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読み続けていたら書きたいという気持ちが溢れてきた|赤坂優月 インタビュー

 10月4日から放送が開始されたアニメ『魔法使いになれなかった女の子の話』(以下、「まほなれ」)。原案となった作品は2018年からエブリスタで連載され、Project ANIMA第二弾「異世界・ファンタジー部門」での大賞受賞を経てアニメ化が決定した。完成したアニメ脚本をもとに、受賞者の赤坂優月氏が全編をリライトしたノベライズ版も刊行された。
 ノベライズ『魔法使いになれなかった女の子の話』がデビュー作となる赤坂氏に、Web小説を書き始めた理由から、「Project ANIMA」受賞からアニメ化、そしてノベライズを執筆したときのことなど、小説との向き合い方やメディアミックスについて、メールインタビューにお答えいただいた。


■活字中毒になって読み漁って出会った場所がエブリスタだった

――小説を書きはじめたきっかけをお聞かせください

赤坂:
以前は、活字中毒のように読書にのめり込んでいました。恩田陸・江國香織・福井晴敏・誉田哲也・万城目学・森見登美彦・葉室麟・宮部みゆき(時代物)・有川浩・湊かなえ・三浦しをん・伊坂幸太郎(敬称略)……など、いろいろな作家さんの文庫本を片っ端から読んでいたのですが、お気に入りの作家さんの新刊待ちの時間に耐えられなくなり、それをきっかけにエブリスタの小説を読むようになったんです。
エブリスタでは、恋愛・ファンタジージャンルのランキングにある作品を中心に読んでいました。しかしそこでも更新待ちが増えてきたので、「じゃあ、書いてみようかな」と。

――ほかのサイトで書こうとは思われなかったんですね

赤坂:
ウェブ小説に馴染みがなく、エブリスタしか知らなかったのです。
最初にエブリスタを教えてくれたのは母で、産後しばらく専業主婦をしていた私に「ここで小説を書いて稼ぐ主婦がいるらしい」とURLを送ってきました。実際に読み始めたのは、それから数年後のことです。
おかげで、素敵な作家さんにたくさん出会うことができました。とくに、望月麻衣さん、千冬さん、祐多さんは過去作もすべて読んでいます

――読む側から書く側になってみていかがでしたか?

赤坂:
書き始めた頃は「10人に読んでもらえたら御の字」くらいの気持ちだったんですが、ありがたいことに、割と早い段階でどんどん読者さんが増えていきました。更新するたびにスターを投げてくれる方、こまめにコメントをくださる方の存在がすごく嬉しくて、毎日すごい勢いで書いていましたね。
プロットもない行き当たりばったりの更新でしたが、スマホで気軽に書けること、素人でも反響が見えやすい点に支えられ、どうにか完結まで走ることができました。


■アニメ化されることで原案者として感じたこと

――「まほなれ」は2018年3月から2019年9月まで連載されていましたが、最初にこの作品を書こうと思ったきっかけはどんなものだったのでしょうか?

赤坂:
一作目の『異世界だってサラリーマンはいる』をたくさんの方が読んでくださったので、せっかくだから続きを書いてみようと思ったんです。
どんな話にしようかと考えたときに「ファンタジーはいつも《選ばれし者》が主人公」という点がひっかかりました。単に私が知らなかっただけかもしれませんが、当時は選ばれし者以外の主人公を見たことがなくて。
そこで今度は《選ばれなかった凡人》の話を書こうと決めました。ただ、一作目の主人公の子孫の設定にしてしまったため、クルミは凡人にはなりきれず……もっと凡人のお話にしたかったというのが、正直なところです(笑)。

――『魔法使いになれなかった女の子の話。』というタイトルは最初に考えられていたのでしょうか? あるいはキャラクターが浮かんできて物語を作っていく中でこのタイトルという風に決められたのか教えてください

赤坂:
選ばれなかった人の話にしようということが最初にあったので、タイトルは書き始める前に決めていました。言葉自体はただ、事実表記しただけです。エブリスタでは当時あまり見かけませんでしたが、なろう系にはすでにそういうタイトルがたくさんあったので、その勢いにあやかってみようという邪な気持ちもありました。
タイトルを考えるのが本当に苦手で自信がなかったので、アニメでそのまま使っていただけて、すごく嬉しかったです。

――さきほど一作目の時にはプロットがなかったとおっしゃっていましたが、「まほなれ」を連載される時には最初にプロットや物語がどんな風に展開していくかなど書いていたりしましたか?

