物語の起承転結の流れを担うキャラクターの「能力」図鑑|monokaki編集部
こんな文章から始まる書籍が、4月23日に日本文芸社から発売される。以前にもmonokakiで紹介した『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑 性格・人物編』の著者であり、現役の小説家である秀島迅氏による『プロの小説家が教える クリエイターのための能力図鑑』。
冒頭にはプロローグとして「物語における【能力】の役割とは」「印象に残るキャラクターのつくり方」「プロが秘密にしたがる 能力作品の執筆ノウハウ」というページがある。ここでは本書の構成内容と活用について説明されており、本書を読むと理解できるテクニックを簡単に紹介している。
この書籍は「PART.1 ファンタジーの定番 【自然】に関する能力」「PART.2 バトルシーンで大活躍 身体の【強化・変化】を伴う能力」「PART.3 突飛がゆえに描写に注意 【サイコキネシス】な能力」「PART.4 キャラクターの内面を明確にする 【素質】スキル」「PART.5 物語のクオリティを左右する 魅せる能力描写の方法論」と全部で5パートに分かれている。各PARTの終わりには著者が書いたコラムもそれぞれ収録。また、最後には「クリエイターのためのキャラクター能力設定シート」も掲載されている。
日々創作に悩む作家さんたちにこそ読んでほしい! と思い、monokaki限定で、特別に一部掲載の許可をいただいた。
今回掲載箇所として編集部が「PART.1」「PART.2」「PART.3」「PART.4」「PART.5」から三つずつ選出し、最後に「キャラクター能力設定シート」から「STEP.3 キャラクターに能力を付与しよう」を選んでみた。まずは記事を一読してほしい。読んでみて気になった人は本書を手に取り、ご自身の創作に活かしてもらいたい。
PART.1 ファンタジーの定番 「自然」に関する能力
PART.1では、
「本章のPOINT 自然系能力の描写は技の規模感が大切」
「火・炎」
「爆破・爆弾」
「水」
「氷」
「風」
「電気・雷」
「草・木」
「土」
「宇宙」
「光」
「闇」
「磁力」
「金属」
「鉱石」
「気候・天気」
「音」
「血液」
「腐食・腐敗」
が取り上げられている。
ここでは、「火・炎」「闇」「音」を紹介する。
NO.01 火・炎
【類語】
灼熱 煉獄 烈火 猛火 焰 ファイヤー 燃焼 火花 業火 不知火
【能力を用いた例文】
絶体絶命のピンチだった。仲間の誰もが「もうダメだ」と諦めていた。と、彼が叫んだ。すると天から猛火が吹き荒れ、一瞬で敵陣が灰に変わった。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
ド派手な技が描ける自然系能力の代表格
数ある自然環境系能力のうち、最強の部類に入るのが「火・炎」です。バトルファンタジーはもちろん、あらゆる世界観の物語において、火・炎は神的人気を誇る攻撃型特殊能力といっても過言ではありません。
人気要因は、まずビジュアルにあります。火は怒りや憎しみ、恨みといった激しい感情を表し、炎となれば憤激の念が爆発した、いわば「怒髪天を衝く」状態。赤やオレンジの炎が轟々と渦巻いて敵を倒すシーンは、インパクト大でしょう。そのうえ、主人公のなかで溜まりに溜まった負の情念を噴き出して復讐を果たす、そんな展開がとても似合います。
