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「売れるもの」と「自分の得意・不得意」のバランス|二軒目〔後編〕|黒澤広尚

『創作居酒屋』そこは編集者・作家・書店員・漫画家・イラストレーター・サイト運営者・読者など分け隔てなく、書籍業界にかかわる人々が集まり、創作論を語り合う居酒屋である。

どうも皆様お疲れ様です。
5月も終わり、これからいよいよ夏本番ですね。2019年がもう半分経過しようとしているという事実を受け入れにくい黒澤です。

この半年間、ニュースもいろいろありましたが、Web小説業界では「LINEノベル」「ノベマ」「ノベルアッププラス」「セルバンテス」等、この半年で新サービスが数多くリリースされただけではなく、「小説家になろう」そして「エブリスタ」も、サービスをリニューアルしました。
多くのWeb小説プラットフォームが動いた、激動の半年だったのではないでしょうか。

このように多くのWeb小説媒体が開設・更新されるのは、Web小説への期待・可能性が大きくなっているからに他なりません。デビューへのハードルも「原稿用紙に10万文字印刷」が当たり前だった時代から、Web小説の登場および、プラットフォームの増加によって、格段に軽くなったと考えています。

今回はそうしてWeb小説家から実際にデビューされた女性三方との「創作居酒屋」の模様を引き続きお届けいたします。これからデビューを目指す方も、既にデビューされた方もぜひご閲覧くださいませ。

前回は、各プラットフォームで活躍される皆様のお話をお伺いし、
小説投稿にはサービス毎に特徴があり、それぞれで投稿しやすい作品、読者に支持されやすい作品が異なる」こと
作家自身のプロモーション活動もデビューしてから大きく効果を発揮したこと
小説を執筆する際の取材方法・重要性
についてお伝えいたしました。

後編では「小説執筆ジャンルの選定方法」「小説を書き始めたきっかけ」「デビューしてみてびっくりしたこと・よかったこと」についてお届けいたします。

「自分の得意な分野に現在のサイトの流行を取り込んでいった形ですね」(蛙田)

(拍手が終わり)
――さて、前回のムーディーな音楽はどうやらプロポーズではなく誕生日の演出だったようなので、そろそろインタビューを再開していきましょう。皆様は小説を新しく執筆される際に、ジャンル選び等はどういった基準でされますでしょうか? 例えば蛙田先生ですと『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』のような、女性パーティーものを執筆されていますが

蛙田:実は、私は流行ジャンルに器用に合わせるのがなかなか得意ではないタイプなんですよね。それだけじゃなくて、今は男女間の恋愛も執筆するのも得意ではないんですよ。BLとか百合の方が得意なので、デビュー作については自分の得意な分野に現在のサイトの流行を取り込んでいった形ですね。商業化のためにはどうしても苦手な要素も研究していかないといけませんが、得意分野があると、テンプレートの中でも特徴が出せてよかったのかなと思います。

矢御:ですよね! 私もイケメン登場させるのが苦手なんで、恋愛ものを書くのが苦手なんですよ。現実世界から遠くなればなるほど苦手になるんです。

――イケメンはファンタジーの存在ですか(笑)

蛙田:割とそうですよね(笑)。この中だと筏田さんが唯一イケメン主人公が登場する商業物を出されているんじゃないですかね?

筏田:書いている方はイケメンの認識はないから! あれはU35先生のパワー1)だから!

――イケメンの話はさておいて、ジャンル選定の話に戻りますが、矢御さんはどういった基準でジャンルを選ばれますか?

