「キャラ」が立つって何ですか?|編集 ミヤケル
はじめまして! 物語が大好きな編集者のミヤケルと申します。みなさんの投稿作を本にするお仕事をしています。投稿された作品は、ばっちり読ませていただいてます!!
この連載では、「おもしろい」って何だろう? ということをみなさんと一緒に考えていけたらと思っています。
「答えなんて、あるわけないだろ!」
……。
も、もちろん、わかってますとも。
それでも、ある程度の型を知っていないと、”型破り”な作品はできません。
かといって、技術論だけでは楽しく学べませんよね。
そこで、ここでは物語をより”おもしろく”するための工夫を、実際にヒットしている作品から学んでいきたいと思います!
シルエット論すら超越したキャラクター性
初回のテーマは”キャラクター”!
魅力的なキャラクターがいないのに、それでも”おもしろい”作品って思いつきますか?
もちろんある、とは思いますけど、きっとあまりヒットはしてないですよね。
つまり、多くの人から愛される”おもしろい”作品と”キャラ”には、深い繋がりがあるに違いありません。
そして、”キャラ”について考えるには、うってつけの作品が放送中です。
……そう、あのムツゴです!
少年マンガの世界には、「シルエットを一目見ただけで、どのキャラクターかわかるくらいじゃないといけない!」という考え方があります。
見た目=個性=キャラ、という考えですね。
これまでコンテンツを作る人たちは、血眼になって、個性的な外見を追求してきました。
(フィクションに出てくる、とんでもなく奇抜な髪型や服装、覚えがありますよね?)
そんな中で現れたのが、故・赤塚不二夫先生の名作漫画『おそ松くん』をした下敷きにした『おそ松さん』というアニメです……。
当時は可愛げのあった六つ子たち。それが成長して、というか成長しないでニートになってしまったという、なんとも残念な設定で物語は始まります。
ところが、その反響は凄まじいものでした。
「失うものなど何もない」と言わんばかりに有名作品のパロディをぶちかました衝撃的な第1話から、話題が沸騰して一気に覇権アニメにまで上り詰めます。
私が最も驚いたのは、異常なまでのキャラクター人気でした。
「推し松」
という言葉が生まれるくらい、誰しもが自分の好きなキャラクターを持っています。
(ほぼ)同じ顔なのに、です。
そう! ”キャラ”というのは、見た目ばかりではないのです!!
(もちろん、各キャラクターごとにテーマカラーが決まっていたり、アホ毛の数が違ったりと絶妙なラインで差異は設定されています)
では、どうして彼らはあそこまで人気なったのでしょうか?
私はその答えの一つが、末っ子のトド松にあるように思えます。
”変わる”は”ブレる”?
トド松が最初に登場した時は、「兄弟の中で、唯一のリア充(風)」という立ち位置でした。
お金もないのにおしゃれをして、女の子の友達と遊んでいたり(今となってはなんだったのだろうか……)、素敵なカフェで学歴を偽ってまでバイトをしてみたりと、他のダメ人間に慣れきっているニートどもとは一線を画していました。
はっきり言ってしまえば、「幅を持たせようとして設定はしたのだろうけど、どうもしっくりこないよね……」というキャラでした。
それがいつの間にか、もう一つの側面を見せるようになります。
今では公式サイトのプロフィールにも記されている「心がない」という要素です。
「囲碁を始めたことを内緒にしている」
「いつの間にかスマホを持っている(お金の出所不明)」
「富士山に登った(しかも一人で!)、ことすら黙っていた……」
同じ部屋で暮らしている兄弟にこんな重大(?)な出来事を話していないなんて、”心がない”としか思えませんよね。
こういったエピソードの積み重ねによって、トド松は曲者ぞろいの兄弟たちの中でも異彩を放つようになりました。
一見するとキャラがブレて、路線変更をしたかのようにも思えてしまいます。
けれど、どうしてか視聴者は納得できてしまうのです。
これまでの”リア充”風のエピソードは、実は”心がない”からできたのでは!?
視聴者にそう思ってもらえたから、トド松というキャラクターはさらに広く受け入れられるようになりました。
この”納得のできる変化”こそが”キャラクターが立つ”、ということなのではと思います。
それでは、どうして視聴者は違和感なくトド松の”変化”を受け入れることができたのでしょうか?
キャラクターは自立する!
投稿作を読んでいて残念だなと思ってしまうのは、登場人物が最初に設定したキャラクターという枠から飛び出せていないときです。
「このキャラクターは〜だから」と、ページが進んでも変化(≒成長)を感じられないことがあります。
実は主人公が変化(≒成長)していくことこそが、「物語」であると言ってしまっても過言ではないのです。
知っている人にとっては当たり前のことなのですが、ハリウッド的な物語には一定の型があります。
問題を抱えている主人公に、非日常的な出来事が起こり、やがて困難に直面して、圧倒的な窮地に陥るも、大逆転してハッピーエンド、最初の問題も解決してる! 成長した!! やったね!!!(ものすご〜く簡略化してます)
「初めて聞いた!」という人は、名作と呼ばれているようなハリウッドの娯楽映画を観てみてください。冗談みたいに、あらゆる作品がこの定型に当てはまると気づくと思います。
「キャラクターの変化」=「物語」の中で、選んだ行動の積み重ねが、魅力を獲得させていくのです。
そう、トド松が積み重ねていた「兄弟にも自分のことを秘密にして、嘘に塗れてでもリア充を演じる」という行動によって、「心のなさ」を視聴者に納得させたように……。
本当に魅力的なキャラクターというのは、創造主である作者の意図からもはみ出していきます。
名作漫画などでよく聞く「キャラが勝手に動く!」という状態ですね。
それはキャラクターが”ブレる”のとは少し違います。作者ですらも想像していない、それでいて誰もが納得する選択を、キャラが自ら選ぶのです。
逆に前後の行動や考え方が”ブレて”=矛盾していると、「お前は何がしたいねん!」と途端に魅力を感じなくなってしまいます。
つまり、変化には一本、”筋”が通っていることが大切なのです!!
では、その”筋”を作るにはどうしたらいいでしょうか?
私のオススメは、キャラクターの”人生”まで考え抜いておくことです。
物語が始まるまでに、どういった日々を送ってきたのか?
趣味は? 好きな食べ物は? 嫌いな科目は?
どんな細かい部分でも、聞かれたら何でも答えてあげられるくらいに、キャラクターについて考えてあげてください。考え抜いてあげてください。
世の中にうんざりするほど溢れている”金髪ツインテールのツンデレ少女”であっても、どういう人生を過ごしてきたのかまで考えることができれば、立派なオリジナリティが宿るのです。
あなたが魅力的なキャラクターを創ることができれば、きっと作者ですら予想もできないような物語が生まれていくのではと思います。
(タイトルカット:16号)
今月のおもしろい作品:「おそ松さん」
クズでニートな大人に成長した6つ子を主人公として一話完結で書く、笑えて、泣けて、ほっこりも出来る、予測不能なギャグコメディ。
赤塚不二夫生誕80周年を記念して制作・放送されたTVアニメで、2016年度の流行語大賞にノミネートされるなど、社会現象ともいえる大ヒットを記録した。
2017年10月からは第2期が放送開始され、人気を博している。
*本記事は、2018年02月13日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。