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元祖・戦うお姫様に女子の中二病をくすぐられて悶える|氷室冴子『なんて素敵にジャパネスク』|monokaki編集部

6月1日(土)

今月の日記は、まず早稲田・龍善寺からお送りします。エブリスタでは昨年から「氷室冴子青春文学賞」に特別協力していますが、今日は氷室冴子さんを偲ぶ、年に一度の藤花忌。今年で11回目となる「氷室冴子を偲ぶ会」は、同賞の審査員でもある久美沙織さん・柚木麻子さんをはじめ錚々たる作家の皆さま、氷室さんの同級生の方々、そして氷室作品のファンが集まり、ひとつの和室で氷室さんにまつわる思い出を語り合う温かい会でした。

私と氷室冴子作品との出会いは、中学校の教室で回し読みされていた『なんて素敵にジャパネスク』。当時はこの作品がどれだけ画期的か! ……なんて思っていなくて、ただ「すらすら読めて超おもしろーい!」と読破しまくっていたのでした。偲ぶ会では、「主人公の瑠璃姫のようなハッキリした女の子、自分の道を進む子に憧れて、長年の夢だった海外留学の夢を実現することができました」と語る方も。日本で女子をやっていることが嫌になるようなニュースも多いこの頃ですが、少女には少女小説が必要だと、皆さんのお話を聞いて強く思いました。少女の背中を押すような作品を、氷室賞からまた出していければと思います。「われこそは!」という方、ぜひご応募を。

これ以降、作品ネタバレを含みます。ネタバレされたくない方はお気をつけください。


6月2日(日):お約束は初めての接吻で の巻

というわけで今月は『なんて素敵にジャパネスク』を20年ぶりに再読します。初刊行は1984年。昨年、新装された『【復刻版】なんて素敵にジャパネスク』も発売されたので、書店で見かけたことのある方も多いのでは?

 幼いころ、平安の都から離れた吉野という所で、家族とも離れて育ったあたしは、そこで吉野君という初恋の人と会い、嬉し楽しの幼年時代を送った。
 吉野君はすぐに死んじゃったけれど、あのころの思い出があんまり美しいので、初恋の思い出に殉じて、生涯結婚はせず、清く正しく生きようと、けなげに決心していたのだ。
 だけど、紫式部というオバサンが書いた『源氏物語』という小説が、いまも都じゅうのロングセラーになっているような現代の貴族社会では、独身主義なんて異端なのよね。
 あたしはとうさまの陰謀にはめられ、権少将という殿方と無理矢理結婚させられそうになった。
 そこを救ってくれたのが、衛門佐高彬だったのである。

これが『なんジャパ』の大筋です。1巻は、年下の幼馴染・高彬(たかあきら)との結婚の経緯がメインストーリーなのですが……お気づきになりましたでしょうか、「現代の貴族社会」というワードに。主人公の瑠璃姫16歳は、「平安時代」を「現代」として生きる女の子。にも関わらず、作品が書かれた1984年の文体で主人公が生き生きと一人称で喋り、「現代」からはみ出した異端者として、およそ姫らしからぬ活躍をしていくことこそが、本作の最大の魅力でした。

そして、10代で読んだときはあまり意識しませんでしたが、16歳の彼女はもう「結婚できなくて親を心配させる娘」。「その歳で『初恋を貫いて生涯独身』なんて子どもっぽいことを言ってないで……」とたしなめられる年齢なんですね。2019年現在に置き換えると、29・30歳くらいのイメージでしょうか……? アラサー女子もののはしりとも言える同作を書いたとき、氷室さんも20代後半でした。


6月6日(木):初めての夜は恋歌で囁いて の巻

紆余曲折を経て、遂に初夜を迎えた瑠璃姫と高彬。しかし、いざ事に及ぶ……まさにその瞬間に、高彬の親友でもある弟の融が刀傷を負った状態で帰宅し、邸内は騒然となります。夜盗に襲われた、場所は覚えていないと言い張る融に、都の警備に駆り出され、急に忙しくなる高彬。事件解決までは新婚生活も先送りということで、瑠璃姫は自ら犯人調査に乗り出します。

ここから物語は急展開を見せ、帝の後継者をめぐる宮廷内の権力争いにまで発展していくのです。その手腕がエンターテインメントとして本当にお見事なので、長編を書いている方は必読です。あわせて参考にしたいのが、魅力的なキャラクターの造形。瑠璃姫と夫の高彬、侍女の小萩、弟の融とその懸想人、謎の恋敵・鷹男……。男女ともにチャーミングなキャラ揃いで、中学生当時も萌え談義に花が咲いたものでした。思わず「誰派!?」と人に訊きたくなるのは、良いエンタメの必須条件ですね。


6月12日(水):初めての夜よ もう一度 の巻

今日は実写の『アラジン』を観に行きました。前情報なしで劇場に足を運んだら、ジャスミンが「ディズニー・プリンセス像」を三段階くらい更新していて、度肝を抜かれました。オリジナルキャラクターとして新たに配された侍女のダリアも魅力的で、最新版「戦うお姫様」に殴られた思いです。

その頃、われらが「戦うお姫様」はというと……皇太子東宮のスパイとして、女房と偽って敵の邸内に潜入していました。「高貴な身分にもかかわらず、知略に長け、周囲を呆れさせながらも活動的にふるまう姫」って、もうこれは「女子の中二病」の一種です。嫌いなはずありません。しかもその賢くて活動的なところを見初められて、「おもしれー女……」って言ってくるハイスペイケメンも登場します。最高か? 「婚約はしたけど、まだ完全に夫婦にはなっていない」という高彬との微妙な関係性が、またこのモテ状態を悩ましく見せるんですよね。最高か???


6月20日(木)

この先の展開は何を言ってもネタバレになりそうなので、ご自身で読んでいただきたい!
折しも今日、チャット小説アプリ「Tanzak」がリリースされました。集英社の人気小説が手軽に読めるこのアプリの初期ラインナップには、もちろん『なんジャパ』も入っています。細かく区切られた地の文がタップすると現れ、登場人物同士の会話はチャット形式で表示される仕組みなので、移動中やちょっとした待ち時間にもすらすらと読み進めることができますよ。冒頭は無料なので、試し読みにぜひ。

個人的には、ホーム画面から「続きから読む」だけじゃなくて購入した作品トップへのリンクもほしいのと、話の最後で「次の話はこちら↓↓↓」と教えてくれるオリジナルのねこキャラは、作中の雰囲気から一気に現実に引き戻されるのでなくてもいいかなーと感じました……。今後のアップデートに期待しています!


次回は、編集部員の碇本さんがハインライン『夏への扉』を読みます。SF小説の金字塔、特にねこ好きの皆さん、一緒にいまさら読んでみませんか?


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『【復刻版】なんて素敵にジャパネスク』
著者:氷室冴子 集英社(コバルト文庫)
時は平安――。京の都でも一、二を争う名門貴族の娘である瑠璃姫(るりひめ)は十六歳。初恋の相手・吉野君(よしののきみ)の面影を胸に抱いて独身主義を貫く決心をしていた。
だが、世間体を気にする父親は、結婚適齢期をとっくに過ぎた娘にうるさく結婚を勧めてくる。ついにある夜、父親の陰謀によって権少将と無理やり結婚させられることに!?
絶体絶命の危機を救ってくれたのは、筒井筒の仲である高彬だったが……?


*本記事は、2019年06月27日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

みんなにも読んでほしいですか?

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