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ホラーは児童文庫の一大ジャンル|ホラー&デビュー|飯田 一史

 今回は児童文庫におけるホラー作品を取り上げて紹介していきたい。
 このジャンルにホラー専門のレーベルはなく、ホラー専門の新人賞もない。
 けれど角川つばさ文庫、講談社青い鳥文庫、集英社みらい文庫、双葉社ジュニア文庫、ポプラポケット文庫、PHPジュニアノベルなど各社に必ずそれぞれ人気のホラー作品がある
 つまり子どもに向けてこわい話を書きたいという作家にとってチャンスはあるはずだが、そういう書き手専用の入り口はない。
 というわけで今回は、作品とともに書き手のバックグラウンド(どこからこのジャンルに行き着いたのか)も紹介する。これを読んで児童文庫ホラーの執筆に興味を持った書き手は、デビューの経緯も参考にして戦略を立てていただきたい。

人気の児童文庫ホラーは3つのサブジャンルに分けられる

 児童文庫ホラー分野の代表的なサブジャンルは、お化けや妖怪が絡むこわい話を扱った「怪談・都市伝説」と、生死がかかった恐怖体験を強いられる「デスゲーム/サバイバル」の2つだろう。
(「ホラー」とは超自然現象が絡むもので、人間同士が殺し合うような話は違う、と考える人もいるかもしれないが、デスゲームやサバイバルを描いた作品も恐怖体験を描いているという点でホラーに含める)
 近年ではこの2つに加えて「叙述ホラー」とでも呼ぶべき、“ショートショートを最後まで読んで少し考えると実はおそろしい内容だった”という叙述に仕掛けのあるホラー作品が現れているので、それぞれ紹介していきたい。


幽霊や怪異を語る王道ジャンル、怪談・都市伝説系

・緑川聖司「本の怪談」シリーズ(ポプラポケット文庫)
 2010年7月の『ついてくる怪談 黒い本』に始まる人気シリーズ。
 毎巻少年少女が主人公となってストーリーが進行し、ほとんどの怪談は作中作というかたちで登場人物たちによって語られていくが、主人公の経験自体も怪談になっている、という構成。シリーズ名どおり毎回不思議な本が鍵となるものとして登場。どの巻からでも読み始められるが、「あっちの作品で出たキャラクターがこっちにも出てくる」というシリーズ読者向けの仕掛けもある。

 大枠のストーリー上では主人公たちが悲惨な結末に至ることはないが、作中作の怪談は怪談らしくおそろしい目に遭うことも少なくない。小学生~中1が主要読者のジャンルのため、児童文庫作品では大人向けのホラーでは許容されているグロい描写は基本的に望ましくない。それだけでなく読者がショックを感じすぎないよう、主要人物の死や暴力体験もなんらかのかたちでオブラートにくるんで表現することも多い。この作品は「怪談を作中作にする」ことで直接性をやわらげている(が、竹岡美穂のイラストのダークな雰囲気も本編のシリアスさもあいまって、十分こわい……)

 著者は2003年、『晴れた日は図書館へいこう』で第1回日本児童文学者協会長編児童文学新人賞の佳作となりデビューと、児童文学畑の出自。デビュー以前にはミステリーの新人賞でも最終選考に残るなどしていたこともあり、福まねき寺シリーズなどミステリー作品もある。しかしやはり代表作といえば、本の怪談シリーズと怪談収集家山岸良介シリーズという怪談ものだろう。

・いしかわえみ原作/絵、桑野和明、はのまきみ著『絶叫学級』シリーズ(集英社みらい文庫)
「りぼん」に2008年から2015年まで連載された、いしかわえみのホラーマンガ「絶叫学級」およびその新シリーズ「絶叫学級 転生」(2015年~)のノベライズ。原作マンガは2013年に実写映画にもなっている。ノベライズ版も原作同様、オムニバス形式で日常に潜む超自然現象も絡んだ恐怖体験を描いた作品で、ノベライズは原作のエピソードを元に小説としての味付けを加えた短編集。朝読などで熱く支持され、2011年から2020年4月現在までで24巻も続いており、20巻までを桑野和明、21巻以降をはのまきみが執筆。

