キャラクターにより深みを与える語彙力|monokaki編集部
こんな文章から始まる書籍が、1月19日に日本文芸社から発売される。以前にもmonokakiで紹介した『プロの小説家が教える クリエイターのための名付けの技法書』の著者であり、現役の小説家である秀島迅氏による『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑 性格・人物編』。
冒頭にはプロローグとして「自分が創作したキャラクターに語彙力で〝性格〟を与える」「『行動・心理・言葉』でキャラクターを〝生きる存在〟として描く 」「さまざまな性格と人物表現で唯一無二のオリジナリティ作品に」というページがある。ここでは構成内容と活用について説明されており、、本書を読むと理解できるテクニックの簡単な紹介がある。
この書籍は「PART.1 物語創作で重要なキャラクターの性格描写」「PART.2 性格をタイプ分けする」「PART.3 語彙力でキャラクターの性格を表現する ~ポジティブ編~」「PART.4 語彙力でキャラクターの性格を表現する ~ネガティブ編~」と全部で4パートに分かれている。各PARTの終わりには著者が書いたコラムもそれぞれ収録。また、最後には「書き込み式 クリエイターのためのキャラクター創作シート」も掲載されている。
日々創作に悩む作家さんたちにこそ読んでほしい! と思い、monokaki限定で、特別に一部掲載の許可をいただいた。
今回掲載箇所として編集部が「PART.1」「PART.2」から三つずつ、「PART.3」「PART.4」から五つずつ選出し、最後に「クリエイターのためのキャラクター創作シート」から「STEP.1 キャラクターの内面をイメージする」を選んでみた。まずは記事を一読してほしい。読んでみて気になった人は本書を手に取り、ご自身の創作に活かしてもらいたい。
PART.1 物語創作で重要なキャラクターの性格描写
PART.1では、
「本章のPOINT」
「そもそもキャラクターとは何なのか?」
「キャラクターはどうつくるの?」
「キャラクターを自分に憑依させれば創作は進む」
「まずは知っている人をキャラクターに投影する」
「王道キャラクターを書くための2大ポイント」
「キャラクターをどんな職業にするかも重要」
「読者が魅力的に感じるキャラクターとは?」
「キャラクターに一貫性を持たせるべき理由」
「人物像にあえて矛盾をつくるには」
「キャラクターのディテールを詰めていく大切な3要素」
「キャラクターの心情の変化が読者の感動を呼ぶ」
「キャラクターづくりには多様な考え方がある」
「ほかの登場人物との関係性が重要」
「変化ばかりに気を取られると物語が壊れるので注意」
が取り上げられている。
ここでは、「そもそもキャラクターとは何なのか?」「王道キャラクターを書くための2大ポイント」「人物像にあえて矛盾をつくるには」を紹介する。
NO.01「そもそもキャラクターとは何なのか?」
キャラクターが立っていなければ 読者の心を動かすことはできない
一般的にキャラクターを意味するものとしては、「個性」「性格」「人格」「特徴」が挙げられます。創作世界の場合は、それらに加えて登場人物や役自体を指すこともあります。
当然ですが、物語には必ずキャラクターが存在します。彼らがいなければストーリーは成立せず、物語は何ひとつ進みません。
つまり「物語を書くこと」=「キャラクターを書くこと」なのです。
ところが、キャラクターをきちんと描くことは至難の業といえるでしょう。いわゆる「キャラ立ち」の難しさがここにあります。
小説の場合、 文章によって登場人物それぞれに固有の特徴を与える「キャラ立ち」によって配役が決まり、配役に応じた行動をとることで物語が進行していきます。このように書くと簡単そうに思えますが、「キャラ立ち」とは読者の感情を揺り動かしてはじめて成立するもの。この大前提を理解しましょう。
具体的には、登場人物に対して、共感、応援、嫌悪、感動といった気持ちを抱かせることで、キャラクターが立っていると評価されます。単に個性的な人物を書いても、読者の心に届く要素がなければ、キャラクターをきちんと書けているとは認められません。
では、物語創作におけるキャラクターとは何なのでしょうか?
展開を盛り上げる魅力的なキャラが 読者の心を鷲掴みにする
小説を読んでいて、主人公の思わぬ台詞や行動にぐっと胸が締めつけられたことはありませんか?
ページをめくるたびに、このピンチをヒーローがどうくぐり抜けるのか、ハラハラドキドキした経験はありませんか?
