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今ここでやらなかったらこの先やれる機会は一生ない|ウェルザード インタビュー

 エブリスタで2011年から2014年にかけて『カラダ探し』全四部作を投稿し、2013年から2015年にケータイ小説文庫として書籍化。2014年から2019年まで村瀬克俊によるコミカライズが「少年ジャンプ+」にて連載、その漫画版に準拠したWebアニメが配信され、2022年には橋本環奈主演で映画化されるなど、小説だけでなくさまざまなジャンルで『カラダ探し』はメディアミックスされて展開していった。
 時代を代表するホラー小説となった『カラダ探し』。小説投稿サイトの黎明期から書き続け、今なお書き続ける原動力はどこからくるのか。小説を書き始めたきっかけや創作に対する向き合い方をウェルザード氏に聞いた。

『カラダ探し』はアクセルを踏みっぱなしで突っ切った

――小説を書きはじめたきっかけがありましたらお聞かせください

ウェルザード:
高校生の時にガンダムが好きで自分で絵を描いていたんです。でも、それだけだと物語が動かないので、当時はまだ小説とは呼べるようなものではないのですが、誰々がどうしたということを書いていたのが一番最初です。

――その時は絵も文章もということですが、マンガを描こうとは思わなかったんですか?

ウェルザード:
集中して一枚の絵を仕上げることはできるんですが、飽き性なのもあって連続して描くということはできなくて、一番動かすのが楽なのは文字だなって思ったんです。それから27歳ぐらいの時にガラケーで簡単にホームページを作るのが流行っていて、自分でサイトを作ってそこで好きなゲーム作品についての小説を書いてアップするようになりました。

――最初は小説投稿サイトで書き始めたわけではなかったんですね

ウェルザード:
同じゲームをやっている人たちはおもしろいって言ってくれてました。その後、本格的に書こうと思ったのはモバゲーに小説機能がついたときです。その機能が追加されてからは三ヵ月ずっと全国一位で、読者も8,000人ぐらいいました。
当時は投稿携帯小説というのが出始めた頃で「野いちご」や「魔法のiらんど」などもあって、モバゲーも賑わっていました。

――エブリスタで書き始めたのはどんな作品だったんですか?

ウェルザード:
『カラダ探し』の前に二作品書いてました。当時のエブリスタは『王様ゲーム』がホラーランキングでずっと一位を独占していて、誰も勝てない時代だったんです。その時のエブリスタやモバゲーの読者はどういうものが好みなんだろうかって考えて、一番最初に書いたのが「鏡の中の幽霊」の話だったんです。
鏡を見続けていると幽霊が遠くからどんどん迫ってくるという作品を書いて、だいたいこのぐらいかなという感覚をつかんだ。その次にサバイバルもののホラーを書いたんです。ゾンビに近いものだったんですが、ホラーランキングで六位ぐらいまでいきました。
『王様ゲーム』も言ってみればサバイバルものじゃないですか、サバイバルは使えるなと思いました。あとは人が死ぬのも大事だなって。そして、ホラーを普通に書いたら絶対に警察って来るじゃないですか、警察を介入させずに閉鎖された空間でどう展開させるかを考えました

――警察を描かないようにするためのいろんな設定が生まれていったんですね

ウェルザード:
そうなんです。死んでも事件にならない。事件にしないためにはどうしたらいいんだ、そうだ同じ日に戻ろうと。
あとは当時ランキングの上位にあった作品の内容ではなくて、トップページにあった設定をずっと読んでいたんですよ自分がこれはおもしろいな、いい設定だなとか思ったものは自分の作品に取り込んでみました。それでできたのが『カラダ探し』の基本的な設定でした。

――「カラダ探し」の6つのルールはこれは面白いと思う設定を組みあわせて使っていったわけですね

ウェルザード:
でも、いちばん最初の一日目の11ページぐらいのすごく短い話がありますが、何も考えずにあれを書いたんですよ。続きをどうするかはまったく決めていなかった。

――一日目のあとに登場人物がどうなるかも決めていなかったんでしょうか?

ウェルザード:
生き返ることも時間が巻き戻るということも考えてなかったです。全員殺してしまえって思って、一旦殺してから考えたんです。
わかりやすく言うとブレーキを一切踏まずにアクセルを踏みっぱなしで突っ切ったんです。ブレーキを踏むことを考えるとどうしても途中で速度が落ちてしまう。それだけはしたくなかったので一話目だけはとりあえずアクセル全開でぶつかろうと思いました。

――その時点では文庫やマンガの冒頭に校舎の見取り図がありますが、そういうことも決めていなかったんですか?