また、高熱で焼き尽くすという無残極まりない行為は、現実世界に住む我々でも容易に想像がつく、おそろしい痛みと苦しみを伴います。その様子は、罪人を焼いて苦しめる地獄の火である「業火」を連想させます。つまり、悪や罪への戒めとして、火・炎は天命を担っているともいえるのです。
太古の人類は、火で猛獣から身を守り、凍える夜に暖をとり、肉を焼くおいしさを知りました。文明のはじまりを象徴する火だからこそ、苛烈な能力でありながら、どこか神聖さが漂うのかもしれません。
NO.11 闇
【類語】
暗黒 影 陰 夜 邪悪 禁忌 冥府 シャドウ 漆黒 昏闇 悪 地獄
【能力を用いた例文】
次々と悪魔が増えていく。みんな闇の力に侵されてしまった。このままでは街が壊滅してしまう。もはや神はいないのか? 今はただ祈るしかない。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
周囲をどう〝闇堕ち〟させるかがポイント
〝光=聖なる正義〟なら、「闇」は悪を象徴するおぞましい不義です。
暗くて深い闇は、悪魔的な能力として跳梁跋扈し、正義の味方や罪のない人々を苦しめます。[主な能力の活用法] にあるように、闇自体は固有の形を持たないため、技のバリエーションが豊富です。「邪気をまとって自身の攻撃力をアップさせる」、「影を分身のように動かす」、「相手の攻撃を、つくり出した闇のなかに吸収して無効化する」、「自身に向けられた敵意や負の感情を取り込み、力に変える」と、変幻自在に姿や力を変え、時には超常現象まで起こして、相手を窮地に陥れます。
闇の能力を描くポイントは、使う側の設定にあります。ひとりの凶悪な悪魔だけが闇の能力を駆使するのでは、シンプルすぎて恐ろしさが出ません。悪が周囲の人に憑依し、次々と闇の側へ引き込まれ、闇の力が世を浸食していく。そんな狂気的な展開が理想です。ある意味、ゾンビや化け物が世界を席巻するディストピアホラーも、すべて闇の力をテーマにした作品といえます。その雛形にどんなオリジナルテイストの闇の能力を味つけするかが、書き手としての腕の見せ所でしょう。
NO.16 音
【類語】
爆音 騒音 消音 超音波 音響 音楽 声 振動 リズム ノイズ
【能力を用いた例文】
何かが妙だ。奴が指を動かすだけで耳障りな擬音が聞こえてくる。かと思えば、突然無音になる。頭痛まで襲ってきた。これが奴の能力なのか?
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
リアルな音の描写で物語に臨場感をプラス
あらゆる「音」を自在にコントロールできる能力。
これまで解説してきた数々の自然系能力からすると、あまり華がない力に感じられるかもしれませんが、それはちがいます。
私たちは普段の生活で常に音を受け入れながらも、特別意識せず暮らしています。もし、金属を激しく擦る嫌な音が鳴り止まなければどうしますか? 凄まじい絶叫が轟き続けたらどうでしょう? 耳鳴りのような鼓膜を刺す鋭利な音が延々続く状況で眠れますか?
何より、もっとも恐ろしいのは無音の状態です。聴覚が奪われたように一切の音が聞こえなくなれば、たとえ目が見えていても気配を感じ取る能力は半減します。音というのはそれほどまでに感覚のなかで重要なポジションを占め、それを操れる能力の持ち主とは、強大な影響を他者に及ぼし得るのです。
ただし、難点がひとつ。文字という視覚情報で、音をリアルかつ印象的に描写して物語に仕上げるのは、プロであっても困難を極めます。最後まで書き切れるか、まずは綿密なプロットを組み立てて検証しましょう。
PART.2 バトルシーンで大活躍 身体の「強化・変化」を伴う能力