ストーリーの面白さだけでは、こういった現象は起きません。上質なストーリーに加え、展開を盛り上げる魅力的なキャラクターがいるからこそ、読者の心を鷲掴みにできるのです。
すなわち、キャラクターとはストーリー上の役割を明確に担いつつ、物語を牽引していく資質を備えていることが重要です。
キャラクターの善悪に関係なく、その資質のポイントとは、
① 生き生きとした情感にあふれている
② 感情移入できる人間くささを備えている
③ 行動原理がストーリーと役柄に合致している
という 3点です。ただしここで大切なのは、たとえばヒーローモノの場合、主役の善玉ヒーローのいい人ぶりだけをしっかり描くのではなく、敵役の悪玉キャラの極悪非道ぶりも徹底的に描き切ることです。
対比構図が鮮明でなければ、映える「キャラ立ち」は実現しません。
NO.05「王道キャラクターを書くための2大ポイント」
『主人公の体験=読者の体験』という展開が面白い作品の鍵
ここで王道キャラクター、すなわち物語の主人公を魅力的にアピールできる、2つの基礎的な描写術について解説します。
ひとつは『SAVE THE CAT の法則』を有効活用すること。
ハリウッドの著名脚本家であるブレイク・スナイダーが提唱した代表的なメソッドで、現在でも映画はもちろん、多くの創作作品に使われています。文字通りこれは、ピンチに陥った猫を危機一髪のところで救うエピソードを序盤に入れよ、という法則です。
主人公が自らの危険を顧みずに1匹の猫を救えば、観客はその慈悲深くも勇敢なキャラクターに好意を寄せ、即座に感情移入のスイッチをオンにできるといわれています。とりわけ、アクション、ヒーロー、刑事・警察モノの物語に威力を発揮し、導入部で読者を味方にするキャラクター造形を実現します。
本書冒頭でも触れた「キャラ立ち」を成功させるには、まず読者が確実に感情移入できるショッキングな出来事に主人公を巻き込みましょう。そして、その過程から脱出までの苦しみや痛みや歓びや安らぎを、読者が共有できる的確な描写で表現することを心がけてください。
『主人公の体験=読者の体験』という展開こそが、面白く魅力的な作品の仕上がりを約束します。
『ゼロからのセオリー』で理想のシンクロラインを描く
もうひとつの王道キャラクターを書く方法は『ゼロからのセオリー』を実践すること。こちらは私自身が提唱するオリジナルの法則です。
私は、物語の起点は「喪失」や「亡失」であるのが暗黙の条件だと考えています。一方で、物語の終点は「獲得」や「克服」であり、これが王道のエンディングを迎えるキーワードだと理解してください。
『ゼロからのセオリー』は、「何もない」あるいは「何かを失った」主人公が、ゼロの状態からの脱却を図るべくもがきながら、さまざまな苦難や苦境を乗り越え、最後には「大切な何か」を手にする過程を書くことを指します。
これは『SAVE THE CAT の法則』と同様に、読者の感情起伏に寄り添いながら共感を誘い、結末へ向かうにつれ、『主人公の体験=読者の体験』となるようストーリーを展開させる王道パターンのひとつです。
ここで重要なのは、物語の起点と終点を見比べた際、キャラクター自身が大きな成長を遂げていることです。つまり『ゼロ』とは主人公の置かれた状況だけでなく、心身状態をも表しています。
そしてキャラクターの成長度合いとストーリーの盛り上がりがゼロから1、1から 50、50から 100というように後半に向けてどんどん昇華することで、理想のシンクロラインを描きます。
NO.09「人物像にあえて矛盾をつくるには」
別人物のエピソードのなかで知られざる一面に触れていく
前頁の流れを受け、一貫性と多面性に関連した、キャラクターの魅力を引き出す矛盾の書き方についてお話しします。
そもそもキャラクターとは物語世界に生きており、時として矛盾を孕んだ行動が許されるものです。現実世界の人でも、普段のイメージを覆す突飛な行動に出たり、おかしなことをいったりするのと同じです。
ただし、読者に疑問や裏切られた感を抱かせないためには、書き手としての配慮が必要となります。一貫性の定義を作者都合で著しく損なってしまえば、読者との信頼関係は築けません。
それらを踏まえたうえで、キャラクターの魅力を引き出す矛盾をつくるには、ほかの登場人物のサイドストーリーを使う方法があります。つまり、主人公以外の別人物のエピソードを展開するなかで、そのキャラクターの知られざる一面に触れていくのです。
たとえば前科者で怠惰な男が、陰では教会に集う遺児のため懸命に奉仕活動をしていたとします。本来の人物像と相反する善行ですが、その理由が激しい戦火によって家族が犠牲になったことだと、彼の妻のサイドストーリーで描けば、矛盾する行動に説得力が生まれます。
そればかりか、キャラクターの奥底に隠された人間味が魅力的に浮かび上がり、物語全体に深みをもたらします。
悪人キャラが過去には善人キャラだったという経緯を「背景」として描く
キャラクターに矛盾する側面を加えながらも説得力を持たせるには、「背景」を使うという方法もあります。
これは現在進行形のストーリーを途中で一時停止し、過去に遡ってそのキャラクターの半生なり一定期間を語る手法です。その昔いったい何が起きて、今のような矛盾を孕むキャラクターになったのかという、きっかけや原因を詳しく掘り下げられます。
よく使われるのは、ミステリーやサスペンス系の物語です。
かつての事件や事故による心的外傷 (トラウマ)を明らかにすることで、犯罪者や異常者という別の顔を持つことに至ったキャラクターの謎に迫ります。そこから目的や狙いをひもといて、現在の事件を解決するという伏線的パターンは、もはや定石といえるでしょう。
この逆張りで、悪人キャラがじつは善人キャラだったという過去の経緯を「背景」として描けば、意外な展開で物語を盛り上げられます。
一貫性を維持しつつ、本来の人物像とは正反対の性格なり性質を授ければ、面白いほど存在感を増し、衝撃的なエンディングに寄与するキャラクターとなり得ます。いい意味で読者を裏切る矛盾は、ひと手間かかるだけに、うまく機能すればその効果は計り知れません
PART.2 性格をタイプ分けする
PART.2では、
「本章のPOINT」
