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長所を磨いて、自分だけの創作の切れ味を大事にしよう|川越宗一 インタビュー

 趣味として書き始めた小説を改稿の上、松本清張賞に応募した『天地に燦たり』でデビュー。長編二作目『熱源』が初ノミネートで直木賞を受賞。多くの物書き志望者の夢を最速で実現したように見える川越宗一氏。

 『熱源』では、樺太だけではなく、ウラジオストック、サンクトペテルブルグ、東京を舞台に、日本人にされそうになったアイヌとロシア人にされそうになったポーランド人を主人公に物語が展開する。なぜこんなにもスケールの大きな小説が書けたのか、どうしてこの小説を書こうと思ったのか。受賞後の多忙な中、上京されていた川越宗一氏に聞いた。

松本清張賞に応募したのは広く読まれるため

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――小説を書きはじめたきっかけからお聞かせください

川越:4年ぐらい前、サラリーマンの仕事にも慣れてきて日々の時間に余裕が出てきたので、「新しい趣味でも始めようか」と軽い気持ちで書き始めました。

――松本清張賞に応募された理由などはありますか

川越:書くなら歴史小説だと思っていました。せっかくなら普段歴史小説を読まない人におもしろいと思ってもらえるものを書いて、なるべく広く読まれたい。たぶん賞金が高い賞は競争が高いだろうなと思ったので(笑)、ノンジャンルで新人が応募できる賞ということで、松本清張賞を選びました。

――最初に応募された時の結果はどうでしたか?

川越:スカッと落ちました。それから小説添削講座を受けて、全編を書き直しました。

――後のデビュー作『天地に燦たり』ですね。添削講座で最初の形から全く違うものになったのでしょうか?

川越:主人公が3人なのも、舞台もオチも変わってないです。直したのは文章ですね。視点を変えるタイミングだったり、「一文中の動詞は3つか4つまで」とか「『しかし』や『そして』は極力使わない」とか「指示語は入れない」とか添削してもらって。あれがなかったら受かってなかったので、先生には今でも感謝しています。

――改稿にはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?

川越:落ちたのを知ったのが3月で、それから直し始めたので、3月から11月の8か月間ですかね。

――資料などもたくさん読まれていると思うのですが、プロットは作られますか?

川越:作っているんですが、2作目は全然プロット通りにいきませんでしたね。そのプロットは捨てましたけど、なにを書いているのかという設計図は常にわきに置いていました。プロットをもとに原稿を書くというより、原稿で書いたものをプロットに起こし直して、全体像や起承転結やプロットポイントを把握していました


歴史が歪まないウソのつきかた

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――『天地に燦たり』『熱源』ともに旅行先で感じられたことが執筆の最初の動機になったとのことですが、その際にはシーンやキャラクターなどが浮かんできたのでしょうか?

川越:僕の場合は過去の事件や人物に興味を持つことが多いです。シーンやキャラクターはそれを調べてからだんだん浮かんでくる感じです。小説を書き始める前から歴史を調べるのが好きで、「こういう話があったら見たいな」とネタを妄想する癖がありまして。自分が読みたいものを書くっていうのがモチベーションですね。

――逆に歴史を調べれば調べるほど盛り込みたい出来事も増えると思うのですが、書かない判断はどのようにされていますか?

川越:作品がおもしろくなるように、ですかね。あとは、書かないというウソのつき方はあると思うので、ウソをつきすぎないようには気を付けています。歴史なので一つの出来事にも功罪がある。罪の部分がなさすぎたり、功の部分を言わなさすぎたり、結論として歴史が歪むようなウソのつき方はしないようにしています。

――登場人物に感情移入させるエモーショナルな書き方もあると思うのですが、川越さんの作品ではキャラとの距離感もフラットですよね

川越:いずれそういうやり方はするのかもしれないですが、今はあまりそういう見方で書きたくないんです。「小説という虚構を書いていて、何を言うんだ」と言われると思うんですが、事実の羅列にとどめておきたい。一つの歴史観で過去をズバッと切るのは難しいし、人間一人が見える視野は狭い。だから、多視点にすることでフラットにして全体が浮かぶような書き方はしています。


シリアスな時代でも、それぞれの喜怒哀楽と人生がある

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――最近は「天地を動かすうた」「ゴスペル・トレイン」と、歌をモチーフにした短編が続きました

川越:その時はうたうたでしたね。音楽に絡めたことをずっとやりたかったんですけど、『天地に燦たり』ではあんまりできなくて。『熱源』で器楽的なことはしたので、次は声楽的なことをしたいなって。

――ゴスペルからブルースやジャズは派生していきました。アメリカと音楽の歴史がリンクしていく上でどうしても黒人差別問題が出てきます

川越:レベルミュージックという観点は20世紀の音楽には欠かせないと思うので、その辺りは今後書いていきたいですね。「ゴスペル・トレイン」では教会音楽と黒人奴隷問題を書きました。音楽にも歴史ありで、これは書いていてめっちゃたのしかったですね。

――当事者じゃないということについて川越さんはどうお考えでしょうか?