ウェルザード:
はい、一話目を読んでもらうとわかるんですけど、生徒玄関しかでてこないんです。衝撃だけを伝えたかったので、校舎の間取りも一切考えてなかった。このあとどうしようかなと考えていたら母校が思い浮かんで、そこが上から見ると「H」と「ロ」の形というわりと珍しい特徴的な形をしていて、逃げるにはもってこいの校舎じゃないかなって思って使わせてもらいました。

――母校を参考にしたのかなと読んでいて思ったんですが、全員を殺してから先の展開や設定を考えて作品を構築していったのは驚きです

ウェルザード:
実は一日目は載せてなかったんです。11ページ書くじゃないですか。それを仲の良かった友達に読んでもらって、率直な意見をくれって聞いたら「おもしろいんじゃない」って言われて、同時にわかりにくいって言われたところを修正して読んでもらっていけるなと思って。それから一日目を載せて、二日目を載せてから、一日目に戻ってルールと死んでも死ねないという設定を加筆しました。

――主人公たちを殺しに来る「赤い人」の設定は最初から決まっていたんでしょうか?

ウェルザード:
夜の高校の校舎でそこに絶対いるはずのない小さな女の子、しかも血まみれで物理的に殺しにきたら嫌だなって思って出したんです。しかも、「赤い人」の怖さは物理攻撃してくるところです。僕が発想をまったく変えたのは「赤い人」は幽霊なのに呪いとかはかけてこなくて、ゴリゴリの物理ファイターにしたところです。

――『13日の金曜日』のジェイソンと一緒ですよね

ウェルザード:
相手は確実に幽霊なんですけど、幽霊らしい動きを一切しない。単純に早い強い怖いの三拍子。一定値を越えるとブチ切れるじゃないですか、あれは読者に対抗した方法なんです。

――読者に対抗したというのは?

ウェルザード:
エブリスタにはコメント機能がついていて、『カラダ探し』にもいろんな考察が書かれていました。俺ならこうやって対処するとか、そういう意見に対して、じゃあやれるもんならやってみろと追加した設定がブチ切れでした。
ほかにも「放送室」のドアに触れたら「赤い人」が急に現れるんですが、最初はしがみつかれたら歌がリセットされていたので、二人そこにいて一人がしがみつかれて殺されそうになったらもう一方がドアを触れば、「赤い人」が触った方に移動する。そうすると無限だなってコメントがあって、自分も気づいてなくて、それで歌がリセットされずに続く形に変更しました。

――読者が気づいた点を取り込んで、細部を補強しながら書き進めていった。そうすると読者はかなり重要な存在ですね

ウェルザード:
はい、どちらかというとアンチが非常に役に立ってくれました。いろんなところで言っているんですが、アンチが先読みして次の展開はどうせこうでしょって言ってくるんです。十回中九回はアンチの先読みした通りにはしなくて、十回中一回は言ってくる展開にするんです。そうすると俺の言った通りだとアンチは思うからその先もどんどん読んでくれる。その一回がないとアンチは飽きて読まなくなってしまうんです。


ガラケーでのギミックと読み手の身体性はスマホとは違うものだった

――モバゲー時代はガラケーで執筆されていて、今はスマホですか?

ウェルザード:
今はスマホで書いてます。『カラダ探し』の「第三夜」の途中までガラケーで書いていました。スマホになったのは、ガラケーがボタンを押したらパカって開くものだったんですけど、今日も執筆だって開いたら折りたたみの上の部分がスポーンと飛んで行って、こたつの角にぶつかって液晶が割れてしまって。もう書けない、仕事ができないってすぐに新しいのを買いに行って、そこからスマホになりました。

――物理的な要因でスマホで書かれるようになったわけですが、ウェブで小説を書く際に気を付けていることはありますか?

ウェルザード:
ありますね、スマホとガラケーだと表示できる文字数が違うんです。ガラケーだと二行の文章がせいぜい六個あったら画面がいっぱいでしたが、スマホって一ページにドーンと出ますよね。
昔のガラケーの時代だとボタンをカチカチと押したり、ジョグダイヤルで動かしていくので液晶画面の空間が空いていると次に何が来るんだっていう、押すのが怖いという恐怖も空間で演出ができていたんです。

――指でボタンを押すという身体的なものと読むスピードがつながっていたからこそその演出が活きていましたね

ウェルザード:
逆にスマホだと次のページとなってしまうので、そういう演出ができなくなってしまった。でも、スマホでもガラケーでも決めていることがあって、それは行間を二行空けるんです。そうすることによって文字が詰め込みすぎてウっとなるのが緩和される。一画面の文字量というのは中学生ぐらいが読んでも身構えない文量になるように意識しています

――「最終夜」は最初からスマホで書かれたと思いますが、それまでとは違う書き方になりましたか?