「つくりたいキャラクターのタイプを当てはめる 」
「キャラクターのタイプはどんな物語にも応用できる」
「血液型性格診断はキャラクター創作にも使える」
「異分子キャラを登場させて存在感をアピール」
「わかりやすく安定感のある〝定番フォーマット〟」
「キャラクターの個性を5つの因子に分類」「ポジティブかネガティブかを決める」
が取り上げられている。
ここでは、「キャラクターのタイプはどんな物語にも応用できる」「異分子キャラを登場させて存在感をアピール」「ポジティブかネガティブかを決める」を紹介する。
NO.02「キャラクターのタイプはどんな物語にも応用できる」
選考を勝ち抜いた作品群すべてに共通項がある
私は、小説家を目指して投稿生活をスタートさせた当初、ミステリー、ファンタジー、恋愛、スポーツと、とにかくさまざまなジャンルの物語を書いては、出版社が主催する新人賞に次々と応募していました。
たしか下積み修業中3年目の後半頃だったと思います。一次選考で落とされ続けた暗黒時代をくぐり抜け、二次選考へと選出される機会が増え、三次、最終選考へとコマを進められるようになった時期です。高レベルの選考まで勝ち抜いた作品群すべてに共通項があると気づきました。キャラクタータイプを、自分のなかでできつつあったテンプレートに落とし込んだ作品のみ、生き残る確率が高いと判明したのです。
ざっくりとですが、以下のようなキャラクターパターンでした。
● 主人公:男性(10代後半~ 20代前半)
気弱で喪失感を抱え、誰かとの出会いを通じて目標を見出していく
● 準主役:男性(20代後半~ 30代前半)
圧倒的存在として主人公の前に現れ、厳しくとも成長の機会を与える
● 恋人役:女性(10代後半~ 20代前半)
心に深い傷を抱え、主人公との出会いを通じて〝何か〟を回復する
● 敵役:男女・複数可(20代~ 40代)
過去に主人公か恋人役を陥れ、強烈な力を有して今もなお君臨する
独自の勝ちパターンを見出せば創作の強みとなる
左頁でご紹介した 4人のパターンは、どんなジャンルの物語にも転用でき、さらには外見や性格、特徴、弱点も、おおむね応用可能です。
私の場合、見よう見まねで小説の執筆を開始しながらも、当初は指南書やノウハウ本などいっさい手にすることなく、まさに感覚だけで書きはじめてしまいました(理由は定かではありませんが、先入観や制約なく自由に書いてみたいと思っていたようです)。それでも左記のようなテンプレートに自然の流れでたどり着き、三次選考や最終選考に残るようになった頃、「ああ、このパターンは起承転結がしっくりくるな」という確信めいた感覚がありました。そればかりか『SAVE THE CAT の法則』や、3幕構成のプロットポイントも、無意識のうちに取り入れていたのです。
何がいいたいかというと、自分のなかでしっくりくる得意のキャラクタータイプを編み出し、それらに物語構成の基本をリンクさせていけば、おのずと作品の完成度が向上していくということです。高確率で選考に残る独自の勝ちパターンを見出せば、それが創作の強みとなり、デビューへの門に近づけるでしょう。ぜひ会得に向け、意識してみてください。
ただし、この方法は〝どんなジャンルの物語にも転用できる〟パターンでなければ難しいと感じました。その点にご留意いただければと思います。
NO.04「異分子キャラを登場させて存在感をアピール」
狂暴な動物が暴れまくるパニック系はハリウッド映画のお家芸
パターン化されたキャラクタータイプを有効活用する創作手法がある一方で、真逆の方法論も存在します。
属性分けされない異分子を固有のキャラクターとして位置づけるものです。人間がメインキャラとなる世界観の物語であれば、その選択肢はじつにさまざまです。
もっともポピュラーなのは、犬や猫といった生き物を人間界に紛れ込ませて物語を紡ぎ出す動物系。映画でもアニメでも漫画でも小説でも、ぱっと思い浮かぶ作品がいくつもあるかと思います。
この動物系フィクションストーリーは大きく2種類に大別されます。
ひとつは動物が人間寄りのかわいいキャラクターとして大活躍したり、人間との友情や絆を深めたりする、ドラマ性を追求した癒し系ジャンルです。ディズニー映画で数多く見受けられます。小説では第163回直木賞を受賞した『少年と犬』が同ジャンルのヒット作品として挙げられます。
もうひとつは、動物が狂暴な存在として人間を脅かし、危険な目に遭わせる、いわゆるパニック系です。ハリウッド映画のお家芸ジャンルで、『ジョーズ』の成功例を筆頭にあまたの作品が世に出ています。
異分子キャラを主役級として登場させる最大のメリットは、唯一無二の
圧倒的な存在感にあるでしょう。
最先端テクノロジーで創出されるAI やロボットが主役に
昨今は動物以外の異分子キャラが進化を遂げ、とりわけ映画界では多様な方向性を生み出しています。
筆頭に挙げられるのはモンスター系。戦闘種族異星人と人類が戦う『プレデター』シリーズ、架空の怪獣が大暴れする『ゴジラ』や『キングコング』シリーズなど、高度な特殊撮影技術やVFX技術によって実在しないキャラをリアルに描き、大人気ジャンルとして確立されました。
そして現在、映画のみならず、アニメや漫画、小説に登場する異分子キャラの主役といえば、最先端テクノロジーで創出されるAIやロボット、アンドロイド、サイボーグにほかなりません。
動物系やモンスター系と異なり、人類を超越した高い知能を備えるため、ディストピアの世界観に必須の脅威キャラとして根づきつつあります。
物語創作でAIやロボットが重宝される理由は、驚異的な力を振るおうとも、よほど現実離れした設定と描写でない限り受け入れられやすい点にあります。しかもAIに至っては、未知なる可能性を大いに秘めています。
約30年前、インターネットやコンピュータ、スマホが創作世界に登場して瞬く間に常識となったように、AIやロボットを人間と同列のキャラクターとして当たり前のように登場させる日もそう遠くないでしょう。
NO.07「ポジティブかネガティブかを決める」
相反する2つの属性は緊張と衝突を生み出す
多くの物語には、主人公(善玉)と敵役(悪玉)が存在します。
