かつて夢に描いていた華々しい人生は狂った|わたしがWebで書く理由 vol.3
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かつて夢に描いていた華々しい人生は狂った|わたしがWebで書く理由 vol.3

あなたは、Webに文章をアップしていますか?
あなたが書いている理由は何ですか?

小説をサイトに投稿するかどうか迷っている人、
小説を投稿しているけれどモチベーションが下がっている人、
小説投稿が大好きな人まで、
小説を書いてWebにアップすることがどれだけ素敵な経験になり得るかをシェアしたい気持ちからはじめた連載です。

小説投稿サイト「エブリスタ」10周年企画「思い出のエブリスタ作品」に寄せられたエッセイから、「書く人」の「書く理由」を書いた作品をピックアップ。

第三回は、あるきっかけから「人生が狂った」ほど執筆に打ち込むようになった池田春哉さんのエッセイです。


人生を狂わされた作者の証言

 元々、私には計画があった。

 華々しく幸せな人生を謳歌する計画だ。
 
 それは幼少期からぼんやりと思い始め。
 青年期を通じて少しずつ輪郭が帯びてきて。
 成人する頃にはある程度のビジョンが出来ていた。

 しかし現在。
 かつて描いた華々しい人生とは、似ても似つかないものになっている。
 
 何故こうなった?
 いや原因は分かっている。
 
 ――間違いなく、あの"作品"のせいだ。

 

 昔から好きな漫画に自分をオリジナルキャラとして登場させたり、自分なりの必殺技を作ったりするのが好きだった。

 忍者漫画では何故か自分にだけ使える最強の忍術を。
 侍漫画では何故か自分にだけ与えられた最強の刀を。
 海賊漫画では何故か自分だけの最強の能力と仲間を。

 ハマる作品を見つける度に、その中に自分を登場させた。しかも結構なチートキャラとして。

 物語をゼロから作りたいと思い始めたのは、中学生の頃だったと思う。

 クラスメイトの友達と漫画を描こうという話になって、その時の私は作画担当だった。
 絵を描くのも好きで、当時は自分の考えた武器の絵とか描いてたので特に不満は無かった。

 しかし友達の書いてきた脚本を読んで、私は愕然とした。
 設定は面白いし、キャラも個性があっていい。
 ただ、ストーリーがまったく私好みではなかった。(あくまで個人の趣味嗜好による見解です)
 
 けれどその頃の私はあまり自己主張がはっきりできるタイプではなかったので。
「ま、とりあえずやってみるか」
 と、その脚本に合うよう漫画を描いていた。
 しかし案の定あまり楽しくはなかった。
 ここを直したいなとか、こうしたらもっと面白そう、とかそういうことを考えながら作画をしていたと思う。
 ストーリーも考えてみたいなあ、と思うようになったのはその頃だ。

 しかしその頃の小説執筆は数ある遊びの一つで。
 他の色んな遊びや趣味に目移りしつつ、ふと思い出した時に小説を書いてみるくらいの姿勢だった。

 そうして社会人になって、今度は仕事に熱中し始めて。
 仕事に慣れ始めて自分に余裕ができた頃。

 たまたま見つけたのがエブリスタという小説投稿サイトだった。


 SNSを何の気なしに見ていた時、偶然目に入ったのがエブリスタの「超・妄想コンテスト」だった。

新作限定!初心者大歓迎!
三行だけでも、中編小説でも、妄想を炸裂させた文章ならなんでも応募できるコンテスト…(中略)…文字数は100文字(三行程度)~8000文字

「へー、おもしろそう」
 そのくらいの気持ちだったと思う。
 100字からでいいんだ、それなら書けそう、とかも思ってた。

 超・妄想コンテスト 冬スペシャル 「このイラストにセリフをつけよう!」
 
 それが私の初投稿だった。
 イラストを見て、想像した会話をそのまま書き殴ったもの。
 
 結果は惨敗。
 受賞作ってどんだけ凄いんだと思って読んでみると。
「え!? セリフをつけようってお題なのに、めっちゃ小説じゃん! 嘘つき!」
 というような感想だった。(内容は面白かったです)

 あ、コンテストってもっと自由なんだ、と学んだエブリスタ処女作だった。

 
 そして問題の作品ができたのはそれから2か月後だった。
 
 第95回 超・妄想コンテスト「チョコかと思ったら…」

 今度は自由に楽しくやろう。
 このコンテストに臨むにあたり、それを第一に考えてやっていたように思う。
 締切前日の土曜日を全部使って執筆、推敲、応募した。
 
 タイトルは――「かぷころ
 
 え、なにこれどういう意味。
 そう思ってもらえたら嬉しいな、と思ってつけた。
 
 内容は、チョコかと思って期待してたら謎の部活の入部届を渡された、痛めの男子と女子の物語。
 こんな変な友達欲しいなとか、こんなヤバい学校通いたいなとか。
 そんなことを考えながら書いていたら、自分でも笑えるような作品ができたので応募した。
 
