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物語の起承転結の流れを担うキャラクターの「能力」図鑑|monokaki編集部

 キャラクターが火や風、電気を自在に操り世界を掌握する、主人公が時空を超えて転生する――。
 世の中には、そのようなファンタジー作品やバトル系作品が数多く存在します。読み進めるごとに高まる没入感、ダイナミックで想像力豊かな描写に憧れて、筆をとった方も多いでしょう。
 本書を手に取っていただいたのも、キャラクターに授けるオリジナリティ溢れる能力を知りたいと思ったからではありませんか?
 読者が面白いと感じる作品には、とある共通点があります。それは巧みな文章表現が随所に織り込まれていること。書き手がどれだけ突飛で面白い能力を思いついたとしても、それを的確に描写し、読者に伝えるだけの表現力がなければ受け入れてもらえません。
 文章表現こそが物語のクオリティに直結するのです。
 さて、本書は物語世界に登場するさまざまな能力について、特徴や長所、短所、キャラとの相性、活用方法、タブーなど、多角的な視点で解説するクリエイターのための創作実用書です。壮大なスケールの大技から、ユニークかつニッチな小技まで、ありとあらゆる世界観で活用できる多種多様な能力を取り上げ、一挙にご紹介しています。
 能力とは、パワーレベルや扱うモチーフによって千差万別。いわば無限に存在する力といえます。能力という言葉を辞書で引いてみると〝物事を成し遂げられる力〟とあるように、じつは火を吹いたり、瞬間移動したりする、ファンタジックでドラマティックな力だけではありません。
 私が本書を通してお伝えしたいのは、能力の種類や特徴のみならず、それらを使うキャラクターにフォーカスすること。どのように人物像や舞台設定、世界観とリンクして描けば物語を面白くできるかという、創作全体に及ぶノウハウです。
 そこには能力の大小を問わず、一貫した法則があります。
 みなさまには能力を描写する文章表現を学ぶだけでなく、物語創作という俯瞰した大きい枠で、本書をお読みいただけると幸いです。読後には、これまで気づかなかった執筆能力を会得できるに違いありません。

 こんな文章から始まる書籍が、4月23日に日本文芸社から発売される。以前にもmonokakiで紹介した『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑 性格・人物編』の著者であり、現役の小説家である秀島迅氏による『プロの小説家が教える クリエイターのための能力図鑑』。
 冒頭にはプロローグとして「物語における【能力】の役割とは」「印象に残るキャラクターのつくり方」「プロが秘密にしたがる 能力作品の執筆ノウハウ」というページがある。ここでは本書の構成内容と活用について説明されており、本書を読むと理解できるテクニックを簡単に紹介している。

 この書籍は「PART.1 ファンタジーの定番 【自然】に関する能力」「PART.2 バトルシーンで大活躍 身体の【強化・変化】を伴う能力」「PART.3 突飛がゆえに描写に注意 【サイコキネシス】な能力」「PART.4 キャラクターの内面を明確にする 【素質】スキル」「PART.5 物語のクオリティを左右する 魅せる能力描写の方法論」と全部で5パートに分かれている。各PARTの終わりには著者が書いたコラムもそれぞれ収録。また、最後には「クリエイターのためのキャラクター能力設定シート」も掲載されている。

 日々創作に悩む作家さんたちにこそ読んでほしい! と思い、monokaki限定で、特別に一部掲載の許可をいただいた。

 今回掲載箇所として編集部が「PART.1」「PART.2」「PART.3」「PART.4」「PART.5」から三つずつ選出し、最後に「キャラクター能力設定シート」から「STEP.3 キャラクターに能力を付与しよう」を選んでみた。まずは記事を一読してほしい。読んでみて気になった人は本書を手に取り、ご自身の創作に活かしてもらいたい。

PART.1 ファンタジーの定番 「自然」に関する能力

PART.1では、
「本章のPOINT 自然系能力の描写は技の規模感が大切」
「火・炎」
「爆破・爆弾」
「水」
「氷」
「風」
「電気・雷」
「草・木」
「土」
「宇宙」
「光」
「闇」
「磁力」
「金属」
「鉱石」
「気候・天気」
「音」
「血液」
「腐食・腐敗」
が取り上げられている。
ここでは、「火・炎」「闇」「音」を紹介する。


NO.01 火・炎

【類語】
灼熱 煉獄 烈火 猛火 焰 ファイヤー 燃焼 火花 業火 不知火

【能力を用いた例文】
絶体絶命のピンチだった。仲間の誰もが「もうダメだ」と諦めていた。と、彼が叫んだ。すると天から猛火が吹き荒れ、一瞬で敵陣が灰に変わった。

主な能力の活用法

・火球で攻撃する
・マグマを流し込む
・火柱を起こして焼き尽くす
・炎の壁で味方を守る
・傷口を炎で焼いて止血する
・たいまつを灯す
・牢獄の柵を炎で溶かして味方を助け出す
・タバコに火をつける
・炎をまとった剣を振りかざす
・火遁の術で敵を一掃する
・薪を燃やして暖をとる
・紙に火で熱を加えて暗号をあぶり出す
・自身の腕や脚に炎をまとわせて攻撃する


能力を描写する関連語と文章表現

・放たれた火球は地獄の業火の如く辺り一帯を焼き尽くした
・突如出現した火のカーテンに取り囲まれ、迫りくる烈火の勢いに意識がもうろうとする
・炎をまとった矢を放つと、静まり返った夜の街が煌々と光った
・傷口を火で焼くと、痛々しい傷が跡形もなく消えた
・凍えた体に薪の暖かさが染みる
・ポケットからタバコを取り出し口にくわえると、煙が立ち上る
・得体の知れない言葉で不気味な詠唱がなされると、敵の手に炎燃え盛る剣が現れた
・地上高くまで立ち上った火柱が、辺りを焼き尽くしながらだんだんとこちらに近づいてくる


