BL短歌 〜このBLがいいねと君が言ったから〜|ハマモ
今回は、BL短歌についてご紹介します。
「短歌」と言われても、ピンと来ない人は多いかと思います。
「教科書に載ってたやつでしょ?」「ちはやふる?」とにかく遠く、昔の人々が作ったもののことを指していると思ってしまう人がほとんどでしょう。(現代にも短歌は根強い人気をもって存在しており、BL短歌に限らずともたくさんの作家さんがご活躍されているのですが、それについては語りだすと奥深い世界なので、本稿では割愛いたします。)
短歌は、「みそひともじの文学」とも言われ、「5・7・5・7・7」の31文字以内で完結することを要件としています。その制約のなかで情景を詠み込み、少ない文字数で最大限の感情を受け手に伝えていくのが短歌です。少ない文字数だからこそ、同じ歌でも受け手によって行間のとらえ方が変わるのも、ひとつの魅力と言えるでしょう。
そんな「行間読み」の要素を持つ短歌。行間を読むといえば……そう、BLを愛好する私たちも、行間を読むにつけてはかなりの巧者であります。例題として、いくつか短歌を引用してみましょう。なぜこの短歌がBLなのか、読み解きながらご覧ください。
あなたにはわかりますか?BL短歌Q&A
Q. これらの短歌は男性同士の恋愛を描いています。その根拠を答えてください。
・難易度1
男でも構いませんよ お揃いの喉仏さえ愛してるので
男でも構いませんよ お揃いの喉仏さえ愛してるので|和歌山 ひだか
https://t.co/x4KfdifNH7 #BL短歌
A:「男でも構いませんよ」と言ったときには、詠まれている対象の性別はわかりませんが、「お揃いの」喉仏という表現で、これが男性同士の恋愛だということがわかります。
「男でも構いません」と他者に宣言するほどの恋心が読み取れ、情景が広がります。(個人的には、この一言は自分の恋人の喉仏にキスをしながら、見せつけるように挑発的に言い放ったと思っています!)
・難易度2
火のそばで抱き合う何も着ていないバットマンとジョーカーのように
A:ロッジ中、さらに火のそばというロマンティックな場所で、抱き合う。ここまでは性別わかりませんね。
バットマンとジョーカー*というたとえで、これが男性同士を詠んだものだというのが匂ってます。
雪山で二人は遭難したのでしょうか。そこからお決まりな感じでロッジの焚き火の前でお互いの体温を与えあうことになり、とても幸せ…ではあるけれど、なんらかの後ろめたさが自分たちを敵同士のキャラクターにたとえさせたのかもしれません。(一緒に旅行してた仲間たちを無理やり撒いて二人で遭難?)(駆け落ち雪山?)(そもそも男性同士というところで罪悪感を抱いているタイプかも)
*ともにアメコミ『バットマン』の登場人物。バットマンはヒーローであり、ジョーカーはその敵役)
・難易度3
背が伸びる音がするよとささやいて俺の鼓動は骨より軋む
A:「背が伸びる音がする」激しい成長期を迎えている、と私は読みました。ここで対象が男性なのでは?ということに気付かされます。そして、伸びやかに成長していく対象者に対して「俺」は、やましい思いを抱いている。青臭くほろ苦い、学生時代の恋の一場面なのでしょうか。
あなたは何問正解できましたか?
プロもハマった、BL短歌
BL短歌は、2012年ごろに誕生し、同人誌・ツイッターなどを通じて広がりを見せました。
その中で、プロの歌人である枡野浩一さんもBL短歌を創作しています。
遠くから大声すぎる鼻歌が近づいてきて絶対おまえ
くちびるがかたいことには慣れないと言いかけたときまたふさがれる
引用:BL短歌「ノーカウント」より
こちらの短歌のすごいところは、「男」「俺」などの性別を特定できる情報が全く入っていないというのに、男性同士の恋愛だということがほのかに伝わってくる、ということ。
第一首目は「大声すぎる鼻歌」というところで、多少粗雑めな、しかしにくめない男性(そして自分はその人を愛している)ということが読めます。
第二首目で「くちびるがかたいことには慣れない」ということは、もともとは異性愛者であったところを、この恋愛を通してはじめて同性との関係を結ぶことになったのではないか?と読めます。
難しくも面白いBL短歌
31文字という制限に加えて、さらに男性同士の恋愛を表す。ある意味、ダブルの難しさを超えなければならないBL短歌ですが、私はそれが成り立つ作品に出会ったときの「わかった……!」感に、アハ体験的な面白さを感じます。
ある程度、男性同士の恋愛の「お約束」を熟知していらっしゃる方の方が楽しみやすいかもしれません。
上記の作品を読んで、興味をおもちになった方は、各種SNSなどで「BL短歌」を検索してみてください。エブリスタには、2作品だけあるようです。(もっと盛り上がってほしい……!)
*本記事は、2018年03月06日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。