どストレートなおもしろさこそが子どもの好物|講談社青い鳥文庫|飯田 一史
1980年に創刊され、2020年で40周年を迎える講談社青い鳥文庫。
1990年代以降、現在に至るまで、はやみねかおる「怪盗クイーン」シリーズ、「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズ、松原秀行「パスワード」シリーズ、令状ヒロ子「若おかみは小学生!」シリーズ、石崎洋司「黒魔女さんが通る!!」シリーズ、藤本ひとみ原作・住滝良作「探偵チームKZ事件ノート」シリーズをはじめ、数々のヒット作を世に放ってきた。
活況を呈する児童文庫市場の中で、今どんな書き手を求めているのか。新人が気を付けるべき点とは。
青い鳥文庫編集長の中里郁子氏(現:講談社第六事業局新事業チーム長)と、副部長で新人賞を統括する稲葉希巳江氏に訊いた。
好みのツボは変わらないが、生活や読書スタイルは変わる
――まず最近の児童文庫の動向についての印象から教えてください
稲葉:今の子どもたちは忙しくて、学校から帰ったら、お稽古事、塾、宿題、ごはん、お風呂、YouTube……と家で30分も本を読む時間があったら取ってくれているほうだな、と実感します。それもあって、昔は300ページを超えてシリーズが何十巻と続くものも多くありましたが、今は第1巻は200ページ以内のものも増やしています。短編集も人気ですね。
中里:朝読の10分で「1話読み終えられた」という満足感も重要だからですね。
稲葉:昔の児童書は中盤でやっとおもしろくなってくる作品もありましたが、いまは冒頭をちょっと立ち読みした段階で「レジに連れていこう」と思ってもらわないといけないですよね。あらすじだけで「カタルシスがある」と保証してくれるものでないと読んでもらえないのかな? と。
中里:冒頭に限らず、子どもは飽きっぽいので短いページでポンポン展開していくのが大事ですね。
――読者の時間のなさに合わせた書き方が求められていると
中里:ただ、そういう届け方、パッケージは今に合わせたものにしなければと思う一方、中身のメッセージや子どもが喜ぶポイントは変わっていないと思います。
少年は『十五少年漂流記』や『蠅の王』の昔からサバイバルものが好きだし、女の子が好む要素も『赤毛のアン』にすでに詰まっていますよね。青い鳥文庫のDNAもその流れにあって、今も『名探偵夢水清志郎事件ノート』『パスワード』『黒魔女さんが通る!!』など、時代に合わせながらも昔からの流れを受け継いでいると思っています。
――今の読者の傾向は
中里:ハガキの印象では9~14歳がほとんどです。ただ作品の力によって高1くらいまで熱心にシリーズを追いかけてくれる読者もいます。
――青い鳥と言えばやはりミステリーの名作の宝庫という印象が強いですが、今現在の代表作というと……
中里:『探偵チームKZ事件ノート』ですね。児童文庫の全ジャンルで売上No.1。既刊32巻と、先ほど言ったことと矛盾するようですが、ページも長く、とてもよみごたえがあります。ただシリーズとはいえ1巻完結でどこからでも読めるのがすごい。
稲葉:1年に4冊刊行で次を長く待たなくていいのも今の忙しい人たちにうれしいことなのかも。
児童文庫のミステリーの特徴
――児童文庫のミステリーの特徴について教えてください
中里:「ホームズ」や「ルパン」からしてもともと短編でしたが、やはり子どもは短いものから入るのかなと。その作品の探偵のフォルム、キャラクターを好きにならないと長いものにチャレンジしよう、とはなかなかならない。
ではどんなキャラがいいかと言うと、子どもは、天才、主人公万能が大好きです。そこのワクワク感の演出は大人向けよりも重要です。主人公やバディないしチームメイトに憧れを抱いてもらうのが大事。
稲葉:そして警察でも手こずる難事件に挑戦して解決するほうがいいですね。
中里:友達や学校、塾など、子どもたちの生きる世界が肯定されていて、その上で大人の悪事を暴いたり、大人も解けない難事件を解く。大人をぎゃふんと言わせるもの、子どもの万能感を肯定するものはいつの時代も変わらず愛されていると思います。
――青い鳥文庫の作品では時に「これを子ども向けで書くのか、攻めているなあ」と思う難事件や犯人像が描かれますが、アリナシはどういう線引きなのでしょうか
稲葉:まず犯罪者が大人であることには注意しています。
――子どもが殺人はしないと
稲葉:じゃあ子どもの万引きはダメなのか? と聞かれたら、悪いことをした子が痛い目に遭うところを描くとか、更生するところまで描くならアリだと思います。
中里:正義が貫かれていること。悪が成敗されない話はありえない。いじめをした子がそのまま放置されてはいけないし、どんな理由があっても悪いことをしたら「しょうがない」とは言えない。そうでないと教育的配慮云々以前に、読者からまず強い反発があります。
稲葉:後味が悪すぎる作品ですとか、思わせぶりなことをたくさん書いて回収しきれなかった作品に対しても、読者は厳しいです。
中里:大きく言えば少年マンガでの線引きとそれほど変わらないと思いますが、ただ「これはNG表現です」と先にお伝えすることはないです。作家さんには臆さず書いていただきたいですから。
稲葉:気になる箇所につきましては表現の仕方などをご検討いただいたりすることで、より読者にわかりやすい原稿にしていただくこともあります。
テンポがよくストレートにおもしろいエンタメ性こそが重要