ド派手な技が描ける自然系能力の代表格

 数ある自然環境系能力のうち、最強の部類に入るのが「火・炎」です。バトルファンタジーはもちろん、あらゆる世界観の物語において、火・炎は神的人気を誇る攻撃型特殊能力といっても過言ではありません
 人気要因は、まずビジュアルにあります。火は怒りや憎しみ、恨みといった激しい感情を表し、炎となれば憤激の念が爆発した、いわば「怒髪天を衝く」状態。赤やオレンジの炎が轟々と渦巻いて敵を倒すシーンは、インパクト大でしょう。そのうえ、主人公のなかで溜まりに溜まった負の情念を噴き出して復讐を果たす、そんな展開がとても似合います。
 また、高熱で焼き尽くすという無残極まりない行為は、現実世界に住む我々でも容易に想像がつく、おそろしい痛みと苦しみを伴います。その様子は、罪人を焼いて苦しめる地獄の火である「業火」を連想させます。つまり、悪や罪への戒めとして、火・炎は天命を担っているともいえるのです。
 太古の人類は、火で猛獣から身を守り、凍える夜に暖をとり、肉を焼くおいしさを知りました。文明のはじまりを象徴する火だからこそ、苛烈な能力でありながら、どこか神聖さが漂うのかもしれません

火力によって意味や規模が変わってくる


NO.11 闇

【類語】
暗黒 影 陰 夜 邪悪 禁忌 冥府 シャドウ 漆黒 昏闇 悪 地獄

【能力を用いた例文】
次々と悪魔が増えていく。みんな闇の力に侵されてしまった。このままでは街が壊滅してしまう。もはや神はいないのか? 今はただ祈るしかない。

主な能力の活用法

・影のなかを自由に移動する
・邪気をまとって自身の攻撃力をアップさせる
・暗闇でも見える目を使い、隠密活動をこなす
・影を分身のように動かす
・影を踏んだ相手をその場に封じ、動けなくさせる
・相手の攻撃を、つくり出した闇のなかに吸収して無効化する
・瘴気を発生させて、相手の防御力を下げる
・闇堕ちして、限界を超えた絶大な力を操る
・自身に向けられた敵意や負の感情を取り込み、力に変える


能力を描写する関連語と文章表現

・影が意思を持つ生命体のように動き出し、やがて人型となってこちらに向かってくる
・辺りが暗闇に包まれるとみるみる気温が下がり、夜明け前には凍える寒さとなった
・取り込まれた闇のなかは、音も光もなく、ただ自分の意識だけがもうろうと浮かんでいる
・逃げ出すもすでに遅く、自身の影で縛りつけられた体はピクリとも動かない
・蔓延する瘴気は人々の意識を黒く染め上げ、光のない絶望の淵へと陥れる
・影に飛び込んだかと思うと、そのまま鳴りを潜め、好機をうかがっているようだ


周囲をどう〝闇堕ち〟させるかがポイント

 〝光=聖なる正義〟なら、「闇」は悪を象徴するおぞましい不義です。
 暗くて深い闇は、悪魔的な能力として跳梁跋扈し、正義の味方や罪のない人々を苦しめます。[主な能力の活用法] にあるように、闇自体は固有の形を持たないため、技のバリエーションが豊富です。「邪気をまとって自身の攻撃力をアップさせる」、「影を分身のように動かす」、「相手の攻撃を、つくり出した闇のなかに吸収して無効化する」、「自身に向けられた敵意や負の感情を取り込み、力に変える」と、変幻自在に姿や力を変え、時には超常現象まで起こして、相手を窮地に陥れます。
 闇の能力を描くポイントは、使う側の設定にあります。ひとりの凶悪な悪魔だけが闇の能力を駆使するのでは、シンプルすぎて恐ろしさが出ません。悪が周囲の人に憑依し、次々と闇の側へ引き込まれ、闇の力が世を浸食していく。そんな狂気的な展開が理想です。ある意味、ゾンビや化け物が世界を席巻するディストピアホラーも、すべて闇の力をテーマにした作品といえます。その雛形にどんなオリジナルテイストの闇の能力を味つけするかが、書き手としての腕の見せ所でしょう。

闇の能力は世界に蔓延したほうが恐ろしい


NO.16 音


【類語】
爆音 騒音 消音 超音波 音響 音楽 声 振動 リズム ノイズ

【能力を用いた例文】
何かが妙だ。奴が指を動かすだけで耳障りな擬音が聞こえてくる。かと思えば、突然無音になる。頭痛まで襲ってきた。これが奴の能力なのか?

主な能力の活用法

・爆音を鳴らして敵を威嚇する
・音を消して敵に近づく
・音を具現化させてそのまま相手にぶつける
・相手をリズムに乗せて延々と踊らせる
・超音波を発して頭痛を誘発し、動けなくさせる
・遠くの音や声を聞き取り、敵の居場所を探索する
・空気を大きく振動させて衝撃波を打ち込む
・自身の声を変声させてほかの人になりすます
・子守歌で相手を眠らせる歌唱によって傷を癒す


能力を描写する関連語と文章表現

・けたたましく鳴り響く爆音に、ただ耳を押さえてしゃがみ込むことしかできない
・音が放たれた瞬間、思いもよらないほどの激しい衝撃波が全身を駆け巡った
・いつまでも聞いていたい安らかな歌声に、傷ついた体がじわじわと癒されていく
・どこからか聞こえてくる音に耳を澄ませていると、世界がゆがんで目の前が真っ暗になった
・つんざくような高音が部屋中に響き渡り、それを聞いた者たちの意識を奪っていく
・笛から奏でられる音は実体を持って遠くへ降り注ぎ、街全体を覆う巨大な結界が完成した


リアルな音の描写で物語に臨場感をプラス

 あらゆる「音」を自在にコントロールできる能力。
 これまで解説してきた数々の自然系能力からすると、あまり華がない力に感じられるかもしれませんが、それはちがいます
 私たちは普段の生活で常に音を受け入れながらも、特別意識せず暮らしています。もし、金属を激しく擦る嫌な音が鳴り止まなければどうしますか? 凄まじい絶叫が轟き続けたらどうでしょう? 耳鳴りのような鼓膜を刺す鋭利な音が延々続く状況で眠れますか?
 何より、もっとも恐ろしいのは無音の状態です。聴覚が奪われたように一切の音が聞こえなくなれば、たとえ目が見えていても気配を感じ取る能力は半減します。音というのはそれほどまでに感覚のなかで重要なポジションを占め、それを操れる能力の持ち主とは、強大な影響を他者に及ぼし得るのです。
 ただし、難点がひとつ。文字という視覚情報で、音をリアルかつ印象的に描写して物語に仕上げるのは、プロであっても困難を極めます。最後まで書き切れるか、まずは綿密なプロットを組み立てて検証しましょう。