PART.2では、
「本章のPOINT 身体の強化は物語にスピード感を与える」
「硬化」
「軟化」
「粘着」
「パワー強化」
「スピード強化」
「バリア・回避」
「飛行・空中浮遊」
「巨大化」
「微小化」
「増殖・分身」
「重力・引力」
「回復」
「状態異常」
「変化・変身」
「獣化・神獣化」
「不死」
が取り上げられている。
ここでは、「硬化」「回復」「獣化・神獣化」を紹介する。
NO.01 硬化
【類語】
硬変 硬直化 固化 石化 凝固 剛性 硬質 強張る ハード
【能力を用いた例文】
無敵を誇る騎馬隊で囲い込み、槍でめった刺しにしたが、敵は無傷のままだ。と、鋼のような拳を突き上げてきた。騎馬隊が次々と倒されていく。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
味方にほしい無敵の防御力
生身の人間の弱さが〝柔らかさ〟にあることに、お気づきでしょうか? 歴代の戦士たちが重いプレートアーマーや甲冑で全身を覆ったのは、もちろん敵の刀剣や矢じり、銃撃から身を守るためであり、もし攻撃に対する頑強な耐性が備わっている軍勢がいたら、戦局は激変するでしょう。
全身にまとう装着型防具は紀元前の昔に誕生し、可動性や防御力を高めるため、世界各国で独自の進化を遂げてきたといわれます。つまり、古今東西の戦士にとって人体の〝柔らかさ〟の克服は永遠のテーマでした。
そこで「硬化」です。戦闘に際して自らの意志で肉体を鎧化できれば、向かうところ敵なし。さらには左頁にあるように、「鈍器のように用いて攻撃する」、「刃物に変えて切り裂く」と、防備の範疇を超え、全身を武器化した無双のファイターへと生まれ変わることができます。
一見シンプルに思える硬化の能力ですが、じつは人類が渇望した戦士の理想形なのです。ゆえに、硬化を強みとする無敵キャラはしばしば漫画や映画に登場します。既存の作品と差をつけるには、能力の特性や戦う敵の設定を十分に練り、独自のエンタメ性を追及することが必須です。
NO.12 回復
【類語】
治癒 治療 修復 ヒーリング 蘇生 再生 解毒 復活 手当て 転生
【能力を用いた例文】
どれだけ傷つけても瞬く間に蘇生していく。まさに不死身の体を持つ男だ。対して我が軍は次々とやられていく。私たちにも回復の能力があれば――。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
自分か人か、使い道でイメージが変わる
付与するキャラクターが善悪の真逆に分かれてしまう「回復」の能力。その違いは〝人のため〟か〝自分のため〟かという、相反する二方向の選択肢があるがゆえに生じます。
まず、〝人のため〟に回復の能力を使うキャラは、聖母のように慈愛に満ちた優しさを持ちます。戦いに敗れ、不当な暴力で虐げられ、罪なく致命的な傷を負った人々を不思議な力で治癒するこのキャラには、人徳を極め、誰からも尊崇される聖人が似合うでしょう。もちろん正義の側として仲間を支えます。一方、〝自分のため〟に回復の能力を独占するキャラは、他人を顧みず、自己欲のために生きる傲慢さを持ちます。自らの肉体が不死身であることを強みに傍若無人ぶりを極めるこのキャラは、忌み嫌われながらも絶大な力で周囲を圧倒。そうなれば当然、悪の側として自己欲をさらに拡大し、罪深き所業で人々を苦しめます。
回復の能力自体は攻撃性を備えませんが、人に施すか、独占するかで、役割や意味合いが異なってきます。視点を移動させ、能力が及ぼす多様な影響を考えれば、ドラマ性の高い奥行ある物語構成が実現可能です。