川越:人によってスタンスはあると思うんですが、「当事者ではないからこそ書ける」という一般論は、書く側から言うことではないような気がします。僕は自分が書きたいから書いている、創作したいから創作しているというスタンスです。モチベーションを外部に求めないように常に意識していますね。口幅ったいですけど、それが創作者の矜持であり責任でもありってことですかね。

――もともと歴史がお好きとのことですが、ご自身の作風に影響を与えた作家や、他ジャンルの作品がありましたら教えてください

川越:根幹は小学生の時に読んでいた「週刊少年ジャンプ」だと思いますね。特に『北斗の拳』と『花の慶次』はベースになっています。あと漫画『機動警察パトレイバー』。小説はあまり読んでいないんですが、多視点にするとめっちゃおもしろいと知ったのは『銀河英雄伝説』を読んだからですね。あれもSFというか歴史ですが、すごく好きです。

――『熱源』の冒頭の部分の3人の少年などは意図的に脱力した感じで書かれているのかなと思いました。シシラトカみたいなキャラクターも魅力的です

川越:引っ掻き回すようなキャラクターは僕も好きなんで入れがちですね。とぼけた感じ、すっとユーモアが入ってくるところなどは完全に『パトレイバー』の影響があります。シリアスな話を書くことが多いので、バランスを取りたいというのもあります。シリアスな時代だからと言って、みんながシリアスなことしかしてないわけではない。喜怒哀楽があって、当時の人なりの人生があったと思うので、演出としても表現したいこととしても、ユーモアはあります。


直せない欠点に時間や気持ちは使わなくてもいい

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――プロになってからやっていて良かったこと、やっておけば良かったことがあれば教えてください

川越:やっておいて良かったことはやっぱりインプットですね。デビューしてしばらくは時間のバランスを取るのが難しいので。インプットするかアウトプットのレベルを上げるかの二択になると、商業出版では絶対に後者が優先されてしまう。〆切もあってアウトプットにかかりきりになってしまうから、無呼吸で潜水しているような感じです。

――そのためにはインプットをしておかないといけない?

川越:インプット自体は何でもよくて、単純に小説をいっぱい読めってことではないなと思う。人それぞれなので、キャンプをすることがインプットになるなら、たくさんキャンプに行ったらいい。アウトプットの幅を広げたり、質を高めるインプットとは何なのか考えながら自分にあったやり方を模索していくのが大事になってくるんじゃないでしょうか。

――プロをめざす書き手に向けてのメッセージがあればお願いします

川越:プロをめざしている人に対しての短い格言、誰も責任を取らないアドバイスは一切聞かなくていいし、信じない方がいいと思ってるんですが……。敢えて言うなら、短所は直さなくていいから、長所を磨いた方がいいと思います。短所はプロになったら編集が絶対に指摘してくれるので、それに任せたらいい。ただ、編集の人も長所のナイフを研ぐことはできない。それは自分で研がなあかん。

――編集者は研いでくれない

川越:版元の人は切れ味の鋭いものを求めているんじゃないかと思ってるんです。その切れ味の鋭さに鞘をつけることは版元の方でやるよってことなんじゃないかな。自分の創作の切れ味を大事にしよう、ご自分を信じた方がいいですよってことですかね。直せる欠点は直るし、直らない欠点はどうしても直らないので。どっちにしろ、そこに時間や気持ちを使わなくてもいいんじゃないでしょうか。

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(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)


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『熱源』
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。
樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。


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『天地に燦たり』
戦を厭いながらも、戦のなかでしか生きられない島津の侍大将。
被差別民でありながら、儒学を修めたいと願う朝鮮国の青年。
自国を愛し、「誠を尽くす」ことを信条に任務につく琉球の官人。
豊臣秀吉の朝鮮出兵により侵略の風が吹き荒れる東アジアを、三つの視点から克明に続く。
なぜ人は争うことを辞められないのか。人と獣を分かつものとは、一体なんなのか――


*本記事は、2020年04月02日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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