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Web小説の主人公を召喚するカードバトル|海猫沢めろん

俺です。
花粉に対抗しうる人類の武器「空気清浄機」を手に入れて多少寿命が伸びたので現世にとどまっている俺ことめろん先生です。プラズマクラスターイオンって語感がゼウスエクスマキナっぽくね!?

ついに4月! 新生活を始めためたみなさんいかがですか?

「いかがもなにもねえよ! 俺は無職だよ!」
「相変わらずブラック企業でつらいです」
「保育園落ちた日本死ね……」

うんうんわかるよ。
俺も無職みたいなもんだし子育て大変だしサラリーマン3年やってましたからね。鬱で薬飲んでましたからね! つらいときは逃避ですよ! 現実はクソです! 見ないほうが良いです!

んなわけで、今回は新生活応援スペシャルの気分で(気分だけです)いいWeb小説を紹介します!

さっそく行きましょう。

カードバトルと物語創作と召喚バトルの悪魔合体

今回の最初の作品もかなりいいですよ……Web小説の主人公を召喚して戦うカードバトルものです!これはなかった!

召喚して……戦う……Web小説の主人公を……!

なぜ今、倒置法を使ったのか自分でもわからないんですが、とりあえずいきます!

作品名:カタリスト~僕たちは物語を紡ぎ主人公を召喚する!(#物語士)
作者:芳賀 概夢

そのカードゲームは、ある強大な力を持った魔法使いの悪戯心が産んだ物だった。
紡ぐのは物語。創るのは世界。呼ぶのは主人公。賭けるのは運命。
108人のプレイヤー【物語士《カタリスト》】が繰りひろげる、創作カードゲームによるバトルに次ぐバトル!
場を自分の有利な物語に導き、主人公を呼びこみ、望むエンディングへ辿りつけ!
――単なる読書好きだった高校生の僕は、自分の「運命」を秤にかけ、荒唐無稽な力で秩序を作るゲームに巻きこまれた。

という一文から始まる冒頭に続き【森】【暗い】【街】【叫び声】など、キーワードが書かれたカードを使って物語を作る主人公……さらに召喚されるのは「カクヨム」内の実際にある小説の主人公。何事!?

カードバトルと物語創作と召喚バトルを合わせた悪魔合体的作品ですが、ルールもちゃんと作ってあって、以下で読めます。
※ルールガイド

遊戯王やデュエマなどのTCGを通った世代なら、あんがいすんなり理解できるのではないでしょうか。

この小説の「カードを使って物語を創作する」というシステムは、実際にあります。
日本では大塚英志さんのタロットを使ったものが有名ですが、アナログゲームにも多く、代表的なのは「ファブラ」とか、「ワンス・アポン・ア・タイム」とか、最近ではカード式TRPG「のびのびTRPG ザ・ホラー」、 などなども含まれるでしょう。
とはいえ……最初からルールを作るのはけっこう大変ですからね……作者さん頑張ってます。

しかし、まさかWEB小説自体を利用して小説を書くとは……こうしたジャンル内の作品を参照した作品、というのは、ジャンル自体が成熟してくるとよく起きる現象で、ミステリだと竹本健治「ウロボロス」シリーズ、ラノベだと『ばけらの!』など小説のなかに他の小説の作者が出てきたりします。
そうした作品はパロディやギャグが多いのですが、この「カタリスト」は、それを茶化さず真剣にやっているところが素晴らしい

いまの10代、20代は必ずと言っていいほど幼少期にカードゲームに親しんでいたはずなのに、どうしてカードバトルを真正面から描いた小説がないのか! と、個人的に不満だったので、こういう作品は嬉しいですね(余談ですが、漫画だと『Wizard’s Soul 1 ~恋の聖戦(ジハード)~』というTCG漫画がかなり好きです)。

やっぱりあれでしょうか、回が進むとカクヨムだけじゃなくてなろうとかからチートキャラが出てくるんでしょうか?
アベンジャーズ感ありますね!
カタリストは108人いる設定で、まだまだ続きそうなので追いかけてみてください。


命の重さがあるリアルロボットもの

そして次の作品はこれ、

作品名:蒼翼の獣戦機トライセイバー
作者:硫化鉄

勇気を出して告白をしようと、速水勇夫は倉科智美を喫茶店に呼び出した。
が、いざ告白をしようとしたその瞬間、大地が割れ、
轟音とともに二人は闇に飲まれていった。
気が付くと光の閉ざされた闇の世界。
脱出方法を探し、光を求めてさまよう二人は、謎の施設を発見する。
東京の一部に壊滅的被害をもたらした謎の大地震。
巻き込まれた6人の老若男女が、日本を襲う戦争の脅威にさらされていく。
普通の高校生、勇夫と智美は、生き延びることができるのか。
世界を飲み込む脅威の正体を知った6人の選択は。