――新人賞の投稿者によく見られる「そうじゃないんだけど」ということがあれば教えてください
稲葉:昔に比べるとずいぶんそういう投稿作は減りましたが、「子ども向けだから堅い内容でないと」という考えは捨てて大丈夫です。青い鳥文庫は第一にエンタメの文庫です。教育的配慮は大事ではあるものの、投稿作ではそこまで重視していません。
中里:「大人がぼくらを『教育』しようとしている」という空気を子どもは本能的に察します。東大生が小学生に「負けた!」と言わせられている動画は大好物でも、「君を賢くしてあげよう」「正しい生き方を」みたいなことを前に出されると、本能的に引いちゃう。
稲葉:大人のほうに目を向けても、10年前くらいまではPTAからのお電話をいただくこともありましたが、最近では保護者の方からの強い意見をいただくことはめっきり減りましたよね。
中里:「多様性が大事だ」と学校でもメディアでも言われていますから、大人側の「子どもはこうあるべき」「こういう本を読むべき」という思想は弱くなってきている気がします。
はやみねかおる先生+小中学生+大学生+編集部で審査
――今の青い鳥が特に求めている作品、作家像について教えてください
中里:おもしろければノージャンルです。大人ものなら「ありえない」というものでも児童文庫ではアリ。「これは世界一のAIだからなんでもできる」と書いても「宇宙船を舞台にした小学校で宇宙人と学校生活を送る」でも「リアリティがない」という理由での弾き方はしません。おもしろければOK。ダメなものがあるとしたらエロティックなもの、それと残虐なものに対しての節度も必要ですね。
稲葉:ただ、大人向けに書いたものでも小中学生を主人公にしても成り立つし「おもしろい!」と思えるお話であれば、ガンガン送っていただきたいです。ベタな話を恐れず、どストレートなものを。「なんでも書きます。流行りそうなものを教えてください!」と言う方がときどきいらっしゃるのですが、読者にはそういうウケねらいはみすかされているように思います。自分の書きたいもので勝負してほしいです。
中里:「こんなキャラ書いちゃったよ! すごいでしょ!?」というものを送ってほしいですね。いろいろ言いましたが、見たいのは作家さんの「才能」であって、送られてきた作品がそのまま出版できるかどうかは見ていません。「ちょっとここは」というところはあとからお伝えできますから。青い鳥文庫を研究して「このジャンルがウケている」とかっていうのはむしろやめてもらいたいかな? 今、ないものが欲しいです。
――新人賞である「青い鳥文庫小説賞」の選考方法の特徴は?
中里:2月13日に結果が発表となりましたが、今回、初めての試みとして子どもたちにも選考に加わってもらいました。はやみね先生が特別審査員、それからもちろん編集部が読みますが、現役の読者である小中学生(青い鳥文庫ファンクラブ会員)、それから投稿者に年齢が近いかつての読者である大学生(青い鳥文庫協力大学生)にも読んでもらいました。1つの作品を複数人で選考したわけですね。「はやみね先生、小中学生、大学生が読みます」ということをオープンにして投稿を受け付けたところ、応募数が前回の約3倍になりました。
――それはすごいですね
中里:作品を読んでくれた小学生のコメントがすごく熱心で。「この作品を出版したいですか」という設問を用意したら「クラスで何人か読みそうな人の顔が浮かびましたが、女子はゼロです。難しいかもしれません」といった具体的なコメントを付けてくれました。編集部で「これは読者はどう受けとめられるんだろう」と子供の反応が気になった強いテーマの作品に対して「あ、柔軟に受け入れてくれるんだ」と気づかされたり。
――長編だけでなく短編部門、それから15歳以下限定のU-15部門もあるんですよね
中里:U-15も目を見張る才能が多かっただけでなく、10代の書いた作品を読んで「あ、青い鳥はこのジャンル弱かったな」とか「このキャラはいい!」と発見することが多くて、とてもうれしかったです。
――最後に、作家志望者に向けてひと言お願いします
中里:くりかえしますが、私たちが求めているのは「才能」です。細かいことを気にしすぎず、「おもしろい!」とまず自分が思う作品をぜひ送ってきてくださいね。
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノ-ト』
著:はやみねかおる 絵:村田四郎 講談社(青い鳥文庫)
夢水清志郎は名探偵。表札にも名刺にも、ちゃんとそう書いてある。だけど、ものわすれの名人で、自分がごはんを食べたかどうかさえわすれちゃう。おまけに、ものぐさでマイペース。こんな名(迷)探偵が、つぎつぎに子どもを消してしまう怪人「伯爵」事件に挑戦すれば、たちまち謎は解決……するわけはない。笑いがいっぱいの謎解きミステリー。
『探偵チームKZ事件ノート 消えた自転車は知っている』
著:住滝良 原作:藤本ひとみ 絵:駒形 講談社(青い鳥文庫)
小学6年生の立花彩(たちばなあや)。友だちと学校でちょっとギクシャクしているし、家族のこと、勉強のことなど毎日なやみはつきません。そんな彩が塾で出会ったのは、エリート4人組の男子。目立ちたがり屋やクールな子など超・個性的な彼らと、消えた自転車のなぞを追うことになったのですが……。なぞ解きやドキドキがいっぱいの本格ミステリーはじまります!
*本記事は、2020年02月27日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。