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ものかきが育てた文房具。デジタルメモ「ポメラ」

プロの作家に熱狂的なファンが多数と噂のガジェット、それが「ポメラ」。インターネットに接続できない、文章を書く機能に特化したデジタルメモです。開発は文房具メーカーとして名高いキングジム。なぜ文房具メーカーがデジタルガジェットなのか、なぜものかきに人気なのか。
エブリスタユーザーさんの中にも「ポメラ」ユーザーさんが多数いるという話もよく聞きます。また、現在開催中の「未完結でも参加できる 執筆応援キャンペーン」では「pomera DM30」が大賞受賞作の賞典になっているのでぜひお話を聞きたい! ということで今回はキングジムの開発者の東山慎司さん、広報室の稲葉大力さんに「ポメラ」の秘密をお伺いしました。

※この記事はポメラの最新機種「DM200」で執筆しています。

文字を打つためのストイックな道具

――文字を書くことに特化した「ポメラ」ですが、主にどのような用途で使われているのでしょうか?

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東山:商品が生まれた段階では、打ち合わせの議事録などオフィスシーンでの使用を想定していました。発売から十年以上が経ったいま、ユーザーは小説家の方やライターさんが二、三割で、あとは個人で趣味的に文章を書いている方ですね。仕事以外の用途で使われている方が多いようです。

――パソコンで書いていた人からも、ポメラのほうがスムーズに書けるとよくお聞きします

東山:ネットに繋がっていないので、SNSの通知が来ることもないし、わからない言葉をネットで調べているうちに隣の広告を見てクリックして、違うサイトを見ちゃって集中できないこともないですね。文字を打つためのストイックな道具として使っている方が多い印象を受けています。

――一回ポメラを使うと離れられないですよね

東山:ポメラとパソコンの両方を使われている方も多いと思うんですけど、ポメラは紙と万年筆みたいな、「書くための道具」として使われていると思います。

――ポメラがここまで長く支持されているコアな理由はどこだと思われますか?

東山:最新機種「DM200」を購入された方でも、半分以上がポメラ使用歴一年以上だと調査によりわかっています。ずっと歴代のポメラを使っていただいている方が非常に多いんじゃないかな。道具として「なくてはならないもの」になりつつあるのかもしれない。それが十年にわたってやってこれた理由だと思います。

――当初は文字を書くことに特化した商品ということで、社内でもいろいろと反対があったと聞いています

稲葉:開発会議で初代ポメラの企画案が上申されたときに、社長含め「売れないだろう」という意見がほとんどでした。

――それはパソコンなど上位のものがたくさんあるだろうという意味ですか

稲葉:はい。三万円1)ぐらいの定価で、テキストを書くだけのガジェットだったので売れないだろうというのがほとんどの役員の意見でした。しかし、一人の大学教授だった社外取締役が「私はこれがほしい」と言ったんです。論文などを書く機会が多い方だったので、ほかの役員とは違う視点を持っていたのかもしれません。その役員がプッシュした結果、「それだけ言うなら需要があるのかもしれない」と風向きが変わり発売することになりました。そして蓋を開けたら大ヒット。

――最初から大ヒットだったのですか?

稲葉:最初から大ヒットしました。製品発表会を行った際に、来場された記者の方々にお配りしたんです。使ってくださいと。すると記者の方々は執筆をされる方々だったのでウケがよく、好意的な記事をたくさん書いていただき、それがきっかけで口コミで広がりました

――文具メーカーのキングジムだからこその特徴はありますか?