矢御:小説は正直、気分次第ですね。その時書きたいものを書くというか、筆が乗ったものを書くというか。ただ逆に、noteに書くようなエッセイは計画的に書かないといけません

――前回ご紹介した『【華金】お酒大好き女子三人がサイゼリヤで5000円飲み会してきた』などを読むと、勢いで執筆しているような印象を受けましたが、エッセイは逆に計画的に書いているとは驚きです

矢御:結構大変なんですあれ(苦笑)。エッセイの執筆も、狙うとなかなか精神力を消耗するので、今は特に狙わずに、好きなものを書いてリハビリをしています。

――いつの時代も流行ジャンルはありますが、著者の書きたいものと完全一致しているケースはむしろレアですものね。うまく流行と自分の趣味とを融合させる技術は、作家を長く続けていくうえで、必須のスキルかもしれません

蛙田:ですね。小説は、読者にとってストレスが少ない展開が今は求められているってよくいわれていますが、実はエッセイも読者のニーズを見るという点では同じで、ハウトゥーといったものでもない限り、直感で書けるものではないと思います。作家である以上、自分のテンプレを作るくらいのつもりで挑まないといけないのでしょうけど、なかなか自分として書きやすく、かつ流行に沿ったジャンル選定は大変ですね。


「ヒットするとやはり複数の出版社から打診がきますね」(筏田)

――先ほどイラストレーターの名前(U35先生)が出ましたが、イラストレーターは筏田先生が希望されたんですか?

筏田:そうなんですよ。女の子が抜群にかわいくて、猛プッシュしました。ご返答をいただけて、実際にイラストが上がった時はもう感動でしたね。

――デビューされる方には興味があると思うんですが、指名されたうえで、すばらしいイラストが完成していますが、実際に「こういった場面を描いてほしい」など、筏田先生はどの程度指定されましたか?

筏田:私はほとんどお任せでしたね。編集者とU35先生で進めていただいた形です。もちろんラフイラストの確認はしましたが、その次は完成品の納品という形です。ただ、かかわった工程によらず、完成品のイラストを見た瞬間の喜びは大きいです。

――なるほど。実際に作品とイラストがマッチした時の瞬間は、読者からしてもうれしいことですが、作者の方からすれば格別でしょうね。他の皆様もデビューされているわけですが、一番驚かれたことはなんでしょうか?

蛙田:一番びっくりしたのはあれですね印税が後払いということですね(笑)

矢御:たしかに(笑)。

――ああ、確かに、業界にいるとそれが当然のように思えますけど、作者の方からしてみるとそれは驚きますよね。本というものの性質上、出版社様のキャッシュフローを考えると後払いなのは致し方ない部分もあるんですが……この話はあまり深堀りしてもいいことはなさそうですね。他の皆様はいかがでしょうか?

矢御:筏田さんとかぶりますけど、担当していただけるイラストレーターの方が有名だったことですね。自分の作品が実際にイラストになるのはもう、めっちゃうれしいです。

――やはり自分の創作物が目に見えて第三者の手によって描写されるのは、イラストが初めてになりますから、印象が深いんですね。
……さて、ここで若干答えにくい質問になるかもしれませんが、筏田先生、「君恋」シリーズは今(収録時点)、ツイッターで確認したところ、累計31万部になっていますが、これは一般文芸では大ヒットと言っていい部数だと思うんですよね。なかなか大ヒットされた方に経験をうかがうこともないので、ぜひお伺いしたいんですが、大ヒットすると一番何が変わりますか?
「monokaki」には大ヒットを目指されている方もいると思いますので、ぜひ夢のある話をお願いします

筏田:夢があるかどうかはわかりませんが(苦笑)、やっぱりヒットすると複数の出版社から打診がきますね。Web小説に投稿しなくても、書下ろしで『ヘタレな僕はNOと言えない』(幻冬舎)も発売できましたし。出せるかどうかわからずに執筆する形から、どう出すかの執筆に代わってきます。あとは「君恋」ほどではないですが、部数も多めになる傾向はありますね。

――なるほど。LINEノベルの創刊メンバーにも名前が載っていましたし、そういうお誘いも来るようになりますよね。では、逆にしんどい部分は何かあったりしますでしょうか?