能力が及ぼす影響を相関図で分析するのも一手
NO.15 獣化・神獣化
【類語】
擬獣化 ドラゴン ペガサス ワイバーン 狼 熊 精霊 番人 幻獣
【能力を用いた例文】
一兵士かと思っていたら、突然、大トカゲに変化した。戦闘を重ねるうちに今度は巨大ワニに変わり、最後はドラゴンにまで。勝てるわけがない。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
オリジナルアレンジで目新しい作品に
変化・変身後の姿が、動物か伝説上の生き物に特化している「獣化・神獣化」。ファンタジーでは善悪を問わずお約束のキャラであり、見せ場をつくる役どころとして、特にバトルシーンで大活躍します。
一般的に正義キャラなら、ペガサス、フェニックス、ユニコーンといった神々しい幻獣に変身するのがセオリーです。動物であれば白い鷲や金色の狼など神聖な特長を備えたタイプが定番。悪役キャラの場合は、ケルベロス、ヒュドラ、クラーケンと、禍々しい幻獣がよく見られます。毒ヘビや吸血コウモリなど、危険な動物も悪の手先としてしばしば登場します。
ただし、獣化・神獣化キャラは、古今東西のエンタメ作品(ゲームを含む)で多用されて目新しさがないのが難点。
よって、オリジナルアレンジを施すべきです。たとえば [ 大トカゲ→巨大ワニ→ドラゴン ] と、段階的変化を遂げるステップアップ方式。満月の夜に狼男へと変身するように、独自の変化トリガーを編み出すのもありです。あるいは既出のメジャーな神獣に倣って、人と猛獣の融合による新たな獣化キャラを開発するなど、独創的かつ柔軟な発想でトライしましょう。
ケルベロスは地獄の番犬
ヒュドラは9つの頭を持つ大蛇
クラーケンは海に棲む巨大軟体動物
PART.3 突飛がゆえに描写に注意 「サイコキネシス」な能力
PART.3では、
「本章のPOINT 無限にアレンジ可能 超有能なサイコキネシス」
「超人的スキル 」
「超言語スキル」
「霊的スキル」
「創造」
「破壊」
「調和」
「空間移動スキル」
「脳内操作」
「心理操作」
「人体操作」
「物体操作」
「人形操作」
「生物操作」
「時間操作」
が取り上げられている。
ここでは、「超人的スキル」「心理操作」「時間操作」を紹介する。
NO.01 超人的スキル
【類語】
超越 卓越 限界突破 逸脱 天才 最強 ヒーロー カリスマ
【能力を用いた例文】
次から次へと特殊な力を持つ奴らが襲ってくるぞ。俺が目論む世界征服の野望を妨害するために。もしかして、こいつらが巷で噂の超人たちなのか?
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
能力設定で重要な5つのポイントとは
透視、未来予知、空中浮遊、能力奪取、水中呼吸、瞬間移動、ワンパン、鋼メンタル――常人にない、一芸に秀でた「超人的スキル」は、今やヒーローファンタジーの定番。あの手この手で趣向を凝らした超人的スキルが次々と現れ、その使い手が映画や漫画やアニメで活躍しています。
ユニークな能力を閃くのは案外簡単です。先に挙げたように、普通の人間に不可能なことを可能にすれば、それが超人的スキルとなるわけですから。問題はその先です。
以下に押さえるべきポイントを列挙してみました。
☑ どのようにして超人的スキルを獲得したのか?
☑拮抗する敵のスキルと強さのバランスはとれているか?
☑物語のテーマやメッセージとリンクするスキルか?
☑ピンチを演出できるスキルの制限を設定したか?
☑キャラとスキルが違和感なくフィットしているか?