東山:ニッチな市場なので、逆に大手の家電メーカーさんだとやれないんじゃないかなと思います。後追いがいないのもそのおかげだと思います。あくまで文具メーカーとして文房具を開発している点に気を使っています。
最新機種のDM200はWi-Fiを搭載しましたが、Webを見ることはできません。ポメラで作ったファイルをスマホに送る機能に割り切っています。文字を打つことに集中できるという部分を崩してしまうとポメラではなくなってしまう。その辺りは気をつけて快適に文字を打ってもらうためにはどうしたらいいのかだけを考えています


ユーザーと一緒に開発している感覚

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▲開発用筐体

――快適な執筆体験のために、どのようなことを考えて開発されていますか

東山:我々だけで考えているというよりも、ポメラユーザーと一緒に作っている感じですね。ポメラユーザーの方はすごくて、濃密なご意見をたくさんくださいます。もちろん初代のポメラは我々が考えて作ったものですが、それ以降の機種に関しては、ユーザーの方からのご意見をもらって、全部は取り上げられないのでバランスを整えていくのが我々。いろいろと細かい機能を追加しているのですが、実際に使われているユーザーさんからの意見から採用したものが多いんです。

――どんな意見が多いんですか?

東山:元々画面はモノクロの液晶で、当初はバックライトがなかったんです。「パソコンだと目が疲れるからポメラはいい」とおっしゃる人がいる一方で、「暗いところでも使いたい」という人もいて、途中からバックライトを追加しました。また、元々は折りたたみだったんですが、どうしても折りたたみだと収納時に厚みが出て収納しにくかったり、本気で打つならストレートモデルがいいということでDM100を出させてもらいました。

――最初の頃のポメラはコンパクトなイメージがありました

東山:最初は「テキストを書きたい人にヒットした」というだけではなく、あのギミックに惚れた人がたくさんいました。DM30はポメラ10周年という節目の機種でもあったので、当初のギミック感や、電子ペーパーを使って目に優しい部分を前面に出しています。
DM200はリチウム電池をはじめて搭載しました。日本語文字システム「ATOK」を強化したことで、内部システムの構造が大幅に変わってしまったんです。すると普通の乾電池では数時間しか持たなくなってしまったので、リチウム電池にしています。そのことでユーザーさんの間ではリチウム派と乾電池派に分かれてバトルも起きました(笑)。

――書体などはどのように決められているのでしょうか?

東山:DM200より前までは白黒のドットで書くビットマップフォントだったんですが、DM200からはゴシック・明朝で表示できるアウトラインフォントが必要になりました。いろいろ条件的に合いそうなモリサワさんのフォントを選定させてもらいました。

――条件というのは、見やすさや読みやすさのことですか?

東山:読みやすさもですし、OSの問題もあります。Windowsならどこのフォントでも入れられるんですが、ポメラはLinaxベースで独自で作っているため、それで動くフォントを作り出すエンジンがあるのかないのか。その環境が準備できそうというところでモリサワさんを選定させてもらいました。

――辞書なども搭載されていますね

東山:最初のものには電子辞書が入ってなかったんですが、DM100から国語・英和・和英辞書を搭載しました。
DM200からは類語辞典が入りました。類語辞典もいくつかあるんですが、ユーザーさんにお聞きするとKADOKAWAのものが皆様お好みのようだったので搭載させていただきました

――ATOKを導入されたきっかけはありますか?

東山:日本語文字システムとしてのATOKは一番最初のポメラから使っています。元々は弊社のテプラでもATOKを使っていた経緯もあり、ATOKは日本語の文字入力エンジンとして有名で優秀なこともあって載せました。ATOKはATOKでファンがおり、毎年パッケージを買い換えている方もいらっしゃいますしね。

――発売当初、テキスト界隈の方々からATOKとはわかってるね、という反応があったのを覚えています。当初はテプラとシステムが共通しているところもあったんですか?

東山:ATOKもポメラ用にカスタマイズしてます。
テプラは予測変換がありますよね、なにかを打つと予測で出てくる。ポメラには予測変換は搭載していません。機能としては搭載できるんですが、物書きの人って予測変換が勝手に出てくるのは嫌なんじゃないかなって当時は思ってまして
ただ、最近はスマホを使われているユーザーさんも多いので、もしかするとほしいという方もいらっしゃるのかもと考えたりしています。


「一番いい機種を常に求める」ポメラファンの熱量

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――初代から今まで変化が一番大きかったのはどの辺りになるのでしょうか?