音には雄弁に物語る力がある


PART.2 バトルシーンで大活躍 身体の「強化・変化」を伴う能力

PART.2では、
「本章のPOINT 身体の強化は物語にスピード感を与える」
「硬化」
「軟化」
「粘着」
「パワー強化」
「スピード強化」
「バリア・回避」
「飛行・空中浮遊」
「巨大化」
「微小化」
「増殖・分身」
「重力・引力」
「回復」
「状態異常」
「変化・変身」
「獣化・神獣化」
「不死」
が取り上げられている。
ここでは、「硬化」「回復」「獣化・神獣化」を紹介する。


NO.01 硬化

【類語】
硬変 硬直化 固化 石化 凝固 剛性 硬質 強張る ハード

【能力を用いた例文】
無敵を誇る騎馬隊で囲い込み、槍でめった刺しにしたが、敵は無傷のままだ。と、鋼のような拳を突き上げてきた。騎馬隊が次々と倒されていく。

主な能力の活用法

・体を硬化して攻撃をガードする
・周りの液体を固めて武器にする
・相手を硬直させて動けなくする
・体の一部を硬化し、鈍器のように用いて攻撃する
・硬化した髪の毛で突き刺す
・水辺や沼地で足場を固めて歩けるようにする
・体の一部を硬質な刃物に変えて切り裂く
・血液を凝固させて止血する
・触れたものを石化する
・物体の硬度を上げて丈夫にする
・着衣を硬化して鎧にする
・硬化により、炎に触れても火傷しない体になる


能力を描写する関連語と文章表現

・その手に触れられた者はみるみるうちに石化し、恐怖におびえたまま石像となった
・凄まじい斬撃が命中するも、硬化した頑丈な体には傷ひとつついていない
・鋼鉄に変化したこぶしを振り上げ、うごめく魔物めがけて渾身の一撃を放った
・水しぶきが一瞬にして固まり、その鋭い先端が体を貫いた
・体を縛る紐が固く変化し、いくらあがいてもびくともしない
・鎌のように強硬で鋭利な鉤爪を使い、作物を収穫する
・硬質化した大量の雨粒は、ターゲットに向かって一直線に打ち放たれた


味方にほしい無敵の防御力

 生身の人間の弱さが〝柔らかさ〟にあることに、お気づきでしょうか? 歴代の戦士たちが重いプレートアーマーや甲冑で全身を覆ったのは、もちろん敵の刀剣や矢じり、銃撃から身を守るためであり、もし攻撃に対する頑強な耐性が備わっている軍勢がいたら、戦局は激変するでしょう
 全身にまとう装着型防具は紀元前の昔に誕生し、可動性や防御力を高めるため、世界各国で独自の進化を遂げてきたといわれます。つまり、古今東西の戦士にとって人体の〝柔らかさ〟の克服は永遠のテーマでした。
 そこで「硬化」です。戦闘に際して自らの意志で肉体を鎧化できれば、向かうところ敵なし。さらには左頁にあるように、「鈍器のように用いて攻撃する」、「刃物に変えて切り裂く」と、防備の範疇を超え、全身を武器化した無双のファイターへと生まれ変わることができます。
 一見シンプルに思える硬化の能力ですが、じつは人類が渇望した戦士の理想形なのです。ゆえに、硬化を強みとする無敵キャラはしばしば漫画や映画に登場します。既存の作品と差をつけるには、能力の特性や戦う敵の設定を十分に練り、独自のエンタメ性を追及することが必須です。

硬化キャラにはすでに多様なスタイルが存在する


NO.12 回復

【類語】
治癒 治療 修復 ヒーリング 蘇生 再生 解毒 復活 手当て 転生

【能力を用いた例文】
どれだけ傷つけても瞬く間に蘇生していく。まさに不死身の体を持つ男だ。対して我が軍は次々とやられていく。私たちにも回復の能力があれば――。

主な能力の活用法

・魔法で傷口をふさぐ
・生命力を分け与えて傷を癒す
・死んだ者を蘇生する
・壊れたものを元通りに修復する
・回復効果のあるポーションを精製する
・患者を繭のなかに入れて集中的に治癒する
・失った部位を再生させる
・全体回復で仲間全員を治癒する
・免疫力をアップさせて、自己回復を促進させる
・触れた人の健康状態を感知する
・自然回復にかかる時間を縮める
・他者の体力を吸収する
・状態異常を解除する


能力を描写する関連語と文章表現

・天に向かって伸ばした手から光が散乱し、仲間たちへと力が分け与えられた
・砕けた水晶の破片が吸い寄せられるように集まり、ピッタリと組み合わさった
・だらりと横たわる体に触れてありったけの力を注ぐと、眠りから覚めたように息を吹き返した
・呪文を唱えながら鍋をかき混ぜると、薬草香る紫色のポーションが出来上がった
・包まれた繭のなかは温かく、優しい光に溢れ、体中の痛みがじわじわと薄れていく
・魔物の腕を斬り落とすも、傷口から新たな腕が再生し、もとの状態に回復した


自分か人か、使い道でイメージが変わる

 付与するキャラクターが善悪の真逆に分かれてしまう「回復」の能力。その違いは〝人のため〟か〝自分のため〟かという、相反する二方向の選択肢があるがゆえに生じます。
 まず、〝人のため〟に回復の能力を使うキャラは、聖母のように慈愛に満ちた優しさを持ちます。戦いに敗れ、不当な暴力で虐げられ、罪なく致命的な傷を負った人々を不思議な力で治癒するこのキャラには、人徳を極め、誰からも尊崇される聖人が似合うでしょう。もちろん正義の側として仲間を支えます。一方、〝自分のため〟に回復の能力を独占するキャラは、他人を顧みず、自己欲のために生きる傲慢さを持ちます。自らの肉体が不死身であることを強みに傍若無人ぶりを極めるこのキャラは、忌み嫌われながらも絶大な力で周囲を圧倒。そうなれば当然、悪の側として自己欲をさらに拡大し、罪深き所業で人々を苦しめます。
 回復の能力自体は攻撃性を備えませんが、人に施すか、独占するかで、役割や意味合いが異なってきます。視点を移動させ、能力が及ぼす多様な影響を考えれば、ドラマ性の高い奥行ある物語構成が実現可能です。

