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Q.熱量を保って作品を完結させるにはどうすればいいですか?|海猫沢 めろん × 古矢永 塔子

今回は特別編として、zoomを使った対話形式で海猫沢めろん先生が質問にお答え! 質問者は、「monokaki」で以前に連載していた「Web小説定点観測」でめろんさんからアドバイスをしてもらった古矢永塔子さん。古矢永さんは第1回「日本おいしい小説大賞」を『七度笑えば、恋の味』で受賞されました。

海猫沢:受賞おめでとうございます。僕は毎月「小説すばる」で書評を連載しているのですが、編集者さんから「こないだとりあげた本の作者の方、めろんさんに以前小説を読んでもらったことがあると仰ってました」って言われて驚きました。全然気づかずにとりあげていたので……。

古矢永:ありがとうございます。

海猫沢:というわけで今回は対談形式のお悩み相談になりました。さっそく行きましょう。

今月の相談者: 古矢永塔子さん
お悩み:誰にも読まれることなく、最後まで熱量を保って作品を完結させるにはどうすればいいですか?

Webに投稿していたときは、毎日数ページずつ書いたものをアップし読者の反応に励まされながら完結までたどり着いていました。ですが公募に挑戦した時も、書下ろしの原稿を書いている現在も完結まで誰の目にも触れず反応も得られないので、ひとりきりで書き続けることに辛さを感じることがあります。そういった場合のモチベーションの保ち方をお教えいただきたいです。

以前先輩の作家さんとその話になったときに
「俺的には、完結前の段階で発表するってことがないからちょっとわからないなぁ」
と逆にびっくりされてしまったのですが…
読み手とクリエイターの繋がりが深い、エブリスタ出身ならではの悩みだと思います。
現在公募に挑戦している方も、またWeb投稿をしつつも閲覧数が少なく(誰にも読まれないのに何で書いてるんだろう?)と葛藤している方もきっと同じ悩みを抱えていると思うのでぜひ、めろん先生に相談に乗っていただきたいです。

第一読者を持っている作家さんが結構いる

海猫沢:今回のご質問、おもしろいですね。ネット以前には完成前の段階で発表することは少なかったと思います。場があまりなかったんで。僕もその世代。完成前の段階で見せるというのはいまだにやらないんですよ。というのも自前でモチベーションを調達しているので、暗示をかけて走り抜けないといけなくて、それが削がれるのが怖いんです。だから絶対聞いたり見せたりしないんです。

古矢永さんの書き方はなかなかできる人が少ないと思うんです。まず読んでくれる人が周りにいなかったりするし、読ませることがみんなできないんです。恥ずかしいとか、ダメ出しが怖かったりして。
でも知り合いのプロの作家さんにも聞いたところ、実は編集者以外に第一読者を持っているという人が意外といます。重要なのは自分にあったアドバイスだと思うんです。その点、ネットだとどうなんでしょう? 当たり屋みたいなのが来るイメージがあって怖いんですけど……。

古矢永:人気になるとそういうこともあると思いますが、私の場合はなかったですね。毎日4、5人ぐらいが見に来てくれている感じだったし、最初は感想もあまりなかったです。ただ見てますよっていう閲覧数が残る。
デビューしてからは、300枚ぐらいで完成した原稿を編集さんに見てもらうことになりました。ネットだと原稿用紙2枚ずつぐらいを読者が見てくれてるから、それを毎日書けばいいと思ってたんです。でも、2か月後に300枚出すとなると、すごく孤独な作業だなと感じて……。

海猫沢:確かにそういうタイプだときついかもしれませんね。編集さんに毎日見てもらうのはどうですか? 僕は、終わるまでは何も言わないようにしてもらってるんですが。古矢永さんは途中で意見をもらいながら変えていく方が自分に合っている気がしますか?

古矢永:ネットでも意見はもらってはなかったんです。感想は終わってから書いてくださる方が多かった。感想に合わせて展開を変えるというのは感想をもらっていてもなかったと思います。

海猫沢:こうやって話を聞いているとモチベーションの問題なのかなという気がします。気分をあげていきましょう! ちなみに編集さんとのミーティングのあとはモチベーションあがりますか?

古矢永:編集さんとは修正の話になるので、終わったあとは呆然としてしまい、どうしたらいいんだろうっていう。こんなに孤独に書かないといけないんだなと感じます。潜っていくような、どんどん深みに沈んでいくような

海猫沢:そこは編集さんをもっと活用するのがいい気がします。でも個人と個人になるから言いづらかったりするのかな……。逆にウェブだと顔がわからないというのがいい方向に働く面もありますよね。他の作家さんに同じような悩みの方はいますか?