東山:DM100から折りたたみではなくストレートキーボードに変わったところ。また、ずっと同じCPUで同じATOKで動いていたんですが、DM200はまたゼロから作り直して、ウエイトも変わりましたし、ATOKも全部作り直しました。これが一番大きな変化なんじゃないでしょうか。

――現行機種としてはDM200とDM302)がありますがどちらが人気なのでしょうか?

東山:やはりDM200ですね。ポメラは2008年の発売から、今まで10機種以上出ています。いろいろとアンケートもさせていただいていますが、ポメラユーザーさんは一番いい機種を常に求められていますね。最上位機種であるDM200を使われている方が一番多いという結果も出ています。

――DM200の評判はいかがですか?

東山:非常にいいかなと思っています。ポメラ全体の満足度も80%以上をいただいています。本当にコアなファンの方に支えられているなと。
ユーザーの皆さんはATOKが良くなったというところを一番評価してくださってます。
これまでの機種だと変換に不満が残るという要望がずっとあったので、その要望を叶えるために一から作り直しました。その部分は非常に満足していただけているのかなと思います。さらに上を目指されている方もたくさんいらっしゃるので、もっとよくならないのか!というご意見ももちろんあります。

――変換にこだわられる方がいるものもポメラならではというか

東山:パソコンやスマホとの連携部分では、Wi-Fiを積んで転送できる点も好評いただいています。普段は電池の関係などもあってWi-Fiはオフになっていますが、オンにすると立ち上がりに時間がかかるため、毎回立ち上げて接続するのが面倒というご意見をいただいています。今度はそこも解消していければと思っています。
非常に細かい要望も全部叶えたいんですが、全部入れるとパソコンになってしまう。ユーザーさんそれぞれ個性が強く、やりたいことが人それぞれ違うので、全部叶えるのはなかなか難しいところがあります。

――そういう細やかなところにどんどんご意見が来るのですね

東山:このDM200のスケルトンモデルをプレゼントするキャンペーンを10周年の時にやりまして、応募フォームに二千文字ぐらいを上限にした自由記入欄を設けたら、皆さんかなりパンパンにポメラへの思いを書かれていて。すごい熱量があります。
人口は少ないのですが、とくに熱いご意見をくださるのは親指シフト3)ユーザーです。


プロ作家、芸人にも多いポメラユーザー

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――プロ作家さんでもいらっしゃいますね。親指シフトでずっと書いてきて対応機種が全部なくなってしまったので、ポメラに行き着いたという声も聞きます

東山:DM100とDM200が親指シフト対応です。私も開発の段階から親指シフターになりまして。ローマ字入力よりも日本語を打つ回数が半分なので早いです。ずっと親指シフトを使っている人はそこにかける熱量も大きいなと。

――打つリズムで文章の文体ができたりするので、プロの作家さんはとくにこだわりがありそうですね

東山:芥川賞作家さんにも愛用者がいらっしゃいます。作家さんから芸能人の方へ広まっていって使ってもらっていますね。

稲葉: アイドルの方がDM100を使って小説を書かれ、作家デビューしたというお話も伺ったことがあります。その方にポメラを使うようになったきっかけを伺ったらお知り合いの小説家さんから聞いてとおっしゃっていました。
なにで書くのかというのは執筆されている方にはかなり重要なことになると思うので、口コミで広まるのでしょうね。書いている途中にエゴサーチしちゃわなくて済むということも、プロの小説家さんからお聞きしたことがあります。

――発売後に意外な反応、想定していなかった使い方などはありましたか?

