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売れる物語を書くために必要な6つの要素|monokaki編集部

“世の中にたくさんあふれている小説のハウツー本を読んでもうまく小説が書けないのはなぜなのでしょうか。ハウツー本を読むと「心を込めなさい」「人生の旅を描け」「テンポと文体を磨こう」などというアドバイスが書かれています。しかし私たちが欲しいのは、このような抽象的な助言ではなく、もっと具体的な方法や手順のはずです”――

 こんな惹句が添えられた一冊の本が、今日フィルムアート社から発売された。タイトルは『工学的ストーリー創作入門』、副題は「売れる物語を書くために必要な6つの要素」。6つのコア要素とは、「コンセプト」「人物」「テーマ」「構成」という4つの基本要素と、「シーンの展開」「文体」という2つの「書く」技術を指す。

 この6つさえ押さえれば、シェフが料理を作るように、建築家が高層ビルを建てるように、売れる物語が書けるという。夢みたいな話だが、本文を読み解いていくと、各要素について丁寧な説明がなされていて驚いた。日々創作に悩む作家さんたちにこそ読んでほしい! と思い、monokaki限定で、特別に一部掲載の許可をいただいた。

 今回掲載箇所として選んだのは、本文の最終節、ほぼあとがきに近い部分。ハウツーを記した本論ではなく、あえて本書の一番最後を選んだのは、ここがもっとも「書きたい気持ちに火がつく」内容だと思ったから。創作に行き詰って最近書けてないなぁ……という人も、この書き方でいいのかなぁ……と悩んでいる人も、まずは一読してみてほしい。

「いかに書くか」から「なぜ書くか」へ

僕は「ストーリー作りのすべては6つのコア要素のどれかに必ず該当する」と伝えている。
もう慣れていただけたと思う。6つのコア要素とは「コンセプト/人物/テーマ/構成/ シーンの展開/文体」だ。4つの成分と2つの技術。どれから始めても構わない。売れる作品を書くなら6つすべてを揃えてほしい。1つでも脆弱なら「力作ですが」と言われて不採用だ。
要素の扱い方をマスターしても、まだ苦労する人も多い。読者が全く得られない。コア要素は書く過程で役立つが、表現の美的な部分はカバーしない。
6つのコア要素は技術だ。
運は腕と根性で開けるとしても、その他の部分は自分でどうにかせねばならない。その道は回り回って6つのコア要素の理解に戻る。


最後の例え話

僕はアリゾナ州フェニックスに部屋を持っている。僕は昔マイナーリーグの投手で、今でも大リーグの春季キャンプを見物する野球ファンだ。リーグ入りを目指す若者が毎年何百人もやってくる。基礎能力は粒ぞろいで、誰もがメジャー入りにふさわしい。だが、夢を叶えるのはたった25人だ。過去の評価で選ばれる人もいる。飛びぬけてすごくはないが安定していて信頼される人たちだ。離脱した選手の後釡に座る人もいれば、実力でトップに上り詰める人もいる。上の選手をしのぐ力があるにも関わらず、マイナーリーグで無名のままの人もいる。
野球には人生が見える。僕にとって、野球は作家業とも重なって見える。共通点は大きく、はっとさせられる。
作家の世界にも競争がある。基礎能力は春季キャンプの招待状でしかない。大勢の中で勝ち抜くために何か突出したものが必要だ。ただ「いい」だけでなく、他を大きく引き離す力が要る。
ベストセラーの常連作家も1つはそういうものをもっている。無名の作家も競争を勝ち抜くために同じことをしているのかもしれないが。
売れるかどうかは運かもしれないだが、成功している作家はストーリーを作る時、重要な局面で何をすべきか見抜く勘を養っている
彼らの存在を別格にするのはその勘だ。たとえ文体やコンセプトが平凡でも、優れた作家はそれに付加価値を与える術を知り、本能的な洞察力でまとめ上げる。優れた芸術性を与え、6つのコア要素を超越したセンスで作品を完成させる。
彼らは機を逃さない。そこが他の人々との圧倒的な差だ。たとえ執筆に何年かかっても、彼らは当然のようにやり遂げる。6つのコア要素を使い、そうした資質を培ってほしい。
方法を教えてくれる人はいない。だが、6つのコア要素がツールや基準を与えてくれる。
ただし、そこから先を教えてくれる本やワークショップはない自分の中で探し、呼び起こし、育てなくてはならない


