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「オリジナリティ」って何ですか?|monokaki編集部

 おもしろい小説を書くために必須と言われているさまざまな要素を、ヒット作を手掛かりに読み解いていく本連載。
 前回は「良質なインプット」って何ですか?を取り上げましたが、「インプットすればするほど、先行作品の影響を受けそうでこわい」「何を書いても無意識に好きな作品に似てしまう」という人も多いのではないでしょうか?
 オリジナリティ。プロデビューをめざす物書きさんには、必須の要素ですよね。
 じゃあ、「オリジナリティがある」、というのはつまりどういう状態なのか。考えていきたいと思います。

突然ですが、ここでクイズです!

 以下の超ヒット作品のあらすじを読んで、作品名を答えてください。

人間を食べる巨人から身を守るため、人類が壁の中に引きこもって暮らしている世界。それまでにない大型の巨人によって故郷の街を破壊され、母親を殺された主人公が、巨人を殲滅することをめざして軍に志願し、仲間とともに成長しながら、世界の真実を追って諦めず進み続ける物語。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 わかりましたか?
 そう……『進撃の巨人』ですよね。
 では、これはどうでしょう。

近未来の日本。AIの進化により、人類は働かなくても生きていけるユートピアを実現していた。が、とあるウィルスによって生活インフラを支えるシステムが暴走。ヒロインの助けを借りながら暴走を食い止めようと奔走する中、主人公はその裏に仕組まれた真実を知る……。

 なんか……なんかありそう! こういう話!!
 絶対見たことある!!なんかいくつか該当しそう!
 でも、はっきり一つの作品名を示せるか、そしてそれが世界に一つの作品か……というと、ちょっと微妙です。

 今回は結論からいきましょう。140文字のクイズにして、該当作品が一作品しか当たらない状態まで持っていければ、その作品は「オリジナリティがある」と言えるでしょう。

 ここでのポイントは、その作品世界にだけ出てくる設定上の用語は使わないこと。たとえば『進撃の巨人』でいえば、「調査兵団」や「ウォール・マリア」などはNGワードです。辞書を引けば載っているような、誰もが知る言葉だけで、且つ140文字で、表現してみてください

 140文字のあらすじが作れたら、それが次に早押しクイズになっている様子を想像してみてください。
 最初に提示した『進撃の巨人』のあらすじだったら、「人間を食べる巨…」あたりでピンポーン!とボタンが押されそうです。
 「巨人」というモチーフ自体が、それまでメインの敵キャラに据えられることがあまりなく、キャッチーな要素だからです。


読者があなたの小説にたどり着く確率

 公募に出す場合、「キャッチーさ」というのは、結果を左右する大きな要素の一つです
 審査員は、数百数千の作品を読んでわずか、数作品をピックアップします。そのとき、「どこにでもいる女の子の、何気ない日常を切り取っただけなんだけど、めちゃくちゃグッとくる!」という作品で受賞するには、正直太宰治クラスの文章力と言葉のセンスがないと難しいでしょう。
 特に新人賞では、「いままでにない作品がほしい」だとか、「上手な書き方は教えられるし、勉強すれば身につく。編集者が教えられない尖った個性がほしい」だとか、選ぶ側も結構わがままです。

 これは、小説投稿サイトでたくさんの人に作品を読んでもらうときも同様です。
 エブリスタに掲載されている作品数が何作品かご存知ですか? 話数ベースで約240万作品です。「小説家になろう」はタイトルベースで57万作品、最も新しい「カクヨム」でも7万作品もの小説が掲載されています。
 一生かけても全部は読み切れないくらいの、膨大な作品群の中で読者を得ていくためには、作品の核となる魅力=オリジナリティを作者が心得ているに越したことはありません

 「140文字じゃ言い表せないくらい書きたいことがあるから、わざわざ小説にしてるんです!」というご意見もあるかと思います。至極正論です。
 この140文字がキッチリ作れるまで書き出してはいけない、というわけでもありません。
 でも、書き始めて、最初の数千字を書いたところで止まってしまうことがあったら、ぜひこの方法を試してみてほしいのです。
 なぜなら、「そもそも自分は何の話が書きたいのか」を作者がはっきり理解していないと、作品を140文字に落とし込む作業はできないからです。


そもそも何の話が書きたいのか、を明確に

 たとえば同じ「バトルもの」に絞っても、作者が何を描きたいのかは作品によってさまざまです。
 勝利の爽快感なのか、主人公の成長なのか、スリリングな駆け引きなのか……。もちろんその複数だ!ということもあるでしょう。しかし、執筆は取捨選択の連続です。
 「このキャラクターのセリフをどっちにしよう?」「この後の展開をどうしよう?」と迷ったときに、「そもそも自分は何の話が書きたいのか」をしっかりわかっていれば、作品にとって最善の選択ができる確率が上がります

 『進撃の巨人』なら、人食い巨人の恐怖? 無力な状況に立ち向かう人間のすばらしさ? 生死を共にする仲間たちとの絆?
 そのどれも正解ですが、一番は、「いま自分から見える世界の外側に何があるのかを知りたいと願う好奇心」ではないでしょうか。

 同作では、「壁」というものが、町を囲む物理的な「壁」であると同時に、「主人公から見える世界の限界」として示されています。同時に、「海」というものが「まだ見ぬ広大な世界」の象徴として対置されます。
 本欄でのネタバレは避けますが、22巻の重要な場面で、主人公のエレンが「海って知ってますか?」と尋ねるシーンがあります。このたった一言のセリフがわたしたちの胸を打つのは、「海」が20巻以上さかのぼって、第1巻から繰り返し示唆されるキーワードだからです。
 そして、重要なのは「巨人と戦う」ことではなく、「まだ見ぬ広大な世界を夢見る」ことだ、という趣旨のセリフが続きます。

人間を食べる巨人から身を守るため、人類が壁の中に引きこもって暮らしている世界。それまでにない大型の巨人によって故郷の街を破壊され、母親を殺された主人公が、巨人を殲滅することをめざして軍に志願し、仲間とともに成長しながら、世界の真実を追って諦めず進み続ける物語。

 だから、この作品のタイトルは「進撃」の「巨人」なのです

 このように、ヒット作はそのタイトルが、核となる140文字としっかり呼応しているパターンが多いです。
 タイトルをつけるのが苦手な方も、ぜひ試してください。
 その先には、「自分が書きたいと思うものを迷わず書ける喜び」が、きっと待っているでしょう。

(タイトルカット:16号


今月のおもしろい作品:『進撃の巨人』

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百年の長きに渡り人類と外の世界を隔ててきた壁。その壁の向こうには見たことのない世界が広がっているという。炎の水、氷の大地、砂の雪原……。本の中に書かれた言葉は、少年の探究心をかき立てるものばかりだった。やがて時が過ぎ、名ばかりの平和は壁を越える大巨人の出現により崩れ、絶望の闘いが始まってしまう。現在、人類は一歩ずつ世界の真実へと近づこうとしている――。
「別冊少年マガジン」連載中、コミックス25巻まで発売中のほか、2018年夏よりアニメ第3期が放送予定。 (c)諫山創/講談社


*本記事は、2018年05月17日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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