「登場人物」って何ですか?|王谷 晶
2020年もそろそろ終わり! 王谷晶である。年末進行の足音もそろそろ遠くから聞こえてきてアレなのでさっそく本題に入るが、今回のお題は「登場人物」すなわちキャラクターのお話である。
娯楽小説の呼称の細分化は近年留まるところを知らないが、「キャラクター文芸/小説」「キャラノベ」なんて呼び名もあっという間に定着してしまった。それくらい、現代日本における娯楽作品は「キャラが立ってる」ことが大事ということなのかもしれない。
あなたの作った「登場人物」は絶対にカブる
過去の作品を紐解いてみても、「シャーロック・ホームズ」シリーズがなんでこんなに長い年月オタクを量産し続けているのかというとやっぱりホームズとワトソンのあのキャラ性が大きいと思うし、「三国志」とか、もっというと聖書や神話などの内容がその土地の人や信者以外の門外漢にも知れ渡り、改変やパロディが作られ続けているのは、魅力的で印象に残るキャラクターが出てくるからであろう。
つまり魅力的なキャラクターを作って動かすことができれば、それだけ成功の道が近付いてくるというわけです。
では魅力的でしかもこの作品ならではという個性的なキャラクターはどう作ればいいか。突然だが私はここで総務省統計局にアクセスしてみた。年間日本でどれくらいのフィクションが刊行されているか調べるためである。
統計によると、平成30年には文学・児童書あわせてだいたい1万7千強の書籍が刊行されているのである。ここからシリーズものや再販なんかを考慮しても、少なく見積もっても毎年八千人から一万人くらいの「主人公」が日本に生まれていると考えていいだろう。さあこの中で埋もれず個性的で印象に残って愛されるキャラクターを作るにはどうすればいいか。まだ誰も描いていないような生い立ち・外見・性格etcを全部乗せするか?
1万人とカブらないように頑張って組み立てたら、それはおそらく「這い寄る混沌」的な存在になってしまうだろう。それはそれでアリだけど、人間(的)な範疇でキャラを作りたいとなったら、もう絶対に、確実に、どこかはほかの誰かとカブる。
余談だがこの「カブり」を気にしすぎて(ネットでパクリだとか言われないかどうかとか)キャラ作りやストーリー作りが迷走してしまうの、現代の書き手にありがちな問題だが、私はあまりよい傾向ではないなと思っている。そりゃ丸パクリはあかんけど、どっかは絶対カブるんですよ。そういうもんです。
「類型」をうまく利用してキャラ作りをしよう
かなり若いメディアである映画だってもう生まれてから百数十年経過している。その間に作られた膨大な作品数のことを考えると、完全に真新しいものというのは、それこそ百年に一度できるかできないかだと思う。
ヒトのイマジネーションは無限と言えるかもしれないが、「商売としてペイできる程度に大勢の人にウケる物語・キャラクターのパターン」はそんなには多くない。少なくとも無限ではない。
と、いうことを念頭に置いてキャラクターづくりの話に戻るが、どうせどこかはカブるんだったら、逆に「類型」をうまく利用してキャラづくりをしよう、という提案をしたい。
諸君も「ギャルゲの正統派ヒロイン」とか「少年漫画の主人公的」とか「いかにもなライバルキャラ」みたいなフレーズを聞いたことはあるだろう。とくに娯楽作品のキャラクターはある程度パターン分けが可能なのだ。
まず「こいつは熱血主人公タイプ、こいつはクールなライバルタイプ、こいつはミステリアスな謎の女タイプ」ぐらいにざくっとキャラを振り分けてから、その中で細かい設定を考えていくとキャラがブレずに決まりやすい。「熱血主人公」という枠の中なら、絞り込めた分だけ逆に他の熱血主人公にない個性をくっつけやすい。
そしてキャラクターのだいたいのアウトラインができたら、それが物語の中でどう動いていくのか、ストーリーと共に練っていく。キャラづくりがうまく行っていない小説って、「こいつはこんなこと言わんだろ」とか「こいつがこの行動するのおかしくない?」みたいな不自然点が頻出するのだ。
生きてる人間は年月とともに考えや姿や口調が変化したりするが、フィクションのキャラクターはブレずに筋が一本ビッと通ってたほうが読みやすいし好かれる。
「目的・好き・嫌い」の3点をしっかり定めるだけで最強のデッキが組める
キャラをぶらさずに書き進めていくために、その人物の一番大切な根っこのところだけはしっかり決めておこう。すなわち
1・何が目的か
2・何が好きか
3・何が嫌いか
の3点だ。
物語の中でその人物が何を目的・目標にしているのかを常に意識していると、いわゆるキャラが勝手に動いてくれるというか、これ以外の選択はこいつはしないだろうという道筋が見えてくる。そうなると書くのも楽だし楽しくなってくる。
この3点をおさえたキャラ作りをしてるなと私が近年思ったのは、HBOドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』である。
めちゃくちゃいっぱい人が出てくるのに、そのほとんどが目的と好き嫌いがはっきりしているので、キャラが迷子にならないし(最後の最後でグダったという意見もあるが……)見ていても混乱しない。
ヨソの物語やキャラとのカブりはあまり気にすんなと書いたが、同じ物語の中なのに「こいつとこいつ、ほぼ同じキャラじゃね?」「こいついらなくね?」みたいなキャラクターが出てくるのは悲しいし読んでてややこしいので、そこんとこはしっかり考えよう。
まず大きな類型にぶっこんでから細かい個性を考える、目的好き嫌いの3点をしっかり定める、というこのポイントをおさえれば、キミだけの最強デッキが組める! はず。
20年代における世界のポップカルチャーの基礎教養となったドラマ
というわけで今回のおすすめ作品はもはや世界のポップカルチャーの基礎教養と化す勢いで大ヒットしたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』。先にも書いた通りドラマ版全8シーズン、名前が付いててセリフのあるキャラだけでも膨大な人数が出てくるのだが、これが驚くほど混線なく動き、ちゃんと印象のある、覚えていられるキャラクターになっている。
1、2シーズン出てこなくて久々の登場、みたいな奴でも、その背景や今までの記憶がぱっと浮かんでくる。各俳優の名演や衣装デザインの力もあるが、やはり交通整理された脚本の力が素晴らしい。「横文字の名前が覚えられなくて……」みたいな気後れをしている人にもぜひ挑戦してほしい。
最終回は賛否両論ありまくりだが、そこに至るまでは文句なしの覇権ドラマとしての面白さが目白押しなので、巣篭もり時期にぜひ挑戦してみてほしい。ヴァラー・モルグリス!
(タイトルカット:16号)
今月のおもしろい作品:『ゲーム・オブ・スローンズ』
「ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章> 」
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