ウェルザード:
「最終夜」に関して言えば、もう視覚では驚かせないので、「第一夜」で「カラダ探し」を明日香たちに頼んでくる遥がなぜそうなってしまったのか、どういう生活をしていて、どんな理由で変わってしまったのかという人物描写がかなり増えました。

――ガラケーだからできていたけど、書籍化するとその視覚ギミックが使えないみたいなこともけっこうありますね

ウェルザード:
それで一番あるのが、ドアノブをガチャガチャってやるときに画面いっぱいに「ガチャガチャガチャ」というのをどこまで続くんだというのをやっていたんですが、書籍だと見開きで2ページを全部「ガチャガチャガチャ」で埋めてもらったことはありました。

――さきほど「第一日目」の11ページ書いてからという話がありましたが、今もプロットとかは作らずに書かれているんでしょうか?

ウェルザード:
書かないです。書きたいものがあるときはそこに向かって進んでいくじゃないですか。でも、ここって決まっているとブレーキを踏みつつ向かって行って着地ができる。どうしても勢いが弱くなってしまうので僕は正直いやなんです。商業的に書くようになるとこれはやりすぎだよなって考えてしまってハデなことができなくなってしまう。

――『カラダ探し』はパズル的に作られたのではないかと感じましたが、直感でされていたということですよね

ウェルザード:
そうですね。当時の僕は、主人公は死なないので、物語がどんどん進んでいってそこで主人公がいくら怖がってもなって思っていて。読者からしても主人公は死なないでしょ、というのをやめたかった。

――それに加えて読者からのコメントが『カラダ探し』の展開にも変化が出たりする要因になっていった

ウェルザード:
そうですね、それはある意味で力になったとは思います。


読者の要望から始まった「第二夜」

――小説を書いていて読者の反応やコメントで応援されているって感じたことはありましたか?

ウェルザード:
執筆する上で当然励みになりました。でも、アンチのことはすごく覚えています。あと、応援コメントではなくて、エブリスタにはタグをつけれる機能があるじゃないですか。そこで読者が勝手にタグをつけてくれて、「映画化希望!」とかやってくれたのはすごくうれしかったです。

――『カラダ探し』は去年映画化もされましたが、ホラーは日本だけでなく海外でも小説にしろ映画にしろ需要がずっとあって、エンタメとして根強い人気があるなと感じます

ウェルザード:
今回の映画化は中高生に爆発的にウケたんです。ホラーの需要は一定数はあるんですけど、需要の何倍もの多くの人が怖くて観れないんです。中高生なんて特に観れないですし、ホラーに寄りすぎるとR指定が入ってきて小学生や中学生が観れなくなってしまう。今回はPG12だったから小学生や中学生の観客が非常に多かった。それって一番怖いものを見たい層なんですよ。

――90年代末の『バトル・ロワイヤル』以降、その時々の十代がハマる殺戮系のサバイブものとして『リアル鬼ごっこ』『ひぐらしのなく頃に』『カラダ探し』があります。今の十代がリアルタイムで観れたのが映画『カラダ探し』だったということでしょうね

ウェルザード:
『カラダ探し』は観客がずっと入っていたんです。今回の映画はライトでほどよい怖さだったのも、その世代にウケた大きな要因だったと思います。

――小説やマンガで描かれていましたが、風呂に入っていても「カラダ探し」を頼みに来る遥みたいな存在がいたらめちゃくちゃ怖いですよね

ウェルザード:
最初のころは遥が頼みにくるのは学校の中だけだった。少しずつ「カラダ」を見つけて世界が変化していくにつれて、遥は学校の外である家の中とか、こんなタイミングで来てほしくないという時に現れるようにしました。いやがらせみたいに来るという感じで。

――遥が明日香たちに「カラダ探し」を頼みにくるのが学校以外の日常シーンへ広がっていったのは、アンチや読者の人たちの反応やコメントに対してだったのでしょうか?

