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「筆力を伸ばす書き方」とは? バディ小説座談会|monokaki編集部

 「文春文庫×エブリスタ バディ小説大賞」という、一風変わった切り口のコンテストの第一回結果が本日発表になった。第一回のテーマは「お仕事」。第二回が「ロケーション」第三回が「キーアイテム」とお題を変えて複数回開催され、大賞受賞者には賞金、作品の電子書籍化にくわえ、「文藝春秋の編集者がメール5往復までのアドバイス」という賞典が与えられるのもユニークだ。

 海外ドラマからマンガまで、あらゆるジャンルで人気の「バディもの」だが、小説における「バディもの」に不可欠な要素とは何か? エブリスタ・文春両社の編集者に問いをぶつけてみたら、創作に不可欠な方法論がたくさん浮かび上がってきた。キャラクターの掘り下げ方からストーリーのヤマ場の作り方まで、プロ直伝の技を紹介したい。

「バディもの」と聞いて浮かぶのは……

――最初に自己紹介と、好きな「バディもの」の作品を教えてください

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荒俣:文春の荒俣です。今は電子書籍部に所属しています。だいたい文芸書の編集をずっとやっておりました。好きなバディ小説は、私が異動する直前に作った香港の陳浩基著『13・67』です。クアンとローという二人の刑事がいて、クアンが先輩でローが後輩。ドラマの『相棒』では杉下さんに能力があり信念があって、そこに若い人がきて、教育していきながら一緒に事件を解決するのですが、『13・67』も同じような構造があって、とてもいい小説です。

花田:文庫編集長の花田です。私も荒俣と一緒でずっと基本的には文芸の仕事をしてきて、今は文庫編集長として全体を統括しています。角川文庫で出ている桜庭一樹さんの『GOSICK -ゴシック-』が男女バディものとしてすごく好きです。金髪の天才美少女ヴィクトリカ・ド・ブロワと転校生の久城くんという男の子の組み合わせですね。この二人の関係性がかわいくて大好き。

山下:文春文庫編集部の山下です。書き下ろしの現代小説を主に担当しています。私は『エラリー・クイーンの冒険』がずっと好きで、エラリーとお父さんのクイーン警視の親子バディですね。親子だからこそ遠慮しあわず丁々発止で事件を解決していく。同じ世代の人だと扱いきれない変人を、お父さんだからうまく乗せて仕事をさせるところと、その手に乗り切らないところでちゃんと物語が動いていく。この小説の親子の関係がとても好きです。

松田:エブリスタで小説のプロデュースをしている松田です。最近『シティ・ハンター』を読み直したらバディものとして完璧だったんですね。主人公の冴羽獠は戸籍がないから結婚できないとか、ヒロインの香は親友の妹だから手を出してはいけないとか、ギリギリ恋愛にいかないようにする仕掛けがたくさん施されていて、素晴らしいなと思いました。


大学ノート一冊分のキャラクタ設定

――そもそも、どういう流れで「バディ小説」の公募に至ったのでしょうか?

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松田:「キャラが立っている小説がほしい」という話が最初にあったんです。「キャラクターの活躍が小説にとって必然の要素になっている」ことをわかりやすく表現できるものってなんだろう……と考えたときに、そういう作品ってバディものが多いよねと。それで今回はバディ小説でやってみようかとなりました。

――魅力的なキャラクターを作るのに不可欠なのは、どんなことでしょうか

荒俣:やはりキャラクターの作り込みですね。ある作家さんは、サブキャラにさえ大学ノート一冊分の履歴を全部作っていました。物語には出てこなくても、作りこんで初めて厚みがでてくることがあります。その人の人生がどうだったのか自分の頭の中でできてないと、いざ書こうという時にその個性は書けないんじゃないでしょうか。

山下:キャラクターを掘り下げることをしないと、何か事件やエピソード、アクシデントが起きても、主人公の対応が一辺倒になってしまう。そうなるとエピソードをいくつか用意しても毎回同じ反応になってしまって、広がりがなく行き詰るということがあると思います。

――一回目の選考が終わったばかりですが、実際に応募作を読んでみていかがでしたか?

花田:同じようなものが多く来るのかなと思っていたら、結構バラエティに富んでいました。性別の組み合わせも男同士、女同士、男女とバラけてました。ただミステリをあまり書き慣れていないのか、ミステリ部分でもったいないところのある作品が多かったです。

松田:「バディもの」だとやはりミステリにしなきゃという気持ちがあったのかもしれませんが、無理にミステリにしなくてもいいんですよ。


化学変化は凸凹感から生まれる

花田:二人の関係の化学変化がもっと見たいなと思う作品もいくつかありました。バディが最初から仲がいいと、それ以上に発展しないんですよね。最初は「なんだコイツ」みたいに反発しあっていた関係がどう変わっていくかとか、片方が頼りがいがあって片方がダメダメだったのにある場面でダメな方が活躍するとか。せっかくの「バディもの」なので、二人の関係性に化学変化があるほうがグッと引き込まれます。

――関係性の化学変化というワードが出ましたが、ほかにバディものの魅力はどういう部分にあるとお考えですか?