そして両極端な双方のキャラクターには、それぞれ異なった属性が付与されます。主人公にはポジティブ属性を、敵対者にはネガティブ属性を。これが一般的な相関構図の基本軸となります。
ポジティブ属性とは「前向き、積極的、肯定的」な性格であり、ネガティブ属性とは「後ろ向き、消極的、否定的」な性格です。これはキャラクターの人格形成をひもとく本書のメインテーマであると同時に、登場人物をつくり込む際に必要不可欠な概念であることを念頭に置きましょう。P.39 でも触れたように、「正」と「負」という二極の対比構造が創作における要
となります。
ポジティブ属性は心の成長を促し、正攻法での目標達成をもたらす美点と捉えてください。対するネガティブ属性は、周囲よりも自身を重視する傾向にあり、相手との関係を破壊する欠点として捉えてください。
ポジティブとネガティブの相反する2つの属性は、当然のように緊張と衝突を生み出します。さらには主人公の行く手を阻む障害物としてネガティブ属性は機能し、さまざまな葛藤を引き起こして苦しめ、ともすれば屈服寸前の挫折状態に追い込みます。読者はこのプロセスにハラハラドキドキしながら、主人公への感情移入度をぐっと深めていきます。
読者を深く感情移入させるためのポイントは、中心視点となる主人公の立場や人間味に共感させ、行動をともにしているような錯覚をさせることです。悪役に悪戦苦闘するさまと、それでも断念することなく生きる意味を追い求めて目標へ向かう姿勢に現実世界の自分を重ね、「主人公頑張れ!」と心から応援してもらうことに成功すれば、あなたの物語創作もまた成功したといえるでしょう。
しかし、注意すべき重要なポイントがあります。
非道かつ不道徳なネガティブ属性を抱える悪役にも、読者が共感できる接点をつくるべきです。どれほどの悪でも、微細なポジティブ属性を与え、キャラクターに複雑な人間味を加味すれば、読者は興味を引かれます。さらには「なぜ、これほどの悪に染まったのか?」という疑問への回答を用意することで、行動原理への説得力も生まれます。
かつて主人公と同じ善玉だったというエピソードをつくれば、脅威としての悪のなかに宿る、心の葛藤や辛苦を描写できるでしょう。加えて、主人公の真の成長は、ネガティブ属性である悪役の本当の姿を知ることで果たされるという、深い極みに達してエンディングに余韻を残せます。
少し難しい話になりますが、二律背反のポジティブ属性とネガティブ属性は、つねに連鎖する関係性だと意識してください。たとえば「無欲」は「諦め」、「自信」は「自惚れ」、「野心」は「傲慢」と言い換えることができるように、あらゆる特性や傾向はつねに裏表の矛盾を孕んでいます。
PART.3 語彙力でキャラクターの性格を表現する ~ポジティブ編~
PART.3では、「本章のPOINT」「勇ましい」「色っぽい」「大人っぽい」「お人好し」「几帳面」「謙虚」「個性的」「自信家」「慈悲深い」「純粋」「上品」「慎重」「辛抱強い」「責任感が強い」「積極的」「知的」「注意深い」「忠誠的」「天真爛漫」「賑やか」「熱血漢」「無口」「優しい」「野心家」「ユニーク」「のん気」「礼儀正しい」が取り上げられている。
ここでは、「勇ましい」「個性的」「注意深い」「天真爛漫」「野心家」を紹介する。
NO.01「勇ましい」
[英:Brave ]
【言葉の意味】
強い勢いで積極的に向かっていく様子
【類似する属性】
雄々しい 豪胆 勇敢 りりしい
【性格・人物像を表現する文例】
自分にとって一番大切なのは、愛する人たちを守り抜くこと。そのためならどんな危険も顧みない。そんな「勇ましい」ヒーローになりたいと思う。
人物像・背景
・恐怖心に負けて大切な人を救えなかった過去がある
・子どもの頃から、リーダー的な存在だった
・逃げずに勝利を獲得した成功体験を持つ
・幼い頃から弱い者の味方でいるよう教えられてきた
性格的な思考・行動の傾向
・自分に自信がある
・自分の感情や欲求をコントロールできる
・まわりの批判の声を気にしない
・強い忍耐力を備える
・自分の欠点を理解している
・人の気持ちを理解できる
・失敗しても諦めない
・物事と真剣に向き合う
・恐怖心に正面から立ち向かう
・他者を優先した行動をとる
・誰に対しても平等に接する
・まわりの人が沈黙している状況で堂々と発言する
・人を傷つける嘘をつかない
・目的を果たすためならどんな努力も惜しまない
・ラクな道より正しい道を選ぶ
・強い意思がみなぎるまなざし
・トラブルが起きても動じない
・相手や状況にかかわらず、間違っていることは指摘する
・つねにまわりの手本となるような言動を心がける
行動の理由となる主義や信念を序盤で明らかにすべき
難しい時代です、と最初に前置きします。
Z世代はそれ以前の世代と比較して、ヒーロー像が大きく変化しているといわれます。実際、努力とか根性論を説く英雄系作品は過去の遺物となり、今や〝頑張らない〟ヒーローがもてはやされています。
そういう意味では「勇ましい」をポジティブ属性と捉えていいのか、若干の疑問は残るものの、相対的には、正義を背負った行動を表す代表格の語彙として、支持・称賛されるべきでしょう。
物語創作において勇ましいキャラクターの登場は、ストーリーを前に進めるために必須です。窮地を脱しようにも、勇ましい行動力を主人公が備えていなければ、ハッピーエンドは叶いません。
ただ気をつけたいのは、何のために、あるいは誰のために勇ましい行動を起こすのか、その背景と理由が必要になります。そして勇ましさを貫く主義や信念を序盤で明らかにすべきです。裏づけのない勇ましさは、「無謀」というネガティブワードに一転してしまうのでご注意ください。
とはいえ、時として勇み足になろうとも、自己犠牲をいとわず困難や強敵に立ち向かう勇敢な姿勢は、人として見習うべき心構えであり、簡単に真似できるものではありません。
NO.07「個性的」
[英:Flamboyant]
【言葉の意味】
ほかと比較して異なる性質や特徴を持っていること
【類似する属性】
独自 独創的 オリジナル 目新しい 奇抜
【性格・人物像を表現する文例】
見た目は普通なのに、話してみると彼女は「個性的」だと思った。おそらく物事を捉える視点が人と違うのだろう。そこに不思議な魅力を感じた。
