やりたいことを「ミステリー」で薄くラップする|平田駒 インタビュー
2018年8月以来の登場だ。前回は「エブリスタ×文春文庫 バディ小説大賞」第1回受賞者として。この1年弱のあいだに、同賞受賞作『110番のホームズ 119番のワトソン』(文春文庫)、そして「三行から参加できる超・妄想コンテスト」受賞作を加筆・改稿した『スガリさんの感想文はいつだって斜め上』(河出書房新社 )と、2冊の著書が刊行された。
『スガリさんの感想文はいつだった斜め上(以下、スガリさん)』は、舞台となった名古屋の書店でランキング1位に躍り出、すぐに重版出来。続編の刊行も決定している。名実ともに注目の新人作家、平田駒。男臭いバディものからクール美少女のライトミステリーまで、すでに多くの引き出しを持つように思える彼女が過ごした、「デビュー1年目」について聞いた。
ステレオタイプを壊していくチャレンジ
――前回の記事でのご登場後、書籍化デビューされました。振り返ってどんな1年でしたか?
平田:自分の書いた文章を人に見せて、直してもらって、アドバイスをいただいて、晒されて磨かれて……何もかもが初めての連続で、それがすごく新鮮でした。『アナと雪の女王』に「生まれてはじめて」という歌がありますが、まさにあの状態です。今までエブリスタに投稿していた作品は、一発書き・一発載せというか……。もちろん自分で推敲はしていますが、人の目は入っていなかったので。
――Web版では男子高生だった主人公スガリ君が、書籍版では女子高生スガリさんになりましたね
平田:受賞後初のコンタクトで、エブリスタの松田さんから「男女を逆にしてほしい」と打診いただきました。作中で出てくる「すがり追い」1) は男の子がやるのが定番なので、最初はためらったんです。それを松田さんから「女の子が蜂の子を追いかけても、何にもおかしくないです」と言われて、「たしかにその通りだ」と。
――女性だった顧問の先生も、「愛知県内初の男性家庭科教諭」に
平田:杏介もすごく珍しい男の人の家庭科教師、同僚の養護教諭・森田も男の人。「家庭科の先生、保健室の先生と言えば女の人」というステレオタイプをやめていきたいなという、裏のチャレンジが存在しています。自分の中のステレオタイプをバキッと破壊していただいたのが『スガリさん』の改稿作業でしたね。
――一度考えたキャクターを練り直すのに抵抗はありませんでしたか
平田:「美少女にしてください」と言われたときはちょっと反抗心が芽生えて、「男の子であろうと女の子であろうと同じことをします!」と言いきりました(笑)。美少女だけどあんまり女の子女の子してない、ボーイッシュで中性的な、サラッとした感じの子をめざしています。
――舞台が名古屋の「ご当地もの」にもなりました
平田:最初は何も考えずに東京を舞台にしていたんですけど、「場所を変えよう」ということで名古屋が候補に挙がり、そこから揚輝荘2) が見つかったのが決め手でした。とても嬉しいことに、東海地域の書店さんにはいっぱいプッシュしていただきました。「地元が舞台だし応援するぞ!」と盛り上げてくださったので、ありがたかったですね。
作中の読書感想文を書いたのは、高校時代の平田駒(17)
――「読書感想文が謎解きのキーになる」アイディアはどこからきたんでしょうか
平田:もともと大学で図書館に関する勉強をしていて、「読書活動には強く意味がある」と考えています。人間が生きているうちに会えたり、話ができたり、考えに触れられる生身の人間には限りがある。でも本は時間や空間を大きく越えていくメディアです。知覚が広がると困難に立ち向かう力も培われていくはずで、その困難を「日常の謎」に置き換えて、打開していく姿を見ていきたいという思いがありました。
恥をさらす感じですけど、『こころ』の感想文は平田がリアル17歳の頃に書いたものなんです。
――17歳らしからぬ洞察力ですね……!
平田:いえ、本当に当時の現国の先生は頭を抱えただろうな、と……。でも、「こういう読書感想文でもいいんじゃない?」 とは強く言いたいです。「いい子」に書く必要はどこにもない。先生ウケがいいように、自分の気持ちに蓋をして当たり障りのない言葉を並べるよりは、素直な気持ちを、人に伝わるように書く所にミソがあるんじゃないかなって。
――現役で読書感想文を書かないといけない学生さんは勇気が出る内容だと思います
平田:いつか独自のコンクール、「スガリ杯」をやりたいです(笑)。全国の自称17歳のエモい読書感想文を見せてくれ! と思っていますね。送ってくださった方には、入部受理届とともにスガリさんの感想文全文をお送りするとか……。「全文を読んでみたい」というご意見もあると思うので、何らかの形で実現できたら嬉しいですね。
――読書感想文はもともと得意だったんですか?