古矢永:ウェブ系ではない公募にチャレンジする人で、ネットだと誰かに見てもらうので最後まで書けるけど、公募だと応募するまで誰にも見せられないから、筆が止まったり最後まで書くのがしんどくなったりするという話を聞いたことがあります。

海猫沢:すごいなあ。新世代感がある……。


エゴサーチは心のリストカット

――めろんさんのモチベーションの置き方は?

海猫沢:複合的要素がありますね。連載でも言っているんですけど、キャラクター、舞台、文体、アイデア、ストーリー。この5つどれもにやりたいことが入っているんですよ。
その中でも自分の中で大きいのはアイデアです。勝算がない戦いはあまりしたくないタイプなので、これをやれば勝てるんじゃないか、これをやれば読者は驚くんじゃないかっていうアイデアを決めて書きたい。編集者は共犯者だし、ここでこう騙したいと思って書いています。だから書き切るまで読まれたくない

――編集者は共犯者という部分がありますが、ウェブ小説の読者はそうではないので難しいですよね

海猫沢:古矢永さんにとってのウェブ読者は伴走者みたいな存在なんだと思います。安定してついてきてくれるような。だとしたら、作品のタイプを変えてみるというのもありかもしれませんね。伴走者を最後で驚かせるような仕掛けを作ってみるとか?

古矢永:最後で驚く話って長編だとけっこう大変ですよね、最後まで読んでもらえますかね。

海猫沢:古矢永さんの作品って日常シーンがすごくいいと思うんです。日常シーンをおもしろく書くのってすごく難しいんですよ。先輩作家さんに、物語が全体で10あったら、そのうち7は日常シーンでいいんですって言われたことがあります。ただ、ぼくは日常シーンが苦手なんですよね……。

古矢永:わたしは日常シーン9割がいいです。

海猫沢:食事にたとえると白米がすごく多いタイプの人ですね。白米は超重要で、白米を書かないで全部おかずを出す人が多いんですよ。そうすると濃すぎる。白米の部分はメインプロットをいかに読ませるかというテクニックだと思うんです。
あと、プロットを立ててうまくいかない人って、点で考える傾向がある。点ではなく帯で考えたほうがいい。帯で考えると空間を持続させないといけないんだけど、日常を書くのが上手い人はその空間を持続させられる能力があります。逆にそういうタイプの人は点が苦手だったり。

メインプロットばっかりでサブプロットがなくなってしまうか、サブプロットばっかりでメインプロットが弱いかのどちらかに分かれてしまうということですね。
モチベーションの話に戻りますが、僕は小説を書いてるとき、プラモを組み立てている快楽に近い感じがあって、だから人に見られなくてもいいと思ってるんです。でも古矢永さんは逆のタイプな気がします。料理とかでも食べてくれる人がいないとやらないタイプですか?

古矢永:ひとりのときは作らないですね。食べてくれる人がいないと。

海猫沢:なるほど。誰もいなくてもやることって他にありますか?

古矢永:ないかもしれないですね。

海猫沢:すごい……純粋に読者が必要なタイプだ。

古矢永:小説以外になにかに熱中してやるってことはないですね。

海猫沢:なるほど、僕と逆なんでおもしろいですね。僕は究極、読者がいなくてもいいと思っていて、完成したーっていう満足しかない。とはいえ、最初の頃はそうじゃなかったからエゴサとかしてたけど、今はエゴサとかもしないんです。ちなみに古矢永さんはエゴサします?

古矢永:最初はしてたんですけど、バチって心が折られたんで、やめようと思って。

海猫沢:それ正しいです。エゴサは心のリストカットですよ! ほんとうによくないです……エゴサはそうとう強い人じゃないとしてはいけない。

古矢永:やっぱりしたくなっちゃいますよね。

海猫沢:エゴサはなにがダメかって、結局自分は承認を求めているんだなってことがわかってしまうんですね。つまり承認を求めているんだけど、と同時に、そんなに褒められるはずはないと思っているんですよ。だから、ググり始めていい意見ばかり出てきても悪いものを見たいと、どこか自分で思ってる。いい意見には「こんなはずはない」、悪いものがでたら「そうだよな」って。
今まで見た10のいいねが1の批判に消される。結局、リストカットなんですよ。依存症と同じだなって気づいてやめました。それもあって読者がいることは諸刃の剣だなと思っているので、左右されない状態を作るのが大事だなと思って瞑想とかをしています。無になる。

古矢永:無になれますか?