人物像・背景
・自由な雰囲気の家庭で育った
・幼い頃から、興味のあることは何でもやらせてもらえた
・学校では浮いている存在だった
・自分のアイデンティティに誇りを持っている
・貧乏な家庭で育ち、やりたいことを大人になるまでずっと我慢してきた
・家族や知り合いが芸術家やクリエイティブな仕事をしていて、幼い頃から間近に見てきた
性格的な思考・行動の傾向
・コミュニケーション能力が高い
・自分が注目されるときに大きな歓びを感じる
・人と違うファッションやメイクをすることが好き
・想像力が豊かで、素敵な未来を想像することを好む
・自分に共感する仲間と一緒にいるときに幸せを感じる
・いつも冒険心を抱いている
・人とは違う視点で物事を見て、独自の解釈をする傾向がある
・人からの批判や圧力に屈しない常識を打ち破る方法を模索する
・独特な口調で話す
・好きなことをしているときには目をキラキラ輝かせる
・子どものような純真さをいつまでも持ち合わせている
・自分だけの世界に没頭している
必ずしも奇抜で際立った独創的要素を指すわけではない
登場人物の多くに「個性的」な何かを特徴づけることは、書き手としてつねに留意すべきです。
服装、髪型、体格、話し方、人柄、習癖、性格、特技――着目するポイントは数多くあるものの、思いつきや気まぐれで「個性的」特徴を付与してはいけません。どういう役柄で、読者にどのような印象を与えたいキャラクターなのかを熟考したうえで決定してください。
たとえば、ミステリアスな私立探偵なら、黒いシルクハットに黒ずくめの衣装を身に纏わせれば、いかにも謎に満ちた雰囲気を漂わせることができます。老獪なペテン師なら、陰湿な目つきで滑舌よくぺらぺらしゃべらせれば、油断ならない人物だと思わせることが可能です。
一方で、青春恋愛系ストーリーのヒロインに「個性的」特徴を設定する場合、キラリと光るポジティブな魅力を醸し出させる必要があります。キャラに好かれる特性がなければ、恋愛系ストーリー自体が成立しないからです。
創作における「個性的」とは、必ずしも奇抜で際立った独創的要素を指すわけではありません。ストーリーと役柄とキャラクターの3方向にマッチする個性であるかをまず確認しましょう。
そして何より、読者にどう映るかという俯瞰視点をお忘れなく。
NO.17「注意深い」
[英:Careful]
【言葉の意味】
何事にも油断せず、変化によく気がつく
【類似する属性】
慎重 心配性 用意周到 聡い
【性格・人物像を表現する文例】
ただのビビりだと馬鹿にしていたけど、おかげで危険な目に遭わずに済んだ。人は見かけによらない。誰もがそう感じ、「注意深い」あいつを見直した。
人物像・背景
・人に変化を気づいてもらえてうれしかった経験がある
・忘れ物が多く、親によく叱られて痛い目を見た過去がある
・注意力散漫で失敗した経験がトラウマになっている
・心理学に精通しており、人のしぐさに敏感
性格的な思考・行動の傾向
・まわりの人の髪型や服装の変化によく気がつく
・考える時間が長い
・人間観察にふけることがある
・細かくメモをとる
・日頃のスケジュール管理が徹底している
・持ち物や服は出かける前日に準備しておく
・万が一に備え、食品や日用品を家にたくさんストックしている
・心を開くのに時間がかかる
・あれこれ気になって、外出する際にはつい荷物が多くなりがち
・好意や戸惑いといった人の心の動きを敏感に察知する
・つねに綿密な計画を立てる
・危険なことには首を突っ込まないようにする
・安定や安全を好む傾向にある
・先生や親のいうことをよく聞き、規律や規則を守る
・守りに徹したのちに、隙をついて敵を仕留める
変化に敏感な観察者としての側面を持つ
臆病なビビりキャラクターは、弱くて泣き虫で、ともすればネガティブ属性の塊のような残念な存在になりがちです。
ところが「注意深い」というポジティブ属性を与えると、物語に欠かせない貴重な役どころとして活躍します。
「注意深い」には、慎重、心配性という類似属性があります。つまり周囲の変化や空気の動きに敏感な観察者としての側面を持ちます。「注意深い」キャラが主人公と行動をともにすれば、当然まわりの状況をこと細かにチェックします。その性格ゆえ、読者も挙動を不自然に感じません。
これは物語の書き手にとって、とても便利な登場人物として役立ちます。主人公をはじめ、その場にいる誰もが気づかない微細な変化でも、「注意深い」キャラなら察知し、「何かがおかしい」と自然な流れで伝えられるからです。
また、「注意深い」キャラのトラウマを序盤でフラグとして立て、中盤以降でそのキャラがトラウマに関連する何かを察知して恐れおののけば、とんでもない事態が勃発する予兆として効果的な演出を施せます。
さらに、冒頭では臆病な印象を強調しつつ、物語後半で大いなる成長を描けば、読者から愛されるキャラクターとして育てられます。
NO.19「天真爛漫」
[英:Simplicity]
【言葉の意味】
明るく純粋で、思うがままに振る舞う
【類似する属性】
純真 無邪気 素直 元気 お転婆
【性格・人物像を表現する文例】
またやってくれた。筋を通すのはよしとしよう。ただ、巻き込まれるこっち
の身にもなってほしい。その「天真爛漫」さに、僕たちは困惑しているのだ。
人物像・背景
・両親が陽気な人だった
・世間知らずな箱入り娘
・小さい頃は、外で自由に走り回って遊んでいた
・学生時代はいつもクラスの輪の中心にいるような存在だった
・やりたいことは何でも、親が応援してくれた
性格的な思考・行動の傾向
・子どもっぽいいたずらをする
・思ったことを正直に口にする
・感情が表に出やすい
・変に飾らず、つねに自然体で振る舞う
・ハキハキしゃべる
・多少おっちょこちょいなところがあるが本人は気にしていない
・大人になっても童心を忘れない
・好きなように行動し、結果として周囲を巻き込んでしまう
・無防備で危なっかしい面がある
・立ち塞がる困難も笑顔で乗り越えられる
・他人からの評価を気にしない
・家にこもっているのが苦手
・お人好しで騙されやすい
・子どもや動物が好き
・誰に対しても人見知りせず、人懐っこく接する
・はじめての場所でも怖がらず、心から楽しむことができる
