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Q. 登場人物の描き分けができません|海猫沢 めろん

みなさんおはようございます。
朝の5時ですが、そろそろ夕食を食べます。
前回あんなにも暗黒剣に気をつけろと言っておきながら、暗黒剣使ってます。
つらい。
今回のご相談はこちら。

今月の相談者:鳴神紫蘭さん(学生)
執筆歴:2年
ご相談内容:登場人物の性格に深みを持たせることがすごく苦手なのですが、何かコツはありますか?
話が進むうちに似たような性格に寄ってしまったり、登場人物同士の外見が混ざってしまうことが多々あります。
そのせいで、主人公など目立って欲しい人物が霞んでしまうこともあって、悩んでいます。

キャラの書き分けってむずいっすよね……ぼくもよく混乱します。
でも、この悩みは、最低限のことをやればクリアできると思います。

今回は、簡単にキャラクター設定を整理できるワークシート付きです。

その前に、人物設定については

そもそも人物思いつかない、作るのが苦手
作ったはいいけどうまくいかない

の2パターンあると思うんですけど、鳴神さんは後者だと思うので、

「書き分けと立たせ方」

ということで進めさせてください。
今回は全部で3ステップありますが、まずはステップ1から。

ステップ1 3つの項目をもとにキャラクターを整理する

まずは作品の登場人物を、エクセルやメモで整理してください。一応かんたんなファイルも用意してみたんで、よかったら使ってみてください(一番下にあります)。

まず、整理項目は最低限3つ。

役割、関係性、重要度」です。

ひとつずつ説明します。

◎役割
「主人公」「敵対者」「協力者」「助言者」とか、あるいは「探偵」「犯人」「被害者」など、物語のなかの役割のことですね。

純文学など、現実寄りの小説の場合は「キャラクターが複雑でかんたんに分類できません!」ということもあるでしょうが、今回の相談はそっちじゃないので割愛します(そっち方面は改めてご相談ください!)。
最低限、「主人公」「対抗者」「協力者」「謎の人」「犠牲者」「依頼者」がいると書きやすいです。

◎関係性
これ、超重要です。ぺらぺらの場合でも、ここを調整するとうまくいくことがあります。
兄弟、親友、恋人、会社の上司と部下――とかだけじゃなく、片思いしてる、憎んでる――など感情も含めてください
ちなみに、人物が単純で浅い、というのは、「どの登場人物視点から見ても同じに見える」ということです。Aは、B視点とC視点では見え方が逆、という角度をつけると複雑な人物に見えたりします。

具体例でいうと、ぼくが『夏の方舟』という作品のなかで描いた、小田桐という人物がそうです。秘密も守らない、なんでも笑い話にして悩まない、うすっぺらい軽薄な人間です。一緒にいる主人公の巻村も最初はそう感じている。
ところが、そのことに救われている自分に気づく――そうすると、

巻村は、小田桐に人間的な深みを感じなかった。だが、彼に備わった美徳は人間的なものではなく、動物としての魅力だったのだ。それは時に、理解できない人間からはうすっぺらく見えてしまう。

というように、同じものがちがう解釈になり、ちょっと複雑になります。

関係性を把握するには文字ではなく相関図がわかりやすいので、フリーソフトのFrieve Editorがオススメ。

◎重要度
その作品における人物の重要度を、★や数字で判断してください
すると、「これは誰のなんのための物語なのか」が、自分のなかではっきりします

例えばぼくの作品、『キッズファイヤー・ドットコム』はカリスマホストが赤ちゃんを育てる話ですが――赤ちゃんはほぼ行動できません。しかし、テーマはこの赤ちゃんをめぐるものです。重要度はとても高いです。でも主人公も同じくらい高いわけで、両方を描きたい……どうしよう……うーん。

ということで、変則的ですが、前半で赤ちゃんを中心にした主人公たちの活躍、後半はその赤ちゃんの成長した姿を描きました。通常は、主人公をひとりにするほうが読者には伝わりやすいのですが……自分のなかではどうしても重要度が同じだったので、こうなりました。


