動きと勢いを物語に折り込む ゲームファンタジーのルール|三村 美衣
小説の中に、ゲーム/遊戯を道具立てに持ち込むと、物語内にわかりやすくルールや障害、競争や成長、目標や賞罰などを設定することができる。先行作の多いジャンルだが、まだまだ描き様はある!(ハズ)。というわけで今回はゲーム/遊戯ファンタジーへのアプローチ方法を考えてみよう。
RPG世界の利点と問題点
目が覚めたらゲーム/ゲーム風世界の中にいた。もしくは主人公や登場人物は意識していないようだが、これはどう考えても異世界というよりもゲームの中としか思えない。たとえば生命は数値化され、時にはそれが可視化されているし、魔法も使える回数が決まっていて、職能にはそれぞれグレードが設けられていたりする。しかし、作り物めいた世界でも、傷つけば痛いし、死んでもどこかで復活できるという保証はない。
30年前に『ウィザードリィ』を題材にしたベニー松山『隣り合わせの灰と青春』のストイックなサバイバルからはじまったゲーム小説は、人間ドラマや戦略的要素などを得て、今なお、十文字青『灰と幻想のグリムガル』や、蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』へと受け継がれている。
主人公の技能や役割、目的に工夫を凝らし、さらに主人公をヒューマノイドタイプにしないなど既にいろいろな試みが行われているが、とにかくどこかに自分ならではのオリジナリティを持ち込みたい。
ゲーム世界の利点は、どこか見知った世界であり、読者が舞台を把握するのに手間があかからないことだが、反面、物語が人工的な枠組みの中で小さくなってしまう難しさがある。最初は枠組を楽しんでいた読者も、フレームに息苦しさを感じはじめる。
インフレを起こしてゲームの枠組みをどんどん大きくしてスケールアップさせたり、ルールや目的をズラし続けたり、最後には枠そのものを破壊したり。物語をどうやって続け、どこで終わらせるのか。そして物語のボリュームやスケールにあった落とし所を見つけられるか。物語を書きはじめるときに、そういった部分もしっかり考えておく必要がある。
RPGだけがゲームじゃない
ゲームファンタジーというとRPGを真っ先に思い浮かべてしまうが、海外ではチェスを題材にしたファンタジーやSF作品が多く、日本でも最近は将棋を題材とする小説が増えている。ボードゲーム系は古くはエジプトのセネトやメーヘン、中国のシャンチー、囲碁やスゴロク、比較的新しいものではオセロや人生ゲームなどもある。
トランプや各種カードゲームでもいいし、かくれんぼや鬼ごっこ、缶蹴り、ドッジボールなどのアウトドア系だっていい。石けりやかごめかごめや通りゃんせなど古典的な遊びは、遊や童歌が謎めいているため、異界への導入にしばしば使われてきた。お手玉、おはじき、あやとり、折り紙といったインドア遊戯系を魔法や数学と組み合わせても面白い。「サバイバルゲームのチームが丸ごと異世界転生してゴブリンと戦う作品は既にあるに違いない」と思って検索したら、逆に剣や斧と戦うサバゲーがヒットした。現実おそるべし(笑)。
ゲームをどう使うか
知らないゲームをダウンロードした(拾った)、迷い込んだ公園で不思議なゲームに加わることになってしまったといった導入にゲームを使ったり、『鏡の国のアリス』のように、物語の進行そのものにゲームに倣った構造を持たせたりもできる。
たとえば榎宮裕『ノーゲーム・ノーライフ』や王城夕紀『天盆』のように、ゲーム(ボードゲームでも体力系でも)の勝者が国や世界の運命を握るという設定や、クリーチャーや英雄を召喚して人間チェスや将棋を戦うような、戦略・バトルものにすることも可能だ。ゲームや遊戯を神様への奉納・神事として捉え、異界との接点とすることもできる。
また『ハリー・ポッター』のクィディッチのように、魔法部活もの魔法スポ根ものもいい。オリジナルのゲームや種目を設定する場合は、設定の羅列になったり、登場人物の1人が解説者よろしく長セリフで説明するのではなく、実際にゲームの練習や試合進行に沿って目的やルールを物語の中に上手に折り込んでいきたい。しかし、たとえばサッカーだろうとラグビーだろうと、小説の中で複雑なルールを全て理解できるように説明するなどというのは不可能だ。動きや感情を描き、勢いで読ませてしまうことが肝心となる。
ただし、裏技的な勝利であっても、その前提となる条件やルールは伏線として早めに提出、後出しにならないように気をつけて、勝利を読者も一緒に体感できるようにしたい。
ちょっと変わり種ゲーム小説おすすめ作品4選
いとうせいこう『ノーライフキング』(河出文庫)
人気ゲーム「ライフキング」には、クリアできないと呪われるヴァージョン「ノーライフキング」がある。小学生のまことたちは、ノーライフキングに打ち勝つ方法を現実世界の中でも模索しはじめる。ゲーム攻略と都市伝説を題材にしたコンシューマーゲーム全盛期の傑作。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309409184/
古川日出男『アラビアの夜の種族』(角川文庫)
ナポレオンの侵攻を止めるために献上された一冊の本。戦争も忘れて読みふけってしまう禁断の書の正体とは……。ファンタジーとしても一般文芸としても高く評価されている物語だが、なんと禁断の書の内容は、古川日出男がかつてかいた『砂の王 ウィザードリ外伝』(未完/ログアウト文庫)がほぼそのままの形で使われています。
https://www.kadokawa.co.jp/product/200412000064/
城平京『雨の日も神様と相撲を』(講談社タイガ)
小兵だが頭脳と戦略で体の大きな相手を打ち負かしてきた相撲少年が、カエルの神様を祀る田舎の村に転校。なんとそこには、本当にカエルの神様たちがいて、日々相撲にあけくれており、彼に相撲を教えてくれというのだが……。おとぎ話のほのぼのとした雰囲気と、ダークでグロテスクな面が同居した作品。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212901
王城夕紀『天盆』(中公文庫)
生まれではなく、将棋に似た「天盆」の勝者が国を動かす決まりの蓋の国。近隣の国が侵略の機を狙う中、蓋の国では、新たな勝者を求める天盆の大会が開催され、貧しい十三人兄弟の末っ子が国の命運を決する激戦に挑む。天才プレイヤーとそれを支える家族の絆と、そして国の命運が盤上で交錯する。
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/07/206429.html
(タイトルカット:大國オサム)
ファンタジーコンテスト「ゲーム/遊戯」大賞受賞作『家に帰るまでが逃亡』
著:高梨愉人
西暦20××年。故郷で社会人生活を送っていた俺は、数年以内にこの辺りを封鎖し、”軍事演習”が行われるという噂をきく。
世界各地で数年前から開催されているという”行事”の正体は、地球を侵略した宇宙人による”地球人狩りゲーム”だという都市伝説が飛び交っていた。
そして二年後。俺は身をもってその真相を知ることになる――。
*本記事は、2019年09月02日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。