能力が及ぼす影響を相関図で分析するのも一手


NO.15 獣化・神獣化

【類語】
擬獣化 ドラゴン ペガサス ワイバーン 狼 熊 精霊 番人 幻獣

【能力を用いた例文】
一兵士かと思っていたら、突然、大トカゲに変化した。戦闘を重ねるうちに今度は巨大ワニに変わり、最後はドラゴンにまで。勝てるわけがない。

主な能力の活用法

・ドラゴンに変化して炎を吹き、辺りを焼け野原にする
・大蛇になって敵にかみつき、毒の力で命を奪う
・ペガサスとなって地面を歩き、足跡から泉を出現させる
・姿を神獣に変えて聖域をつくり敵の侵入を防ぐ
・狼となり、嗅覚で敵を追う
・凶暴なイノシシになって敵のアジトに突っ込む
・龍の背中に味方を乗せて飛ぶ
・ワニとなり、敵が来るのを水中でじっと構える
・味方の病を治すためにユニコーンに変身する


能力を描写する関連語と文章表現

・戦場に突如稲妻が走ると、目の前に空を覆うほどの大蛇が出現し、シュルシュルと音を立てて空を旋回しはじめた
・ケルベロスの体に生える毒ヘビにかまれると一瞬で命を落とす
・敵が怪しい唸り声を上げながら巨大なドラゴンに変身し、炎を吹いて我々を威嚇する
・犬の姿になると、優れた嗅覚を使って敵の痕跡を辿っていく
・海面に真っ黒な潮の渦ができるとクラーケンが姿を現し、戦艦をいとも簡単に破壊する
・翼に変化した両腕で、羽を散らしながら空へ飛び立った


オリジナルアレンジで目新しい作品に

 変化・変身後の姿が、動物か伝説上の生き物に特化している「獣化・神獣化」。ファンタジーでは善悪を問わずお約束のキャラであり、見せ場をつくる役どころとして、特にバトルシーンで大活躍します。
 一般的に正義キャラなら、ペガサス、フェニックス、ユニコーンといった神々しい幻獣に変身するのがセオリーです。動物であれば白い鷲や金色の狼など神聖な特長を備えたタイプが定番。悪役キャラの場合は、ケルベロス、ヒュドラ、クラーケンと、禍々しい幻獣がよく見られます。毒ヘビや吸血コウモリなど、危険な動物も悪の手先としてしばしば登場します。
 ただし、獣化・神獣化キャラは、古今東西のエンタメ作品(ゲームを含む)で多用されて目新しさがないのが難点
 よって、オリジナルアレンジを施すべきです。たとえば [ 大トカゲ→巨大ワニ→ドラゴン ] と、段階的変化を遂げるステップアップ方式。満月の夜に狼男へと変身するように、独自の変化トリガーを編み出すのもありです。あるいは既出のメジャーな神獣に倣って、人と猛獣の融合による新たな獣化キャラを開発するなど、独創的かつ柔軟な発想でトライしましょう。

獣化して力を振るう悪役キャラ

ケルベロスは地獄の番犬
ヒュドラは9つの頭を持つ大蛇
クラーケンは海に棲む巨大軟体動物


PART.3 突飛がゆえに描写に注意 「サイコキネシス」な能力

PART.3では、
「本章のPOINT 無限にアレンジ可能 超有能なサイコキネシス」
「超人的スキル 」
「超言語スキル」
「霊的スキル」
「創造」
「破壊」
「調和」
「空間移動スキル」
「脳内操作」
「心理操作」
「人体操作」
「物体操作」
「人形操作」
「生物操作」
「時間操作」
が取り上げられている。
ここでは、「超人的スキル」「心理操作」「時間操作」を紹介する。


NO.01 超人的スキル

【類語】
超越 卓越 限界突破 逸脱 天才 最強 ヒーロー カリスマ

【能力を用いた例文】
次から次へと特殊な力を持つ奴らが襲ってくるぞ。俺が目論む世界征服の野望を妨害するために。もしかして、こいつらが巷で噂の超人たちなのか?

主な能力の活用法

・透視して建物構造や内部の状況を把握する
・未来を予知する
・他者からその人特有の能力を奪い取り、自分のものにする
・ダッシュで壁面を登る
・超越した動体視力を駆使して、敵の動きを捉える
・ひとっ飛びで目的地に到着する
・水のなかで呼吸できる
・パンチひとつで頑丈な建物やバリケードを砕く
・不安定な足場を、優れたバランス力で軽く乗り越える
・卓越した判断力でいかなる危機をも脱する


能力を描写する関連語と文章表現

・立ちはだかる防壁に打撃を打ち込むと、凄まじい衝撃波とともにがれきが飛び散った
・勢いよく跳ね上がった体は高く昇り続け、海をも超えて向こう岸へと辿り着いた
・橋が崩れ落ちるなか、かろうじて残った 1 本の紐に着地し、身軽に渡っていく
・目にも留まらぬ速さで駆け出すと、そのままの勢いでそびえ立つ崖さえも登り切った
・敵のパンチを捉え、最小限の動きで躱すと、空いたボディに強烈な蹴りを入れた
・勢いよく海に飛び込むと、クジラ並みの潜水で海底に隠された秘宝を探して回った


能力設定で重要な5つのポイントとは

 透視、未来予知、空中浮遊、能力奪取、水中呼吸、瞬間移動、ワンパン、鋼メンタル――常人にない、一芸に秀でた「超人的スキル」は、今やヒーローファンタジーの定番。あの手この手で趣向を凝らした超人的スキルが次々と現れ、その使い手が映画や漫画やアニメで活躍しています。
 ユニークな能力を閃くのは案外簡単です。先に挙げたように、普通の人間に不可能なことを可能にすれば、それが超人的スキルとなるわけですから。問題はその先です。
 以下に押さえるべきポイントを列挙してみました。
 ☑ どのようにして超人的スキルを獲得したのか?
 ☑拮抗する敵のスキルと強さのバランスはとれているか?
 ☑物語のテーマやメッセージとリンクするスキルか?
 ☑ピンチを演出できるスキルの制限を設定したか?
 ☑キャラとスキルが違和感なくフィットしているか
 これら5項目は最低限クリアすべきもの。スキルの面白さを描くだけでなく、読者が納得できる物語の詳細設定と展開の緩急を意識しましょう。

