陰キャによる陰キャのための陰キャWeb小説|海猫沢めろん
突然ですがまたバ美肉しました。二回目です。
前回はツールつかってたんですけど、今回はマジでオリジナルの絵師さんに2次元受肉させてもらいました。ありがとうございます!
どうですか俺の美少女ぶり。
やっぱ陰キャのおっさんよりも、こういう陽キャな女の子に小説読んでもらってると思ったほうが気持ち良いですよね?(反論は許さない)
なかには「いや、私はおっさんのほうがいいです」というシブ好みの方がいるかもしれませんが、大丈夫です。中身はおっさんなんで。どっちでも対応できます。
さて今回、突然コーナーのレギュレーションに変更がありました。
企業コンプライアンスという名の自主規制によっていろいろと厳しい昨今ですが、その波がここにもやってきたんです!
というわけで今回からは自薦の作品を取り上げることになりました。
記念すべき初回のテーマは、「陰キャ」。
そもそも「陰キャ」なる言葉が生まれたのはここ数年のことで、「根暗」「暗いキャラ」みたいなことですが、実際に学生たちの間でつかわれているらしく、おっさんであるぼくにはそのリアルな実態がつかめていません。
今回、「陰キャ」というキーワードで小説を募集することで世間の「陰キャ」なる言葉のイメージが掴めるのではないかと興味津々です。
まずは一発目いきましょう。
陰キャポイント(略してIP)が高すぎる小説
作品名:チンポに突き刺さるディストピア感
作者:ささやか
狂気!鬱屈!日常! 理性の境界線を踏み外した頭のイカれた小説をここに
チンポに突き刺さるディストピア感がわたしの生きるよすがだ。そう思って自分じゃない誰かの不幸を祈っている。
まずね、タイトル。これ新人賞に出したら100%落とされるやつですよ! いいですね! でもここ新人賞じゃないから!
まずこういうの出してくる時点で「あ、これが世間で言われてる陰キャっていうのかな?」って感じます。
陰キャポイント(略してIP)+1です。
そして内容もタイトルに即して陰です。
主人公の鬱屈したサラリーマンは、娘を生んでレイプし続けることだけを夢見て、弱者をなぶる過激な行為を頭の中で妄想し、ひたすら毒を吐くんです。
多くの人々がこれを読んで陰な気分になるはず! IP+1です。
けれどもわたしはこうも考える。この父親のように一人の女を自分の所有物としてほしいままに犯して使うことができたらどんなに愉しい人生なのだろうか、と。きっと欲望が充足された毎日で、人はそれを幸福と呼ぶ。幸福の終わりと共に父親は死んだ。
この一節など、主人公の身勝手さに多くの人が嫌悪感を抱くこと間違いなし。
この作者さんが気になって他の作品も読んだのですが、伸びしろを感じます。こういう人がもっと本を読んで見聞を広めて見識を持てばすごい作品が生まれそう。
ポリティカル・コレクトネスという言葉をあえてふみにじっている露悪的な作品なので、書くのも読むのも覚悟がいりそうです。
やはり今の時代、陰キャが生きるのは辛いのか……。
次行きましょう。
陰キャと透明感は好相性?
作品名:愛とエクリチュール
作者:小川絢
URL:現在掲載無
北の国で惨殺事件を起こし逃亡、警察に追われ、恋人の少女と一緒に車ごと爆死。という夢を見た。色彩はゴダールの映画のようだった。
現実の俺は、午後のアパートで独りきりで目覚める。
十七歳で文壇の権威ある賞をとり、それから現在に至るまで一冊の本しか出版していない主人公、俺。同居人は編集者で、彼との愛憎渦巻く関係性のなかで悶々とする様が描かれる掌編。
これはきれいな陰キャです!