これら5項目は最低限クリアすべきもの。スキルの面白さを描くだけでなく、読者が納得できる物語の詳細設定と展開の緩急を意識しましょう。
NO.09 心理操作
【類語】
精神操作 印象操作 マインドコントロール 心理掌握 読心 メンタル
【能力を用いた例文】
王に睨まれただけで心を鷲掴みされたように逆らえなくなる。民のほとんどは従順な犬のようになってしまった。このままでは国が乗っ取られる。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
〝裏切り〟展開をつくり味方も読者もだます
「心理操作」もまた、前頁で解説した脳内操作と同じメンタル支配系能力です。その違いは、文字通り〝心〟に特化する点でしょう。
[類語] をご覧ください。精神操作、印象操作、マインドコントロール、心理掌握などと、こちらはやや霊的・オカルト寄りの能力ともいえます。それゆえに、妖術や魔術と絡めたスキルとして設定すれば、幅広いファンタジー分野の世界観に適応可能です。もちろん、現代社会を舞台としたミステリー、サスペンス、ホラーなど、ほかの多彩なジャンルでも扱えます。
この能力を描くうえでのポイントは、とにかく持ち主となるキャラクターのつくり込みでしょう。
ひとつの方向性は、カリスマ性のある絶対君主です。闇の力として国を支配し、悪の軍団を率いて猛威を奮う、暴君のボスキャラが似合います。
もうひとつの方向性は、意外な人物がこの能力を駆使して人々を災禍に陥れていたという、どんでん返し系ミステリーの真犯人役です。
一方、目に見えない心理状態の微細な変化や変容を文章で表現するのが、この能力の醍醐味であり悩ませどころ。巧みな筆致が要求されます。
NO.14 時間操作
【類語】
時空移動 タイムトラベル タイムスリップ タイムリープ 時計
【能力を用いた例文】
気がつけば中2の夏休みで、あの教室にいた。3年前の事件が今まさに起ころうとしている。止めるべき? でも、過去を変えたら……。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
何回リセットしても、結局 〝今が一番〟
人類の永遠の夢である「時間操作」。過去や未来を行き来する物語は根強い人気を誇ります。ところで [類語] にもあるように、しばしば混同されがちな「タイム~」ではじまる3語をここでおさらいしておきましょう。
●タイムトラベル:乗り物やシステムを利用して時空を移動する
●タイムスリップ:ハプニング的なきっかけで時空を彷徨ってしまう
●タイムリープ:自身に備わる特殊能力によって時空を移動する
いずれにせよこの能力の魅力は、修復不可能な過去をリセットでき、予測不能な未来に立ち会えることです。一見するとパーフェクトな人生が完成しそうですが、タイムパラドックスが生じたり、想定外の敵や妨害者が現れたりして、なかなか当初の目的は果たせません。結局、今を一生懸命生きることでしか報われない、という結論に辿り着くのが物語の定番です。
ポイントは作品のテーマにあります。時空を超越して解決できる一方で犠牲が伴うという葛藤に苦しみ、時の流れに逆らわない真実の在り方に気づいて、再生の一歩を踏み出すドラマ性を盛り込みましょう。時間という壮大な題材だけに、教訓的なテーマを示唆するエンディングが不可欠です。
PART.4 キャラクターの内面を明確にする「素質」スキル
PART.4では、
「本章のPOINT キャラクターの素質も物語に欠かせない能力」
「リーダースキル」
「目標達成スキル」
「戦略スキル」
「サバイバルスキル」
「頭脳スキル」
「クリエイティブスキル」
「一芸一能スキル」
「バイオレンススキル」
「サポートスキル」
「姑息スキル」
「指導スキル」
「恋愛スキル」
「根性スキル」
「上品スキル」
「お笑いスキル」
「特殊スキル」
が取り上げられている。
ここでは、「リーダースキル」「恋愛スキル」「特殊スキル」を紹介する。
NO.01 リーダースキル
【類語】
ボス 先導者 盟主 頭領 団長 マスター 代表 キャプテン
【能力を用いた例文】
A 君は完璧すぎて私にはちょっと荷が重いし、疲れる。対して B 君は適度な弱さや緩さがあって逆に共感できる。次の生徒会長は B 君がいいな。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