超人的スキルの作品がシリーズ化すると際限なくメンバーが増えて収集がつかなくなる


NO.09 心理操作

【類語】
精神操作 印象操作 マインドコントロール 心理掌握 読心 メンタル

【能力を用いた例文】
王に睨まれただけで心を鷲掴みされたように逆らえなくなる。民のほとんどは従順な犬のようになってしまった。このままでは国が乗っ取られる。

主な能力の活用法

・悪意を好意に変化させて、敵を味方にすることで戦力を増やす
・他者の心を読む
・敵の精神を崩壊し、発狂させる
・人の嘘を見抜く
・敵の戦意を喪失させる
・不安を増大させて、仲間のことを信用できなくする
・仲間のやる気をアップさせる
・精神を研ぎ澄ませて集中力をアップさせる
・感情の起伏を激しくさせ、敵を暴走状態にする
・トラウマを誘発させて、精神的に苦しい状態に追い込む
・ストレスをかけて敵を焦らせる


能力を描写する関連語と文章表現

・思い出したくない過去の記憶が蘇り、じりじりとした圧迫感が押し寄せて息が詰まる
・ふと目が合った瞬間、無表情で読めない相手の心の声が頭のなかに流れ込んできた
・術者から発せられた霧に覆われると、心なしか気分が沈んで自らの命を絶ちたくなる
・咄嗟についた小さな嘘さえ、あの目に見つめられるとすべてを見透かされている気分になる
・横にいた仲間が突然頭を抱えたかと思うと、気が狂ったように叫び、暴れ出した
・暗示にかかった体は倒れたまま、いつまでも見ていたい幸せな夢に浸って、目覚める兆しがない


〝裏切り〟展開をつくり味方も読者もだます

 「心理操作」もまた、前頁で解説した脳内操作と同じメンタル支配系能力です。その違いは、文字通り〝心〟に特化する点でしょう。
 [類語] をご覧ください。精神操作、印象操作、マインドコントロール、心理掌握などと、こちらはやや霊的・オカルト寄りの能力ともいえます。それゆえに、妖術や魔術と絡めたスキルとして設定すれば、幅広いファンタジー分野の世界観に適応可能です。もちろん、現代社会を舞台としたミステリー、サスペンス、ホラーなど、ほかの多彩なジャンルでも扱えます。
 この能力を描くうえでのポイントは、とにかく持ち主となるキャラクターのつくり込みでしょう。
 ひとつの方向性は、カリスマ性のある絶対君主です。闇の力として国を支配し、悪の軍団を率いて猛威を奮う、暴君のボスキャラが似合います。
 もうひとつの方向性は、意外な人物がこの能力を駆使して人々を災禍に陥れていたという、どんでん返し系ミステリーの真犯人役です。
 一方、目に見えない心理状態の微細な変化や変容を文章で表現するのが、この能力の醍醐味であり悩ませどころ。巧みな筆致が要求されます。

「仲間の裏切り」という場面をつくり出すことも可能


NO.14 時間操作

【類語】
時空移動 タイムトラベル タイムスリップ タイムリープ 時計

【能力を用いた例文】
気がつけば中2の夏休みで、あの教室にいた。3年前の事件が今まさに起ころうとしている。止めるべき? でも、過去を変えたら……。

主な能力の活用法

・時間を巻き戻して過去の出来事をなかったことにする
・過去に戻って、何が起こったのか真実を知る
・未来に行って、これから起こることを事前に知る
・時間を減速させて敵の動きをスローにし、攻撃を躱す
・人に流れる時間を早めて成長を加速させ、急激に老化させる
・物体の時の流れを逆行させて、壊れたものをもとに戻す
・時を止めて攻撃や罠を仕かける
・成長後の姿で過去に戻り、進化前の敵を倒す
・タイムリープで人生をやり直す


能力を描写する関連語と文章表現

・すべてが停止した世界は、静かでもの寂しく、自分ひとりだけが存在しているかのようだった
・スローモーションで向かってくる敵をいなし、余裕のある手つきでその額に銃を突きつける
・昨日とまったく同じ流れが目の前で繰り広げられ、時間がループしていることに気がついた
・未来で会った彼女は髪が伸びて顔つきも大人っぽく、どこか別人のように感じた
・意識を集中させると、崩壊した城のがれきが宙を舞い、もとの状態へと巻き戻った
・肩に手を触れると、その者は急激に老いさらばえ、何十年も先の姿へと変貌した


何回リセットしても、結局 〝今が一番〟

 人類の永遠の夢である「時間操作」。過去や未来を行き来する物語は根強い人気を誇ります。ところで [類語] にもあるように、しばしば混同されがちな「タイム~」ではじまる3語をここでおさらいしておきましょう。
 ●タイムトラベル:乗り物やシステムを利用して時空を移動する
 ●タイムスリップ:ハプニング的なきっかけで時空を彷徨ってしまう
 ●タイムリープ:自身に備わる特殊能力によって時空を移動する
 いずれにせよこの能力の魅力は、修復不可能な過去をリセットでき、予測不能な未来に立ち会えることです。一見するとパーフェクトな人生が完成しそうですが、タイムパラドックスが生じたり、想定外の敵や妨害者が現れたりして、なかなか当初の目的は果たせません。結局、今を一生懸命生きることでしか報われない、という結論に辿り着くのが物語の定番です。
 ポイントは作品のテーマにあります。時空を超越して解決できる一方で犠牲が伴うという葛藤に苦しみ、時の流れに逆らわない真実の在り方に気づいて、再生の一歩を踏み出すドラマ性を盛り込みましょう。時間という壮大な題材だけに、教訓的なテーマを示唆するエンディングが不可欠です。

必ずしもハッピーな結末が待つとは限らない


PART.4 キャラクターの内面を明確にする「素質」スキル

PART.4では、
「本章のPOINT キャラクターの素質も物語に欠かせない能力」
「リーダースキル」
「目標達成スキル」
「戦略スキル」
「サバイバルスキル」
「頭脳スキル」
「クリエイティブスキル」
「一芸一能スキル」
「バイオレンススキル」
「サポートスキル」
「姑息スキル」
「指導スキル」
「恋愛スキル」
「根性スキル」
「上品スキル」
「お笑いスキル」
「特殊スキル」
が取り上げられている。
ここでは、「リーダースキル」「恋愛スキル」「特殊スキル」を紹介する。


NO.01 リーダースキル

【類語】
ボス 先導者 盟主 頭領 団長 マスター 代表 キャプテン

【能力を用いた例文】
A 君は完璧すぎて私にはちょっと荷が重いし、疲れる。対して B 君は適度な弱さや緩さがあって逆に共感できる。次の生徒会長は B 君がいいな。