・いつもと違うことがしたい
・考えをころころ変えがち
危うさを備えた紙一重のマイナス側面を持っている
心の赴くまま、自分のやりたいように振る舞う「天真爛漫」は、誰もが憧れるポジティブ属性のひとつ。明るく純粋な性格で、類似する属性を見ても、純真、無邪気、素直、元気、お転婆と、あらゆる束縛を受けない自由奔放なキャラクターをイメージさせます。
「天真爛漫」な主人公が縦横無尽に物語で動き回れば、読者は強い憧憬を抱きつつ、現実には真似できない行動力に拍手喝采することでしょう。この属性は、一途な恋に走る中高生のヒロイン役や、正義をまっとうすべく奮闘する若きヒーロー役に多く見受けられます。
一見すると、悩みのない陽キャに映るものの、じつは危うさを備えた紙一重のマイナス側面を持っています。左頁の性格的な思考・行動の傾向をご覧ください。〝思ったことを正直に口にする〟〝感情が表に出やすい〟〝無防備で危なっかしい面がある〟と、ひとつ間違えれば、厄介な要注意人物になりかねないネガティブ属性がいくつも並んでいます。
物語創作では二律背反するこの特性を利用します。「天真爛漫」が功を奏する場面と、裏目に出てピンチに陥る場面を織り交ぜ、展開に緩急をつけるわけです。このギャップは読者の感情移入を誘い、失敗からの脱却と人間的成長を描くにふさわしい流れを構築できます。
NO.24「野心家」
[英:Ambitious]
【言葉の意味】
大望を抱き、貪欲に追い求めていく
【類似する属性】
意欲的 積極的 押しが強い
【性格・人物像を表現する文例】
下剋上ともいえる謀略をめぐらす「野心家」の彼は、いつか本当に天下を取るかもしれない。根拠はないが、そう思えてしまう雰囲気があるのだ。
人物像・背景
・目標を自力で達成した成功経験を持つ
・チャレンジ精神旺盛で気が強く、怪我をしても泣かない子だった
・機会に恵まれず、悔しい思いをした経験がある
・競争の絶えない過酷な環境でつねに戦いながら成長した
性格的な思考・行動の傾向
・自分を売り込むのが得意
・向上心が強く、欲望に忠実に生きることが美徳と考えている
・ひとつのことを最後までやり遂げる意志の強さがある
・やると決めたら思い切りがよく、失敗を恐れない
・目標達成のために必要な労力や手間は惜しまない
・守備よりも攻撃を好む
・向こう見ずな一面がある
・合理的な方法を優先する
・自分の意志や欲求を最優先に考えて行動する
・目指す結果を出すためには手段を選ばず突き進む
・目標達成までの過程よりも、成果や効率を重視する
・どんな経験からも何かを学ぼうとする積極的姿勢がある
・ちょっとやそっとではへこたれない精神力を備えている
・協力者や支援者への感謝の気持ちを忘れない
物語における方向性が二分されることを証明している
日米の創作作品で「野心家」キャラの描き方が違うと感じるのは私だけでしょうか? これはあくまでイメージなので、具体的にどの作品がどうだったという論評はここでは割愛させていただきます。
とはいえ、ハリウッド映画に登場する「野心家」の主人公は、才知と努力で組織の頂点まで昇り詰め、ラストはハッピーエンドで終わるパターンがとても多い気がします。つまり「野心家」=ヒーローという図式です。
一方、日本の小説や漫画や映画では、「野心家」=ヒールという図式が鉄板です。「野心家」なのは主人公ではなく悪役であり、大掛かりな征服劇を貪欲に目論みながらも、正義の味方の主人公に野望を打ち砕かれて頓挫するというパターンです。
いずれにせよ、日米での「野心家」キャラの扱い方は、物語における方向性が二分されることを証明しています。かたやヒーロー、かたやヒール。「野心家」とはポジティブとネガティブの両極端な属性であることは間違いありません。あとは書き手の倫理観や道徳観、先入観によるのでしょう。
蛇足ですが、アメリカは侵略によって先住民から土地を強奪して国家を成立させました。もしかすると「野心家」像のルーツはここにあるのかもしれません。
PART.4 語彙力でキャラクターの性格を表現する ~ネガティブ編~
PART.4では、「本章のPOINT」「浅はか」「甘えん坊」「いい加減」「意気地なし」「疑い深い」「鬱陶しい」「頑固」「気分屋」「生真面目」「気弱」「口うるさい」「ケチ」「傲慢」「怖がり」「自分勝手」「嫉妬深い」「自滅的」「せっかち」「生意気」「ナルシスト」「卑怯」「人騒がせ」「無気力」「無慈悲」「無礼」「幼稚」「乱暴」が取り上げられている。
ここでは、「意気地なし」「気分屋」「嫉妬深い」「ナルシスト」「無慈悲」を紹介する。
NO.04「意気地なし」
[英:Weak-willed]
【言葉の意味】
困難に打ち勝つ強さがないこと
【類似する属性】
気弱 根性がない 気力がない ふがいない
【性格・人物像を表現する文例】
自分の考えをゴリ押しすることもなければ、反対意見を述べるでもない彼は、なぜか社内で評判がいい。「意気地なし」だと思っているのは私だけ?
人物像・背景
・幼い頃から他人と比べられ、劣等感を植えつけられてきた
・支配的な両親のもとで育った
・子どもの頃はいじめられっ子でクラスからハブられていた
・過去の大きな失敗によって挫折し、自信を失っている
・両親や祖父母から叱られることなく、過剰なほどの愛情を受けて育った
・大切な人に裏切られた経験があり、自暴自棄になっている
・幼い頃から体が弱く、内向的な性格だった
性格的な思考・行動の傾向
・自分の意見をいう前にまわりの意見に耳を傾けてしまう
・人から頼まれたことを断れず、自分で自分の首を絞める
・地位の高い人や強い人のそばにいようとする
・目立った言動をしないように細心の注意を払う
・他人の意見に安直に従う
・人の反応をうかがってから、おそるおそる反応する
・都合のいい人として、誰からもこき使われてしまう
・正しさよりもその場の雰囲気で物事を判断する
・簡単に騙される
・他者への依存心が強い
・影響力のある人に媚びる
〝時代にそぐわない〟という理由で評価されずに終わってしまう
時代の流れなのか、「意気地なし」キャラが見直されつつあります。