 ――結果は、大賞だった。


 最初に違和感を抱いたのは、仕事中に届いたメールだった。
 
 その頃はエブリスタから毎日「読者数レポート」というものがメールで届いていた。
 前日分の自分の全作品の読者数が数字で書かれて送られてくるのだ。
 どの作品を何人が読んでくれたか一目でわかる楽しいシステムでとても気に入っていた。

 ただ当時の私は、Web小説投稿サイトについては何の前知識もなく始めてしまい、フォローやスターのシステムやSNSのマナーを全く把握しないまま、ただ書いて公開している状態だった。
 そんな私にフォロワーなんて現れるはずもなく、読者数は大体1桁。
 新作を出した瞬間だけ10人台に乗ることもある程度だった。

 そんな毎日の少数のありがたい読者に支えられていた日々の中で、そのメールは届いた。

 毎日「読者数レポート」は夕方にメールで届く。
 私はそのメールを仕事中にこっそり見て楽しんでいた。
 しかし、その日はこっそりできなかった。

 かぷころ:120人。

「は?」
 声が出た。

 え、いやいや、ちょっと待って、なんかおかしいよ。

 私はスマホを一度机に置いて、両目を強くこすった。
 そしてもう一度、スマホを見る。120人。
 いやまてまて、と戸惑いながら前日のメールを見返す。
 前日の「かぷころ」読者は1人だ。安心した。そう、いつもこんな感じだ。
 今日のメールをもう一度見る。
 120人。120倍? 意味が分からない。
 私は激しく動揺した。
 重ねて言うが仕事中である。
 
 その時はとりあえず一度思考を停止して仕事に集中した。
 そして慌ただしく定時退社を果たし、帰りの電車でもう一度メールを確認する。
 
 かぶころ:120人

 ……間違いない。何かあったぞ。
 当時の私は、毎日エブリスタのサイトをチェックするタイプではなかった。
 しかしその日はさすがにチェックした。

 タイムラインで妄想コンテストの結果発表がされていた。
 見知った表紙とタイトルが載っていた。

 一番上に、載っていた。

 理解が追い付かないまま、とりあえずそのページをスクショした。


 「かぷころ」は超・妄想コンテストで大賞を受賞していた
 
 初受賞、しかも大賞受賞。
 そんなことあるのか、としばらく信じられなかったが。
 たくさんのお祝いメッセージが届き、格段に増えたフォロワー数がその証拠だった。

 ――面白かったです。
 ――笑いました。
 ――大好きです。
 ――次も楽しみにしています!

 色んなコメントが一気にきて、正直最初はちょっと怖かった。実感が無かったからだと思う。
 
 でも少しずつ実感が湧いてきて。
 その言葉は、本当に自分と自分の作品に向けて贈られた言葉なんだって分かってきて。
 すごく嬉しくて、でも泣きそうにはならなかった。
 
 それよりも書きたくなった。
  

 それからというもの、日を追うごとに少しずつ読者数は増えていった。
 勿論ほとんどは「かぷころ」読者だったが、それに伴って、別の作品も読んでもらえるようになった
 "読まれている"
 読者の存在を意識するようになったのはその頃からだ。
 
 そして"読んでもらえる"喜びを知ったのも、この瞬間からだった。

 私はそれから次々と書いた。
 読んでもらえるのが嬉しかった。
 それと、書くのをやめたら忘れられるかも、という恐怖もあったと思う。

 忘れられたくない。
 そう言う意味では、命懸けだったのかもしれない。
 
 どうしても書けなくなった時もあった。
 その時は過去のスターやペコメ、感想やレビューに助けられた。
 何度も読み返して、何度も思い出した。

 もっと多くの人に出会いたくてTwitterも始めた。
 今まで見えなかった人たちが急に人間性を帯びてきて、やっぱりみんな頑張ってて、より一層書きたくなった

 いつの間にか「読者数レポート」は届かなくなっていたけど関係なかった。
 私は毎日エブリスタにいたから。

 ――そうして、かつて描いていた華々しい人生は狂った。


 ――もしもあのコンテストで「かぷころ」が受賞していなかったら。

 私は小説を書くのをやめて。
 その時間で新しい趣味に没頭して。
 縁ある人と恋に落ちて。
 数年付き合って結婚して。
 もしかしたら子供も二人いたりして。

 子供の頃からぼんやりと見えていた人生は、そういう形をしてたはずなのに。
 ……おかしいなあ。何でこうなったんだろう。

 最近の新しい趣味と言えばTwitterくらい。
 赤い糸で結ばれた恋人もいない。
 もちろん結婚の気配もない。
 二人の子供なんて夢のまた夢。


 それと、今日も書いてる。


 色々と予定の狂わされた人生ではあるけれど。 
「まあでも、こういう人生も悪くないかなあ」
 そんなことを思いながら。


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