主な能力の活用法

・カリスマ性で周囲の人を惹きつけ、味方にする
・先見の明があり、優れた判断で軍を勝利に導く
・鋭い洞察力で変化や異変に敏感に反応する
・実行力があり、未開拓の分野をどんどん開拓する
・問題があっても迅速に解決する
・強い精神力で周囲の人々の不安を払拭する
・視野が広く、全体を見ている
・的確な指示で効率のよい戦い方を実現させる
・仲間思いで情に厚く、誰からも尊敬されている


能力を描写する関連語と文章表現

・先を行く背中は大きく、この人にならどこまででもついていきたいと思った
・意見のバラバラな仲間たちをひとつにまとめ、みなが同じ方向を向くよう画策する
・戦いを前に不安を抱く仲間の背中に優しく手を当て、励ますように頷いてみせた
・些細な異変に気づき、危険を察知して歩みを止めさせた
・どんな困難をももろともせず、仲間たちを率いて最深部へと歩みを進めていく
・素早く指示を出し、各配置場所へ軍を分散させた
・内輪のもめごとを丸く収め、先代に劣らぬ手腕を発揮した


少し抜けてるくらいが読者の共感をあおる

 ヒーローには2通りのキャラクターのタイプがあります。
 ひとつは孤高の存在として、常にひとりきりで戦うタイプ。もうひとつはバディや仲間がいて、みんなで共闘するタイプです。
 往々にして孤高のヒーローは、心の傷やトラウマのせいで、強いけれどネガティブなメンタルに潜む闇を抱えています。いわゆるダークヒーロー(あるいはヒロイン)もこの系統です。一方、共闘するヒーローはポジティブが売り。腕っぷしはもちろんメンタルも強く、不屈の精神力が自慢ですから、周囲の人が頼り、憧れます。そうやっていつも仲間に囲まれながら持ち前の「リーダースキル」を振るい、さらにチームを盛り上げます。
 これは私の個人的な意見ですが、昨今の時勢を鑑みた場合、後者の共闘タイプは煩わしく感じます。むしろ多様性の広がりも相まって、心の弱い孤高タイプのほうが読者から支持がされやすいと思います。昨今、ダークヒーローが登場する作品が多いのも、おそらくそうした背景からではないでしょうか。だとすれば不完全なリーダーも全然ありですし、リーダーの資質をもっと自由に捉えるべきかもしれません。

完全無欠なリーダー像はすでに過去の産物かもしれない


NO.12 恋愛スキル

【類語】
愛嬌 駆け引き 色恋 ロマンス 青春 色仕かけ 誘惑 ひと目惚れ

【能力を用いた例文】
いつの間に盗まれたんだ? もしかして彼女とお茶している間に? あまりに魅力的な女性だったのでつい見とれてしまった。こいつはヤバいな。

主な能力の活用法

・周囲の人を惹きつけ、魅了する
・誘惑してお願いを聞いてもらう
・駆け引きを仕かけて相手の情緒を強く揺さぶる
・相手の心の機微を察知して、それに合った対応をする
・色仕かけで極秘情報を引き出す
・敵をメロメロにして無力化する
・敵が見惚れている隙に攻撃する
・権力者を落とし、玉の輿に乗る
・持ち前の包容力で仲間を癒す
・アピール力に優れ、相手にうまく自分を売り込む
・敵同士のふたりをけしかけて、戦いの火種をつくる
・恋情を操って催眠状態にかける


能力を描写する関連語と文章表現

・甘い言葉を真に受け、本当の目的など知る由もなくズブズブと泥沼にはまっていく
・思わせぶりな態度でそそのかし、うまく部屋に入り込んで隠されているはずの情報を探した
・敵であるアイツと同じ人を想っていたとは。譲らぬ気なら、勝負するしか道はない
・微妙な表情の変化を感じ取り、最適な受け答えを繰り返して、徐々に懐へと入っていく
・見とれている隙を突き、首もとの動脈を狙って隠し持っていた毒針を突き刺した
・鈍感な振りをして相手を油断させ、色仕かけを交えながら機密情報を聞き出していく


時代に合わせて恋愛の形もアップデート

 ひと昔前のスパイアクション系の映画や漫画やアニメで、必ずといっていいほどキャスティングされたのが「恋愛スキル」を売りにする女性サブキャラです。色仕かけで誘惑して男性を翻弄し、お目当ての宝石や重要機密をするりと盗んで消えてしまう――そんな恋愛スキルを備える女性には、さまざまなキーワードが当てはまりました。たとえば、「紅一点」、「謎の美人」、「悪女」、「小悪魔」、「魔性の女」など。しかし、令和の現在では見かけることが少なくなりました
 多様性を含め、さまざまな価値観や捉え方を尊重すべき昨今では、ともするとデリケートな問題を内包するリスクもあるため、恋愛スキルを売りにするキャラクター自体がタブー視される傾向にあります。
 ただ、方向性を変えた恋愛スキルならどうでしょう。たとえば、人間よりも人間らしい AI が軍で極秘開発され、なぜか恋愛スキルを習得し、ネットを介してとある女子高生と恋に落ちてしまうとか。時代の変遷にあわせてアレンジすれば、さまざまな可能性が溢れているはず。恋愛自体は誰もが共感しやすい魅力的な題材です。ぜひトライしてみてください。

令和のラブストーリーなら恋愛スキルがさま変わりするかも


NO.16 特殊スキル

【類語】
特異 独自 独特 特別 スペシャル エキセントリック マイナー

【能力を用いた例文】
烏合の衆だと思っていたが、個々の特殊スキルを連携すると、とんでもない偉業を成し遂げている。奴らはこの1件で人間的にも成長したと思う。

主な能力の活用法

・大食いで、どんな量の食事もすべて平らげる
・いくら酒を飲んでも酔わない
・人知れず物を盗む
・罪悪感なく拷問にかけられる
・強運でどんな願いも実現させる
・お金を稼ぐ能力に長け、好きなように資金を繰る
・共感覚で人の感情や嘘を見抜く
・ありとあらゆるロックを短時間で解除する
・そっくりな見た目に変装することができる
・恐怖を感じない
・優れたメイク技術で顔を変えて、別人に変装する