東山:紙の日記代わりにポメラを使ってますという方も多い印象があります。

稲葉:意外なところだと、芸人さんがネタを書くのに使っているとよく聞きますね。芸人さんは移動が多いし、DM200より前の機種はネットワークを積んでいないので、空港で機内持ち込みするときに非常に楽な点もいいとおっしゃっていたようです。

――オススメの使い方はありますか?

東山:DM200はバックライトがついているんですが、背景を黒にして白文字で使われる方が多くいらっしゃいます。目が疲れない使い方です。

――DM200からスマホとの連携もよくなったと思うのですが

東山:QRもそうですし、今回はWi-Fiも搭載しました。Wi-Fiでの連携は使われてますね。二つ機能があって、一つはアップロードでメールで送信する機能。受信はできずに送信だけです。もう一つはリンク機能。iOSやmacOSのメモアプリと連携して、ポメラで書いて編集できる機能もあります。macOS、iOS限定機能なので不満の声がありますが。

――ユーザーさんの意見に磨かれに磨かれたのが今のポメラということですね。出荷台数はどのくらいでしょうか?

稲葉:累計35万台です。この価格帯の商品がこれだけ売れるのは、弊社としては大成功した商品であると言えます。パソコンやスマホで執筆されている方にも是非一度ポメラを使用してみていただきたいです。

――まだポメラを使ったことのないものかきにオススメするとしたらどのような点を挙げられますか?

東山:ほんとにテキストを打つことしかできないので、集中して書いてもらうことができます。あとはDM30が生産終了で残りわずかなので貴重な機種になるのではないかと。
ポメラは歴代何機種かあり、生産が終了したなかにあれは名機だったとプレミア価格がつくものもあります。

稲葉:個人的にはDM200がATOKも賢く、タイピングもしやすいのでオススメです。

東山:DM30は電子ペーパー。Kindleなどにも使われているのですが、電子ペーパーって液晶に比べて描画の速度が遅いんです。実用レベルで普通に使う上では問題ないのですが、ポメラユーザーは恐ろしくタイピングが早いので意見が割れていますね。問題ないという方ともっと早くっていう方に。

稲葉:そういう些細な不満が解消できないとなかなか満足いただけないところまでポメラは来ていると感じています。ユーザーの方々の意見を参考にしながら、さらに満足いただけるようなポメラを世に出せるようにしていきたいです。


プロアマ問わずたくさんのものかきたちに愛され、ものかきたちの声によって改良を重ねていったのがポメラでした。この原稿を書くにあたりmonokaki編集部も全員でポメラで執筆をしてみたところ、普段よりもするすると書けて驚きました。快適なキータッチ、情報量が少なく集中をうながす画面、そして何よりも途中でネットやSNSを見てしまうことがない!
少し高額な商品ですが、ものかきの皆さんは自分へのプレゼントに奮発してみてはいかがでしょうか。きっと驚くような執筆体験が待っているはずです。


1. ↑ DM10は26,000円

2. ↑ 3月2日付で生産中止となり、店頭在庫のみとなっている。

3. ↑ 1979年に富士通が考案した、日本語のかな入力に最適化したキー配列規格、及びそれを使用した入力方式。ローマ字入力よりも少ないタイピング回数で日本語を入力できるため、根強いファンが多い。


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『pomera DM200』
「ポメラ」は最強のテキスト入力専用マシーンへ。パッと開いてすぐに起動。
7インチワイドTFT液晶。キーピッチ17.0mm(横)15.5mm(縦)のキーボード。「ポメラ」向けに最適化された専用のATOK。シリーズ初、無線LAN搭載。豊かな日本語表現に役立つ類語辞典「角川類語新辞典.S」を新たに搭載。プロが支持する高品質のアウトラインフォント、モリサワ「UD新ゴR」と「UD黎ミンR」を搭載。「ポメラ」史上初のリチウムイオンバッテリーを採用し、約18時間の長時間駆動を実現。


*本記事は、2020年03月31日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

ありがとうございます!今日のおすすめは「W平成小説クロニクル」です。
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