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Q.作家志望にとってベストな仕事はなんでしょうか?|海猫沢 めろん

夏です。暑いです。海猫沢です。
親知らずを抜いたせいか、他の歯もおかしくてアイスとか冷たいものを食べると地獄です。夏なのに……。

それはともかく前回の長編記事は好評だったようで、みなさんから共感の声が届いております。
長編、書けませんよね……ほんとに長い間ぼくも書けませんでした。
こればっかりは「読んで書く」以外に解決方法がないのでやるしかないんです。やります、やってます……ぼくも苦しんでます。

でも長編書くのには時間がかかるのでどんどん貧乏になっていきます。
今回はちょうどそんなお悩みに近い相談が来ております。


働きながら書く? 書いて稼ぐ方法を探す?

今月の相談者:ひつじさん(28歳・会社員)
執筆歴:16年
ご相談内容:ご相談内容:物書きとしてデビューできたとして、昔のように専業の物書きはなかなか難しいと思います。
多くの小説家が、会社員を続ける等、執筆の傍ら何かしら副業を持つ必要があると思うのですが、先生おすすめの副業があれば教えて下さい!
執筆する体力を残す/できれば創作のネタになるような仕事を探しているのですが、なかなかこれだ!というものに巡り会えず……。
定時上がりできるホワイト企業にラッキーなことに巡り会えたら、そこが一番良いのでしょうか。

今月の相談者:飴乃ちはれさん(34歳・無職/元事務職)
執筆歴:12年(二次創作含めると22年)
ご相談内容:文章を書くことをお金にする知恵を絞るか、書くこと自体を諦めて転職するか、悩んでいます。
外に出て働くだけでもストレスが強いのに、書けた日は頭が冴えてなかなか寝つけないし、
働きながら小説を書いていると体に無理がかかりすぎて、家事や会社に耐えられず辞める羽目になります(なりました)。
書くことで稼ぐか、それとも書くことを止めるか……。決めきるポイントがあれば教えて下さい。

執筆と仕事についての質問ですが、お二人とも逆の性格です。

ひつじさんは

副業しながら書きたい

で、飴乃さんは

副業むり、書くか書かないか決めたい

ということになるのでしょうか。


「追い詰められないと書けない」人は9時5時に向かない

▼まずはひつじさんの質問

・副業しながら書きたい。

ですが、おすすめの仕事はズバリ、ヤクザと自衛隊です。
というのはまあ冗談としても、もし小説に活かすならマイナーで誰もやらないような仕事、あるいはみんな知ってるけど躊躇するようなものがいいのでは?

10代~20代の頃、ぼくもひつじさんと同じことを考えて、わりとアンダーグラウンドな現場にいました。一部は小説に活かされています。小説に活かすつもりなら取材のつもりでメモりながら仕事をすると、10年後くらいに役立ったりします(ぼくの場合活かされたのは20年後とかでした)。

あと、サラリーマンはちょっと危ないかもしれません。
というのも、ぼくは20代のころに3年ほどサラリーマンをやりつつ、「よし! 小説を書いてデビューして仕事をやめるぞ!」と思っていましたが、3年間なにも書けなかったんですよ。

給料は手取りで13万くらい。9時5時の職場。残業もありません。なのに、家に帰るとものを書くモチベーションが消え失せてしまうのです。
性格もありますが、どうも追い詰められないと書けないようなのです。

ひつじさんが計画性のあるタイプなら副業をやりつつで問題ないと思いますが、もしぼくと同じタイプなら気をつけてください。


悩んで答えが出ないときは、休もう

▼次に飴乃さんの相談

・副業むり、書くか書かないか決めたい

最終的になにかを決めるポイントは人それぞれですが、ぼくの場合27歳までにデビューできなかったら死のうと思っていました。なんで27歳かというと、ロック界には27クラブというのがありまして、カート・コバーンとかジミヘンとか、とにかく偉大なロックスターはみんな27で死ぬので、偉大なぼくも27で死ななくてはいけないと本気で思っていたんです。

でも初めて本書いたとき28歳でした……あきらめられなかったんですね。人間、そう簡単には死ねないものです。

相談内容やブログを読むと、飴乃さんは人よりも疲れやすいタイプのようですね。書くのは楽しいけど苦しい、それでもなんとか書きたい、という切実な印象を受けました
その上でこの相談が来るというのは、今ちょっと体力やメンタル的に大変な状況なのだと思います。

そういう状況では、なかなか良い選択もできないと思います。
だとすれば少し休んでみるのはどうでしょうか
書くことをやめるか続けるか、二択で悩まれていますが、第三の道「選択しない」「ひとまず休憩する」という道です。


今のやり方が苦しいのは変化の時期だから

どんな人も、書くことが好きだからといって、いつも楽しいわけではありません。それでもやりたいのか、きっぱりやめて別の道を進むのか、これを真剣に考えて答えを出すのはなによりも大切です。

しかし考えるためには体力が必要です。だからこそ一旦休んでみるべきです。
そのあいだに、好きなことの周辺で仕事してみるのも良いと思います。
ぼくは一度、作家は無理だと思って本のデザインの仕事をしていましたが、不思議なことにそれが小説の仕事につながっていきました

今のやり方が苦しいということは、変化する時期にさしかかっているのです。心と身体に負担をかけない、もっと自然なやり方を見つけて、それから創作に戻るのが一番良い方法だと思うのですが、どうでしょう?
案外それは遠回りに見えて近道かも知れません

今回のお悩み、小説を仕事にしようと考える人なら一度はぶちあたる壁です。
理想と現実、夢と生活、このバランスがうまくとれる人ととれない人がいます。作家を目指そうという人のほとんどは後者ではないでしょうか。ぼくも例外ではありません。
この問題はそれぞれの信念や人生観の問題なので、そう簡単には答えは出ません。
じっくり悩んでください。


*本記事は、2019年07月16日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。