能力を描写する関連語と文章表現

・あっという間にカギを盗み出して、閉じ込められていた牢獄から脱出することに成功する
・激しく恫喝していたかと思えば、急に優しい口調になって固く閉ざしていた口を割らせる
・一か八かのギャンブルと思わせつつ、持ち前の強運で目当てのものを難なく手に入れる
・出入りの商人の姿に変装して敵の城内に忍び込む
・キザなルックスと軽妙な話術で女性を虜にさせて、敵地への侵入経路を探り出す
・鉄を金に変換させると、それを売って大量の武器を仕入れた
・敵の銃を手にすると、瞬時に分解して使いものにならなくした


単体だと扱いづらい能力はチームで使う

 PART.4 のラストで取り上げるのは「特殊スキル」全般です。
 左頁からピックアップすると、大食い、酒豪、強運、錬金術、千里眼など、さまざまなスキルが並んでいます。とはいえ個別ではインパクトが弱く、主人公に特化して与えるにはやや難あり、という印象は否めません。
 こうした地味系の特殊スキルであっても、集合体にすればユニークな演出効果を発揮して物語の核となります。一番わかりやすい例は、数人の癖ありキャラが集まってチームを結成し、とあるミッションを達成するという設定の物語でしょう。そのチームには、根暗なハッカー、金庫破りの名人、爆発物づくりの職人、変装のプロ、詐欺の達人といった、〝悪芸〟に秀でたキャラが勢揃い。そうして各々の特殊スキルの連携で、数々の障害や試練をクリアし、完遂不可能なミッションを成功に導きます。
 ポイントは、一つひとつのスキルが世の役に立たなくても、力を合わせれば大きな目標を達成できる点です。さらに一匹狼的な癖ありキャラが友情に目覚めて助け合うなど、人間的成長を遂げるのもストーリーの屋台骨を支えます。あらゆるスキルは使い方次第で有効に活用できるのです。

特殊スキルの集合体といえば忍者


PART.5 物語のクオリティを左右する 魅せる能力描写の方法論

PART.5では、
「本章のPOINT 面白い作品を作るには〝説得力〟が必須」
「能力設定に大切な4大要素」
「キャラクターと能力の組み合わせの法則」
「能力が先天的か後天的かでキャラ像は大きく変わる」
「キャラが絶対魅力的になる能力獲得〜目標達成まで」
「〝辻褄合わせ〟は物語創作に必要なスキル」
「起承転結の「結」で大切なこと」
「主人公の能力は「進化・発展」前提で設定する」
「王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣」
が取り上げられている。
ここでは、「能力設定に大切な4大要素」「起承転結の【結】で大切なこと」「王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣」を紹介する。


NO.01 能力設定に大切な4大要素

世界観を意識しなければ物語は成立しない

 特殊な能力は、物語の展開をがぜん盛り上げ、キャラ立ちに有効的であるとはいえ、やみくもに付与してはいけません。
 まず書き手は、自分が描こうとする物語の世界観と、登場人物たちの傾向をしっかり固めることです。次に、ストーリーの方向性と読者層を明確に定めましょう。これらの骨子がブレることなく決まったうえで、どのカテゴリーの能力を採用・導入するかを検討していくことが大切です。
 能力の選定において重要なのは、「適切」か「不適切」かの眼識です。わかりやすく解説するため、ひとつ例を挙げましょう。
 舞台設定が現代で、現実の世界に空想的なキャラクターが登場するローファンタジーの物語を書くとします。となれば当然、街や車が存在し、多くの登場人物は普通の人間です。そういうリアルな世界観のなか、自然環境の激変を自在に操れるファンタジックな敵キャラクターが登場し、いきなり天変地異のパニックを起こしてしまえばどうでしょうか?
 読者はあまりに唐突かつ非現実な展開に唖然とし、また、現代の現実世界を舞台とした意味も効果も薄れます。つまり、世界観と特殊能力がフィットしない、「不適切」な状態に陥ってしまうのです。

世界観と特殊能力をフィットさせる3大ポイント
☑ この舞台設定なら違和感ないという説得力
☑ 世界観の面白さと特徴を際立出せる持ち味
☑ 非現実的でも読者を没入させる魅力と強み


 登場人物に関しても同様です。
 たとえば、異次元の魔界を舞台としたハイファンタジーを書くとします。舞台設定は異世界で、主人公は転生ワープした女子高生としましょう。彼女は物語のヒロイン的存在のキャラクターで、キュートかつ可憐な魅力に満ちています。
 このヒロイン女子高生の特殊能力が、ドロドロに液体化したり、ブクブクと肥大化したりする身体異形タイプだとしたらどうでしょうか?
 絵を想像しただけで、読者は幻滅してしまいますね。登場人物像にマイナス効果をもたらす特殊能力を付与すると「不適切」な状況に陥ってしまい、せっかくの物語が成立しなくなります。
 ところが動植物と話せる超言語スキルや、相手の心の一歩先を読む超読心術を持つなら一転、魅力的な能力として期待の持てる展開がイメージできます。つまり、女子高生というキャラクターにマッチした「適切」な状態として、物語が成立しやすくなるのです。
 創作において、自由な発想と大胆なアイデアは大切ではあるものの、必然性に欠ける突飛な閃きを盲信すべきではありません。一歩引いて読者側の目線を考慮する眼識を、書き手なら常に備えるべきです。

4つの要素の「適切」さを考慮する必要がある


NO.06 起承転結の「結」で大切なこと

物語に必要なのは〝リアリティ〟と〝説得力〟

 「能力は、物語のどの辺りでどういうふうに登場させる?」「どんな終わり方にすればエンディングがきれいにまとまる?」
 これらはよく聞かれる質問です。実際のところ、特殊な能力を物語に登場させるには、それなりの下準備が求められます。一にも二にも心に留めておくべきは、〝リアリティ〟と〝説得力〟です。それらを作品に深く浸透させるために、たとえ能力が現実世界には存在しないフィクションツールであっても、序盤で3つの要件を明確にしてください。
 それは、「WHEN(いつ)?」と「WHY(なぜ)?」と「HOW(どうやって)?」です
 まず「WHEN(いつ)?」ですが、先天的であれ後天的であれ、能力が付与される時期を明確に設定して描写しましょう。いつの間にか備わっていた、では読者の興味が一気に失せてしまいます。
 続いて「WHY(なぜ)?」。必然性が明らかでなければ、キャラクターの魅力と物語のテーマが曖昧になってしまいます。
 最後に「HOW(どうやって)?」。能力が備わるプロセスの明示があってこそドラマが生まれ、力の種類やレベル、制限を設定しやすくなります。

