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Q.キャラクターってどこまで掘り下げればいいですか?|海猫沢めろん

モブキャラは必要ない!

夏がきました。もう大人になってしまったぼくにとっては、かつての痛みを思い出させる季節です。
入道雲とかひまわり畑とか麦わら帽子とかもう逢えなくなってしまった白いワンピースの少女とか、彼女と行った夏祭りとか、一緒に見た花火とか、失われてしまったものばかりを思い出してしまうんですよね。まあぜんぶエロゲの話なんですが。

今回のお悩みはそんな思い出とは無関係なこちら、

今月の相談者:和倉眞吹
執筆歴:記入無
ご相談内容:ナツイチの優秀作品への選評で、『キャラクターが記号的に描かれすぎている』という批評を頂きまして、そのことでアドバイスを頂ければと思い切って相談に上がりました。
冒頭を具体例として上げられたので、モブキャラのことだと思うのですが、背景にいるキャラも一人一人掘り下げる必要があるのでしょうか?
だとしたら、どの辺りまで必要でしょうか。
主人公と直接接触するキャラだけか、その辺にいる台詞のないモブキャラもなのか……。
メイン・サブメインキャラは履歴書作りをしているのですが、背景のモブキャラまでとなると、正直頭が回りかねる気がするのですが……。
アドバイス頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

背景にいるキャラも一人一人掘り下げないといけないのか?
答えは「否」です。
モブキャラのことは掘り下げなくていいです。無視してください
じゃあどうすればいいのか?


足し算ではなく引き算

・キャラクターが記号的に描かれすぎている
・人間が書けていない

この指摘に対して作家が出来る直しは、「加筆」「そのままイキ」「削る」「再設計」のどれかなんですが、多くの初心者が「加筆」の方向で進めようとします。
ですが、最初は「削る」ことをおすすめします。違和感を指摘されるとだいたいみんな「もっとうまくやってやる!」と意気込んで加筆しようとしますが、結果的にそこだけ妙に情報過多で読みにくくなります。そういう箇所はあっさり削ってください
特に、指摘された部分がモブキャラの部分だとしたらなおさらです。

なぜかというと、モブキャラである以上、最初から作者本人がそのキャラクターを重要視していないわけで……本質的にわりとどうでもいい部分なんです。
にも関わらず、読者がそのモブキャラにひっかかりを覚えるなら、無駄に情報量が多いのかもしれません。削るか、もっと情報量を減らして最小限の描写にしましょう。

ただし、和倉さんの原稿を読むと、問題は別のところにあるのかも……。


もっとも高度な直し「再設計」

原稿内で『キャラクターが記号的に描かれすぎている』と批評されたであろう冒頭あたり。

「てめっ……!」
「よくも秀さんを!」

など、たしかにこのシーンは全体的にキャラクターふくめてテンプレかも知れません。でも、なぜ読み手がここにひっかかったのか考えてみましょう

ここは「主人公が屋上で不良グループにカツアゲされそうになるも、逆に倒す」というシーンで、主人公の特殊な見た目と意外な強さや性格が表現されていますが、この要素を読者に提示できれば、べつに「不良にからまれるシーン」じゃなくてもいいと思うんです。
つまり、

「主人公の個性を表現する方法」はいろいろあるのに、そのなかでも古いテンプレを選んでしまった。その結果、モブキャラもテンプレになってしまった最終的に、読み手に『キャラクターが記号的に描かれすぎている』という印象が残った

こういうことではないでしょうか。
問われているのはキャラクターの問題ですが、その問題は設計図から発生しているので、「再設計」をすべきです。
では、どう「再設計」をすれば良いのでしょうか。


やるべきことがわかれば再設計できる

ここまで問題が分析できていれば、再設計はそれほど難しくはありません。
シーンの目的が「主人公の特殊な見た目と意外な強さを表現する」だとしたら、無限に選択肢があります。そのなかでもっともテンプレから遠いものを選べばいいのです。

ただし、気をつけなくてはならないのは、この「再設計」が機能するのは、設計方針が本当に正しいと確信できる場合だけです。

今、私はシーンの目的を「主人公の特殊な見た目と意外な強さを表現する」としてしますが、ここが間違っていた場合はさらに間違えてしまいます
だからこそ「再設計」は高度な直しなのです。
小説に正しい答えはありませんが、書いてる作者のなかには「これをこうしたい!」という想いがあるはずです。その想いを最も純粋な形で表現できるシーンはどういうシーンなのか? その答えを出せるのはあなたと、あなたの作った登場人物だけです。

モブキャラが必要なシーン自体が、本当に必要なシーンなのか?

指摘された問題に疑いを持って分析し、もっと上のレイヤーで考えて解決することを心がければ、自ずとキャラクターにもオリジナリティが備わります。