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ゲーム的テンプレ脱却!説得力ある人外/異種族の書き方|三村 美衣

 エルフ、ドワーフ、ゴブリン、トロール、ノーム、人獣、ケンタウロス、ケルベロス、ユニコーン、ドラゴン、グール、オーガ、河童、天狗。ファンタジーの世界には人間以外にも様々な種族が暮らしている
 とりあえず古典的種族を並べたが、幅を広げて宇宙人、ロボット、人工知能を種族と考えてもいいし、人魚や精霊、それに吸血鬼やゾンビといった闇の種族もいる。それぞれに、その種族ならではの文化的背景や身体特徴などの面白味があり、近年は、その特徴を活かした話題作も数多く登場している。
 というわけで今回は「人外/異種族」テーマへのアプローチを考えてみよう。

ゲーム的テンプレからの脱却

 異種族には神話や伝説、物語やゲームなどでお馴染みの種族がいろいろ存在するが、どの種族にもさまざまなヴァリエーションや解釈の違いがある。ゲームや先行作品で当たり前のように使われている設定が、実は誰かのオリジナルかもしれないということは、意識しておきたい。

 たとえばトールキンの『指輪物語』も、神話や伝承を参照しながらオリジナルな設定もがんがん入れ込んでいる。ホビットやエントといった名称も、古語から考案された独自のものだし、ゴブリンはエルフの性格を捻じ曲げて作られたといった設定や、ゴブリンの大型種をホブゴブリンと呼ぶことも、トールキン以前にはなかったと言われている。最初のTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』がトールキンの影響下で制作されたこともあって、その後のゲームの多くはトールキンの世界観の上に構築された。

 異種族が混在する冒険ファンタジーのゲームっぽさが気になる場合は、一旦、トールキン以降に作られた常識から抜けて、それぞれの設定を伝承の世界へ巻き戻してみる必要があるのかもしれない。


エルフの耳は尖っているのか?

 異種族の中でも、もっとも資料が多く、様々な方面から研究されているのが妖精だ。昨今はエルフ一辺倒だが、妖精にはフェアリー、ディーナ・シー、トゥアハ・デ・ダナン、タルイス・テーグなどいろいろな呼称がある。西洋の種族なので日本人にはやや敷居が高いのか、国内作品には妖精ファンタジーはそれほど多くない。

 キャサリン・ブリッグズ『妖精事典』は、妖精の伝承や、妖精にまつわる事件について詳細に記した書籍で、ファンタジーを書きたい人は必携。この本を読むと、一口に妖精といっても、善良な妖精もいれば、逆に邪悪なものもいるし、背丈も人間と同じかやや長身な者から、手のひらサイズまで多岐にわたり、族長や王や女神を戴く場合もあれば、集団を形成せずに自由奔放に暮らす者たちもいることがわかる。耳だって必ずしも尖っているわけではないし、弓が下手な者もいるし、美形だとも限らない、どこか妖怪にも似ている。

 妖精に限らずだが、海外の種族を日本に移植する場合は、旅行客についてやってきた、呼び名は違うだけで妖精はずっと日本にもいた、などなど、どうして日本に存在するのかというあたりにも説明がほしい。


異種族のリアリティ

 人ではないキャラクターを描くときには、当たり前だが、そのキャラは人ではないということを常に意識する必要がある。

 たとえば定命か不死かという差は、生きていることの意味や、恐怖や喜びの感覚をも変えてしまうだろう。また、洞窟や地中で暮らす種族の聴覚や色覚は人間と同じだろうか? 多種族が共存しているのであれば、それぞれどんな言語、宗教、倫理感を持っているかを考えておこう。共存の歴史はどうやって始まり、コミュニケーションをどう成立させてきたのかも気になる。
 種族間に力関係や、身分の上下や、差別意識、歴史的な遺恨はないのか。身体の接触を嫌うだとか、ある種の食物や金属にアレルギーがあるとか、とんでもない悪食だとか、明日の天気がわかるとか、生物学的、文化的、環境的なものによって形作られたそれぞれの特徴をうまく物語に絡めよう

 仲間内での異種族あるあるネタの掛け合いは楽しいが、ドワーフは女も髭をはやしているとか、エルフは高慢で心が狭いとか聞き飽きたセリフではなく、トリビアルで説得力があり、おもわずニンマリしてしまうようなやつをお願いしたい。


おすすめ人外/異種族ファンタジー3作品

キャサリン・ブリッグズ『妖精事典』(冨山房)
決してとっつきの良い本ではないし、妖精事典は他にもあるにはあるが、妖精に興味を持ったら結局この本が必要になる。入手困難なので、図書館か古書で探してね。
http://fuzambo.net/phone/jisho0.html#youseijiten

レイモンド・E. フィースト『フェアリー・テール』(ハヤカワ文庫FT)
豊かな自然が残る農場に越してきた一家に、次々に恐ろしいことが起きる。現代のアメリカを舞台に、不気味で怖い妖精を描いた作品。
https://www.amazon.co.jp/dp/4150202222?tag=note0e2a-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

丸楠早逸『怒矮夫(ドワーフ)風雲録 闇の覇者』(SBクリエイティブ)
マルクス・ハイツというドイツの作家の作品を翻訳家の酒寄進一がノリノリで訳し、やりすぎたせいで1巻目で刊行が止まってしまったドワーフ版『三国志』。字面はヤンキーっぽいが、読書好きの文系ドワーフとドワーフ最強の双子戦士が、世界の危機に立ち向かう王道ファンタジー。
https://www.sbcr.jp/product/4797344233/

(タイトルカット:大國オサム


ファンタジーコンテスト「人外/異種族」大賞受賞作『花と蜥蜴
著:AKINONA
歌え詩人達よ 無限の信頼を分かち合う幸せを
そして 無限の愛への果てしない道程を
蜥蜴のような風貌で、堅い鱗と鋭い爪や牙を持つ獰猛なリザードマンが、人やエルフなどといった他の種族を圧倒する大陸での物語。頭にターバンを巻き、竪琴を片手に『詩人』を名乗る変わり種のリザードマンのハジムと、リザードマンの領主に虐げられる日々から逃亡した『木々の精霊』ドリアッドの娘クリステル。ハジムが偶然クリステルの逃亡を手助けしたことから、両者は追われる身になるが……。


*本記事は、2019年08月05日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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