赤坂:
一作目の主人公が社会人一年目の男の子だったので、次は高校生の女の子を主人公にして、思いっきり学園青春ものにしようという所だけを決めていました。
プロットはありませんが、書き始める前には必ず、登場人物の動きを頭の中で映像化しています。妄想の中で登場人物が一番気持ちよく動いてくれる展開を選べば、あとは脳内妄想と同時進行で勝手に物語が進んでいくんです。ただ、楽しい展開が来ないとキャラが頭の中で微動だにしないこともあって、そうなると本当に苦しいですね……。
「まほなれ」が大賞をいただいたのは、ちょうど苦しいタイミングの時だったので、途中で放棄できないプレッシャーだけでどうにか完結まで書き上げました。

――Project ANIMAで大賞を受賞されてからアニメ化までの期間はどんなことを考えていましたか?

赤坂:
受賞後にコロナ禍が始まり不安な時期もありましたが、Project ANIMA一作目の『サクガン』の放映や、少しずつ決まっていく錚々たるスタッフの皆さんのお名前にわくわくしながら過ごしていました。娘たちが大好きだった『ポコポッテイト』の原作者である金杉弘子さんが脚本を書いてくださると発表された時には、夫にすぐ自慢しましたね(笑)。

――アニメ化に向けての経緯で印象に残っていることはありますか?

赤坂:
星野リリィ先生のキャラ原案を見たときの衝撃は、今でも忘れられません。脳内妄想のクルミたちが大歓喜していました。美術設定を見せていただいた時も、絵の美しさや世界観にすごく感動したことを覚えています。
あとは、世代的にPUFFYさんがOPを歌ってくださることのインパクトがすごくて。学生時代カラオケで必ず歌ってたし、『パパパパPUFFY』現役世代だし、もうびっくりです。人生何が起こるか分からないと、心から思いましたね。ボカロ狂の娘たちは、TOOBOEさんのお名前に驚き&大喜びでした。
次女が小学校で放送委員をしているので、OP『コラージュ』もED『瞬間最大風速』も、給食の時間に流してもらいます!

――アニメ化されることで原案者として感じたことや発見などはありますか?

赤坂:
小説は自由気ままに妄想を言語化するだけで良かったのですが、それを映像化・商業化するとなると配慮すべきポイントが山のように生まれるのだと知り、驚きました。
たとえば原案では、クローンや生殖に関する設定があるんですが、その設定を残すと売り込みにくくなってしまう面があるそうなんです。ほかにも、原案では《1クラス30名》《全員魔力の属性によって髪色や瞳の色が異なる》という設定があるんですが、30名分+モブまですべての色を分けるのは、見やすさやコストの面で必ずしも最適ではない……ということも、聞くまではまったく想像できませんでした。
映像化がなければ知り得なかったことに触れられたのは、すごく興味深かったし、役得だったなと思います。


■アニメ化された自作をもう一度文章化(ノベライズ)するときの違いについて

――最初に書かれた小説を元にアニメ化された作品を、さらにご自身でノベライズされています。原案版とノベライズ版の違いはどんなところでしょうか?

赤坂:
原案のクルミは、プライドが高くてちょっと選民意識もあるんです。アニメだと、初期のユズのほうがキャラが近いと思います。アニメのクルミは素直で天真爛漫な愛されキャラなんですが、今回のノベライズにあたり、どうしても原案のクルミが前に出てきてしまう点に苦労しました。

――ノベライズする際に気をつけたことや、参考にした作品はありましたか?

赤坂:
映像は動きや表情で表現できる分、心情があまり言語化されていない部分もあるので、ノベライズでは心情の揺れまで言葉で表現することを意識しました。特に、クルミの悔しさや嫉妬心みたいなものは、アニメで抱いた印象よりも強めに入れ込んでいます。そのせいで、アニメの天真爛漫なクルミが若干原案に寄ってしまったのですが……そんな違いも楽しんでいただけるといいなと願っています。
参考にしたのは、同じ「5分シリーズ+」として刊行されている『スガリさんの感想文はいつだって斜め上』です。主に改行や漢字のひらき、単語の難易度などを参考にさせていただきました。

――クルミが原案に若干寄ってしまったとのことですが、他のキャラクターなどは書いていて変化が出たり、こういう設定を入れたかったので今回追加したということはあったりしますか?

赤坂:
原案には「青春全部入れ込みたい!」という私の欲求で、クルミが片思いしている設定があるんです。アニメにはそういったクルミ関連のラブ要素がなかったので、勝手にいれてしまいました。お相手のキャラ設定についても、クルミがきゅんとする描写を入れるために、アニメの世界観を壊さない程度に調整しています。
あとは、ノベライズ1巻の巻末に、合格発表の日のマキ視点を書かせていただきました。アニメでは気にならなかったんですが、執筆しているうちに「どうしてマキは、塾時代から知っているユズたちよりクルミの肩を持つんだろう」という疑問が大きくなってきて。そこのアンサーを、オリジナルエピソードとして掲載しています。

――実際に執筆していく中で手ごたえを感じたり、ノベライズになったからこそご自身が書いている物語の新しい魅力などは発見できましたか?

