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Q.構成ってどうやって勉強したらいいですか?|海猫沢 めろん

自粛体制もそろそろゆるんできましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。私は、さっき図書館行ったら「マスクしてない人間は入れない」って言われて追い返されました。そういえばマスクしたことがないな……反社会的勢力かもしれない。
さっそく今回のご相談です。

今月の相談者:やらぎはら響(38歳)
執筆歴:1年
ご相談内容:構成が苦手で何度も書き直してもおかしいところがある気がしてなかなか完成できません。構成はどうやって勉強したらいいでしょうか?

構成については王谷晶さん連載「おもしろいって何ですか?」でもとりあげられていますが、

ぼくなりにもうすこし詳しく説明したいと思います。

まず構成とはなにか

「構成」とは、エピソードや章や場面が提示される順番のことです。
はじまりからおわりのひとまとまりの小説があって、それを組み替えたり試行錯誤することが構成を考える作業ですが、これについて考えるタイミングは3つしかありません。

書く前
書きながら
書き終えてから

さきほどの王谷さんの記事には、「書く前」にアイデアを入れ換えたりしながら構成を練るやり方が書いてあります。構成は「書く前」にやっておくのが失敗が少ないのですが、書き慣れていない人ほど「書く前」の準備が苦手な傾向があります。プロットを書いたらそこでやる気がなくなってしまう……というやつですね。

そういうタイプは「書き終えてから」でもいいと思います。今回の相談者さんはそのタイプではないでしょうか?
構成が苦手な人は、まず自分が構成をどの時点から考えているかを思い出してみてください。もし失敗が多いなら考えるタイミングを変えてみるのも手です。
ちなみに構成が得意なタイプの人は、おもしろい作品に多くふれているので、話をおもいついた時点で、「あ、この話だとこの構成が一番ハマるな」と直感的にわかります


構成を学んで、いくつかのバリエーションを持とう

さて、では構成をどうやって勉強すればいいのか?

1)既存作品を研究
2)短いものをたくさん分析(音楽やコマの並べ替え)
3)自分の作品を組み替えてみる

まず1ですが、好きな小説をメモしながら読んでみてください。そのとき、各章でなにがおきているか、どういう情報を提示しているか、その結果読んでいる自分はどう感じているか、も記録しましょう
これはかなり前の私のメモです。

画像1

2006年に発売された小説『“文学少女”と死にたがりの道化』を分析していたものです。パターン認識するために、各章を起承転結のどれかにあてはめて認識しつつ、どういうジャンルに応用できるかもメモしていますね。

ふつうに頭から情報を並べていく→起承転結
映画「メメント」→結転承起
漫画「100日後に死ぬワニ」→(結)起承転結

のように、あとで見てわかるなら、おおざっぱな認識でかまいません。

2の音楽は、オーソドックスにAメロ Bメロ サビ、とかですね。
サビ AメロBメロサビ……というサビ頭という形もよくあります。ダンスミュージックだとAメロBメロとかAメロがずっとループする形も多いです。短編向きですが、長編の場合はクラシック音楽などが参考になるでしょう。

コマの並べ替えも訓練になるので、例をあげてみましょう。

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この素材ひとつひとつが小説の場面に相当すると思ってください。
そうすると、侍がハッパを切るという動作でもこれだけのバリエーションがあります。

画像3

画像4

画像5

厳密にはこれは構成というより映画のモンタージュという手法で、小説においては小さな情報の出し方に相当するのですが基本的な考え方は同じです。

最初にこうした訓練で「構成」のパターンをいくつか知ったうえで、最後の3に取り組むのがよいと思います。


小説のメインは「起承転結」の「承」

最後に僭越ながら、相談者さんの小説『野心家令嬢の幼馴染はオカン属性の過保護でした 』を例にして具体的に考えてみました。
まず、全体で原稿用紙200枚を超える長編お疲れ様でした! 幼馴染みクレメンスと主人公の鈍感さに読者がやきもきする、という配置が安定なのでオーソドックスながら面白く、どんどん読めました!
先に結論から言うと、この小説は構成もそうですが、「目的」と「対立」を明確にすることでより面白くなると思いました。そのために意識すると良いのは、