そこで矛盾が残る

鋭い勘がなくては6つのコア要素があっても出版に至らない。6つのコア要素がなくては勘を作品という形にできない。だから、夢を叶える道はあるのだ。素晴らしく、希望に満ちたパラドクスだ。
懸命に培った技術と芸術が融合すると、説明しがたいマジックが起きる。それが勘であり、天性の素質だ。6つのコア要素を習得するまで勘は休眠したままだ。
あなたには道具があるこれまでに、またこれから読んだり学んだりするすべてのことをストーリー作りの意識に組み込もう世界こそ学びの場だメモを取り始めよう
そして追求しよう。掘り下げよう。本を読んだり映画を観たりする時も、コア要素を探し続けよう。それ以上に大切なのは、自分の中で「これだ」と直感できる書き方をすることだ。何百万語も書き続ければ、やがて自然に原稿にも表れる。
そして原則に従って書けば、1年目でホームランが打てるかもしれない。


なぜ僕らは書くのか

僕らはラッキーだ。とても。僕らは作家だ。
祝福より呪いだと感じる時もあるだろう。人に馬鹿にされる時もあるだろう。書かない人にとって僕らは趣味人、はかない夢追い人に見えるだろう。
だとしたら、彼らの目は節穴だ。本当に書いているなら夢はもう叶っている書籍化や映画化はされていなくても、書くことで得られる真の報酬は自分の内側にある。夢が実現するに越したことはない。だが、プロの作家も全く同じ苦しみを抱えて仕事をしている。本当だ。いいストーリーを語るための苦労も気持ちもデビュー前の人たちと変わらない。「気がついたら売れていました」という人もいるが、彼らはいまだに妖精が登場人物を動かすと信じている。
ともかく、誰にとっても過程がある。
あなただって、そうだ。
あなたは作家だ。知識を得た作家だ。それをまず祝おう。そして書こう。あとはなるようになる。
人生こそ心の糧だ。作家は人間の体験を書き綴る。そのためには深く見て感じなくてはならない。作家が人間として優れているわけではないことは、文豪たちの伝記を読めば明らかだ。だが、他の人々とは違った感性で生きている。意味を考え、言葉の裏を考える。人が気づかないことに気づく。時に涙し、時に笑い、魂の真実に迫ることが成長だと思うなら、作家の自負がその体験を鮮やかにしてくれる。僕らは生き、観察をすることで、人に読んでもらう価値ある文章を書く。
人を楽しませたくて書く時もそうだ。何を書こうと、僕らは世界に向かって手を伸ばす。1人じゃないんだ、分かち合うことがあるんだ、伝えたいことがあるんだ、と宣言する。書いたものが誰にも読まれなくても文章は残る。自分が思う真実を書いたのだから。確かにそれは大切なことだったのだから。
だから情熱をもってどんどん書こう。常に楽しみながら、満足できるものを書こう。何を書く時も6つのコア要素を覚えていてほしい。
自分で自分を苦しめるのはもう終わり。じゃまな天井は消えてなくなる。
夢を生きようストーリーを書こうそして作家になろう


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工学的ストーリー創作入門
著:ラリー・ブルックス/訳:シカ・マッケンジー
フィルムアート社(2018/4/26)
A5判・並製328頁/定価:2,100円+税
書けないのは、才能のせいではない!
直感に頼らず、物語に必須の要素から書き始める、天才以外は必読の「工学的」創作入門。


*本記事は、2018年04月26日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。