少し抜けてるくらいが読者の共感をあおる
ヒーローには2通りのキャラクターのタイプがあります。
ひとつは孤高の存在として、常にひとりきりで戦うタイプ。もうひとつはバディや仲間がいて、みんなで共闘するタイプです。
往々にして孤高のヒーローは、心の傷やトラウマのせいで、強いけれどネガティブなメンタルに潜む闇を抱えています。いわゆるダークヒーロー(あるいはヒロイン)もこの系統です。一方、共闘するヒーローはポジティブが売り。腕っぷしはもちろんメンタルも強く、不屈の精神力が自慢ですから、周囲の人が頼り、憧れます。そうやっていつも仲間に囲まれながら持ち前の「リーダースキル」を振るい、さらにチームを盛り上げます。
これは私の個人的な意見ですが、昨今の時勢を鑑みた場合、後者の共闘タイプは煩わしく感じます。むしろ多様性の広がりも相まって、心の弱い孤高タイプのほうが読者から支持がされやすいと思います。昨今、ダークヒーローが登場する作品が多いのも、おそらくそうした背景からではないでしょうか。だとすれば不完全なリーダーも全然ありですし、リーダーの資質をもっと自由に捉えるべきかもしれません。
NO.12 恋愛スキル
【類語】
愛嬌 駆け引き 色恋 ロマンス 青春 色仕かけ 誘惑 ひと目惚れ
【能力を用いた例文】
いつの間に盗まれたんだ? もしかして彼女とお茶している間に? あまりに魅力的な女性だったのでつい見とれてしまった。こいつはヤバいな。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
時代に合わせて恋愛の形もアップデート
ひと昔前のスパイアクション系の映画や漫画やアニメで、必ずといっていいほどキャスティングされたのが「恋愛スキル」を売りにする女性サブキャラです。色仕かけで誘惑して男性を翻弄し、お目当ての宝石や重要機密をするりと盗んで消えてしまう――そんな恋愛スキルを備える女性には、さまざまなキーワードが当てはまりました。たとえば、「紅一点」、「謎の美人」、「悪女」、「小悪魔」、「魔性の女」など。しかし、令和の現在では見かけることが少なくなりました。
多様性を含め、さまざまな価値観や捉え方を尊重すべき昨今では、ともするとデリケートな問題を内包するリスクもあるため、恋愛スキルを売りにするキャラクター自体がタブー視される傾向にあります。
ただ、方向性を変えた恋愛スキルならどうでしょう。たとえば、人間よりも人間らしい AI が軍で極秘開発され、なぜか恋愛スキルを習得し、ネットを介してとある女子高生と恋に落ちてしまうとか。時代の変遷にあわせてアレンジすれば、さまざまな可能性が溢れているはず。恋愛自体は誰もが共感しやすい魅力的な題材です。ぜひトライしてみてください。
NO.16 特殊スキル
【類語】
特異 独自 独特 特別 スペシャル エキセントリック マイナー
【能力を用いた例文】
烏合の衆だと思っていたが、個々の特殊スキルを連携すると、とんでもない偉業を成し遂げている。奴らはこの1件で人間的にも成長したと思う。
主な能力の活用法
能力を描写する関連語と文章表現
単体だと扱いづらい能力はチームで使う
PART.4 のラストで取り上げるのは「特殊スキル」全般です。
左頁からピックアップすると、大食い、酒豪、強運、錬金術、千里眼など、さまざまなスキルが並んでいます。とはいえ個別ではインパクトが弱く、主人公に特化して与えるにはやや難あり、という印象は否めません。
こうした地味系の特殊スキルであっても、集合体にすればユニークな演出効果を発揮して物語の核となります。一番わかりやすい例は、数人の癖ありキャラが集まってチームを結成し、とあるミッションを達成するという設定の物語でしょう。そのチームには、根暗なハッカー、金庫破りの名人、爆発物づくりの職人、変装のプロ、詐欺の達人といった、〝悪芸〟に秀でたキャラが勢揃い。そうして各々の特殊スキルの連携で、数々の障害や試練をクリアし、完遂不可能なミッションを成功に導きます。
ポイントは、一つひとつのスキルが世の役に立たなくても、力を合わせれば大きな目標を達成できる点です。さらに一匹狼的な癖ありキャラが友情に目覚めて助け合うなど、人間的成長を遂げるのもストーリーの屋台骨を支えます。あらゆるスキルは使い方次第で有効に活用できるのです。