海猫沢:なれます。一瞬だけど(笑)でも古矢永さんが読者に向けて書いていけるのはいいことだと思います。読者は時代時代によって変わるし、それに対応できるということはいつもフレッシュでいられるはずなんで。


作家は極端に2タイプにわかれる!?

――古矢永さんが読者だった時に一番おもしろかった作品ってなんですか?

古矢永:イン ザ クローゼット 』という作品ですね。中毒性があって毎日必ず読んでました。ちょうど子供が赤ちゃんの頃に、寝れない子供を抱っこしながら携帯で読んでました。

海猫沢:その時の自分に向けて書いてみればいいんじゃないですか。あの時の自分が今の自分の小説を読んで『イン ザ クローゼット』のようにおもしろいと思って読むかどうか。

古矢永:エブリスタだと「今読んでいる人」っていうのが出るのでそれも励みになりますね。

海猫沢:それならエブリスタに載せるのもいいんじゃないですかね。もしくは毎日誰かが読んでいるのかがわかるウェブ連載を出版社のサイトにアップさせてくれって言ったら、出版社はおもしろがるかもしれないですよ。
本を出したら「Twitterで宣伝してください」って言われる時代なんだから、書いている間に毎日更新していくのはいちばんの宣伝のはず。古矢永さんみたいなタイプの作家さんは旧来の出版社にとっても新しくて、最善手が見えてない気がする。

古矢永:それとなく言ってみます。わたしの周りはウェブ出身の人が多いので共通の悩みっていうか。

――あなたはどっち派? という診断ができそうですね。

海猫沢:そうですね、わかれると思いますよ。でも、書けないタイプの人に圧倒的に多いのは途中で見せられない人です。長編が書けない人の根底には完璧主義があるんですよ。中途半端はだめだ! っていう気持ちに邪魔されているタイプが本当に多いです。でもそういうのは捨てたほうがいい。

古矢永:一番はじめにエブリスタに投稿した作品は、小説の書き方がわからないまま書いて、どんどんアップしていました。最初の頃は、批判されるタイプの文章でした(笑)。「わたし山田花子、16歳」で始まるような。出てきたものをとにかく書いてました。完璧主義者ではないと思いますね。

海猫沢:継続は力なり! 古矢永さんを見ていると、読者のために書いているというモチベーションが強固ですね。これ、プロの作家を思い浮かべてもすごい極端にどっちかだと思いますね。ものすごく自分で自己完結している人とすごい読者のことを考えている人に完全にわかれると思います。

古矢永:読んでもらうことを前提で書いているので、編集者さんにここを変えてくださいと言われたら変えるのも楽しい感じです。自分の中であまり完結してないのかもしれない、おもしろいならいくらでも変えてもいいかなって。

海猫沢:素晴らしいですよ、古矢永さん三年以内にめっちゃ売れますよ。それをやれる人はすごい。

古矢永:なにが書きたいのかたまにわからなくなることがありますね。いっぱい変えてみたらという提案を受け入れて打ち返していると、なんだろうこれっていう。

海猫沢:でも、そういうものを書きたいんじゃないですか、とにかく自分じゃなくてみんながおもしろいと思うものを書きたいってことですよね。プロ根性がある感じがします。おもしろくなるならやりますよっていう。そのおもしろの基準は『イン ザ クローゼット』なんでしょうか。

古矢永:『イン ザ クローゼット』はそれまで読んできた文学などとは全然ちがって、読者と書き手の距離感が近くて、毎日読まなきゃ気がすまないような、作品の中に引きずり込まれるような感じでしたね。
私ははじめに創作した時点で読者がいるのが前提だったので、読んでいてくれる人がいるのが当たり前で、読んでくれる人がいないのになんで書いてるんだろうというのが根っこの部分にある気がします。

海猫沢:食べてくれる人がいないと料理を作らないのと同じですよね。でも、本が出るとわかっていたら未来の読者に向けるのもいいかも知れませんね。今読者いないけど、これ書き終わったらみんなビビるで~! と思いながら書くみたいな。

古矢永:いいですね。

海猫沢:ずっと読者に向けて書いていた人がはじめて自分のために書きましたみたいなものもたまにあるじゃないですか。そういう瞬間が古矢永さんにも来るかもしれません。今までは誰かのために書いていたけど、これは自分のために、っていう。楽しみですね。


自分だけのお守りを作ろう

古矢永:モチベーションを自分の中で高めるためのものが瞑想するって話だったんですけど、コツとかありますか?

