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みんなで創作の可能性 NovelJam2018観戦記

monokaki編集部の千葉です。
小説を書くことの面白さに目覚めてから、コツコツとプライベートで小説を書いています。
ど素人ですが、純粋に上手くなりたい気持ちを持っています。
この連載では、「これに参加すれば私でも小説が上達するのでは?」「存在は知っているけど実際のところどうなの?」というベールに包まれたイベントや企画を取材し、レポートします。
「ものかき未満」な私から、 ものを書くことの初心者になる情報をお届けしていきます。

記念すべき初回の取材として足を運んだのは、2泊3日の出版創作イベント「NovelJam 2018」です。

一日目:お題発表~チームビルディング

NovelJamとは、「二泊三日で小説を書き上げるイベント」です。「著者」と「編集者」と「デザイナー」がチームを組み、ゼロから小説をつくります
著者が作品を書き、編集者が編集や校正を行い、デザイナーが表紙や挿絵をつける。ひとつの「本」を完成させて、電子書籍販売まで行う。
まさに、何もないところから完成品を生み出すイベントです。

開催場所は八王子の大学セミナーハウス。最寄り駅から車で10~15分ほどかかるこの場所は、自然豊かで、まさに「合宿」という言葉がふさわしい。同時に建物も前衛的で、創作意欲が刺激されそうな舞台です。

NovelJamでは、毎年作品の「お題」が設定されており、イベントの初日に発表されます。
今回のお題は「平成」。主催である日本独立作家同盟の鷹野凌さんが額縁を掲げる姿が、あの小渕元首相による元号発表にそっくりだ! と、はやくもTwitterでは話題になりました。

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1日目、早速チームビルディングが開始されます。昨年は運営があらかじめ決めたチーム分けが発表されましたが、今年からの試みとして、参加者同士の指名によりチーム分けを行う方法がとられました。まずは編集者がプレゼンをし、その編集者と組みたい著者・デザイナーが挙手するドラフト方式です。
自身のキャリアや、今回試したいマーケティング手法など、各編集者が順番に強みをアピールしていきます。人気の編集者は数人から指名を受けることも……。そうして、8つのグループが誕生しました。
1グループの構成は著者2名、編集者1名、デザイナー1名の計4名。著者はひとり一作品を 、編集者とデザイナーが著者2名分の作品の編集・校正・表紙作成を行います。
著者が初稿のプロットまで完成させて、初日が終わります。


二日目:会場一杯の集中力。執筆、執筆、ひたすら執筆

2日目。朝早くから、会場には「創作」が行われているとき特有の緊張感が充満していました

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※参加者は著者16名、編集者8名、デザイナー8名の計32名

音楽も流れていない無機質な空間に、タイピングの音が静かに響きます。時折、お互いの進捗を確認し合いながら、各チーム創作を進めています。
初稿の提出、二稿の提出など、節目節目で「チェックポイント」となる時間はある程度区切られているものの、基本的に作業のスピードや方針はグループごとに任されています。3日目の朝8:00の最終稿提出に向けて、黙々と作業をしていきます。

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チェックポイントごとに提出された作品は、全てGoogle Driveで公開されています。参加者はもちろんのこと、ネット上で誰でも各チームの途中経過を見ることができ、時間が経つにつれてどのように作品が変化していくのかを見守ることも可能です。

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会場にはプリンタが複数台設置されており、集中力を要する作業のお供に、コーヒーもたっぷり用意されています。(3日間でコーヒー豆の消費量は2キロ、約200杯が消費された模様!)この空間だけで、執筆に必要な全てが揃います。

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最終稿提出にむけ、各チームこの日は一日作業に勤しんでいました。翌朝まで起きていたグループも多かったとのことで、最後まで妥協せず、良い作品にするための追い込みを行なっていたことが伝わってきます。


三日目:電子出版ワークショップ~最終プレゼン~審査結果発表

3日目、朝8:00。無事に全原稿の提出が終わると、短い休憩(仮眠タイム!?)を挟み、「電子出版ワークショップ」を経て、作品を電子書籍として販売する作業に取り掛かります。
午後1:00、一人も脱落することなく、全16作品がWeb上の販売プラットフォーム「BCCKS」にて一斉に発売されました。販売開始と同時に、会場からは大きな拍手が上がります。お疲れさまでした!

