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Q.どうすれば印象に残る文章が書けますか?|海猫沢 めろん

ぶちあげろぉぉーーー!!
アガらない毎日を送っているダウナーなめろん先生です。
使っている柔軟剤はダウニー、好きな俳優はアイアンマンの人です。
疲れたので相談に移ります。

インパクトのある、印象に残る文章とは

今月の相談者:さとうさん(37歳) 
執筆歴:15年
ご相談内容:文章自体は下手ではないと思いたいのですが、「さらっと読めて残らない」「無色透明の水みたい」などの反応が多く、インパクトのある表現をすることが苦手なようです。比較的感想をいただきやすいコミュニティに所属していましたが、自信作への反応がいまいちですっかり気持ちが折れてしまい、そのコミュニティも離れてしまいました。何らかの訓練で「残る言葉」を書けるようになるものでしょうか?執筆自体は続けておりますので、ご助言いただければ幸いです。

「残る言葉」……たとえばインパクトのある文章や書き出しの作品、といえば何を思い浮かべますか?
まず、クイズを出しましょう。
以下の文章は何という作品のものでしょうか。

1)

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。

2)

ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変わってしまっているのに気づいた。

3)

完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。

4)

一度も会ったことのない幼馴染みがいる。

5)

女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を口に含んだ。

6)

うだるような暑さで目を覚まして、カーテンを開くと、窓から雪景色を見た。

さすがに小説を書いている人なら、一つくらいはわかったと思います。
1)は、小説の授業で絶対出る川端康成の「雪国」。
2)はカフカの「変身」ですよね。
他も、あえて答えは言いませんが、どれも魅力的な書き出しです。これらの書き出しを見てみると、

・ショッキングな場面
「女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を口に含んだ」

・キャッチコピーみたいな書き出し
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

・矛盾でひきつける
「一度も会ったことのない幼馴染みがいる」
「うだるような暑さで目を覚まして、カーテンを開くと、窓から雪景色を見た」

が、ポイントでしょうか。


言葉で語るのが「物語」ではない

サイトのほうでお書きになっている超短編をいくつか読み、Kindleで発売されている中編も3冊ほど買って読みましたが、相談者のさとうさんは、そういった基礎的なことはすでにクリアしておられます(超短編はインパクトが命なので)。

さとうさんの小説は「さらっと読めて残らない」「無色透明の水みたい」と評されたそうですが、それは一体何を意味しているのでしょうか? ちょっと踏み込んで考えてみましょう。
「さらっと読めて残らない」「無色透明の水みたい」ということは、つまり文章は読みやすいということですね。なのに残らないというのは、おそらく内容面で読者が満足していないということじゃないかなあと思うのです。

例えば、

 朝起きました。昼ご飯を食べました。夜寝ました。

この文章。超どうでもいいですよね。まったくなにもない一日です。文章も箇条書きでなんの特徴もありません。
では、

 朝起きました。昼ご飯を食べました。夜寝ました。
 それがぼくの最後の一日でした。

という一行を足したらどうでしょうか。文章には特徴はありません。表現もたいして凝っていません。でも、これが冒頭だったらちょっと気になります。
何が言いたいのかというと、

小説が心に残るのは、物語の意外性、舞台の特殊性、キャラクターの行動、台詞、描写……いろいろな要素が組み合わさった結果だと思います。インパクトのある文章がひとつあっても、最終的に全体のなかでうまく機能していないと忘れられます

では具体的に、どういうふうにすれば機能するのかというと、ひとつあるのは「ギャップ」です。
99%が水で、1%だけ固形物だとしたらそれはめちゃくちゃ目立ちます。印象に残ります。
ただ「残る言葉」だけを求めると、ラーメン屋の壁に貼ってあるような自己啓発的なものになってしまいます。
言葉で語るのではなく、物事で語るのが「物語」です。


評価に悩む人はルールを決めよう

……という説明をしといてなんですが、ぼくは今回のさとうさんの悩みってこういうことではない気がしているんです。
問題は「さらっと読めて残らない」「無色透明の水みたい」という反応があった作品がどれかわからないことなのですが……とりあえず結論から言います。

さとうさんは文章に悩んでいるのではなく「評価のギャップ」に悩んでいるのではありませんか?

自信作なのに読者からの評価が低い、ということはどんなジャンルでもよくあります。
趣味で小説を書いているなら人の評価は気にしなくてもいいのではないでしょうか……とはいえ……やっぱ気になりますよね……。

過剰に気にして調子を崩すのは良くないですが、「もっとうまくなりたい」「この人たちに楽しんでもらいたい」という気持ちや、向上心があるのは良いことです。
だから、もし評価を気にする場合はルールを決めた方がいいです。
そのルールというのは、
自分が意図した部分が適切に機能しているかどうか
この一点です。


自分が「印象」に残そうとした「言葉」を意識する

たとえば「この場面で読者を泣かせよう」と思った場合、そこで読者がちゃんと泣いているかどうかを見るのです。あるいは、読者を騙したい部分でちゃんと騙せているかどうかです。
今回の場合、さとうさんは「印象に残る言葉」を目指したのに、
「さらっと読めて残らない」「無色透明の水みたい」
と評された、そのギャップにショックを受けたのではありませんか?

そこでまず考えるべきは「自分がどの言葉を印象に残そうとしたのか」です。
「印象に残る作品を書いた」というのは漠然としています。作品のなかのどの部分か、が問題です。
全体を印象に残そうとして全部を強い言葉にすると、漠然と「なんとなくうるさい」とかいう印象になります
もしかすると「綺麗な印象の作品にしよう」と思って、すべてを綺麗な言葉と展開で書いてしまったのではないでしょうか? それだと全体的に綺麗な印象だけど、それだけだな……というものになります。
例えばオチをひねったり、文章の装飾を外し重要なところだけ凝るとか、展開や人物をいじって、その作品をブラッシュアップしてみてはどうでしょう?
「それもやってたんだけど……」という場合は、その意図を込めた場面が機能していなかったということなので、その部分がちゃんと機能するように全体を見直してみることが必要です。

次の段階として、「自分がやりたいと思っていること」を明確にして、読者をコントロールすることを意識してみるのはどうでしょう。
それができたらぜひ長編も書いて見てください!(monokakiの長編記事が役立ちます)。


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『もういない君と話したかった7つのこと 孤独と自由のレッスン』
著:海猫沢めろん KADOKAWA(角川文庫)
世のヒキオタニートよ、あきらめるな! ゆるく生きながら、前を向こう。
「不自由さ」を感じているあなたに。劇的に変わらなくてもいいんです。今のままの自分で大丈夫。読めば必ず前を向ける「生きづらさ」を感じているすべての人に読んでほしい「自由の書」。


*本記事は、2019年09月17日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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