赤坂:
あまりにも嬉しくて今も覚えているんですが、大賞受賞のときに審査員をされていたJ.C.STAFFプロデューサーの松倉友二さんが「キャラの立たせ方がいい」というようなことを仰ってくださったんです。それをふまえ、今回のノベライズでは改めて「キャラを立たせる」ということを意識しました。
特に、これまで友だちのいなかったクルミが、ユズをはじめクラスメイト達と距離を縮めていく過程は、編集の谷垣さんやプロデューサーの有田さんからいただいたアドバイスを活かしながら、うまく書けたんじゃないかと思っています。

――担当編集者さんとのやりとりで驚かれたことなどはありますか?

赤坂:
最初は、変なところがあれば編集さんに指摘してもらえるだろうという甘えがすごくあったので、「著者のカラーを尊重します」という言葉に震えました(笑)。実際は、いろいろな方に原稿をチェックしていただきましたし、一冊の本が発行されるまでに携わる人の多さにもびっくりしました。全方向に感謝でいっぱいです。

――アニメ化・書籍化されたことで赤坂さんのなかで一番大きく変化したことはなんでしょうか?

赤坂:
私自身の変化はあまりないんですが、しいてあげるなら、小説を書いていることを友人にも打ち明けようと思ったことくらいですね。いろいろな方がアニメや小説を盛り上げるために奔走してくださっているのを見て、少しでも宣伝しなければ! という気持ちになり、家族・親戚・近しい友人に今回のことを伝えました。みんなすごく喜んでくれているので、今も恥ずかしさはあるのですが、勇気を出して良かったです。


■応援してくれる人に出会うため、人に文章を読んでもらう機会を大切にしてほしい

――ご自身の作風に影響を与えたと思われる作家や、他ジャンルの作品がありましたら教えてください

赤坂:
小説を書いてみようと思ったときに一番影響を受けたのは、エブリスタの千冬さんです。『居酒屋まる』シリーズが大好きで、特に一作目の主人公は、まるの主人公『泉実ちゃん』に少し似ているかもしれません。
キャラづくりで影響を受けたのは、有川浩さん(※)ですね。単純に「いい人」として表現するのではなく、どうしていい人だと感じるのかの掘り下げ方に愛があって素敵なんです!
※現在は「有川ひろ」ですが、影響を受けた当時の話なのであえて漢字表記にしています

――小説以外で好きなものやご自身の作品に影響を与えているなと思うものはありますか?

赤坂:
「まほなれ」について言えば、子育てを経験したことは大きく影響していると思います。こういう青春を送ってほしいなとか、こういう友だちがたくさんできるといいな、みたいな願望が知らず知らずのうちに盛り込まれていました。
レットラン魔法学校は高校の設定ですが、受験モードとしては中学受験に近いものがあるなと思っていて。受賞からアニメ化までの間に娘の中学受験を経験したので、その辺の思い入れが原案執筆当時より強かったこともあり、受験失敗から将来の夢に繋がる描写は丁寧に考えたつもりです。
原案執筆当時から、娘たちに読まれても大丈夫な内容にしようということは考えていたんです。今回のアニメ化でエブリスタのアカウントも知られてしまったので、完璧とは言えませんが、多少でも心がけておいて良かったと安心しています。

――これから書きたいと思っている作品、テーマにはどんなものがありますか?

赤坂:
何年も前から、警察学校のお話を書きたいと思っています。弟が警察官をしているんですが、厳しいエピソードと同じくらい愉快なエピソードがありそうで。小説にしたら楽しそうじゃないですか? ただ、当たり前ですが守秘義務もあるので、ネタを教えてとはなかなか頼みにくく、長年思いをくすぶらせています(笑)。
ほかには、エブリスタを見つけた娘から「書きかけのまま放置している原案「まほなれ」の続編(モンスター・ジャーニー)はいつ書くのか」とせっつかれているので、それも完結させたいですね。

――最後に、プロをめざす書き手に向けてのメッセージがあればお願いします

赤坂:人に文章を読んでもらう機会
を大切にしてください。
創作に限らずどんなことでも、続けることが一番のハードルです。モチベーションを維持する手っ取り早い方法は、応援してくれる人と出会うこと。人の目に触れていれば、いつか必ず自分の文章を好きだと言ってくれる人が現れます。なかなか現れなければ、アプローチを模索することもできます。
私自身、「小説を書いてみよう」という一歩目の根底にあるのは、身内向けに書いていた育児ブログの文章を褒めてくれた、父の言葉です。
書けない時は、小説でなくたっていいと思います。焦らず無理せず、とにかく続けていってくださいね。

(インタビュー・構成:monokaki編集部)

「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。