筏田:逆にたくさんのお誘いをいただいても、書けるかどうかというのは別の話になってきますよね。どうしても書くのに時間がかかってしまうので……。

矢御&蛙田:うらやましい~~。さすが売れっ子!(※文章からは伝わりづらいですが、このあたりからかなりお酒が入ってきており、皆様のテンションは高めです)


「書ける自信があって始めましたが、デビューまでは5年くらいかかっていますね」(筏田)

――さて、そろそろいい時間ではありますが、皆様の小説を書き始めたきっかけ、デビューした・できたきっかけなど伺っていければと思います

蛙田:小説を書き始めたきっかけとしては、私はもともと落語をやっていて、全国大会で2位になったこともあるんです。一時期は友人がどんどんプロの落語家になっていった結果、周りのひとの7割が落語家ということもあって。二次創作の小説含めて、創作すること、発信することは常に身近でした。

――プロフィールでは拝見していましたが、かなり本格的ですよね。落語と小説の類似点などはあるのでしょうか?

蛙田:そうですね。落語は発言すると取り消すのは無理で、小説は一度書いたとしても取り消しができるといった媒体の違いはありますが、磨かれたテンプレというものが前提としてあって、人によって好みが違うという意味で、なろう小説は古典落語っぽいのかもしれません。その中で主人公の会話で個性をつけていく形ですかね。
デビューできた大きなきっかけは、ずっと切磋琢磨していたライバル的な存在の方がいたんですが、その方が私より先にデビューしたことがありまして。それまではあまりデビューを意識して執筆してこなかったんですが、それ以降意識して活動するようになりました。実際にデビューするまで一年くらいですね。

――デビューを意識されてから、実際にデビューまで1年というのはかなりのスピードですね。「意識する」というのが先ほどの流行ジャンルと自身の書きたいものの融合といった部分もあると思います。筏田先生はいかがですか?

筏田:私はもともと創作活動は二次創作からスタートしたんですが、いろいろと活動していくうちに、二次創作キャラクターではなく、オリジナルキャラクターで書くようになって、「小説家になろう」での活動を始めた形です。デビュー作の『静かの海』は本当に書きたいものを書きました。
もともと面白い小説を書ける自信があって始めましたが、デビューまで私は5年くらいかかっていますね

――筏田先生と矢御さんはネット小説大賞からの受賞組ですが、5年というのは改めて聞くと意外に聞こえますね。5年間蓄積した文章が評価され、大ヒットにつながったということは、monokakiの読者の方にとっても心強いのではないでしょうか。そしてもうひとつ、こちらはネットでいただいた質問なのですが、先ほどの蛙田先生もそうでしたが、やはり皆様、創作物に自信があって執筆を始められた形なんでしょうか?

矢御:どこまでもつかは別として、大なり小なり作家なら、自分の作品に自信は持っていると思います。私はいろいろと疲れていたところを、デビューで救ってもらった形なので、今もハッピーだと思って暮らしています。私の中では本当に幸せです。

蛙田:「自分なら面白いものを書ける」という気持ちは持っていますね。小説家デビューしたからには、読んだ人を引き込みたいですよね。Web小説はユーザーさんもあったかいですし。たくさんの人に読んでもらいたいと思います。

――お二方に限らず、お会いする作家の方お酒の席でお伺いすると、やはり同じ回答が返ってくる場合が多いですね。自信を外に出すか出さないかは別にして、そういった自負は書き続けるための原動力になりますよね

矢御:ですよね~~。もうわたしは令和のエッセイストになるつもりですよ!

筏田&蛙田:いいですね~~~。


(※トークはこの後も若干続き、楽しいお話ができたのですが、さすがに親しいお三方ということもありまして、プライベートな話題も多く入りましてすべてはお伝え出来ない部分もございます。宴もたけなわではございますが、今回はこちらでお開きとさせていただきます。また、次の機会にお会いいたしましょう)


1. ↑ 『君に恋をするなんてありえないはずだった』小説版シリーズのイラストレーター。主人公の飯島靖貴はクラスでも目立たない存在のはずが、作中の挿絵等見るとイケメンに見えます


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『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』
著:蛙田あめこ、イラスト:三弥カズトモ(オーバーラップノベルス)
魔導師のターニャは「女だから」という理由で組んでいたパーティを追放される。
そのストレス解消のため、人のいない荒野で魔術をぶっ放していたら、伝説の大魔女・ラプラスの封印を解いてしまって!? 
二人はパーティを組むことになるのだが──


*本記事は、2019年06月11日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。