 生徒同士や教師と生徒、子どもと家族とのやりとりがあり、思春期らしい苛立ち・反抗・恋心などからいじめやトラブルが起こり、怪異の力によって恐ろしい状態に突入するもなんとか解決した……かと思いきや悲惨な結末に至る、というのがパターンになっている。

 桑野和明は2009年に発売されたPSP用ゲームソフト『大正野球娘。』のシナリオライターであり、2007年頃から魔法のiらんどに「日高由香」名義で連作ホラー小説『ゴメンナサイ』を執筆(のちに双葉文庫から刊行)、桑野名義では「エブリスタ」への投稿作が双葉文庫より『名画座パラディーゾ 朝霧千映のロジック』として書籍化されている。ゲームシナリオ出身とも言えるし、ケータイ小説出身とも言える出自だ。
 はのまきみはみらい文庫大賞の第1回に応募し、最終選考で入賞を逃すも『全力おしゃれ少女☆ツムギ』で2013年にデビュー。ホラー作品としては『ネット・ホラー スマホの中には悪魔がいる』、ノベライズでは他に『ひるなかの流星』などを手がけている。

・佐東みどり、鶴田法男『恐怖コレクター』シリーズ(角川つばさ文庫)
 2015年から刊行されている、つばさ文庫で人気の都市伝説ものアクションホラー
 赤いフードの付いた服を着た少年フシギは都市伝説の呪いを追って町から町へと町を旅している。フシギのもつ赤い手帳にはこれまで集めたたくさんの呪いのマークがある。「チャーリーゲーム」「不幸の手紙」「死のブログ」といった都市伝説を現実のものにする呪いに対して、フシギは赤い手帳にさかさまの「解」の字を突きつけ、ノートに戻しながら、双子の妹を探していた――。

 たとえば「夕方から急に雪が降り出したとき、午前0時ちょうどに窓の外を見てしまうと女の幽霊が現れて呪い殺される」という恐ろしい都市伝説をまず紹介し、それが現実になって登場人物たちを襲うという恐怖を描く、という二段構えになっている。そこにフシギが介入して都市伝説を手帳に封印して去って行く――という連作短編スタイル。
 ひとつひとつの都市伝説のエピソードは短いが、1冊を通してひとつの大きな話を構成しているだけでなく、シリーズを通しての続き物になっている。
 怪談や都市伝説で語られる存在が目の前に現れたら……というのは誰しも子どものころ一度はしたことがある想像だろうし、こわくなって夜トイレに行けなくなったことがある人もいるかもしれない。この作品はまさにその「現実になったらどうしよう」という想像が現実になってしまうおそろしさを描いているのが秀逸だ。

 佐東みどりはアニメ『サザエさん』やドラマ『念力家族』などの脚本家。
 鶴田法男は『ほんとにあった怖い話』『リング0 バースデイ』『おろち』など数々のホラー作品を手がけてきた映画監督・テレビ演出家。
 つまりこの作品はテレビ畑の作家が手がけたもの。このコンビで、やはりホラーアクションものの『怪狩り』というシリーズも執筆している。


子どもたちが生き残りをかける、デスゲーム/サバイバルもの

・針とら『絶望鬼ごっこ』シリーズ(集英社みらい文庫)
 2015年の『とざされた地獄小学校』に始まる、毎巻「小学校」「ショッピングモール」「遊園地」などと場所を変えながら、あるルールに基づいて主人公の小学生(シリーズ途中で中学校に進学)を追いかけてくる「鬼」や鬼に取り憑かれた人間などとの鬼ごっこに逃げ切れ! というシンプルな設定のストーリーながら現在15巻まで刊行。どの巻からでも読めるが、続きものになっており、鬼とは何なのか? どんな種類がいて、なぜ主人公たちをターゲットにしているのか? ということが徐々に明かされていく。

 著者は第1回角川つばさ文庫小説賞一般部門の最終候補に残るものの、落選。『めざせ!東大お笑い学部 天才ツッコミ少女、登場!?』(つばさ文庫)で2014年にデビューし、本シリーズでブレイク。