PART.5 物語のクオリティを左右する 魅せる能力描写の方法論
PART.5では、
「本章のPOINT 面白い作品を作るには〝説得力〟が必須」
「能力設定に大切な4大要素」
「キャラクターと能力の組み合わせの法則」
「能力が先天的か後天的かでキャラ像は大きく変わる」
「キャラが絶対魅力的になる能力獲得〜目標達成まで」
「〝辻褄合わせ〟は物語創作に必要なスキル」
「起承転結の「結」で大切なこと」
「主人公の能力は「進化・発展」前提で設定する」
「王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣」
が取り上げられている。
ここでは、「能力設定に大切な4大要素」「起承転結の【結】で大切なこと」「王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣」を紹介する。
NO.01 能力設定に大切な4大要素
世界観を意識しなければ物語は成立しない
特殊な能力は、物語の展開をがぜん盛り上げ、キャラ立ちに有効的であるとはいえ、やみくもに付与してはいけません。
まず書き手は、自分が描こうとする物語の世界観と、登場人物たちの傾向をしっかり固めることです。次に、ストーリーの方向性と読者層を明確に定めましょう。これらの骨子がブレることなく決まったうえで、どのカテゴリーの能力を採用・導入するかを検討していくことが大切です。
能力の選定において重要なのは、「適切」か「不適切」かの眼識です。わかりやすく解説するため、ひとつ例を挙げましょう。
舞台設定が現代で、現実の世界に空想的なキャラクターが登場するローファンタジーの物語を書くとします。となれば当然、街や車が存在し、多くの登場人物は普通の人間です。そういうリアルな世界観のなか、自然環境の激変を自在に操れるファンタジックな敵キャラクターが登場し、いきなり天変地異のパニックを起こしてしまえばどうでしょうか?
読者はあまりに唐突かつ非現実な展開に唖然とし、また、現代の現実世界を舞台とした意味も効果も薄れます。つまり、世界観と特殊能力がフィットしない、「不適切」な状態に陥ってしまうのです。
登場人物に関しても同様です。
たとえば、異次元の魔界を舞台としたハイファンタジーを書くとします。舞台設定は異世界で、主人公は転生ワープした女子高生としましょう。彼女は物語のヒロイン的存在のキャラクターで、キュートかつ可憐な魅力に満ちています。
このヒロイン女子高生の特殊能力が、ドロドロに液体化したり、ブクブクと肥大化したりする身体異形タイプだとしたらどうでしょうか?
絵を想像しただけで、読者は幻滅してしまいますね。登場人物像にマイナス効果をもたらす特殊能力を付与すると「不適切」な状況に陥ってしまい、せっかくの物語が成立しなくなります。
ところが動植物と話せる超言語スキルや、相手の心の一歩先を読む超読心術を持つなら一転、魅力的な能力として期待の持てる展開がイメージできます。つまり、女子高生というキャラクターにマッチした「適切」な状態として、物語が成立しやすくなるのです。
創作において、自由な発想と大胆なアイデアは大切ではあるものの、必然性に欠ける突飛な閃きを盲信すべきではありません。一歩引いて読者側の目線を考慮する眼識を、書き手なら常に備えるべきです。
NO.06 起承転結の「結」で大切なこと
物語に必要なのは〝リアリティ〟と〝説得力〟
「能力は、物語のどの辺りでどういうふうに登場させる?」「どんな終わり方にすればエンディングがきれいにまとまる?」
これらはよく聞かれる質問です。実際のところ、特殊な能力を物語に登場させるには、それなりの下準備が求められます。一にも二にも心に留めておくべきは、〝リアリティ〟と〝説得力〟です。それらを作品に深く浸透させるために、たとえ能力が現実世界には存在しないフィクションツールであっても、序盤で3つの要件を明確にしてください。
それは、「WHEN(いつ)?」と「WHY(なぜ)?」と「HOW(どうやって)?」です。
まず「WHEN(いつ)?」ですが、先天的であれ後天的であれ、能力が付与される時期を明確に設定して描写しましょう。いつの間にか備わっていた、では読者の興味が一気に失せてしまいます。