読者が物語から心を離してしまうタブーとは?
☑能力が備わる瞬間の劇的な描写がリアルに書かれてない
☑能力に目覚めた主人公の戸惑いと驚きが欠如している
☑世界観を無視した突飛で謎な力が途中から次々と出てくる


 そして、何よりも留意すべきは、物語の世界観と能力とのリンクです。
 もし魔法世界が舞台であれば、魔法を駆使した展開で読者は納得します。仮想ゲーム世界へのバーチャル転生であれば、ゲームルールに則った能力での攻防戦が成立します。つまり主人公たちが動き回る舞台と、そこで違和感のない特殊な力を合致させなければ、〝リアリティ〟と〝説得力〟が生まれません。さらに冒頭の質問に答えるなら、次のような展開テンプレートを意識してみてください。

 起——舞台となる世界の状況解説/主人公キャラの紹介
 承——主人公への能力付与過程/きっかけ~事後の変化
 転——外敵との戦いにおける能力の進化と主人公の成長
 結——舞台となる世界に訪れる和平/新たな一歩のはじまり

 能力が登場するのは、主に「承」と「転」。「結」では能力を使い切り、消滅させるのもありです。さらに「結」で何より大切なのは、主人公が奮った能力で世界がどう変わったかという着地点。能力がなくとも幸せな未来を暗示してこそ、真のハッピーエンドを迎えます

起承転結の差異を意識して構成しよう


NO.08 王道テンプレートでも魅力的な作品にする秘訣

能力は〝キャラ立ち〟のために重要なツール

 早いもので、本章もラストとなってしまいました。ここではあらためて物語創作の礎に関わる、根本的なメソッドを包括したお話をします。
 まずは本書で何度も登場する、王道テンプレートについてです。
 ご存じの通り、王道とは読み手の期待と願望に応える展開でエンディングを迎えること。「こうなってほしい」という大多数の読み手の願う結末を裏切ることなく、読後にカタルシスと満足感を与える物語をいいます。
 とはいえ、「そこまで定型化されていたらオリジナルの王道作品を書くのはもはや難しいのでは?」という声がしばしば聞かれます。
 答えは「ノー」です。王道とは、物語のジャンルやカテゴリーの域を超えた、あくまで大枠でのストーリー展開の在り方を指します。
 ファンタジー、サスペンス、アクション、SF、ミステリー、ノワールなど、物語創作ではあまたの分野が存在し、当然ながら世界観は書き手のイメージやセンスによって千差万別です。さらに、キャラクターに付与する能力やスキルは無限につくり出せるうえ、登場人物も変幻自在な設定が可能。
 つまり、王道とは物語を入れる大きな器であると考えてください。そのなかで無数に並ぶ一つひとつの物語は、すべて色や形が異なります。

王道テンプレートの物語に必須の3大条件
☑ 導入 10 ページで読者の感情を鷲掴みにする好展開
☑ 読者が自己投影しやすい「親近感のある」主人公
☑ 作品を貫くテーマやメッセージの普遍性と説得力


 続いて、魅力ある物語を書くために注力すべき 3 要素を解説します。
 なかでも大切なのは、キャラ造形、これに尽きます。心惹かれるキャラクターというのは、長所と短所の両面を備え、どこか憎めない性格なり特徴が見え隠れするもの。非の打ちどころのない正義漢や、弱さや悪さが皆無の完全無欠な人物は読者から好かれません。自分との共通点を見出せない、あくまでフィクションの遠い存在となってしまうからです。
 次は、感情の起伏を丹念に描き切ることです。主人公のみならず、悪役や脇役の心情も要所要所でしっかり描写し、対人関係の構図を明示することでドラマが盛り上がります。そのためには、会話による構成を重要視する必要があり、必然的に読みやすく、理解しやすい内容になります。
 最後は、主人公の主義と目標です。戦う意義や守るべき存在を明らかにすること。これこそが物語を牽引するテーマやメッセージにつながります。
 さて、本書で紹介した特殊な能力は、キャラ立ちのためのツールとなり、物語に独自性とエンタメ性をもたらす原動力にもなり得ます。とはいえ、上記 3 要素のどれかひとつでも欠落すれば、作品の魅力は半減します。
 書き手にとって求められるのは、常に読者目線を忘れない、バランス感覚に優れた構成力と俯瞰視点であることを覚えておきましょう。

オリジナルの王道作品を生み出すための相関図


書き込み式 クリエイターのためのキャラクター能力設定シート

書き込み式では、「キャラクターの基本設定を考えよう」「キャラクターの素質を決めよう」「キャラクターに能力を付与しよう」「能力にまつわる細かい設定を考えよう」「能力を生かしたストーリーを完成させよう」が取り上げられている。
ここでは、「キャラクターに能力を付与しよう」を紹介する。


『プロの小説家が教える クリエイターのための能力図鑑』
著:秀島迅 
日本文芸社(2024/4/23)
A5判・192ページ/定価:1,980円(税込)

担当編集者より
バトルアクション漫画やファンタジー系ライトノベルなど、
人気作品の多くは、登場するキャラクターが
何らかの属性や能力を持っています。

ストーリーの面白さを左右する主軸にもなる特殊能力は、
クリエイターがキャラクター設定をする上で悩むポイントのひとつ。

能力作品を書きたいと思いながらも、
「どんな能力を操り、どう文章で表現すればいいのかわからない」と
自身の創作活動で悩む方も多くいるかと思います。

しかし、現在、そのような悩みを持った方向けの
創作活動に生かせる能力について解説した本はありません。

そこで今回、特殊能力がカテゴリ別に一覧でわかり、
それぞれの能力を作品で表現するコツを
現役のプロ小説家が紹介する一冊を制作いたしました。

水、火、土、風、光、闇などの自然系の能力から、
巨大化、硬化、パワー強化などの身体強化・変化系、
時間操作、透視、コピーなどの超能力系、
リーダー、頭脳、サポートなどの生まれ持った素質的スキル、
と、さまざまなジャンルの作品に応用できるよう
能力を大きく4つに分け、掲載しています。

巻末には、浮かんだアイデアやイメージを書き込める
「クリエイターのためのキャラクター能力設定シート」付き。

読むだけで能力のアイデアが無限に湧き出て、
キャラクターやストーリーをさらに魅力的にするヒントが詰まった
クリエイター必携の書です。

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