・大久保開『生き残りゲーム ラストサバイバル』シリーズ(集英社みらい文庫)
 第5回集英社みらい文庫大賞優秀賞受賞作『青に叫べよ』を改稿して2017年に刊行した第1作『最後まで歩けるのはだれだ!?』に始まる、「50人の小学生が最後の一人になるまでひとつの競技でたたかう大会“ラストサバイバル”」を描いた作品。主人公は小六の桜井リク。「優勝すればなんでも願いをかなえてもらえる」という優勝特典を求めて、参加者たちは競う。

『最後まで歩けるのはだれだ!?』はスティーブン・キングの『死のロングウォーク』、3巻めの『つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ』は山田悠介の『リアル鬼ごっこ』など先行するデスゲーム/サバイバル作品を思わせるものだが、ストーリー展開はもちろん異なる。
 小学生が実際にやろうと思えばやれるような単純なルールのゲームながら、身体が極限状態になるまで競うさまを描いている、その身近さと恐ろしさの両立がこのシリーズの魅力だろう(なお、この作品では、脱落者は死ぬわけではない)。

・藤ダリオ『絶体絶命ゲーム』(角川つばさ文庫)
 ①金がほしくてたまらないこと②親にひみつで外泊できること③だれにも言わないこと④命の保証がなくても、かまわないこと、を参加条件とする「絶体絶命ゲーム」。勝てばもらえる一億円を目的に、絶対にお金がほしいと目をギラつかせた10人の少年少女たちが集まり、毎巻、謎のタワーや迷路、島からの脱出などを単純な肉体戦ではなく頭脳戦や謎解き要素も交えながら描く。
 ゲーム参加者は全員ではないがバンバン死ぬ。これは児童文庫では比較的珍しいが、逆に言えば「児童文庫のホラーでは人を死なせてはいけない」わけではない。

 著者は映画、テレビアニメ制作を経て『出口なし』(角川ホラー文庫)で作家デビュー。一般文芸と児童書の両方で活躍している。

・『王様ゲーム』『復讐教室』『カラダ探し』『生贄投票』(いずれも双葉ジュニア文庫)
 エブリスタ発で特に中高生を中心に人気のホラー作品は、双葉ジュニア文庫から若干リライトされて刊行されている。
 たとえば『王様ゲーム』なら、王様からクラスのみんなのケータイに届く命令の内容が原著では「○○と××はセックスしろ」といったものだったのが「キスしろ」「胸をさわれ」くらいになっていたり、何年生でも読めるようにと配慮したためか学年の情報がなくなっていたりする。
 とはいえ次々にエグい死に方をする点は変わらないのだが、グロさや痛そうな描写(身体欠損など)も控えめになっているのと、絵柄が原著やマンガ版よりややリアル寄りでなくなっているため、かなり印象が異なる。
 このように、中高生向けホラー作家が、作品を小学生向けにリライトする、というパターンもある。


クイズ×怖い話として楽しめる叙述ホラー

・小林丸々『本当はこわい話』(角川つばさ文庫)
 2018年に刊行が始まった氏田雄介『54字の物語』やこの『本当はこわい話』シリーズ、藤白圭『意味が分かると怖い話』を代表として、児童向けやYA(ヤングアダルト。13歳~19歳)向けの本では、1分くらいで読めるショートショートの叙述に仕掛けをして、読後に少し考えると(あるいは解説を読むと)「そういう意味か」とわかる、というタイプの作品が増えている。なかでもホラー系のものをここでは便宜的に「叙述ホラー」と呼んでいる。

 たとえば『本当はこわい話』なら、ある人物が、ウソが嫌いな正直者の男に説得されてショーに出演、箱に入ると男はチェーンソーを手に「タネも仕掛けもありません」と箱を真っ二つにしようとする――というものだ。解説で「ウソを付かない人間が『タネも仕掛けもない』と言っている、ということは……?」といったことを開陳し、ショーの出演者に死の恐怖が迫っていることを示す。

 もともと朝読需要によって1作数分で読める短編集、アンソロジーの人気は高い状態にあるが、小学生が「自分でも書けそう」に思えるくらいひとつひとつは短い作品に解説を付けてまとめたのがこのジャンル。
『54字の物語』『本当はこわい話』『意味が分かると怖い話』はいずれも主にウェブ上で活動している作家から生まれている。SNSでの流通(バズ)を考えるとひとつひとつは短い方が望ましい、ということだろう。