主人公を目的に対して行動させる
王子のキャラを立てる

ですが、ご質問に答える形でまずは構成の話から。

ラフに全体の流れをメモしてみました(ネタバレありますので読む前の人はご注意を……)。

・起
01 クレメンスとの出会い。転生情報。特技なし。
02 クレメンスがハンカチをかえしにくる。
03 五年後。王子様のおひろめ。クレメンスがさりげに気のあるそぶり。クレメンスは王子と友達だった。クレメンスが邪魔で王子にちかづけない……。
・承
04 学校に入学。
05 クレメンスの婚約者あらわる。ライバル?
06 ずっとクレメンスはすきなのに主人公が鈍感。
07 ズールに忠告される。
08 クレメンスの婚約者に文句いわれる。
・転
09 呪いアイテムで子供に。
10 子供の体でライバルと会話。ふたりともちゃんとしてることにショック。
11 考えを改める。クレメンスがなぐさめてくれる。
12 ジュリアに傷つけられる。
13 呪いとけない。王子とちかづく機会をスルー。
14 ズールとジュリアにはさまれて殺されそうになる。
・結
15 クレメンスに呪いをといてもらい一件落着。彼を好きだと自覚。
16 終了。

さきほど私が言ったパターンの分析で行くと、このストーリーは素直に「起承転結」という形をとっているように見えます。なろうは転生パターンでつかみはOKなので、これでも問題はないと思います。
こうして全体の流れを見てみると、全16章のうち、

・起3 承5 転6 結2

で、承がすこし短く、転が長いことに気づきます。これは、

・起3 承9(3話×3で盛り上げる) 転2 結2

くらいのバランスが良いでしょう。なぜかというと、小説のメインは「承」つまり道中なんですここを長く面白く書くことが重要です。読者が飽きないようにいろいろな要素を盛り込みましょう。「転」の要素を「承」にもってきたり、「転」自体を短くしたりすることを考えてみてはどうでしょうか?

では、「承」をどうやっておもしろくするかですが、まず考えるべきは「この小説のいちばん美味しいところ」「この小説で一番かきたい部分」から逆算して足りないところを補ったり、強化していくのが良いと思います。

「野心家令嬢の幼馴染はオカン属性の過保護でした」というタイトルからすると、メインプロットは「令嬢転生して王子に近づいて玉の輿!」で、サブプロットが「イケメン幼馴染みがなぜかさりげなく邪魔してくる」と考えられるかもしれません。
このメインとサブを早めに読者に提示したい。そうすると、最初のシーンは、

・起
03 主人公が超セレブな王子にがっついていく……が、クレメンスがさりげなく邪魔する。王子とクレメンスと主人公の三角関係を構築(01 リーゼロッテが転生している 02 クレメンスとの出会いのアイテムハンカチ……を、ずっとクレメンスにもたせるとか)

という順番で情報を出すことも考えられます。続く「承」の部分では

・王子にアプローチする主人公とそれをさりげなく邪魔するクレメンス……という攻防を描いて、三人の関係性をさらに複雑化。そのなかでクレメンスの婚約者やらサブの人物も登場。
・王子のキャラクター掘り下げ。実は王子も主人公のことが好き……というのを読者とクレメンスにだけ提示し、主人公を応援したいけど邪魔したい……とクレメンスが葛藤。
・そんななか主人公に呪いがかかって、子供になっちゃってたまたま王子に好きな人がいると知ってしまい落ち込む(主人公なんだけどね)。

こうなってくるとタイトルも
「冴えない令嬢に転生したら幼馴染みの超美形貴族がオカン属性でうざいけど無視して王子と玉の輿を目指します」
とかのほうがわかりやすいかな……などなど、構成によって全体のバランスを考えるとすべてに影響してきます。だからこそ、構成は最初にある程度考えておいたほうがいいわけです。

……と、長々と解説しましたが、こうやって理詰めて構成しても、最終的に出来上がったものを通して読むとなにか違和感が残る場合があります。そういうときは感覚的に直していくしかないのですが、こればっかりは場数を踏むしかありません。枚数が少ないものを何パターンか試すといいかもしれませんどんどん書いてください!

作品はいわば独立した子供や植物のようなもの。我々作者はできるだけその作品の良いところを伸ばして、無駄な枝を切り、整えてあげればいいのです。構成はそのための技術です。