ウェルザード:
そうですね、同じことで飽きてきたみたいなことを言われたことがあったんです。それを解消させたのが遥の頼みに来るタイミングなんです。学校の外の日常パートでも安心するんじゃねえって(笑)。

――最初の作品がまずあって「第二夜」「第三夜」「最終夜」と続きます。「最終夜」に至るまでの設定は最初はなかったわけですよね

ウェルザード:
なかったです。最初の「第一夜」で終わる予定だったんです。

――では、「第二夜」以降が書かれたのは読者からの要望があったんですか?

ウェルザード:
要望もありました。自分としてはホラー的な終わり方をしたかったので、明日香が消えて終わりでこの先どうなるかわからないって感じにしました。そうなると続きを書いてくれっていうのがすごくたくさん来たんです。
終わらせたいのになって思ってはいたんですが、その一週間後ぐらいに「第二夜」を書き始めました。どうやったら明日香が助かるんだろうかって思って、「カラダ」が集まって明日香の忘れていた記憶が戻るのは見えるんですけど、それだとおもしろくないと思ったのが武司という登場人物でした。

――「第一夜」を読んでいるとそこに出てくる健司と「第二夜」に出てくる武司は仲間側なのにある種ジョーカー的な役割をしていて、「カラダ探し」の邪魔をする存在でした。「第三夜」も要望が多かったことで書くことになったんでしょうか?

ウェルザード:
リアルタイムで追っていた人は知っていると思うんですけど、「第二夜」でほんとうに物語が終わってるんですよ。そこから一年ぐらい書いていないんです。書く気がなくて、そのあとに『真説・カラダ探し』という作品を書いたんです。「第一夜」「第二夜」で登場したキャラクター全員が集まって「カラダ探し」をする。しかも「赤い人」を見なくても振り返っただけで死ぬっていう設定でした。さらに一人「忌み子」と呼ばれる幽霊が同級生になり替わっていて、その人を見つけて終わるまでにその人を棺桶に入れないと全員死ぬっていう。

――難易度が高すぎます

ウェルザード:
鬼のように難易度が上がってしまったものを書いていたんですが、これいつになったら書籍化するんだって。

――その時には書籍化の話が来ていたんですか?

ウェルザード:
全然ないです。これ以上書いていても書籍化することないんじゃないかって。もういいやって途中の30ページぐらいでやめたんです。それで一旦エブリスタを退会したんです。
でも、アカウントは残っているので一年経ったころに戻って、当時一緒に書いていた知り合いに今度「Den of Horror-ホラー」というコンテストに三作品を三部門に出してどちらが上だったか勝負しようと言われたんです。おもしろそうだからやるわって言って僕は卑怯なんですが、『カラダ探し』を長編に出したら当然上に行ったんです。短編二つ書いて出して、それで結果が一勝一敗一分けだねって。どっちが一位取るかって話だったんですけど、それで復活したからどうしようかなって、続きを書くかってなったんです。

――当時のエブリスタのコンテストには退会する以前以後には何度も参加されていたのでしょうか? 参加されていたのであればコンテストに関してはどんな風に感じていましたか?

ウェルザード:
コンテストには活動再開後にホラー系のものに参加していました。当時は大賞が100万円と書籍化だったので皆ギラギラしていて、敵視したり、蹴落とそうとする人もいました。でも、人を蹴落としたところで自分の作品が良くなるわけじゃないんですよね。玉石混交という感じで面白い時代でした。


小説はコミカライズにおいては設計図でいい

――コミカライズされたマンガには原作者としてクレジットされていますが、この場合はどこまで関わる形だったんでしょうか?

ウェルザード:
ネームは毎回チェックしていましたが、基本的には描かれている村瀬さんにお任せしていました。もちろん設定に関するところなど違っていたら指摘するみたいなこともありました。
小説ってコミカライズにおいては設計図でいいんですよ。ガンプラだって設計図を見たら、こことここを組み合わせるってわかりますよね。あとは塗装をどうするか、どういう風に改造するか、どうジオラマに配置するかっていう、それは漫画家さんの仕事じゃないですか。小説でつまらないところがあっても、漫画家さんが変えておもしろくできることはいくらでもあります。

――『カラダ探し』がコミカライズや映画化されたことで一番大きく変化したことはなんでしょうか?