かつてなら〝男らしくしろ〟〝根性を見せろ〟〝度胸を出せ〟と、いじられ罵倒されがちなタイプでしたが、今はそんな昭和っぽい揶揄は聞かれません。むしろ〝それはそれでいいんじゃね〟という肯定的な意見のほうが大多数でしょう。左頁の性格的な思考・行動の傾向から抜粋した以下の特徴を見ても、その理由は明らかです。
・自分の意見をいう前にまわりの意見に耳を傾けてしまう
・目立った言動をしないように細心の注意を払う
・正しさよりもその場の雰囲気で物事を判断する
現代でこれらの傾向はネガティブ属性というより、人としてあるべき美点として捉えられています。物語創作においてはこういった時流の機微を敏感に察知すべきでしょう。読者に支持される好感度の高いキャラクター像を理解していなければ、せっかく完成させた作品が〝時代にそぐわない〟という理由だけで評価されずに終わってしまうからです。
昨今、あらゆる作品は『時代との接点』『時代にマッチする空気感』という非常に曖昧な査定基準に左右されます。今、何がポジティブで、何がネガティブなのか、つねに時代を読み解く鑑識眼が書き手には必要です。
NO.08「気分屋」
[英:Temperamental]
【言葉の意味】
その時々によって態度や言動が変わること
【類似する属性】
心移り 行き当たりばったり 無計画 自己中心的
【性格・人物像を表現する文例】
もう嫌だ。けど、彼はスクールカーストの最上位。逆らえばこのクラスで生きていけない。「気分屋」の彼に振り回されても従うしか道はないのだ。
人物像・背景
・自由な雰囲気の家庭で育った
・家庭が崩壊していて、守るべきものがない
・大切な人を失った経験があり、自暴自棄になっている
・末っ子またはひとりっ子である
・子どもの頃は落ち着きのない性格で先生によく叱られていた
・過去にいじめられたり、ハブられたりという経験がある
・虐待やネグレクトを受け、愛情を注がれた覚えがない
性格的な思考・行動の傾向
・喜怒哀楽がわかりやすい
・突然感情を爆発させてまわりを混乱させる
・自己主張が強い
・感情が高ぶると大声を上げる
・激高すると、まわりのものを壊したり、人や動物に暴力をはたらいたりする
・ストレスがかかるとすぐに逃げ出したくなる
・触れられたくない話題になるとあからさまに不服な態度をとる
・誰からも信用されない
・他人の過ちに対して過剰に怒る
・自分の意見をけっして曲げない
・批判的な意見を聞くと人格が否定されているように感じる
・自分の言動を正当化しようとさまざまな言い訳を試みる
・深く考える前に行動に移す
〝おいしい〟役を独り占めするポテンシャルを持っている
一貫性がなく、支離滅裂な「気分屋」キャラは、まわりの人の神経を摩耗して疲弊させます。行き当たりばったり、無計画、自己中心的とくれば、誰も近寄りたくありません。
ところが物語では、この「気分屋」キャラがよく散見されます。ひと癖もふた癖もある「気分屋」だからこそ、格好の役柄が用意されているのです。
その役柄とは、暴君です。「気分屋」キャラに巨大な権力と巨万の富を与えれば、国や世界を支配する絶対君主として強権を振るい、理不尽な圧政を民に強います。さらには、これでもかといわんばかりに、善良な人々を苦しませ、暴力的かつ残忍な所業を繰り返します。
読者からすれば、ページをめくるたびに胸が痛み、目を瞑りたくなるようなむごい場面の連続で、ドキドキハラハラが止まらないでしょう。
ここがポイントです。悪の権化として嫌われ憎まれるほど、終盤で倒されたときの〝胸スカ感〟は半端ではありません。
いわゆる〝おいしい〟役を独り占めするポテンシャルを「気分屋」キャラは持っています。ただし、ただ嫌われるヒール要素だけでは不十分です。一部のコアなファンをつくれるような、悪役として「キャラ立ち」する魅力を授けてください。そうすれば、作品の面白味がグレードアップします。
NO.16「嫉妬深い」
[英:Jealous]
【言葉の意味】
人をうらやんだり、妬んだりする気持ちが強い
【類似する属性】
未練がましい 焼きもち焼き 負けず嫌い 神経質
【性格・人物像を表現する文例】
とにかくあの小娘を捕らえて殺せ、という厳命が下された。王女様の「嫉妬深い」性格にはほとほと参ってしまう。何せ今月に入ってもう 7 人目だ。
人物像・背景
・他人と比べられて悔しい思いをした経験がある
・1位を取れないと親に厳しく叱られた
・あまり褒められることも、かわいがられることもなく育った
・好意を寄せていた人に裏切られてトラウマになっている
性格的な思考・行動の傾向
・裏切られるのが怖い
・つい疑心暗鬼に陥る
・相手のことは、どんなこともすべて知りたい
・人のことを完全に信じきれない
・気になることがあると、ほかのことが手につかなくなる
・こっそりと人のあとをつける
・誰よりも優位に立っていないと不安を感じる
・思うように感情をコントロールするのが苦手
・相手に疑わしいところがあれば躊躇なく問い詰める
・不安でも大丈夫なふりをする
・自然と眉間にしわを寄せている
・心が揺れると、腕を組んで自分を落ち着かせようとする
・ひとつのこと、ものに対して、異常なほどに執着する
・邪魔な存在は徹底的に排除しようと画策する
・まわりには強がって見せるが、本当は自分に自信がない
万人の深層心理に潜む〝他人を妬嫉む〟気持ち
執念に突き動かされるように、自らの地位獲得を最優先する「嫉妬深い」性格は手に負えないネガティブ属性です。ゆえに、悪役に付与する傾向として、もっとも引く手あまたのネガティブ属性ともいえます。
「嫉妬深い」キャラはとにかく好戦的で、他者との衝突をいといません。邪魔な存在は徹底的に排除しようと目論みます。また、勝利に固執し、異様な意欲を内に秘めています。よって、非道徳的かつ卑劣な手段を講じてでも相手を凌駕しようするのです。あらゆるライバルを蹴散らし、つねに自分がトップであることを信じて疑わない妄想癖もあるため、敵に回すとこれ以上厄介な相手はいないでしょう。
着目すべきは、「嫉妬深い」キャラが似合うのは、男性より女性の悪役だという点。とりわけ欧米の古典的な物語や映画では、邪悪な王女が異様に「嫉妬深い」キャラとしてしばしば登場します。そして、若さや美、富、権力に固執し、ライバルの美しい女性を地獄へ突き落そうと、むごたらしくいじわるな作戦をあれこれ企てます。
