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Q.ストーリーの起伏が作れません|海猫沢 めろん

こんにちは。ついに今年が終わることに絶望している海猫沢です。
今年こそ終わらせようとおもっていた長編がまた終わらなかった……ついに8年書き続けていることになるのか……いや、いまからでも遅くないがんばるぞ!

がんばるまえにこのコーナーの原稿を書きます。行ってみましょう。

「つまらない」とき、読者が言いがちな理屈

今月の相談者:川口健伍さん(34歳・会社員)
執筆歴:20年
ご相談内容:ストーリーに起伏をつくって、読者の感情をコントロールするのがとても苦手です。
書きたいシーンを書くだけだったり、世界の説明のためにただエピソードを用意するだけで、ストーリーにうねりがなく感情移入させられていないと感じています。
どのような練習をすれば克服できるのでしょうか。
今月の相談者:kamさん(20代・学生)
ご相談内容:ストーリーに臨場感を持たせるにはどうしたらいいですか?
1つ1つのシーンの臨場感だけでなく、全体を通して話を見たときの話の盛り上がりやライブ感を醸し出す方法がいまいちつかめず、困っています。
以前に「構成は良いし、危機的状況は演出できているが、危機感が伝わってこない。もっと起伏が欲しい」という感想をいくつかいただきました。
危機的状況になってさえいれば、盛り上がると思っていたのですが、ちがうのでしょうか?

今回はお二方ともに、
「ストーリーづくりになにか問題がある」
というお悩みですが、
ストーリーに起伏があっても、読者の感情が動いてない……問題こっちじゃね?
というふうに、原因を理解してます。

たしかに「ストーリーに起伏がない」と言われる場合、問題はストーリー1)ではないことが多いです。この言葉が読者から出るとき、それは「つまらない」という感情に、読者がもっともらしい理屈をつけているだけです。この言葉を真に受けてストーリーを複雑にしても……だいたいの場合面白くなりません

多くの物語を読むとわかるのですが、決して「平坦なストーリー=つまらない」ではないし、「複雑なストーリー=面白い」ではありません。もし作者が「ストーリーの起伏」に悩むとしたら、ありえるのは「複雑な物語を書いたつもりなのに単純だと言われてしまった!」という評価のギャップについての悩みか、あるいは「伸び悩んでいるので、ストーリー作りの理論を勉強してみたい」という技術的向上心ではないでしょうか。

ストーリーに関してはむちゃくちゃいろいろな理論があって、話し始めるときりがないのですが……今回はまず簡単に「エモーションライン」と、「メインプロットとサブプロット」というものを考えてみましょう。


キャラを掘り下げるとエモくなってしまう?

物語全体の起伏を「ストーリーライン」という線で表せるとしたら、キャラクターの感情もまた線で表せます。それが「エモーションライン」です。このふたつをまず覚えておいてください。

次に、いくつかの昔話を読んでみてください。
昔話のほとんどは単純です。物語に起伏がありますが、大人が読むとどうもなにか物足りません。それは「人物の感情と葛藤が描かれていないこと」が原因です。
桃太郎が鬼退治に行く理由は「鬼が悪いことをしてみんなが困っているから」以上のことはわからず、そこからは「悪いやつ=倒す!」という直情思考の単純な桃太郎像しか見えてきません。

つまり、「ストーリーライン」と「エモーションライン」がシンクロし、なおかつ心理的葛藤が描かれていない物語は、すごく単純に見えてしまうんです。
シンプルな物語を好む人もいるので、それが一概に悪いとは言えません(日曜朝の戦隊ものなんかは、あれはあれで良いのです)。しかし、相談者のお二人は、もうちょっと複雑なのが書きたいと思われてますよね?
そこで次の段階です。

まず、昔ばなし「かぐや姫」を読んで、次に高畑勲監督の映画『かぐや姫の物語』を見てください
見ました?
どうですか?
見ればわかったはずです。
この映画、ストーリーは昔話とほぼ同じだけれど、エモいんすよ! かぐや姫「個人」が前面に出ていてリアリティがあるんです。
ただ、ここで気をつけてください!

「なるほど、ストーリーラインがシンプルでもエモーションラインが複雑ならいいのか!」

という早合点をしてはいけません。そういう単純な話ではありません。
キャラクターを、とことんまで深く掘り下げると、エモーションは複雑に変化せざるを得ないという結果論なんです。
つまり、お二方はまず、キャラクターが単純になっていないかをチェックする必要があります。


メインを軸に、いくつかのサブプロットを重ねていく

というわけでキャラクターとその心理の重要性は理解できたと思うんですけど、次にストーリーです。
キャラの重要性を語っておいてなんですが、ぶっちゃけキャラが魅力的なのにストーリーが平坦でつまんない……という作品はたしかにあります! この場合、チェックすべきは
「ストーリーラインが単線」になっていないかという部分です。

ストーリーラインが一本だと、飽きます(短編は短いのでなんとかなりますが……)。
メインクエストをすすめるうちに、恋愛要素が入ってきて主人公がAとBのヒロインどっちを選ぶのかとか、国と国との謀略とか、主人公のトラウマが解消されたり、大食い対決したり……そういうものがあったほうがいいです(メインプロットとサブプロットというやつです。ゲームで言うとメインクエストとサブクエスト)。