ステップ2 全体のバランスを検討する

表と相関図をつくった段階で、かなり問題と改善点が判明したのではないでしょうか? よく陥りがちなのは、

同じような役割の人物が複数いる
相関図に影響しない人物がいる
重要度の低い人物が物語の中心になっている

このへんです。
もしひっかかっていたら再検討の余地があると思います。具体的にやることは、

同じ役割の人物が複数いるならひとりにまとめる
相関図を見て、関係性をつけくわえたり消したり
人物の重要度と物語内の出番などのバランス検討

これができたら最後です。


ステップ3 キャラの見た目や履歴・口調を検討する

ステップ1、2を経るとおそらく自分が書いている物語が、誰の物語でなにをするべき物語なのか、かなりはっきりしていると思います。
この段階にきたら、もう一度設定を見なおしましょう。
試しに三人以上いる場面を書いてみて、違和感なければ問題なし。

……ちなみに、どうしてもかき分けができないという場合は、口調と見た目に極端な個性をつけましょう

言うまでもなく小説の場合、絵がありません。見えるのはセリフです。つまり、固有の口調や口癖などがあると見分けがつきやすい。

たとえば猫は語尾が「~にゃん」犬は「~わん」たぬきは「~ぽん」だと、読者は絶対に間違えません……が、使いすぎると世界観がぶっ壊れるので気をつけましょう。

容姿や外見的要素は毎回書かれるわけではありません。それでも人物を表現する重要なポイントです。
似たような背格好の人物は、読者が混乱してしまいます。どうしても譲れないポイント以外は、身長、体型、服装などで差をつけてわかりやすさを心がけましょう。

以上です! すいません長くて。


人物設定は物語とセットで考えよう

人物設定やキャラクターづくりというのは、みんながいちばんやりたい部分だと思うんですよ。
だけど、一本の作品として完成させるためには、物語とセットで考えないといけないので、そこが難しいところだと思います。

このステップ1~3は順番にやるのが理想ですが、3からはじめても大丈夫です。つまったときにどれかをチェックする、というふうに使ってください。スムーズにやれているときは気にせず進めてください。
ノープランで粘土をこねるようにぐちゃぐちゃやりつつ、途中でチェックするとかも良し、堅実にイチから設計するのも良し。自分が楽しい方向でやってください。

さらに、これでも悩みが解決しない場合は……一旦全部捨ててください! で、もっと別のやり方――そうですね、このサイトの記事、

「好きなキャラの属性だけ変えて、魅力そのまま出しちゃえ!」
https://monokaki.everystar.jp/howto/nonseries/2365/

なんかを試してみてください。
とにかく創作は無限のやりかたがあるので、必ず自分に向いてる方法があります最初はうまくいかなくても、回数を重ねればかならずうまくなります
ではまた次回! ね、ねねねねむいいい!!

以下にWordファイルも用意していますので、キャラクター作りに活用してもらえたら幸いです。

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『夏の方舟』
著:海猫沢めろん KADOKAWA(角川文庫)
美しい離島でひとり暮らす青年・水無月陸。ある夏、陸が思い焦がれ、再会を切望していたかつての幼なじみ・黒坂聖が、女性の姿になって突然島に帰ってきた。陸は、胸に渦巻く凶悪な感情を抑えきれず、聖を監禁するが、本性を現した聖の前になすすべなく屈服し、欲望のままに交わる。小学生のときに死んだもうひとりの幼なじみ・遠野宮への回想と思慕をまじえ、美しい島でくりひろげられる少年たちのグロテスクでありながら透明なひと夏の恋。――


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『キッズファイヤー・ドットコム』
著:海猫沢めろん 講談社
少数精鋭、短期決戦をモットーとするホストクラブの店長、白鳥神威。いつも通り歌舞伎町から帰った彼を待ち受けていたのは、見知らぬ赤ちゃんだった!
育てることを決意した神威は、IT社長・三國孔明と一緒に、クラウドファンディングで赤ちゃんを育てることを思いつく。
試練を前にして逃げることは、カリスマホストの本能が許さない。ITで日本の子育てを救えるのか!?男たちが日本の育児の変革に挑む、新時代のイクメン小説!


*本記事は、2020年02月18日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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