「嫉妬深い」悪役が重宝されるのは、万人の深層心理に潜む〝他人を妬み嫉む〟気持ちへの戒めのためでしょう。この醜悪な邪念を抑え込めれば善人となり、制御できなくなれば悪人と化す、という訓えでもあるのです。
NO.20「ナルシスト」
[英:Narcissistic]
【言葉の意味】
自分に陶酔している
【類似する属性】
高慢 自惚れ屋 自信家 目立ちたがり
【性格・人物像を表現する文例】
またはじまった。彼の自慢話にはいい加減うんざり。「僕が」「僕が」と自分のことしか話さない。結局、自信がないから人の承認を求めるのだろう。
人物像・背景
・ある分野で偉業を達成し、まわりから認められた経験がある
・あまり人と比べられることなく、のびのびと育った
・何もかもうまく事が運び、これまでに挫折経験がない
・人に愛されなかったことがトラウマになっている
性格的な思考・行動の傾向
・どんなときでも自分が一番であると信じて疑わない
・相手を見下し、偉そうな態度で優位に立とうとする
・思うがまま好き勝手をする
・つねに美しくありたいと願う
・派手で目立つ役職に就きたがる
・皆が自分に好意を抱いていると勘違いしている
・完璧な状態をつねに追い求める
・いい格好しいで、キザな言動ばかりとろうとする
・つねに堂々とした姿勢を貫く
・ふんぞり返ってイスに座る
・人の話を聞くより、自分の話をしたがる
・苦手なことやできないことは誤魔化して避ける
・絶対に人前で恥をかくようなことはしたくないと考えている
・ほかの人がチヤホヤされているのが許せない
・失敗しても人のせいにして何とか責任を逃れようとする
他人からの評価が気になるうえつねにまわりからの賛美を求める
愛しいのは自分。大切なのも自分。そして誰よりも自分が優れていると、大きな勘違いをしているのが「ナルシスト」の特性です。ある意味では非常に幸せな人なのかもしれません。劣等感にさいなまれることなく、自己愛だけを糧として大手を振って生きられるわけですから。
とはいえ身勝手で高慢で鬱陶しい「ナルシスト」は、紛れもなくネガティブ属性。協調性や社会性が欠如し、自分基準の言動で他人を不快にします。
物語世界では、とりわけアニメ・漫画界において男性ナルシストキャラが多数登場します。古くは『ちびまる子ちゃん』の花輪クン、『ドラえもん』のスネ夫、そして『北斗の拳』のユダが挙げられ、近年のヒット作では『僕のヒーローアカデミア』の青山優雅、『テニスの王子様』の跡部景吾など、キザで二枚目キャラの「ナルシスト」男性が存在感を放ちます。こう考えると「ナルシスト」は、昔から男性にありがちな傾向なのかもしれません。
物語創作の際に覚えておいてほしいのは、自己肯定感が高い人と「ナルシスト」は根本的に異なるということ。自己肯定感が強い人とは、自身のなかに確固たる自信が備わっているため他人からの肯定を必要としません。一方、「ナルシスト」は自己愛に満ちているものの、内心では他人からの評価が気になって仕方ないうえ、つねに賛美をまわりに求めます。
NO.24「無慈悲」
[英:Cruel]
【言葉の意味】
思いやりに欠けていて、容赦がない
【類似する属性】
冷酷 薄情 無情 残忍 非人道的
【性格・人物像を表現する文例】
「彼女はどこだ?」「へへへ」「貴様!」そのとき、敵の仲間が押し寄せてきた。辛くも逃げ切ったものの、作戦は失敗。私に「無慈悲」な一面があれば。
人物像・背景
・一方的な叱責や、拷問を受けた辛い経験がある
・誰も助けてくれないような恵まれない環境で過ごしてきた
・小さい頃、親からひどい虐待を受けた過去がある
・人から裏切られたことがトラウマになっている
性格的な思考・行動の傾向
・他人に何かしてあげるときは相応の見返りを求める
・やられたら必ず仕返しをする
・自分に利益のないことにはムダな労力を使わない
・躊躇なく人を裏切る
・人に頼ろうとしない
・自分を助けられるのは自分だけだと思い込んでいる
・人の弱みにつけ込んで脅し、駒として使うことに罪悪感がない
・動物と触れ合うのが苦手
・やると決めたら容赦がない
・落ち着いて自分の置かれている状況を客観視できる
・相手の気持ちになって物事を考えようとしない
・迷いなく残酷にとどめを刺す
・効率よく成果を出すことに重きを置いている
・スパルタ的指導をする
・悪魔のような笑みを見せる
・復讐のためならどんな悪行もいとわないと考える
主人公の善人アピールのために敵役を撃てない設定はわからないではないが……
冷酷かつ残酷な「無慈悲」は、現実世界では受け入れがたいネガティブ属性です。ところが物語世界の場合、さじ加減次第では「無慈悲」な一面も大切だとつねづね感じています(※本題目に限り、私見を述べさせていただきます)。たとえばハリウッド映画を観ていると、主人公が憎き敵役を追い詰めるシーンで、そういう状況に出くわします。
主人公は拳銃を構え、一方の敵役は丸腰、千載一遇のチャンス到来です。主人公は捕らえられた恋人の居場所を尋ねます。しかし敵役は「へへへ」と笑うだけで答えません。と、敵役の仲間が現れて一気に形勢逆転、今度は主人公が不利な状況に追い込まれ、あれよあれよと敵役は逃走を図り、結局恋人の居場所は聞き出せませんでした。あるあるな展開ですね。
私はこの手の流れを観ていて、いつもやきもきします。主人公の善人アピールのために敵役を撃てない設定はわからないではないものの、せめて足とか腕に一発銃弾を撃ち込んでいれば、激痛のあまり恋人の居場所を吐いたのではないかと。あるいは大怪我を負わせていれば、まんまと逃げられることなく、人質にして恋人と交換、救助できたのではないかと。
「無慈悲」な一面が主人公にあれば、きっとうまくいったはずです。しかし「無慈悲」な主人公は正義の味方失格、という難しい問題があります。
書き込み式 クリエイターのためのキャラクター創作シート
書き込み式では、「キャラクターの内面をイメージする」「人物の性格を表現する【ポジティブ編】」「人物の性格を表現する【ネガティブ編】」が取り上げられている。
ここでは、「キャラクターの内面をイメージする」」を紹介する。
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