悶々と自分の思考に没頭する主人公、相手も出てこないので、本当に存在するのか不安になってきます。でもどこか文章には透明感があって、こういうの好きです。
ここから物語が始まりそうな予感もあって小説的。
かつて天才だった自分を失い、どうしようもなく絶望している、とういうシチュエーションで自動的に脳内BGMとしてsyrup16gの『天才』が流れました。
登場しない編集者というのがすごい気になりますね。主人公の陰キャぶりとは逆で陽キャだったりするのでしょうか。あるいは両方ともに陰キャだったり……。
この方、もう一作投稿してくれているんですが、これも通奏低音が響いています。
作品名:失われた革命について
作者:小川絢
URL:現在掲載無
先輩、私のマンガでは世界を革命できません。
高校三年生になってからマンガを描くのを止めた。
もう夏休みで、今は時間だけは沢山あるから、別にツタヤに行って十冊千円で借りたコミックスをむさぼり読んでも、勉強をさぼってコピックで絵を塗っていたって良いのだけど、私はマンガに関する一切のことから遠ざかっていたかった。
先輩がいない夏が、また来た。
マンガには世界を変える力があると信じていた先輩が、いない夏が。
高校三年生の夏休み。いなくなってしまった先輩。失った夢。
サブカルチャーにまみれ輝いていた日々を目を細めて思い出しながら、追悼するような作品です。
「愛とエクリチュール」とともに、どこかまだ希望を捨てていない主人公。
やはり、ここからなにかが始まる予感があります。
「小説」と「漫画」、ともに「書く」ということ、なんらかの表現に関わり、ともになにかを失っているという点が同じですが、作者さんの文章の透明感や叙情は「陰キャ」というよりも、「透明」という印象です。
さらにまたもうひとり、ぜんぜん違う作風を紹介しましょう。
カースト底辺陰キャはバーチャル美少女の夢を見るか
作品名:陰キャJKがバーチャル美少女に受肉しちゃダメですか?
作者:天麻銀
URL:現在掲載無
バーチャルアイドル × スクールカースト = 青春+ラブコメ
人気バーチャルアイドル、《銀の向日葵》。俺、剣崎(けんざき)剛毅(ごうき)も大ファンである。
ある日、学校で不良扱いされる俺は、同クラスの陰キャ女子早乙女(さおとめ)秋桜(こすもす)こそが《銀の向日葵》の中の人であることを知ってしまう。
陰キャでカースト底辺。学校でもいじめられている秋桜。バ美肉することで、シンデレラになることを夢見ていたのだ。ところが、一夜限りのシンデレラであることに悩んで、引退発言が飛び出した。
剛毅は、秋桜が見ていられなくて。技術担当として、バーチャルアイドル活動に手を貸すことに。
俺は仲間との創作活動を、秋桜は陰キャからの脱脚を目指すのだった。
出た! バ美肉(バーチャル美少女受肉=すなわち美少女アバターの中に入ること)!
あらすじでさくっと書かれてますが「陰キャでカースト底辺」やっぱそういう印象なのか……。
この小説の場合、案外昔からのギャップ萌えというか、無口なクラスの空気が実は……的展開なのでわりと安心して読めます。
バ美肉も陰キャも新しい言葉ですが、それなりの背景があるはず。この作品、バ美肉のほうに比重があり、この世界のVRチャットの設定説明などが主に重要視されています。
「陰キャ」のほうも掘り下げてほしい!
いやあ、しかし不思議です。
最初に紹介した「チンポに突き刺さるディストピア感」と後半の作品は、描かれている「陰キャ」というモチーフは同じなのにぜんぜん違うんですよね。
音楽小説を大募集中!
おっと、というわけでちょっと今回は投稿作が多いので次回、さらに投稿された「陰キャ」の世界を掘ってきます。
今回からレギュレーション変更となったこのコーナー、これを読んでいるあなたの投稿が頼りです。
むしろこのコーナーでとりあげられる確率がいま上がってます。
確変きてます! 今です! 今すぐ突っ込んで!
いま募集中のテーマは「音楽小説」です。
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ではまた。
*本記事は、2018年09月18日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。