ウェルザード:
故郷の人や住んでいる町の人たちが知ってくれたことですかね。今まではあんまり僕が何をしているのかって知らない人がけっこういたんです。
創作系の仕事はいろいろとやっていて、去年の夏ごろに町の事業の一環で僕がプロデュースしたお化け屋敷をやりました。その時に映画『カラダ探し』のポスターを貼ってもいいですかって確認をして、この映画の原作者がプロデュースしていますっていうのを出したこともあって、それまで知らなかった人にも知ってもらえるようになりました。

――そうやって知らなかった人にも知られたり、縁が途絶えた人とも再び繋がったりしそうですね

ウェルザード:
そうなんですよ、良くも悪くも昔の知り合いから連絡も来ますね。良いことで言うと、来年度の四月から原宿の学校の講師をやることになったんですけど、それも理事長が僕が通っていた専門学校の事務室の室長をやっていた人で、『カラダ探し』の映画化のポスターを見て地元にいるっていうのを知って、講師をやらないかとお声がけしてもらいました。

――創作系がある学校なんですか?

ウェルザード:
はい、来年度の四月から始まる新設の学校です。僕が講師するのは月に一回なので、書く子はすぐに書くと思うし、芽が出る子はすぐに出ると思います。年代は関係ないかもしれないですが、エブリスタでも書き始めるまでが大変なんですね。その書き始めるまでの種まきみたいなことを僕がやります。執筆するために心構えも含めて、あなたたちでもできるんだよって。

――映像化すると他のお仕事につながったりはするんでしょうか?

ウェルザード:それはめちゃくちゃあります。新規の執筆依頼も来るんですけど、やっぱりホラーなんですよ。でもホラーはあまり書きたくはないんです。驚かせるのは好きだけど、それはすごく簡単なことで、例えばドアを開けた瞬間に目の前に人が立っているだけでうわってなりますよね。だから怖いって思わせる必要もなくて、驚かせればいいんです。

――『カラダ探し』が書籍化され、メディアミックスされたことで生活面で大きな変化はありましたか?

ウェルザード:
書籍化されたことで、当時精神を病んで仕事ができなかった私は救われたという思いが強かったです。子供もいましたし、生活費もなかった時だったので非常に助かりました。
コミカライズされてからはちょっとお金を使い過ぎてしまいました。あの時貯金しておけばと思うこともあって、今は先のことを考えて貯金するようになりました。元々貯金ができない人間だったので、そこは大きな進歩だったかなと思います。


死にそうになった時に怨念を込めて書いた『カラダ探し』

――ご自身の作風に影響を与えたと思われる作家や、他ジャンルの作品がありましたら教えてください

ウェルザード:
文字が嫌いなので小説は読まないんですよ。読むとしてもマンガですけど、一番影響を受けたのはゲームです。ひとりでじっくりできるゲームがすきですね。

――シミュレーションゲームとかですか?

ウェルザード:
シミュレーションだと『ファイアーエムブレム』とか『スーパーロボット大戦』とかはやります。RPGだと王道の『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』や『聖剣伝説』とか有名どころはやっています。

――『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』や『聖剣伝説』など王道ファンタジー系が好きだったんですね

ウェルザード:
影響をうけたというか、『カラダ探し』に一番近いのが『ファイナルファンタジーⅩ』かなと思うんです。スピラという世界に、「シン」に連れられてやって来た主人公。でもこの「シン」というのはスピラの人達を殺し続ける巨大生物で、それと戦う物語なんです。ネタバレになりますがこの「シン」が主人公のティーダの父親であるジェクトなんです。物語が進むにつれてそれが明らかになっていくんですが、実は父親も主人公も「祈り子」が見ていた夢。消えゆく世界を夢の中だけでも残しておきたいと思った人達が見ていた夢だったんです。

――『カラダ探し』の「第三夜」に通じているところがあります

ウェルザード:
ちょっと似てるでしょ。その召喚士も「シン」を倒すために自分も死んじゃうんです。さらに召喚士に自分を守ってくれるガードと呼ばれる存在がいて、そのガードを新たな召喚獣として戦うものにできるんです。「シン」と戦って勝つとこの召喚獣が新たな「シン」になってしまう。これが永遠に繰り返されるんですね。

――なるほど、そう考えると軸になる部分で影響を受けている感じでしょうか

ウェルザード:
書いている時には気づかなかったんですが、あとから考えると無意識に影響されていますね。

――ゼロ年代に日常を繰り返す物語が一般化してきて、『カラダ探し』はそのラインにあるように感じます。そういう時代的なものも作品に影響したんでしょうか?