作品の一覧はこちらから

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……と、ホッとしたのも束の間。同じ頃、会場の別棟にはすでに5名の当日審査員らが到着し、作品の審査を始めていました。この後すぐに、編集者による作品のプレゼンが行われます。

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作者の想いやデザイナーの熱意、ポイントとなる部分の解説……3分間という限られた時間の中で、各編集者が伝える作品の魅力は様々です。プレゼンの方法も様々で、ラップで表現する人、即興演技をする人、物語のあらすじ朗読にあわせてギターを弾く人……表現者が集まる場とあり、表現の形態は自由そのもの。

プレゼンを終え、いよいよ16作品への評価が行われます。
当日審査員は、

米光一成さん(ゲーム作家)
海猫沢めろんさん(文筆家)
内藤みかさん(作家&エッセイスト)
新城カズマさん(作家)

スポンサー審査員として、monokaki編集長の有田も参加しました。
提出された作品のクオリティの高さに、審査は難航……。止むを得ず予定時間をオーバーしながらも、真剣な議論が続きました。

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NovelJam 2018、最優秀賞受賞作はまさかの……

待ちに待った審査結果発表。まずは各審査委員の個人賞、続けて特別賞、優秀賞、最優秀賞の順に受賞作が発表され、チームに賞状が与えられます。
順に読み上げられる作品名に、会場から「おお……」という声が湧き出ます。信じられない、といった表情で表彰される著者もいれば、「今まで長く作品を書いていたけれど、評価してもらったことがはじめて」と涙を流しながら喜びを語る著者の姿も。

今回は激戦の末、通常1作品の優秀賞が2作品となり、最優秀賞作品は「該当なし」
「運営スタッフ・審査員一同、最優秀賞作品を出したかったのは山々だったものの、ある理由から該当作なしとなりました。詳しくはこの後の講評で!」と、海猫沢めろんさんの言。

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優秀賞の『バカとバカンス』チーム

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優秀賞の『ユキとナギの冒険』チーム

すべての賞の発表を終えて、審査員から全体講評が行われました。作品名を具体的に出しながら、それぞれ良かった部分と改善点を話していく熱い口調から、作品を丹念に読み込んだことが伝わってきます。参加者は随時メモをとりながら、真剣に話を聞いていました。
優秀賞に選ばれた2作については、どちらもよく書けているものの、「これは縮小再生産なのではないか」――つまり過去の類似作品の参照や検討が十分に行われないまま書かれているのではないか、との指摘がそれぞれあったようです
両作の持つ課題が共通していたこともあり、「伸びしろとして期待したい」との想いから、今回は「最優秀賞なし」という選択がなされました。

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「みんなで創作」は「ひとりで創作」の可能性を超える

NovelJam 2018は昨年に比べ、大きく形が変わっています。
主に変わったのは

(1)2泊3日の合宿形式のイベントになったこと
(2)それに伴い創作の時間が増えたこと
(3)チームメンバーにデザイナーが入ったこと

の3点です。

通常、「物語をつくる」作業は孤独であり、「小説創作」はひとりで戦わなければならないことだと考えられています。しかし、「自分ひとりで悩むのではなく、周りの人から力をもらい、力を合わせた方が、今までにない新しい作品を生み出すことができるのではないか」「創作する上での役割を仲間と補い合いながら、自分ひとりでは見えなかった世界を拓いていってほしい」。それこそが、NovelJam 2018が参加者と共に築きたかったゴールではないでしょうか。

「なぜ自分は創作するのか」に、改めて真正面から向き合った人もいたと思います。
参加者からは、「とにかく楽しかった」という声もあれば「非常にきつかった」という声もあり、感想はそれぞれでしたが、多くの新しい可能性、自信が生まれていったことは確かでしょう。
どの顔からも達成感が滲み出ており、個々が自分とチームの仲間に最大限向き合い、限界を越えようとしたイベントであったことを、ひしひしと感じさせました。

そして、Noveljam 2018の活動はまだ終わっていません。
一ヶ月後、3月26日(月)に、電子書籍の完成度やと販売実績も含めて再び審査が行われ、「NovelJam 2018 グランプリ」が発表されます。
合宿が終わった今もなお、参加者は作品のPRに勤しんでいます。作品を読者に届けるまでが挑戦である……長丁場を制するのは、一体どのグループになるのでしょうか。


*本記事は、2018年02月18日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。