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山下:化学変化を起こすためには二人の性質が異なっていることが重要です。「熱血とクール」というのが一番よくあるパターンですよね。役割分担がしっかり分かれていて、二人の得意不得意が噛み合ってストーリーが展開していくのが、バディ小説のひとつの王道。そのためには二人がフラットな性格だと何も生まれない。どこかで凹凸感や違いを練りこんでいくことが面白さかなと思います。

花田:王道を外して成功する例もあるので、「絶対こうしろ」というわけではないんです。ただ、やっぱり同じようなタイプの二人なら、違う部分をはっきり書かないとバディものとしては生きてこないかな。

山下:自分の理解できない性格や概念をバディの二人どう割り振るかも重要です。そうすれば「この人のこういうところが理解できないけど、それでも一緒にやっていく」というパターンができる。たとえば、「ルパン三世」のルパンと銭形警部だって見ようによってはバディです。『カリオストロの城』では、違うステージでそれぞれ違う役割を果たしながらエンディングに向かっていく。一緒にいなくてもバディになれるし、同じ目的を持っていなくてもバディとして成立する

荒俣:腐れ縁パターンというもあるよね。黒川博行さんのシリーズみたいに、「お互い嫌いなんだけど付き合わざるを得ない」みたいな関係性。


ロケーションがリアリティをもたらす

――第2回も現在募集中ですが、こういったものが読みたいなど、書き手へのメッセージがあればお願いします

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花田:次のテーマは「ロケーション」なんですが、今回の応募作の中ではロケーションを切っているものってそんなになかったんです。バックグラウンドを出していった方がせっかく設定したキャラクターが際立つんじゃないかなと思うので、考えていただけるといいですね。

荒俣:アガサ・クリスティはやはりすごいなと思うのが、ポアロはベルギー人、ヘイスティングスはイギリス人で、二人のカルチャーがそもそも違うんですね。ポアロは亡命してきて、苦労もしているところがちょいちょい垣間見えるんだけど、ヘイスティングはイギリスのお坊っちゃんで、カルチャーの違いが人物の設定にうまく生かされている

山下:今は原作の聖地巡礼が流行ったりしているので、場所の魅力を引き出すような書き方に個人的には注目したいですね。なんの変哲もない場所であっても、「夕暮れの公園」とか、なにか物語を喚起する場所がある。そういう場所をぜひ見つけて、同じ風景を見たときに「ここがあの作品の舞台になったところね」という感動を読者に与えられるように、うまく取り込んでいただきたいです。

松田:「ロケーション」でいうと、清涼院流水さんや綾辻行人さんが書くような「館」なんて現実にあるわけないんですよね。そこを成立させるためには、ギリギリでも「もしかしたらあるかも」と思わせるような、入念な作りこみが必要です。設定したロケーションを活かすために、必死でうまい嘘をつく、そういうことが必要なのかもしれません。

山下:やりたいことを一番うまくやるために、他に何が必要かという視点ですね。自分のやりたいことだけをやるのではなくて、「他の人が読んだ時にどう思うのかな」という客観的な視点は、「バディ小説」という括りに限らずあるといいなと思います。おもしろいことを追及するために変態的であってほしい。


主人公を困らせるのがエンタメ

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荒俣: 応募原稿全般に言えることなんですが、ストーリーにヤマなく終わっちゃう作品が結構あるんですよね。大沢在昌さんが『小説講座 売れる作家の全技術』の中で、「小説の中で主人公を困らせれば困らせるほどおもしろくなる」、それがエンターテインメントなんだとおっしゃっている。心身ともにピンチに陥ったり、なにかの板挟みになって悩んだり、そういうことが起きるから読者も感情移入するし、ストーリーにも起伏ができてくる。

――主人公を困らせれば困らせるほど、一人では切り拓けない状況でもバディであるが故に乗り越えられる……というヤマ場も作れますね

荒俣:頼りないと思っていた相棒の持っている能力でなにかが解決される、それがドラマだなと思う。主人公の能力が高すぎて簡単に勝っちゃうとか、何の苦労もなく事件を解決してしまうものは、やっぱり小説になってない。そういうところにご留意いただいて書いてもらうと、小説として立ち上がってくるはずです。

山下:今回全体的に感じたのは、作品が「書きやすいこと」や「書けること」にとどまってしまっているなと。でも、書くのが難しい部分を避けてしまうと、筆力は伸びていかない。長く小説を書いていくのであれば、自分の想像力だけでは足りない部分を取材したり、本を読んで勉強したりすることが必要な要素の一つだと思います。

松田:「バディ」という視点で見ると、いろんなものが違うように見えてくることがあると思います。たとえば、花田さんと山下さんというタイプの違う編集者の間に、「絶対に書籍にして売らないといけないけど、絶望的におもしろくない作品」を置いたら何が起こるんだろう……とか(笑)、おもしろくする方法をがんばって考えてほしいですね。バディの楽しみ方を覚えていただけると、小説を書くことがより楽しくなると思います。


*本記事は、2018年04月27日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。