続いて「WHY(なぜ)?」。必然性が明らかでなければ、キャラクターの魅力と物語のテーマが曖昧になってしまいます。
最後に「HOW(どうやって)?」。能力が備わるプロセスの明示があってこそドラマが生まれ、力の種類やレベル、制限を設定しやすくなります。
そして、何よりも留意すべきは、物語の世界観と能力とのリンクです。
もし魔法世界が舞台であれば、魔法を駆使した展開で読者は納得します。仮想ゲーム世界へのバーチャル転生であれば、ゲームルールに則った能力での攻防戦が成立します。つまり主人公たちが動き回る舞台と、そこで違和感のない特殊な力を合致させなければ、〝リアリティ〟と〝説得力〟が生まれません。さらに冒頭の質問に答えるなら、次のような展開テンプレートを意識してみてください。
能力が登場するのは、主に「承」と「転」。「結」では能力を使い切り、消滅させるのもありです。さらに「結」で何より大切なのは、主人公が奮った能力で世界がどう変わったかという着地点。能力がなくとも幸せな未来を暗示してこそ、真のハッピーエンドを迎えます
NO.08 王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣
能力は〝キャラ立ち〟のために重要なツール
早いもので、本章もラストとなってしまいました。ここではあらためて物語創作の礎に関わる、根本的なメソッドを包括したお話をします。
まずは本書で何度も登場する、王道テンプレートについてです。
ご存じの通り、王道とは読み手の期待と願望に応える展開でエンディングを迎えること。「こうなってほしい」という大多数の読み手の願う結末を裏切ることなく、読後にカタルシスと満足感を与える物語をいいます。
とはいえ、「そこまで定型化されていたらオリジナルの王道作品を書くのはもはや難しいのでは?」という声がしばしば聞かれます。
答えは「ノー」です。王道とは、物語のジャンルやカテゴリーの域を超えた、あくまで大枠でのストーリー展開の在り方を指します。
ファンタジー、サスペンス、アクション、SF、ミステリー、ノワールなど、物語創作ではあまたの分野が存在し、当然ながら世界観は書き手のイメージやセンスによって千差万別です。さらに、キャラクターに付与する能力やスキルは無限につくり出せるうえ、登場人物も変幻自在な設定が可能。
つまり、王道とは物語を入れる大きな器であると考えてください。そのなかで無数に並ぶ一つひとつの物語は、すべて色や形が異なります。
続いて、魅力ある物語を書くために注力すべき 3 要素を解説します。
なかでも大切なのは、キャラ造形、これに尽きます。心惹かれるキャラクターというのは、長所と短所の両面を備え、どこか憎めない性格なり特徴が見え隠れするもの。非の打ちどころのない正義漢や、弱さや悪さが皆無の完全無欠な人物は読者から好かれません。自分との共通点を見出せない、あくまでフィクションの遠い存在となってしまうからです。
次は、感情の起伏を丹念に描き切ることです。主人公のみならず、悪役や脇役の心情も要所要所でしっかり描写し、対人関係の構図を明示することでドラマが盛り上がります。そのためには、会話による構成を重要視する必要があり、必然的に読みやすく、理解しやすい内容になります。
最後は、主人公の主義と目標です。戦う意義や守るべき存在を明らかにすること。これこそが物語を牽引するテーマやメッセージにつながります。
さて、本書で紹介した特殊な能力は、キャラ立ちのためのツールとなり、物語に独自性とエンタメ性をもたらす原動力にもなり得ます。とはいえ、上記 3 要素のどれかひとつでも欠落すれば、作品の魅力は半減します。
書き手にとって求められるのは、常に読者目線を忘れない、バランス感覚に優れた構成力と俯瞰視点であることを覚えておきましょう。
書き込み式 クリエイターのためのキャラクター能力設定シート
書き込み式では、「キャラクターの基本設定を考えよう」「キャラクターの素質を決めよう」「キャラクターに能力を付与しよう」「能力にまつわる細かい設定を考えよう」「能力を生かしたストーリーを完成させよう」が取り上げられている。
ここでは、「キャラクターに能力を付与しよう」を紹介する。
「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。