海猫沢:モチベーションを高めるためにはあらゆることをやってます。一番高めるのは音楽です、やっぱり。なにを書くかというTODO表を書いたところで、それを書くための気持ちをマインドセットするのが音楽ですね。この音楽を聞いたらこれを書こうという気持ちになるみたいなテーマソングを作る。あと、読んだら泣いちゃう、観たら思春期の気分になるものを流し続けたり、好きな本をかたわらに置いてよく読み返したり……高めようとして逃避レベルに入ってしまうんですが……。古矢永さんは自分の作品につけてほしい音楽あります?

古矢永:あるかもしれないですね、テーマソングみたいないつも聴く音楽はありますね。

海猫沢:いいですね。そういうの。ともかく執筆にはお守りのようなものが必要な気がします。創作術のような本も結局はお守りみたいなものだと思います。お守りが古矢永さんには読者が読んでくれるっていうことなんでしょうね、きっと。なにかは必要なんですよ。自分に合ったもの。

――自分がどんなタイプかわかれば、ドツボにハマる危険が減りそうですね

海猫沢:中途半端な完璧主義者が多いんですよ。そういう人は完結させることが大事だから終わる枚数をまずやるといいです。なんなら三行でもいいんです。
なんとなく今回の相談の結論として、タイプを把握することと解決策があるといいですね。対策を立てて備えよう!
古矢永さん、今日はありがとうございました。新作も楽しみにしてます!

古矢永さんの感想

今回めろん先生に相談に乗っていただいたことで、ぼんやりと自分の方向性、目指すべき道が見えてきた気がします。特に『エゴサはリスカ』『プラモは作ること自体が楽しいので、工程を人に見せようとは思わない』という部分が、対談から数週間が経った今でも印象深く心に残っています。

第1回「日本おいしい小説大賞」をいただいた『七度笑えば、恋の味』は、エブリスタでの投稿生活があったからこそ書き上げられた作品です。どんな展開にしたら読者がついてきてくれるか、また離れるか。どんなキャラクターにしたら嫌われるか、好感を持ってもらえるか。そういったことを日々数字で分析できるのが、Web小説の強みだと思っています。

エブリスタでの武者修行を経て授賞・書籍化に至った『七度笑えば、恋の味』、ほっこり美味しい料理と年の差恋愛、序盤には意外などんでん返しなど、最後までノンストップで読んでもらえるような工夫をたくさん詰め込んだので、ぜひお手に取っていただきたいと思います。

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『七度笑えば、恋の味』
著:古矢永塔子 小学館
第1回「日本おいしい小説大賞」受賞作!
「幸福な食卓」なんて、私にはきっと一生訪れない――――。
 自分の容貌に強烈なコンプレックスを抱く28歳の日向桐子は、人目に触れぬよう外では常にマスクと眼鏡を身につけて暮らしている。勤務先である、「優しい料理」のサービスに力を入れる単身高齢者向けマンション『みぎわ荘』でも、職場の人間関係をうまく築くことができない。もう辞めよう、そう思っていた桐子の前に現れたのは、『みぎわ荘』最上階の住人で、72歳の不良老人・匙田譲治だった。小粋な江戸弁で話す匙田に連れてこられた「居酒屋やぶへび」で、大雑把ながら手際よくつくられた温かい料理と、悩み多き人生を懸命に生きる心優しい人々との対話を通じ、桐子の心は少しずつほぐされてゆき……。
 44歳差の恋、はじまる!? おいしい料理シーンが散りばめれられた、心温まる恋味小説! 本当の自分でいられる場所を見失っているあなたへ。温かくてほっと安らぐ、極上の「おいしい小説」はいかがですか?
おまけ:あなたの作家タイプはどっち?

A:
・自分のために書くのが一番のモチベーション
・書いている途中で人に見せたくはない
・完成させたときに満足感がある
・プラモデルなど、ひとりで黙々とやる趣味がある

B:
・誰かに読んでもらうことを前提に書いている
・途中段階でWebにアップすることに抵抗がない
・おもしろくなるなら修正も厭わない
・食べてくれる人がいないと、あまり料理をしない

Aが多いあなたは、自分でモチベーションを維持するタイプ。
Bが多いあなたは、読者がモチベーションになるタイプ……かもしれません!