突然の災害に襲われた少年少女、幼女、そして――リストラされ離婚を突きつけられた46歳の中年(こいつには意表を突かれた!)。
災害のなかで彼ら6人は謎の機体を発見、それに搭乗することになり未知の災害と立ち向かう……。

ともすればギャグになってしまいそうな設定ですが、しっかりとした文章と描写で人の命の重さを表現シリアスな雰囲気を作り出し、作品全体の緊張感につながっています

タイトルからすると(スパロボで言うと)スーパー系か? と思ったらめっちゃリアル系でした!
このギャップも魅力的ですね。コンセプトの時点で一本取られました。

人気が出たらこの作品もカタリストに召喚されてしまうのか!?(同じカクヨムなので)
でも召喚しちゃいけない主人公もいるだろう!

例えば次の作品の主人公……


現代のカート・ヴォネガット……ジュニア……?

作品名:GOOD TASTE
作者:角倉賢
URL:現在掲載なし

作者も謎のドタバタコメディ

主人公は、運動用マットの横に付いてる「耳」と呼ばれる部分を作る工場に務める労働者。
そいつがバーで酒を飲んでいるところから始まります。
この冒頭のパンチラインが強い!

それから私はしばらくオッパイ星人のモリィと酒を交わした。

比喩か? 比喩なのか?
しかし続く段落で読者の予想を裏切ります。

しかしオッパイ星人。目のやり場に困る。顔面にむき出しの大きな乳房が二つ、ボロンと左右に枝分かれしており、その垂れ下がった左右の先端の部分(つまり乳首の部分)がどうやら眼のようなのだが、まあその顔面はいいとして、体は体で膨らみを帯びた乳房が、こちらもまた大きなものを二つぶらさげており、深紅のドレスから垣間見える谷間は果実のように瑞々しく、そのうえ脚はスラリとしていて、とにかく私はどこに目を向けたらいいかわからない。

宇宙人!? まんまじゃねえかオッパイ星人!
スターウォーズの酒場のシーンが思い浮かびますが、とぼけたフェイントと息の長い描写を一気に読ませる力量、只者ではない。

続く無着な展開もアッパーな脳内麻薬がダダ漏れですごい……。
クライマックスのぶっ飛んだ時間経過(何百年後……)そこからのオチ……。
よくこれをこんな長い枚数書いたな……という謎の感慨が胸に去来します。

ある意味で現代のカート・ヴォネガットジュニアと言えなくもない……かも知れない!
でもこのとぼけた味はなかなか出せませんよ。
疲れたときに読むとなんか救われる感じもして、不思議な作品です。

……というわけで今回は三作品紹介しました。
偶然なんですが全部カクヨムですね……なんでしょうね、尖ったものが見つけやすいんでしょうか……?
さすがに「なろう」は投稿数も多いので見つけにくいというのはあるかも。

まだ新しいWEB小説サービス……例えば「トークメーカー」なんかも注目していきたいですね。

あ、ところで前回紹介した「アナルに電流を流して戦う最高にクールな設定のWeb小説」 の作者さんからアツいメールが来ました! ありがとうございます。励みになります!


……というような感じで、このコーナーでは、

・書籍化されていない
・とにかくなんだか気になる
・これは来そう/絶対来ない、けどヤバい

そんなWeb小説を紹介したいと思います。
これを読んでくれ! という作品があれば、自薦他薦は問いませんのでお知らせください。ひっそり読みます!

「Web小説定点観測」は毎月第3火曜日に更新です。
ではまた。


★最後にめろん先生からのお知らせ

2018年、読書界は滅亡の危機にあった……。

「小説を読みたい――けれど文字を読むことが疲れる」

「文学的な気分が味わいたい――字を読まずに」

「とにかくなんか本が読みたい――字を読まずに」

字を読まずに本が読みたい……!?

狂ったこの時代に、もはや希望はないのか?

いや……ある!
「字を読まずに本を読みたい……アイツらの、その気持は間違ってない!」

どこからともなく現れた謎のYouTuber「文豪さん」。
彼が考えた、「文字を読まずに本を読む」悪魔的アイデア……それが「読書実況」!
すぐにこれを見ろ!


*本記事は、2018年03月20日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

みんなにも読んでほしいですか?

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