぞくと問い合わせをする事態が始まっている。
だがこの盛り上がりは今に始まったことではない。
古くは『Deep Love』『恋空』に代表されるケータイ小説、個人サイト、『電車男』のような2chのスレに投稿されるショートストーリー……と、Web小説の流れは時折ヒットを生み出しながら連綿と続いていた。
いま始まったように見えているヒット作も、その流れの中で生まれてきたものだ。そしてそこには、これまでの「小説」の規格にはまらない形の原石が眠っている。

この連載では、これからWeb小説を書き始めてみようという方や、Web小説に興味があるけどイマイチよくわからない方に向けて、「あなたの知らないWeb小説の世界」をご紹介していきたいと思う。
いわゆる小説投稿サイトのランキング上位にある作品、賞を受賞しそうな作品にはこの連載では触れないメディアが注目していないところに光をあてたい
深い深い世界なので、私の見方が薄っぺらいなあと感じる方、「オマエはわかってない」と言う向きもおありでしょう。なので、詳しい方、マツダの間違いを見つけた方は記事末尾のコメント欄で教えてください。お願いします。

ということで、第1回は「短編小説の森」だ。

各社の努力が見えるWeb短編

『GATE』『ソードアート・オンライン』など例を挙げるまでもなく、Web小説発の作品は書籍化される前からすでに大長編だったものが多い。固定ファンが支えてくれやすい長編はおのずとランキングでも順位を保持できるからだと思われる。
そんな中で短編は目立たない存在にあったが、ここ数年でWeb短編が脚光を浴びる場が増えてきた。

「エブリスタ」では短編小説のコンテスト「三行から参加できる超・妄想コンテスト」や「怖い話コンテスト」を行っている。
「小説家になろう」では「文学フリマ短編小説賞」を行い、受賞作品を同人誌化して文学フリマで販売。さらに、サイトトップの一番目立つところに新着の短編小説へのリンクを置いている。
「カクヨム」は「ファミ通文庫×カクヨム『僕とキミの15センチ』短編小説コンテスト」「富士見L文庫×カクヨム美味しい話&恋の話短編小説コンテスト」など、母体KADOKAWAの強みを生かした短編小説賞を続々開催している。

こうして見ると、各社かなりの熱を持って短編に取り組んでいることがわかる。ランキング形式で自然発生的に話題になる長編と違い、運営主体での盛り上げが今もっとも盛んなジャンルが短編だとも言える。

なぜこういうことが起こっているのか。

アマチュア書き手は短編ならば書き上げられる、量産もできる
読み手にとってはゲームやSNSの合間に読める
Webと短編小説は相性が良いはずなのだ

ただし短編小説はその性格上、一作品が爆発的な人気を得ることはあまりない。
PV強者とPV弱者の差が非常に激しいWebの世界にあって、短編小説はPV強者の土俵にあがりにくく、そのためあまり注目されてこなかったと言える。
しかし各社とも短編とWebの相性の良さに着目しているのか、運営主体のコンテストがゴリゴリ行われているのが現状だ。
果たしてこの盛り上がりはヒートアップしていくだろうか。それとも運営の空回りに終わるだろうか。


「お仕着せ」に終わるか、「村」ができるか

書籍化ばかりがクローズアップされがちなWeb小説だが、まずサイト上で作品を読んでもらわなければ書き手にとって意味がない。
一作品が爆発しにくい短編小説。だが短時間で大量に読める利点があり、「作品のファン」がつきづらくとも「ジャンルのファン」がつきやすい。
書き手同士が気軽に作品を読み合えることも重要なポイントだ。相性のいい作家同士がつながり、時には切磋琢磨しあえる相手になる。良い書き手は読者としての感想やレビューも上手いので、それも互いに嬉しい点だろう。

運営主体だけでは「お仕着せ」に終わってしまい、自然発生的な大長編の人気には勝てない。
しかしこれまでWeb小説界隈で短編にスポットが当たらなかったのは、ランキング上位が目立つサイト構造が主な原因であり、人々が短編を求めていないということでは決してない。
短編の読み回り、書き回る住人が多くなれば、Web小説サイトの景色が少し変わるのではないだろうか。

既にして短編小説を媒介にした独自のコミュニティがそこここに生まれている。サイト内コメントやTwitterなどでゆるく繋がりながら、書いたら読み合う。
書き手と読み手の境界が曖昧なのが面白いところだ読者として読んで感想を言っているうちに、初めて書いてみたという作家も多い
書き手同士で繋がっているブログ界と似ているが、短編小説村は一枚岩ではないし、扱っている題材がフィクションだからか、比較的優しい世界の印象だ
コンテストに落選した人同士が読み合ったり、受賞を目指して切磋琢磨するグループも見られる。
ユーザーが自然発生的に、同じお題で大喜利的にギャグ短編を書き合う動きもある。


短編小説をWebで楽しもう

小学生の頃、友達と複数人でノートに絵や文章を書き合って笑っていたことはないだろうか?
そんなノリを大人になって再び味わえるのは、かなり楽しい。
これを読んだ方で興味があれば、好みの短編、好みの作者を見つけて飛び込んでみてほしい。最初は感想を書くだけでも、かなり楽しめるはずだ。

これからWebで短編小説を楽しみたいと考える人は

-ちゃんと人が集まっているか
-好みの短編が見つけやすいか
-読み合いがあるか
-レビューの雰囲気が好ましいか

などを軸に主戦場を探すと良いと思う。
コンテストの受賞作などから読んでみても良い。質の高さに驚くはずだ。

そして、気に入った作品があったら勇気を出して感想を書いてみよう。そして自分も作品を書いてみる。気の合う作者と一緒に読み合う、ゆるい繋がりを作ってみよう。

短編小説を書く/読む楽しみはいま、爆発前夜だと思っている。
一人で書いて応募するだけではもったいない。
大人の遊びとして、幼い頃ノートに落書きして友達と笑っていたあの感触を、もう一度楽しんでみてほしい。


*本記事は、2018年02月14日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。