「いやいや、小説って文字で書かれてて順番に読むからぜんぶ一本道やろ?」
というのはあくまで読者の意見です。書く人間の頭のなかは違います。いろいろなラインが同時に重なってます。図で書くとこういう感じです(あくまでこれは単純な基礎です)。

めろんそーだんグラフ1

図はサブが1本ですが、長編だとこれが3本くらいあります。これを意識することで、「一本線のなかに伏線もなく重要すぎるエピソードがはさみこまれる」というありがちな違和感を防げます。
メインプロットには強烈な魅力や謎を持たせ、サブプロットでそのメインの謎をだんだんとときほぐしつつ、キャラクターを掘り下げる……これがストーリー設計の基本技術だと思います 。


創作のヒントに! ボードゲームを活用しよう

まとめると、kamさんはまずはキャラクターの感情がつかめるように設定を固めてから、
ストーリーライン+エモーションライン(メインプロット・サブプロット+キャラクターの心理・葛藤)
の設計をみなおしてみたらどうでしょうか?

川口さんは、「ストーリーをつくるのに、どのような練習をすればいいのか?」という質問ですが、映画を見るのはどうでしょう? 名作映画をメモりながら見て、その構造をもとに別ジャンルに書き換えてみる練習など役立ちます。大切なのは、筋書きだけじゃなく、見ている自分の気持ちの上下もメモすることです。技術的にどういうふうに感情が操られているかわかります。

小説の面白さは、ストーリーだけではなくキャラクターやセリフや描写、あらゆる細部に宿っています。考え始めると混乱してきます……だからまずは自分の強みをしっかりと伸ばしてからでも弱点克服は遅くないと思います。
お互いがんばりましょう!

……とはいえ、創作しているとだんだんと自分の手癖や限界が見えてきて、壁を感じるのも確かです。
「物語もある程度ひねった、キャラクターも自分なりに掘り下げた……なのに評価が低い!?」
書き続けていると、そういったこともあるかと思います。
その場合は、一度自分の枠をはずすような体験をしてみるのがいいと思います。

例えば、ここ最近のボードゲーム界の最新トレンドに「マーダーミステリー」というものがあります。シナリオが事前に全員に渡され、その事件のキャラクターを全員で演じて体験しながら真相を探るミステリゲームです。
実際にやってみるとわかるのですが、演じるのが人間なので、必ず想像と違った展開になり思わぬ創作ヒントが得られます。

無料シナリオ『探偵シド・アップダイク Case.00 超能力研究所』を用意したので使ってみてください。
ではまた!


ピンと来ないアドバイスはスルー

川口さんの作品を読んだところ、文章で世界をつくる力はすごいと思いました。ビジュアルが立ち上がってきて、こういう世界が描きたいというのが強烈に伝わってきます。これはこれでいいと思います。創作はとにかく自分が良いと思うものを書くべきです
ただ、今回はストーリーに悩みがあり、訓練方法が知りたいということだったので、僭越ながらぼくが気づいたことを書かせていただきます。

まず、メインプロットが冒険で、そこへサブ――雷精霊と主人公の関係性、仲間同士の戦い、将棋、砂蟲――というエピソードが出てくるんですが、このサブとメインをうまく関係させるともっと面白くなると思いました。このあたりは自分でもお書きになられていた通りですね。
具体的解決方法としては、

・サブプロットを最小限に減らしてしてみる
・メインクエスト達成のために必要なものがサブクエストで手に入る――という構造にする
・主人公の気持ちがメインの冒険ではなく雷精霊との関係のほうに向きすぎているので――主人公の気持ちがメインクエストになんらかの影響を及ぼす(あるいはその逆)構造にしてみる
・サブがメインに対して強すぎないかチェックする(メインの冒険より蟲の話のほうがあきらかに重要なので、こちらを物語の主軸にすえてみる)

などでしょうか。

読んでいて、この物語で作者が語りたいのは「主人公と雷精霊の関係性と、この世界の謎」なんじゃないかなと思いました。だとしたら、世界の謎をとくための冒険にして、登場人物も主人公と雷精霊だけにしたほうが焦点が絞れるかも知れません。
川口さんの場合、ストーリーの技術よりも、「なにが書きたいか」をひとつはっきりさせ、大きな謎や魅力のあるメインプロットを据えれば、サブプロットは自ずと出てきそうな気がします。「メインとサブをまちがえない」という点だけであとはうまく行きそうです。

ご自分でなにかピンとくる部分があればとりいれてみてください。ちなみに、ない場合は完全スルーできれいさっぱり忘れてください!
アドバイスを下手に聞かないほうがいいタイプもいるので。「理屈なんてクソだ!」派なら、そっちを優先したほうがいいです。
ぼくもどっちかというと根本的にはそっち派です。

1. ↑ ちなみに、ここで言う「ストーリー」は「お話全体の流れ」という意味で使っています。


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そこにたまたま居合わせた、未来を見通す力を持ったサイコメトラー探偵、シド・アップダイク。彼の推理は、絶対的な真実ですが曖昧です。その断片的なビジョンを頼りに、サリンジャー氏を殺した犯人を探しましょう。


*本記事は、2019年12月17日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。