ウェルザード:
難しいですね。書籍化したのが2013年8月です。だいたい書いているのは2011年ぐらいです。東日本大震災の影響とかではなくて、当時警備員をやっていて、夏に脱水になって倒れたことがあるんです。その時にうちの一番上のトップに言われたのが「次倒れたら殺すぞ」って。あっ、俺殺されるわって心を病んで、手当をもらいつつ療養していたんです。その時に療養しながら書いていて、あいつら全員殺してやるって。

――そういう怨念的なものを抱えつつ執筆していた

ウェルザード:
怨念がこもってます。だから殺してやるって、ひどい殺し方をしてやるっていう、そういう意味では僕が「赤い人」です。

――なるほど、そういうことなんですね。パッとそこだけ聞くとすごく暴力的な感じはしますが、自分が死に近づいたり、身近な人が亡くなったことで小説を書き始める人もいます。そういう状況はアウトプットするモードになりやすいのかもしれません。『カラダ探し』は毎日同じ道を歩いてただ繰り返してるなとか、あいつらムカつくから死んでほしいとか思っている人からの共感もあったと感じます

ウェルザード:
言ってしまうとTwitterで誰かを批判するためだけのアカウントを作っている人がいるじゃないですか、そういう人こそ小説書けよって思うんですよ。粗探しして、それでストレス発散してるぐらいならストーリーを作ればいい


書きたいと思うのなら今書け

――最後にプロをめざす書き手、物語を作りたいと思っている人に向けてのメッセージがあればお願いします

ウェルザード:
今その人がどの段階にいるのかが一番重要で、なりたいけど書いてない人、なりたいから書いている人、書いているけど芽が出ない人と段階によって、伝えるべきことが全然違うんですよね。でも、ひとつあって、ものすごく使い古された言葉だけど、ずっと書いていたら周りがいなくなるじゃないですか。みんなやめていくから勝手に上がっていくから残っていく。当然書き続ければチャンスはあるし技術もついてくるんです。しかし、同時に荒々しさも削られてしまう。

――角が取れていって丸みを帯びていく

ウェルザード:
そう、うまくなりすぎてすごくなめらかな文章になって、思考のインパクトもなくなってパターン化されてしまう。だから、今やれることは今の自分にしかできないんです。一年後に同じことをしようとしても同じことはできないんです。
当時『カラダ探し』を書いた時と今では全然違うし、今『カラダ探し』を書いてよって言われて書き直したら印象のかなり違ったものになります。
やるなら今今ここでやらなかったらこの先やれる機会は一生ないしかも今書けるものはもう書けない。だから、もし今書きたい、なにかになりたいから書きたいと思うのなら今やれ。

――とてもいいメッセージです

ウェルザード:
カッコいいことを言ってますが。前にTwitterで「なにかでなにかをなすためには絶対に突き抜けなければならない」「本当に突き抜けないとならない。妥協していたり、今の現状に甘んじている人では大成できない、絶対に」とつぶやいたことがあったんです。それで言われたことがひとつあるんです。「多くの人が働いていたり、学校に行っていたりする中で突き抜けるなんて不可能だ」と、だからお前は突き抜けられないんだってことなんですよ。突き抜けることの大事さというか、突き抜けない言い訳なんかしても意味がないじゃないですか。

――最後に、今後はどのような作品を書きたいと思われていますか? また今後の予定などあれば教えてください

ウェルザード:
『殺戮都市~バベル~』という作品がエブリスタにあって、今書き直してます。シリーズ全部で4000ページもあって出したいって言ってくれている出版社から一巻で終わる長さにしてくれって、無理無理無理って。とりあえず分冊して、そのうちの一巻で終わるところで切るという作業をずっとやっています。

『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』が好きなので、やっぱりファンタジーがやりたいです。ホラーもいいんですけど、ファンタジーが書きたくて書いていたのにホラーで芽が出てしまったので。
人と人の人間関係の密接なやりとりがすごく好きなのでそれをファンタジーでやりたい。簡単に言うと、敵対している人達がいる。でもその人達の仲間は同じ地元で仲が良いかもしれない。それでひとつのドラマが生まれる。それに対して主人公たちがどう思うのかでその人に対してのドラマが生まれるじゃないですか、そこをいかに深く掘れるか。

『カラダ探し』のマンガも集英社イコールホラーのイメージはないのに、そこから出してヒットしたからみんながワッと驚いたんです。僕がやりたいのはそれをファンタジーでやることです。ファンタジーが有名ではないところからファンタジー作品を出して、みんなをあわあわさせてやりたい。あの時にあの作品を取っておけばよかったと思われたいんです。『カラダ探し』の時にもそういうことはあって、ほらみたことかっていうのは自分のモチベーションにもなっています

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)

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