平田:めちゃくちゃ強い語調で言いますけど、全然!!! です。ついこないだも会社の上司との面談で、「平田さんは読書感想文苦手なタイプだったでしょ」と言われました。本を出したことは話してないのに、なぜ知っている!? と(笑)。偶然なんですけど、上司にもそう思われるくらい全然得意じゃない。でも、だからこそやりたい。
作品をダシに勉強したものは実りとして残る
――普通作家さんって得意な領域を書くと思うんですが、平田さんは逆なんですね
平田:『スガリさん』は、そんな自分のコンプレックスを解消する仕組みなんです。実は名作系を読むのが苦手なんですが、この作品を書くためには名作を避けて通れない。図書館とか本屋さんの棚を通るときも、『スガリさん』のことを考えています。書いていて楽しくなる仕組みを作ると、飽きずに書けると思いますね。
『110番のホームズ 119番のワトソン(以下、番ホム)』も、作品を書き始めてから、消防車やパトカーの写真を見るのがすごく楽しくなりました。
――『番ホム』はお仕事ものということで、取材などもされたんですか
平田:はい、書籍も読みましたし、広報として博物館なども作られているので足を運びました。そしたら真っ黒に日焼けしたスーツの二人組がいて、「絶対にこれ現役消防士だ!」と思って、後ろをすっとついて行ったり……(笑)。主人公の一人の彗星はITに強い刑事という設定なので、勉強を兼ねてセキュリティの本を読んだりもしましたね。
――前のインタビューのときもお伝えしましたが、すごくストイックにインプットされてますよね
平田:作品をダシにお勉強をするというか……。縁起が悪い話ですけど、もし作品がシリーズとして続かなくなってしまっても、そうやって勉強した「実り」は自分の中に残るので。
――デビュー作から、いきなり2作品を並行して準備するのは大変だったのでは……?
平田:作品のテンションが全然違うので、『スガリさん』の原稿を始める前は『スガリさん』っぽいキラキラした音楽を聴いて、『番ホム』のゲラを見る前は『番ホム』っぽい音楽と、頭を切り替えて入りましたね。『スガリさん』は名古屋が舞台なのでスキマスイッチが多くて、『番ホム』はゴリゴリのハード系EDMをうおーって聴いて、「乱暴に!粗暴に! 汗臭く汗臭く……」と。どちらの作品も「屁理屈をこねる奴が多いなー」と思いながら書いています(笑)。
本当にやりたいのは活劇
――反骨心のある、パンクなキャラクターが多いですよね
平田:本当は長いものに巻かれたくないんだけど、実際の生活では巻かれちゃうことも多いですよね。そんな鬱屈したエネルギーが小説に反映されているのかもしれないです。
――一見対照的な2作ですが、そう考えると通じる部分もあります
平田:一貫して、「活劇」が作りたくてしょうがないタイプなんですよ。それを「ミステリー」で薄くラップする感覚でいます。たとえば「ルパン三世」シリーズや「インディー・ジョーンズ」シリーズって、謎も解くんだけど、謎以外のアクション部分も楽しめますよね。2作品とも走っているシーンが多いのはそのせいです。
――『スガリさん』でも夜の覚王山の町を走ったり、安楽椅子探偵ではない
平田:ミステリの王道である密室殺人、陸の孤島、雨の中の館で……という、あまり動き回らないものより、ああだこうだと大騒ぎしながらエンデイングに向かっていく。動きの強いものを作りたいんです。
――ほかに今後書きたい題材や、気になっているテーマはありますか?
平田:まだ具体的ではないんですが、空き家問題をやりたいと思っています。倒壊具合や住人の有無を見るために、市役所の方は空き家の中に入る権利を持っているんですね。住んでいた痕跡から「ここにはどんな人が住んでいたのか」プロファイルしていくミステリーがあったらおもしろいかなって。
――「実家の片付け」など、ここ数年話題になっている領域ですね
平田:「空き家問題」と聞くととっつきにくいですが、オリンピックが終わると地価が大きく変わるだろうとか、不動産がますます売れなくなるとか、実は多くの人にとって他人事ではないんです。そういう社会問題をとっつきやすくしていく役割を、作品として担えるといいですね。
(インタビュー・構成:monokaki編集部)
1. ↑ 目印の真綿にエサをつけて蜂にくわえさせ、その蜂を追いかけることで巣を見つけ出す採集方法。信州では蜂の子は貴重な蛋白源として古くから食用されている
2. ↑ 大正から昭和初期に建てられた名古屋市千種区にある別荘群。現在は指定有形文化財として市民にも広く開放されている。館内にある喫茶「べんがら」がスガリさんのバイト先
『スガリさんの感想文はいつだって斜め上』
封印していた想いが、原稿用紙にあふれ出す――。
謎多き女子高生スガリさんと、愛知県内初の男性家庭科教諭の杏介が、読書感想部を立ち上げた。
名作文学を斜めからぶった斬り、巻き起こる事件を解き明かす!
解決の先に見えてきたスガリさんの闇とは?
顧問と部長、2人の「活動」がはじまる!
『110番のホームズ 119番のワトソン 夕暮市火災事件簿』
夕暮市消防署の消防士の棉苗上亮は、刑事の穂村彗星と火災現場で出会う。
どんな難事件も解決する彗星は「火事場の奇人(シャーロック)」と呼ばれていた。
彗星の信条は「焦げ付いた空間から、信実という名のダイヤモンドを拾い上げること」。
二人の出会いと、反発しあいながらも、互いに成長していく姿を描く第1回バディ小説大賞受賞作。
*本記事は、2019年07月04日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。