メジャー感×死や呪いの恐怖が児童文庫ホラー

 児童文庫のホラーの特徴をまとめるとこうだ。

【全サブジャンル共通】
・小学生にとって身近な要素を採り入れていることが多い
例:学校が舞台、鬼ごっこなど誰でも知っているゲームが登場するなど
・人を死なせていけないわけではないが、グロさの描写は控えめ

【怪談/都市伝説もの】・昔からよくある定番ネタを短編の中に取り込んでフックにしていることが多い
例:学校の七不思議、人面犬、メリーさんなど

【デスゲーム/サバイバルもの】
・に登場する主人公(少年少女)の動機は「生き残りたい」「カネがほしい」「肉親を救いたい」といった単純でわかりやすいものが多い
・ゲームのルールはシンプルなことが多い

【叙述ホラーなどの短編集・短編連作】・純然たる独立した作品をただ集めたものであるケースはほとんどない
通しのストーリーがあるか、ない場合は進行役、解説者的なキャラクターがいて、各短編の終わりや始まりに顔を出す


 身近さ、わかりやすさ、ある種のメジャー感/ストレートさで読者を惹きつけ、死んだり呪われたりするかもしれない恐怖を描く、ただしショッキングな描写は避ける、とでも言えばいいだろうか。
 もっとも、児童文庫と読者層が重なる超人気シリーズ廣嶋玲子『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』もホラーもの連作短編集だが、登場人物(視点人物)は小中学生に限らず大人のこともあるし、ギョッとするくらいバッドエンドのオチもあり、「子ども向けだから」という手加減は感じられない。
 書き手が勝手に自主規制せず、攻めた内容の方が結局読者に刺さることはままある。ぜひこの年齢向けにホラーを書きたい人は『銭天堂』も合わせて読んで「ここまでやっていいのか」ということを確認してみてほしい。


児童文庫ホラーでデビューするにはどこを狙うか

 デビューの方法は「児童文学の新人賞」「児童文庫の新人賞」「一般文芸の新人賞」「テレビ、映画、ゲームなど他メディアで作品を制作」「SNSや小説投稿サイトで活動」と入り口はさまざまだ。
 ただ、最近になればなるほど「児童文庫の新人賞」と「SNSや小説投稿サイトで活動」出身の作家が増えているという印象だ。どちらかを選ぶのがいいだろう。
 講談社青い鳥文庫の作品はここまで取り上げてこなかったが、青い鳥にも最近では 甘雪こおり『人狼サバイバル』という人狼ゲームものホラーなどの人気作もあり、児童文庫の主要レーベルはいずれもホラーにも門戸を開いている。

 怪談・都市伝説ものやデスゲーム/サバイバルもの、叙述ホラー以外は流行っていないのか、と早計しないでほしい。これまでも何かがヒットするとそれに似た作品が刊行され、サブジャンルが形成されてきただけの話だ。次のスタンダードになる新しいタイプのホラーも、常に求められている


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『ついてくる怪談 黒い本』
著:緑川聖司 絵:竹岡美穂 ポプラ社(ポプラポケット文庫)
図書館で『黒い本』という怪談を借りてきたぼく。本を読み進むうちに、本と同じような恐怖がぼくの周りでも起こり始めて……。これは現実なのか、それともぼくが本の中にとりこまれてしまったの……!? 
学校や日常生活の怪談を26編収録。『終わらない怪談 赤い本』とあわせて読むと、怖さも二倍楽しめます。ベストセラー「文学少女」シリーズのイラストレーター竹岡美穂の魅力の挿絵でおおくりします!


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『本当はこわい話 かくされた真実、君は気づける?』
著:小林茶々 絵:ちゃもーい KADOKAWA(角川つばさ文庫)
黒いイヌを見つけると男は赤い車に戻った。銀色の上着を脱ぐと、青いワンピースの少女が男に聞いた。「シロは見つかった?」
――こわーい!!!!  …え? どこがこわいかわからない? よーく考えてみて。この3行にはとんでもない真実がかくれているわ。一見なんでもないお話のようだけど、意味がわかるとゾッとしちゃう! ここは、そんな『本当はこわい話』が集まる図書館。君にはお話にかくされた真実がわかるかな?


*本記事は、2020年04月28日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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